インボイス・消費税
簡易課税のみなし仕入率6区分。2割特例の次にどちらを選ぶか
2割特例が終わったあと、原則課税と簡易課税のどちらが有利かは業種のみなし仕入率で決まります。第1種90%から第6種40%までの区分と、届出期限の落とし穴、法人化との関係を整理します。
2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終わります。個人事業者なら令和8年分の確定申告が最後です。
その後は原則課税か簡易課税のどちらかを選ぶことになりますが、どちらが有利かは業種によって決まります。基準になるのが「みなし仕入率」です。
簡易課税とは
消費税の納税額は、原則として次のように計算します。
納税額 = 売上に係る消費税額 − 仕入・経費に係る消費税額
このうち後半を実際に集計するのが原則課税です。すべての経費について、消費税がかかっているかどうかを区分して積み上げる必要があります。
これに対して簡易課税は、売上だけから納税額を計算します。
納税額 = 売上に係る消費税額 ×(1 − みなし仕入率)
実際にいくら仕入れたかを見ずに、業種ごとに決められた割合で仕入があったものとみなす仕組みです。経費側の集計が不要になるため、事務負担が大幅に減ります。
みなし仕入率は6区分
| 事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業 |
| 第2種 | 80% | 小売業、飲食料品を扱う農林漁業 |
| 第3種 | 70% | 飲食料品以外の農林漁業、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業 |
| 第4種 | 60% | 上記および第5種・第6種以外の事業(飲食店業など) |
| 第5種 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、飲食店業以外のサービス業 |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
フリーランスや個人事業主の多くは**第5種(サービス業・50%)**に該当します。ライター、デザイナー、エンジニア、コンサルタントなどです。
第5種の場合、売上に係る消費税の50%を納めることになります。税抜売上1,200万円なら受け取った消費税は120万円なので、納税額は60万円です。
原則課税と比べてどちらが有利か
判断基準はひとつです。
実際の課税仕入の割合が、みなし仕入率より低ければ簡易課税が有利。高ければ原則課税が有利。
第5種(50%)を例にします。
| 実際の課税仕入の割合 | 原則課税の納税額 | 簡易課税の納税額 | 有利なのは |
|---|---|---|---|
| 30% | 84万円 | 60万円 | 簡易課税 |
| 50% | 60万円 | 60万円 | 同じ |
| 70% | 36万円 | 60万円 | 原則課税 |
※ 税抜売上1,200万円の場合
人件費や外注費の割合が高い事業ほど、簡易課税が有利になります。給与には消費税がかからないため、課税仕入としてカウントされないからです。ひとりで仕事をしていて経費が少ないフリーランスは、簡易課税が有利になりやすい典型です。
逆に、仕入や外注が多い事業、あるいは設備投資をした年は原則課税が有利になります。
2割特例からの移行で気をつけること
2割特例より負担は重くなる
第5種なら簡易課税の納税額は売上税額の50%。2割特例の20%と比べて2.5倍です。
なお令和8年度税制改正で新設された3割特例(売上税額の30%)は個人事業者しか使えず、令和9年分・令和10年分の2年間だけです。詳しくは2割特例は令和8年で終了。後継の3割特例は法人が使えないをご覧ください。
税抜売上1,200万円・第5種の場合、納税額はこう推移します。
| 課税期間 | 適用できる制度 | 納税額の目安 |
|---|---|---|
| 令和8年分 | 2割特例 | 24万円 |
| 令和9年分・令和10年分 | 3割特例(個人のみ) | 36万円 |
| 令和11年分〜 | 簡易課税 | 60万円 |
3年で2.5倍になります。この増加を織り込んで事業計画を立ててください。
届出の期限に特例がある
簡易課税を選ぶには「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要で、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までに出さなければなりません。個人事業者が令和11年分から適用したいなら、令和10年12月31日までです。
ただし2割特例・3割特例の適用を受けていた事業者には緩和措置があり、特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に提出すれば、その課税期間から適用できます。
つまり令和10年分まで3割特例を使っていた個人事業者は、令和11年中に届出を出せば令和11年分から簡易課税が使えます。事前提出でなくてよい、という点が通常と違います。
それでも「出し忘れ」は起こります。 期限を過ぎると自動的に原則課税になり、経費の集計が必要になります。
一度選ぶと2年間は戻れない
簡易課税を選択すると、原則として2年間は継続適用が必要です。
この間に大きな設備投資をしても、原則課税に戻って還付を受けることはできません。事務所の内装や高額な機材の購入を予定しているなら、そのタイミングを踏まえて選んでください。
法人化との関係
個人事業主として出した簡易課税の届出は、法人には引き継がれません。 法人は別の事業者だからです。法人であらためて届出が必要になります。
新設法人が設立事業年度から簡易課税を選ぶ場合は、その事業年度中に提出すれば間に合うという特例があります。設立初年度に慌てて期限前提出をする必要はありません。
なお法人を設立してもインボイス登録をすれば初年度から課税事業者です。この点はインボイス登録済みなら、法人化しても消費税の2年間免税は受けられないで扱っています。
法人化そのものの損得は消費税だけで決まるものではありません。所得税・法人税・社会保険を合わせた全体で判断してください。
選び方の手順
- 自分の事業区分を確認する。 フリーランスの多くは第5種(50%)
- 直近1年の課税仕入の割合を計算する。 経費のうち、消費税がかかっているものの合計 ÷ 売上
- その割合とみなし仕入率を比べる。 低ければ簡易課税、高ければ原則課税
- 2年以内に大きな設備投資の予定があるか確認する。 あるなら簡易課税は避ける
- 簡易課税を選ぶなら、届出の期限を確認して出す
2の計算は、確定申告のときに使った経費データがあればすぐできます。令和10年のうちに一度やっておくことをおすすめします。
まとめ
- 簡易課税は売上だけから納税額を計算する制度。経費側の集計が不要になる
- みなし仕入率は6区分。フリーランスの多くは第5種の50%
- 実際の課税仕入の割合がみなし仕入率より低ければ簡易課税が有利。人件費・外注費が多い事業ほど有利になる
- 簡易課税を選べるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合
- 2割特例(20%)→ 3割特例(30%・個人のみ)→ 簡易課税(第5種なら50%)と、3年で負担が2.5倍になる
- 届出は原則として前課税期間中。ただし2割特例・3割特例からの移行には緩和措置がある
- 一度選ぶと2年間は原則課税に戻れない。設備投資の予定を確認してから選ぶ
- 個人の届出は法人に引き継がれない
自分の場合の法人化の損得は、売上と経費を入れて確かめてください。
よくある質問
簡易課税を選ぶと、いつまで変えられませんか?
原則として2年間は継続適用が必要です。「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を出せば原則課税に戻れますが、適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません。設備投資などで多額の課税仕入が見込まれる年に原則課税へ戻れないと、還付を受け損ねることがあります。
2つ以上の事業を営んでいる場合はどうなりますか?
事業区分ごとに売上を分けて、それぞれのみなし仕入率で計算するのが原則です。ただし1つの区分の売上が全体の75%以上を占める場合は、その区分のみなし仕入率を全体に適用できる特例があります。区分ごとの売上を帳簿で分けていないと、最も低いみなし仕入率が適用されるため注意してください。
法人化すると簡易課税の届出はどうなりますか?
個人事業主として出した届出は法人には引き継がれません。法人は別の事業者なので、あらためて届出が必要です。ただし新設法人が設立事業年度から簡易課税を選ぶ場合は、その事業年度中に提出すれば間に合うという特例があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。