インボイス・消費税

免税事業者から課税事業者になる年、期首在庫の消費税は取り戻せる

免税事業者が課税事業者になる年は、期首に残った在庫にかかっていた消費税を仕入控除税額に加えられます。税込300万円の在庫で27万2,727円。戻る額の計算、免税へ戻るときとの非対称、2割特例や簡易課税では効果が消える理由を整理します。

免税事業者だった間に仕入れて、売れ残ったまま課税事業者になった在庫があります。この在庫にかかっていた消費税は、課税事業者1年目の仕入控除税額に加えられます。税込300万円分の在庫なら、納付する消費税が27万2,727円減ります。ただし2割特例や簡易課税で申告する年は、同じ調整をしても納付額が1円も動きません。

期首に残っている在庫の消費税は、課税1年目の控除に足せる

消費税法36条1項の調整です。免税事業者が課税事業者となる日の前日に所有している棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中の課税仕入れに係るものは、その課税仕入れ等の税額を、課税事業者となった課税期間の仕入控除税額の計算の基礎となる税額とみなします(国税庁No.6491)。

対象になるのは商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で、現に所有しているものです。取得価額には購入金額のほか、引取運賃や荷造費用など、購入するために要した費用の額が含まれます。

調整できる税額は、その棚卸資産の取得価額に110分の7.8(軽減税率の対象なら108分の6.24)を掛けた金額です。これは国税分で、地方消費税は消費税額の22/78として国税に連動します(No.6303)。

期首在庫(税込取得価額)消費税(国税)分地方消費税分納付税額の増減納付税額の増減(軽減税率)
50万円35,455円10,000円45,455円37,037円
100万円70,909円20,000円90,909円74,074円
200万円141,818円40,000円181,818円148,148円
300万円212,727円60,000円272,727円222,222円
500万円354,545円100,000円454,545円370,370円
800万円567,273円160,000円727,273円592,593円
1,000万円709,091円200,000円909,091円740,741円

※ 国税分はNo.6491の算式(標準税率110分の7.8/軽減税率108分の6.24)。地方消費税は消費税額の22/78(No.6303)。円未満は四捨五入して表示。

国税と地方を合わせた金額は、税込取得価額の110分の10(軽減税率なら108分の8)にちょうど一致します。在庫の値札にすでに含まれている消費税が、そのまま戻ってくる形です。

ここから読み取れることが1つあります。同じ税込300万円の在庫でも、飲食料品のように軽減税率の対象だと戻る額は22万2,222円で、標準税率の27万2,727円より5万円ほど少なくなります。税込の在庫金額が同じでも、中身の税率で回収額が変わります。 食品を扱う小売や飲食の物販では、在庫金額から単純に10分の1を見積もると過大になります。

この調整を受けるには、対象となる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります。

入るときは全部、出るときは直前の1期分だけ

同じ36条の調整ですが、向きによって拾う範囲が違います。

向き対象になる棚卸資産効果
免税 → 課税免税事業者であった期間中の課税仕入れに係るもの仕入控除税額に加える
課税 → 免税免税事業者となる日の前日の属する課税期間中に仕入れたもの仕入控除税額から除く

入るときは免税だった期間の在庫をすべて拾えるのに対し、出るときに吐き出すのは直前の1課税期間に仕入れた分だけです。3年前に仕入れて売れ残っている在庫は、免税事業者に戻るときには調整の対象になりません。なお、免税事業者となる課税期間の直前の課税期間に簡易課税制度の適用を受けているときは、この調整そのものが不要です(No.6491)。

出る側にはもう1つ条件が付きます。免税事業者等から仕入れて、経過措置(いわゆる8割控除)によって控除していた在庫は、実際に控除した割合だけを戻します。

仕入れた時期経過措置の割合調整する消費税(国税)分納付税額の増減
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで80%170,182円218,182円
令和8年10月1日から令和10年9月30日まで70%148,909円190,909円
令和10年10月1日から令和12年9月30日まで50%106,364円136,364円
令和12年10月1日から令和13年9月30日まで30%63,818円81,818円

※ 税込取得価額300万円・標準税率の棚卸資産を、免税事業者等から仕入れて経過措置で控除していた場合。割合はインボイスQ&A問113(令和8年4月改訂)による。経過措置を使っていない(適格請求書発行事業者から仕入れた)在庫なら272,727円。

割合の書き方が、国税庁の2つのページで揃っていません。No.6491は「令和5年10月1日から令和8年9月30日までに仕入れた棚卸資産であれば80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までに仕入れた棚卸資産であれば50%」と2段階で書いていますが、このページは[令和7年4月1日現在法令等]の表示です。一方、インボイスQ&A問113(令和8年4月改訂)は80%→70%→50%→30%の4段階で、期間の終わりも令和13年9月30日まで伸びています。上の表は問113の割合で計算しました。どちらで読むかで金額が変わるので、申告前に所轄の税務署に確認してください。

2割特例や簡易課税で申告する年は、調整しても納付額が動かない

実務でいちばん効くのはここです。

2割特例の納付税額は「売上税額 − 特別控除税額(売上税額の8割)」で、結果として売上税額の2割になります(インボイスQ&A問114)。仕入れの消費税額を使わない計算方法なので、棚卸資産の調整で仕入側の税額をいくら増やしても納付税額は変わりません。2割特例を適用できるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間で、個人事業者は令和8年分の申告が最後です。

後継の3割特例も同じ形です。納付税額は「売上税額 − 特別控除税額(売上税額の7割)」で売上税額の3割になります(問114-2)。対象は令和9年分・令和10年分の個人事業者に限られ、法人は使えません。適用時期と法人が外れる点は2割特例の終了と3割特例で扱っています。

簡易課税も同様です。売上げに係る消費税額に事業区分ごとのみなし仕入率を掛けた金額を仕入れに係る消費税額とする制度なので、実際の課税仕入れの額を使いません(No.6505)。つまり棚卸資産の調整で得をするのは、一般課税で申告する年だけです。

なお、簡易課税を使えるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間です。この5,000万円は簡易課税の要件であって、消費税の納税義務が生じるかどうかを判定する1,000万円とは別の数字です。みなし仕入率と実額の比較は簡易課税のみなし仕入率にまとめています。

在庫を多く抱えたまま課税事業者になる年は、どの方法で申告するかを、調整額まで含めて比べる必要があります。売上税額の2割で済む代わりに在庫300万円分の27万2,727円を捨てるのか、一般課税でそれを拾うのか。金額の大小は売上と仕入の構成で入れ替わります。

1取引で税抜1,000万円以上の在庫を調整すると、3年間免税に戻れない

見落とされやすい副作用があります。高額特定資産である棚卸資産について36条1項の調整を受けた場合、その適用を受けた課税期間の翌課税期間から、適用を受けた課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、事業者免税点制度は適用されません(No.6502、消法12の4)。同じ期間は消費税簡易課税制度選択届出書も提出できず、すでに提出されていた場合はその提出がなかったものとみなされます。

高額特定資産は、一の取引の単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産です。期首在庫の合計額ではありません。在庫の合計が3,000万円あっても、1回の取引が1,000万円に届かなければ該当しません。

2割特例も3割特例も同時に塞がれます。インボイスQ&A問115は、2割特例を適用できない課税期間として「一般課税で高額特定資産の仕入れ等を行った場合(棚卸資産の調整の適用を受けた場合)において事業者免税点制度の適用が制限される課税期間」を挙げており、3割特例についても問115-2が同じ項目を置いています。

引き金が「資産を買ったこと」ではなく「調整を受けたこと」である点が、通常の高額特定資産の3年縛りと違います。買った側の3年縛りと、100万円の線と1,000万円の線の使い分けは消費税の課税事業者選択と3年縛りで整理しています。

法人成りでインボイス登録すると、この調整の出番はない

法人成りを考えている人にとっては、順番の問題になります。

新しく作った会社が適格請求書発行事業者の登録を受けると、その会社は登録を受けている間は納税義務が免除されません(No.6501)。設立当初から課税事業者なので「免税事業者であった期間」が存在せず、個人から引き継いだ在庫について36条1項の調整をする余地がありません。個人から法人への在庫の移転は個人と法人の間の取引で、法人側は通常の課税仕入れとして控除します。個人側で売上が立つ点は法人成りの在庫引継ぎで扱っています。

調整が効くのは、登録せずに設立1期目・2期目を免税で通し、3期目から課税事業者になる会社です。このとき2期分の売れ残りをまとめて拾えます。もっとも、インボイスを求める取引先がいるかどうかが先にあるので、調整額だけで登録の可否は決まりません。登録が免税をどう壊すかは新設法人の消費税の免税条件にまとめています。

金額の感覚を合わせておきます。次は当サイトの計算エンジンで出した、事業所得別の法人化の比較です。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費600万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

事業所得1,000万円では法人化の実質差額が−13.2万円、1,200万円では−5.2万円で、この帯は「ほぼ互角」です。一方、期首在庫300万円の調整で動く消費税は27万2,727円でした。互角と出る帯では、初年度に限れば在庫の調整額のほうが法人化の年間差額より大きいことになります。ただし調整は課税事業者になる年の1回きりで、法人化の差額は毎年続きます。1回の27万円と毎年の5万円のどちらを重く見るかは、在庫の額と何年続けるかで変わります。

一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 免税事業者が課税事業者になる年は、期首に残った在庫にかかっていた消費税を仕入控除税額に加えられる。税込300万円で27万2,727円(消費税法36条1項、No.6491)
  • 入るときは免税だった期間の在庫を全部拾えるが、出るときに戻すのは直前1課税期間に仕入れた分だけ
  • 同じ税込金額でも、軽減税率の在庫は回収額が2割近く少ない
  • 2割特例・3割特例・簡易課税は仕入れの実額を使わないため、これらで申告する年は調整しても納付額が動かない
  • 一の取引で税抜1,000万円以上の在庫を調整すると、3年間は免税に戻れず簡易課税も選べない
  • 法人成りでインボイス登録すると設立当初から課税事業者になるため、この調整の余地がない

よくある質問

免税事業者だった期間に仕入れた在庫なら、何年前のものでも調整できますか?

国税庁No.6491は対象を「免税事業者であった期間中の課税仕入れ等に係るもの」としており、仕入れた時期の古さによる制限は置いていません。課税事業者となる日の前日に現に所有していることが要件です。

調整を受けるために届出書の提出は必要ですか?

届出書の提出は求められていません。ただし対象となる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります。

在庫の取得価額に、仕入れたときの送料は含めますか?

国税庁は、取得価額には購入金額のほか、引取運賃や荷造費用、そのほかこれを購入するために要した費用の額などが含まれるとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。