法人化の判断

暗号資産は法人化で税率が下がる。ただし含み益に課税される

結論

事業所得935万円の人が暗号資産で1,000万円の売却益を出した場合、個人なら所得税・住民税が422.2万円、法人なら法人税等が271.6万円で、法人のほうが150.6万円少なくなります。ただし法人は売却していない含み益も期末に時価評価され、含み益1,000万円で271.6万円の法人税等が入金のないまま発生します。

  • 法人が期末に保有する市場暗号資産は時価法で評価し、評価益は益金に算入される(法人税法61条2項1号・3項)
  • 個人の暗号資産の利益は原則として雑所得。損失は他の所得と損益通算できず、翌年にも繰り越せない
  • 20%の申告分離課税は、2026年9月時点で租税特別措置法に規定がない(公布済みで未施行の改正を含めて確認)

暗号資産の利益は税率が高い、だから法人化したほうがよい。この説明は、実現した利益だけを見れば正しいものです。ただし法人には、個人にはない課税のタイミングがあります。売っていない含み益にも、期末に税金がかかります。

個人は「売ったとき」、法人は「持っているだけ」で課税される

個人の暗号資産の利益は、国税庁の確定申告書等作成コーナーが示すとおり、事業所得等の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則としてその他の雑所得に該当します。所得税法48条の2も、暗号資産の譲渡原価を事業所得または雑所得の必要経費の計算として定めています。譲渡所得ではありません。

そして所得が生じるのは、売却または使用した時点です。買ったまま持っている限り、値上がりしていても課税されません。

法人は違います。法人税法61条2項1号は、期末に保有する市場暗号資産を時価法で評価すると定めています。市場暗号資産とは、活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものです。同条3項は、この評価による評価益・評価損を、その事業年度の益金または損金に算入すると定めています。

つまり法人では、決算日の時価が帳簿価額を超えていれば、売っていなくてもその差額が利益になります。

時価評価の対象から外れるもの

法人税法61条2項は、次のように区分しています。

区分期末の評価方法
市場暗号資産(下記以外)時価法
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行を除く)時価法または原価法を選択
特定自己発行暗号資産時価法の対象外
活発な市場が存在しない暗号資産原価法

特定譲渡制限付暗号資産とは、譲渡についての制限その他の条件が付され、その条件が付されていることにつき適切に公表されるための手続が行われているものとして政令で定めるものです。自分で発行したトークンや、譲渡制限の付いたものが対象になります。

取引所で買ったビットコインやイーサリアムは、この例外に当たりません。 原則どおり時価法です。

実現した利益だけを見れば、法人のほうが税額は小さい

売上1,200万円・経費200万円・東京23区・単身・インボイス登録済み・合同会社、役員報酬は月54万円という条件で、暗号資産の利益が上乗せされた場合の税額を当サイトの計算エンジンで計算しました。個人は事業所得の上に雑所得が乗る形、法人は法人の所得に乗る形です。

暗号資産の利益個人の所得税・住民税の増加上乗せ分の実効税率法人税等の増加上乗せ分の実効税率
100万円33.5万円33.5%21.4万円21.4%12.1万円
300万円116.4万円38.8%66.6万円22.2%49.7万円
500万円203.8万円40.8%113.0万円22.6%90.8万円
1,000万円422.2万円42.2%271.6万円27.2%150.6万円

前提:2026年(令和8年)分の税率・保険料率。個人は青色申告特別控除65万円(e-Tax)適用後の事業所得935万円に雑所得を上乗せして計算。法人は東京23区の合同会社で、役員報酬月54万円を支払った後の所得に上乗せして計算。住民税の所得割は10%。

利益が大きいほど差は開きます。ただし差の伸びは利益に比例しません。 利益1,000万円では法人側の課税所得が年800万円の軽減税率の境目を超えるため、上乗せ分の実効税率が22.6%から27.2%へ上がります。

そして、この表の法人側の金額は法人に税金を残した状態の数字です。法人の口座にある現金を個人が使うには、役員報酬や配当として取り出す段階でもう一度課税されます。当サイトの試算では、この取り出しコストを20%として法人側の手取りに反映しています。詳しい前提は計算の前提に置いています。

含み益が出た年に、入金がないまま税金が出る

法人で暗号資産を保有したまま決算を迎え、時価が上がっていた場合の法人税等です。個人の欄が0円なのは、売却していないためです。

期末の含み益個人(売却しない場合)法人(期末に時価評価)
100万円0円21.4万円
300万円0円66.6万円
500万円0円113.0万円
1,000万円0円271.6万円

前提:上の表と同じ条件。評価益がそのまま法人の所得に加算されるものとして計算。

現金は1円も入ってきていないのに、271.6万円を納める必要があります。 納税資金を作るために暗号資産の一部を売れば、その売却で今度は実現益が出ます。決算日の時価が高く、申告・納付期限である2か月後に値が下がっていても、納税額は決算日の時価で決まります。

評価益・評価損は翌事業年度に洗い替えられるため、値が下がれば翌期に評価損が立ちます。長い期間で見れば利益の総額に対する課税に近づきますが、動いているのは税額ではなく納税の時期です。 ここが、法人化するかどうかを単年の税率で決められない理由になります。

決算期をいつにするかが、そのまま「どの日の時価で課税されるか」を決めることにもなります。決算月の選び方は法人の決算期の決め方で扱っています。

損失の扱いは法人が明確に有利

税率よりも差が大きいのは、損が出たときの扱いです。

個人(雑所得)法人
他の所得との相殺できない同じ事業年度の所得と相殺される
翌年以降への繰越できない青色申告なら欠損金を10年繰越

国税庁タックスアンサー No.1500 は、雑所得の金額の計算上生じた損失は他の所得と損益通算できないと明記しています。暗号資産で300万円の損を出しても、事業所得からは引けません。翌年に持ち越すこともできません。

法人なら、暗号資産の損失は本業の利益と相殺されます。相殺しきれない部分は欠損金として繰り越せます。繰越年数の差は欠損金の繰越は法人10年・個人3年で整理しています。雑所得と事業所得の区分そのものは事業所得と雑所得の判定が主題です。

値動きの大きい資産を扱うほど、この非対称は効きます。利益の年だけを比べると法人有利に見え、損の年まで含めるとその差はさらに開きます。 一方で、含み益の課税は利益の年に前倒しで効きます。方向が逆の要素が同時に動くため、平均的な年の税率だけで決めることはできません。

20%の分離課税は、まだ制度になっていない

暗号資産の利益を株式と同じ20%の申告分離課税にするという見直しは、以前から議論されています。金融庁は令和8年度税制改正要望で「暗号資産取引に係る課税の見直し」を要望項目に挙げました。

ただし、2026年9月時点の租税特別措置法に、暗号資産の申告分離課税の規定はありません。 e-Gov法令検索で、公布済みで施行日が先になっている改正まで含めて確認しました。現在の条文にあるのは、令和2年以前の先物取引の支払調書に関する経過措置の中で暗号資産に触れている箇所だけです。

分離課税になれば個人側の税率が下がり、ここまでの比較は逆向きに動きます。しかし要望や検討の段階の税率を前提に法人を作ると、制度が変わらなかったときに固定費だけが残ります。 法人住民税の均等割は赤字でも年7万円かかり、税理士報酬も毎年発生します。

法人化の判断は、いま確定している制度で計算するのが原則です。自分の売上と経費でいくら差が出るかは、条件を入れて確かめてください。

まとめ

  • 個人の暗号資産の利益は原則として雑所得。売却または使用した時点で課税され、保有しているだけでは課税されない
  • 法人が期末に持つ市場暗号資産は時価法で評価し、評価益は益金になる(法人税法61条2項1号・3項)
  • 実現益1,000万円なら、個人422.2万円に対し法人271.6万円で150.6万円少ない
  • 含み益1,000万円なら、個人は0円、法人は271.6万円。入金のないまま納税が発生する
  • 雑所得の損失は損益通算も繰越もできない。法人なら本業と相殺でき、欠損金は10年繰り越せる
  • 20%の申告分離課税は2026年9月時点で法令化されていない

よくある質問

個人で持っている暗号資産を、法人へ移すと課税されますか。

法人へ譲渡した時点で個人に利益が確定するため、その年の所得として課税されます。含み益を抱えたまま法人へ移すと、移した年に雑所得が立ちます。移す前に、個人側でいくらの税額が出るかを確認する必要があります。

法人が期末に時価評価して払った税金は、あとで戻りますか。

評価益・評価損は翌事業年度に洗い替える扱いが法人税法61条10項を受けた政令で定められています。値が下がれば翌期に評価損が立つため、長い目で見れば利益の総額に対する課税に近づきます。ただし納税の時期は前倒しになります。

暗号資産の譲渡に消費税はかかりますか。

かかりません。消費税法施行令9条4項が、資金決済に関する法律2条14項に規定する暗号資産を「支払手段に類するもの」と定めており、その譲渡は非課税取引になります。売却額が大きくても、消費税の課税売上高には算入されません。法人化の判定で使う課税売上高1,000万円の基準にも影響しません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。