法人化の判断

ライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は921万円違う

個人事業税がかかる業種とかからない業種で、法人化の損益分岐点は1,266万円と2,198万円に分かれます。ライター・エンジニア・デザイナーの区分ごとに、計算エンジンで出した実際の数字で示します。経費の多寡は分岐点を動かしていませんでした。

同じ事業所得でも、法人化が有利になる分岐点は業種によって変わります。個人事業税が5%かかる業種は事業所得1,266万円、個人事業税がかからない業種は2,198万円。差は932万円です。

原因は個人事業税ひとつです。所得税でも社会保険でもありません。以下、実際に計算した数字で示します。

分岐点は業種区分で921万円ずれる

個人事業税は、地方税法が定める法定70業種に該当する事業だけに課税されます。税率は区分によって3〜5%です。この区分ごとに損益分岐点を計算しました。

個人事業税の区分税率損益分岐となる事業所得代表的な職種
第1種事業(請負業など)5%1,266万円システムエンジニア、プログラマー
第3種事業(デザイン業など)5%1,266万円Webデザイナー、コンサルタント
第2種事業4%1,356万円畜産業、水産業
第3種事業のうち医業類似事業3%1,487万円あんま・はり・きゅう、柔道整復
法定業種外(非課税)0%2,198万円ライター、翻訳業、イラストレーター

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 損益分岐点は、税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた実質差額がプラスに転じる事業所得

税率5%の業種と非課税の業種で、921万円の開きがあります。 税率3%の区分でも、5%の区分より235万円後ろにずれます。

よく見る「所得800万円が法人化の目安」という数字は、この表のどの行とも一致しません。目安の数字が当てにならない理由は法人化の目安は「所得800万円」?その数字が当てにならない3つの理由で扱っています。

同じ事業所得でも、判定はここまで変わる

分岐点だけでなく、所得ごとの判定そのものが入れ替わります。まず個人事業税が5%かかる業種です。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

同じ条件で、個人事業税が非課税の業種を計算するとこうなります。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円308.6万円274.5万円月28万円−54.1万円個人のまま有利
600万円442.8万円409.7万円月42万円−53.1万円個人のまま有利
800万円566.2万円536.6万円月54万円−49.6万円個人のまま有利
1,000万円692.6万円662.4万円月54万円−50.2万円個人のまま有利
1,200万円819.7万円787.6万円月54万円−52.1万円個人のまま有利
1,500万円988.7万円972.0万円月54万円−36.6万円個人のまま有利
1,800万円1157.6万円1149.1万円月90万円−28.5万円個人のまま有利
2,100万円1322.5万円1332.6万円月95万円−9.9万円ほぼ互角
2,500万円1505.5万円1551.1万円月100万円+25.6万円法人化が有利
3,000万円1735.1万円1816.8万円月100万円+61.7万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・個人事業税0%/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

法人化した側の手取り(3列目)は、2つの表でまったく同じです。動いているのは個人のままの手取りだけで、個人事業税の分だけ非課税業種のほうが高く出ています。

非課税業種には、差が広がる帯がある

2つ目の表で、実質差額の列を上から追ってください。−54.1万円、−53.1万円、−49.6万円と縮まったあと、所得1,000万円で−50.2万円、1,200万円で−52.1万円と、いったん広がります。

所得が増えるほど法人化に近づくのが直感ですが、この帯では逆に遠ざかります。1つ目の表(5%の業種)では−47.8万円から−5.2万円まで一貫して縮まり続けるので、動きが違います。

理由は最適な役員報酬の列にあります。事業所得800万円から1,500万円までのあいだ、最適額は月54万円で止まったままです。標準報酬月額の等級の段差があるため、報酬を上げると社会保険料が一段で増えてしまい、法人側の伸びが鈍ります。等級の段差については標準報酬月額の等級表(令和8年度)。保険料が段差で上がる仕組みで扱っています。

5%の業種では、この帯でも個人事業税が35.5万円から45.5万円へ増え続けるため、個人側が不利になって差が縮まります。非課税業種にはその力が働きません。所得が800万円から1,200万円の帯にいる非課税業種の場合、所得が増えても法人化には近づいていない、ということです。

差の正体は個人事業税だけ

個人事業税は次の式で計算します。

(事業所得 + 青色申告特別控除 − 事業主控除290万円)× 税率3〜5%

ここで2点、所得税とは違う扱いがあります。事業主控除290万円は個人事業税だけの控除で、所得税や住民税にはありません。そして青色申告特別控除は個人事業税では足し戻されます。所得税で65万円を引いた後の金額ではなく、引く前の金額が課税の対象になります。

所得別の税額を計算するとこうなります。

事業所得5%の業種4%の業種3%の業種非課税の業種5%の業種の実効負担率
400万円5.5万円4.4万円3.3万円0円1.38%
600万円15.5万円12.4万円9.3万円0円2.58%
800万円25.5万円20.4万円15.3万円0円3.19%
1,000万円35.5万円28.4万円21.3万円0円3.55%
1,200万円45.5万円36.4万円27.3万円0円3.79%
1,500万円60.5万円48.4万円36.3万円0円4.03%
1,800万円75.5万円60.4万円45.3万円0円4.19%
2,100万円90.5万円72.4万円54.3万円0円4.31%

※ 事業主控除290万円を差し引いた後に課税。青色申告特別控除は足し戻した金額で計算/2026年(令和8年)分基準

事業主控除290万円は定額なので、所得が低いうちは実効負担率が5%よりかなり低く出ます。所得400万円なら1.38%です。所得が上がるにつれて5%に近づき、2,100万円で4.31%になります。

つまり業種区分の影響は、所得が高いほど大きくなります。分岐点付近の所得1,200万円では、業種が違うだけで年45.5万円の差です。

法人化すると、非課税だった側が事業税を払う側になる

個人事業税が非課税なのは個人事業のあいだだけです。法人には法定業種という考え方がなく、事業主控除290万円にあたるものもありません。個人で非課税だった事業も、法人化すれば法人事業税と特別法人事業税の対象になります。

分岐点が2,198万円まで後ろにずれるのは、この二重の事情によります。個人のままなら事業税がゼロで、法人化すると事業税が発生する。5%の業種にとっての法人化が「5%から法人事業税への乗り換え」なのに対し、非課税業種にとっては「ゼロからの上乗せ」になります。

個人事業税と法人事業税の制度上の違いは個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法で詳しく整理しています。

経費の多寡は分岐点を動かさない

「経費が少ない業種は法人化が有利」という説明を見かけますが、事業所得を同じにして経費だけを変えても、分岐点は動きませんでした。

年間経費5%の業種非課税の業種
100万円1,266万円2,198万円
200万円1,266万円2,198万円
400万円1,266万円2,198万円
600万円1,266万円2,198万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 各行とも事業所得(売上−経費)を同じにして、売上と経費を同額ずつ動かした場合

4行とも同じ数字です。 経費が少ない業種は、同じ売上でも事業所得が大きくなるぶん分岐点に早く到達します。ただしそれは分岐点そのものが下がったのではなく、所得が先に上がっただけです。経費率の低さは「同じ売上で見たときに法人化が近い」ことを意味しますが、「同じ所得で見たときに法人化が有利」を意味しません。

なお、この表はインボイス登録済みを前提にしています。登録していれば受け取った消費税は納付するだけなので、手取りには影響しません。この点は売上1,000万円のフリーランスの手取りは540万円で扱っています。

配偶者がいると、両方の分岐点が下がる

配偶者が無収入の場合、分岐点はこう動きます。

個人事業税の区分独身配偶者あり(無収入)
5%の業種1,266万円1,016万円
非課税の業種2,198万円1,902万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

5%の業種は250万円、非課税の業種は296万円下がります。それでも業種による差は886万円残ります。配偶者の有無と業種区分は別々に効く要素で、片方が片方を打ち消すことはありません。配偶者による分岐点の変化は配偶者がいると法人化の分岐点は250万円下がるで詳しく扱っています。

自分がどの区分かは、自分で決められない

ここまでの数字は、自分の業種区分が分かっていることを前提にしています。ところが区分は都道府県が実際の事業内容と契約形態を見て判断するもので、開業届や確定申告書に書いた業種名で機械的に決まるわけではありません。

現代的な職種の一般的な扱われ方は次のとおりです。

職種扱われ方該当する行
システムエンジニア・プログラマー請負業(第1種)とされることが多い5%の業種
Webデザイナーデザイン業(第3種)とされることが多い5%の業種
経営コンサルタントコンサルタント業(第3種)5%の業種
Webライター・翻訳者文筆業・翻訳業として非課税とされることが多い非課税の業種
イラストレーター芸術家として非課税とされることが多い非課税の業種
動画編集者内容により請負業やデザイン業とされうる判断による

「〜とされることが多い」と書いているのは、最終的な判断が都道府県によるためです。同じ「ライター」でも、自分の名前で記事を書いて執筆料を得ていれば文筆業として非課税、企業から受注してコンテンツを納品する形なら請負業として課税、という判断がありえます。

判断が割れる職種の場合、法人化の分岐点は1,266万円と2,198万円のどちらにもなりえます。 921万円の幅は、他のどの条件よりも大きく結論を動かします。区分がはっきりしないまま試算すると、答えが出たように見えて実は出ていない、ということが起こります。

区分に迷う場合は、都道府県税事務所に事業内容を説明して確認してください。すでに個人事業税を納めているなら、その時点で法定業種に該当していることが分かります。逆に納税通知書が届いていない場合は、事業所得が事業主控除290万円に収まっているか、法定業種外と判断されているかのどちらかです。

まとめ

  • 個人事業税が5%かかる業種の分岐点は1,266万円、非課税の業種は2,198万円。差は921万円
  • 動いているのは個人のままの手取りだけ。法人化した側の手取りは業種が違っても同じ
  • 個人事業税は事業主控除290万円を引いた後に課税され、青色申告特別控除は足し戻される。所得税とは計算の起点が違う
  • 事業主控除が定額なので実効負担率は所得で変わる。税率5%の業種で、所得400万円なら1.38%、2,100万円で4.31%
  • 非課税業種には、所得800万〜1,200万円で法人化との差がむしろ広がる帯がある。最適な役員報酬が月54万円で止まるため
  • 経費の多寡は分岐点を動かさない。動かすのは業種区分
  • 個人で非課税でも、法人には法定業種も事業主控除もない。法人化すれば事業税を払う側に回る
  • 区分は都道府県が事業内容で判断する。開業届の業種名では決まらない

ここに挙げた数字は東京23区・40歳未満・独身という前提での概算です。自分の業種区分と売上・経費で、分岐点がどこに来るかを確かめてください。

よくある質問

開業届に書いた業種名で、個人事業税の区分は決まりますか?

機械的には決まりません。都道府県が実際の事業内容と契約形態を見て判断します。同じ「ライター」でも、自分の名前で執筆料を得る形なら文筆業として非課税、企業から受注して納品する形なら請負業として課税、という判断がありえます。

個人事業税が非課税の業種でも、法人化すると事業税はかかりますか?

かかります。法人事業税には非課税業種という区分がなく、個人事業税の事業主控除290万円にあたるものもありません。個人では非課税だった事業は、法人化すると事業税が発生する側に回ります。

経費が少ない業種のほうが、法人化は有利になりますか?

事業所得を同じにして経費を200万円から600万円まで変えて計算したところ、損益分岐点は1,266万円のまま動きませんでした。分岐点を動かしていたのは経費の多寡ではなく、個人事業税の業種区分でした。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。