税金の基礎
修繕費と資本的支出の判定。20万円と60万円は同じ意味ではない
修繕費か資本的支出かを分ける20万円・60万円・おおむね3年の3本の線は、かかり方がそれぞれ違います。判定の順序と、一度に落とせるかどうかで取り戻せる額がいくら変わるかを、計算エンジンの実データで示します。
店舗の内装をやり直した、エアコンを入れ替えた、システムを改修した。この工事代金を今年の経費で落とせるのか、資産に計上して何年もかけて償却するのか。分かれ目は「20万円」「60万円」「おおむね3年」という3本の線です。
ただし、この3本は横並びではありません。**20万円の線と60万円の線は、当てはまる場面がそもそも違います。**ここを取り違えると、60万円未満だから大丈夫と考えていた工事が資本的支出になります。
20万円の線と60万円の線は、かかり方が違う
先に結論を書きます。
- 20万円未満(および、おおむね3年周期)は、価値が上がる工事だと分かっていても修繕費にできる
- 60万円未満(および取得価額の10%以下)は、資本的支出か修繕費か判断が付かないときにしか使えない
根拠は通達の書き出しにあります。法人税基本通達7-8-3は、20万円未満などに当てはまる場合、資本的支出の例示を定めた7-8-1に「かかわらず」修繕費として損金経理できる、と書いています。個人事業主側の所得税基本通達37-12も、37-10に「かかわらず」と同じ形です。
一方の7-8-4(個人は37-13)は「一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において」から始まります。判断が付かない金額があることが入口の条件です。
つまり、用途変更のための模様替えのように価値を高めることが明らかな50万円の工事は、60万円未満であってもこの基準では修繕費になりません。逆に、同じ性質の工事でも18万円なら修繕費にできます。60万円のほうが金額は大きいのに、使える場面は狭いという逆転が起きています。
3本の線を当てる順番
判定は次の順に進みます。順番が入れ替わると結論が変わります。
| 順 | 見るもの | 根拠(法人/個人) | 当てはまると |
|---|---|---|---|
| 1 | 明らかに資本的支出か(避難階段の取付け、用途変更の模様替え、部分品を高性能品に交換した超過分) | 7-8-1/37-10 | 資産に計上して償却 |
| 2 | 明らかに修繕費か(通常の維持管理、き損した資産の原状回復) | 7-8-2/37-11 | 全額を経費・損金 |
| 3 | 20万円未満、またはおおむね3年以内の周期 | 7-8-3/37-12 | 1に当たっても修繕費にできる |
| 4 | (1と2で決まらない金額について)60万円未満、または前期末(個人は前年12月31日)の取得価額のおおむね10%以下 | 7-8-4/37-13 | 修繕費にできる |
| 5 | それでも決まらないとき | 7-8-5/37-14 | 支出額の30%と、前期末の取得価額の10%との、少ないほうを修繕費 |
5番目の特例は、支出額の30%相当額と、固定資産の前期末(個人は前年12月31日)における取得価額の10%相当額との、いずれか少ない金額を修繕費とし、残りを資本的支出にする方法です。30%だけを見た説明を見かけますが、通達は10%との比較で少ないほうを採ると定めています。継続して同じ処理をしていることも条件です。
タックスアンサーNo.5402は、この30%の特例について、20万円・3年周期の取扱いと60万円・10%の取扱いが「それぞれの取扱いが優先して適用されます」と明記しています。3番目・4番目で決まるものは、5番目まで下りてきません。
なお、10%基準の分母は未償却残高ではなく取得価額です。償却が進んだ資産でも、分母は買ったときの金額のまま動きません。
個人と法人で、基準日と手続きが違う
同じ3本の線を使いますが、細部が2つ違います。
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 10%基準の判定日 | 前年12月31日の取得価額 | 前事業年度終了の時の取得価額 |
| 適用の要件 | 修繕費として所得を計算し、それに基づいて確定申告をしていること | 修繕費として損金経理をしていること |
個人事業主の判定日は12月31日で固定です。法人は決算期を選べるので、判定日も決算月に従って動きます。決算月の決め方で期末を選ぶと、10%基準を当てる日も一緒に決まることになります。
要件の書き方も違います。法人は帳簿での損金経理が条件ですが、個人事業主は「その業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているとき」という書き方で、確定申告の内容そのものが要件になっています。
一度に落とせるかどうかで、取り戻せる額はいくら変わるか
60万円の工事代金を、修繕費として1年で落とした場合と、資本的支出として15年で償却した場合を、当サイトの計算エンジンで比較しました。償却は定額法・期首供用で「取得価額÷耐用年数」を毎年均等に落とすものとし、各年の所得は同額で続くものとしています。耐用年数は資産の種類ごとに決まるので、15年は一例です。
工事代金60万円(税抜)/経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
| 事業所得 | 修繕費(個人) | 資本的支出15年・合計(個人) | 修繕費(法人) | 資本的支出15年・合計(法人) |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 174,480円 | 172,980円 | 34,400円 | 130,500円 |
| 600万円 | 298,780円 | 258,480円 | 55,500円 | 130,500円 |
| 800万円 | 256,580円 | 258,480円 | 128,300円 | 129,000円 |
| 1,000万円 | 238,260円 | 232,620円 | 128,100円 | 127,500円 |
| 1,200万円 | 287,363円 | 292,500円 | 136,100円 | 141,000円 |
| 1,500万円 | 292,100円 | 292,500円 | 138,800円 | 136,500円 |
| 2,000万円 | 292,200円 | 292,500円 | 138,900円 | 136,500円 |
個人事業主の側は、多くの帯で一括と15年償却の合計がほぼ並びます。落とす総額が同じなので、当然といえば当然です。目立った差が出るのは事業所得600万円の行だけで、一括のほうが4万円多く戻っています。他の帯の差はどちら向きでも1万円以内です。理由は次の見出しで扱います。
法人の側は形が違います。事業所得800万円以上ではやはり並ぶのに、400万円・600万円では一括の取戻しが極端に小さくなっています。
45万9,000円と46万円で、5万円変わる帯がある
事業所得600万円の行だけ一括が有利になるのは、基礎控除の段差をまたぐからです。
青色申告特別控除65万円を引くと、事業所得600万円の人の合計所得は535万円です。令和8年分の基礎控除は本則62万円に特例加算が乗る形で、合計所得489万円以下なら加算は42万円(合計104万円)、489万円超655万円以下なら加算は5万円(合計67万円)になります。工事代金を46万円以上必要経費に落とせると合計所得が489万円以下になり、基礎控除が67万円から104万円へ37万円増えます。
必要経費に落とせた額を1万円刻みで動かすと、段差がそのまま見えます。
事業所得600万円(合計所得535万円)・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)
| 必要経費に落とせた額 | 合計所得 | 負担の減少額 | 取戻し率 |
|---|---|---|---|
| 400,000円 | 4,950,000円 | 171,220円 | 42.8% |
| 440,000円 | 4,910,000円 | 188,452円 | 42.8% |
| 450,000円 | 4,900,000円 | 192,710円 | 42.8% |
| 459,000円 | 4,891,000円 | 196,663円 | 42.8% |
| 460,000円 | 4,890,000円 | 251,468円 | 54.7% |
| 470,000円 | 4,880,000円 | 254,826円 | 54.2% |
| 500,000円 | 4,850,000円 | 265,000円 | 53.0% |
| 600,000円 | 4,750,000円 | 298,780円 | 49.8% |
45万9,000円と46万円の間で、取り戻せる額が19万6,663円から25万1,468円へ、5万4,805円跳ねます。工事代金の差は1,000円です。
動いているのは所得税だけです。この2行を比べると所得税は27万1,200円から21万6,500円へ下がる一方、住民税は37万3,100円で変わらず、個人事業税も13万2,000円のまま動きません。住民税の基礎控除は合計所得2,400万円まで43万円で平坦なので、この段差は住民税には現れません。
15年に分けると、毎年の必要経費は4万円です。合計所得は535万円から531万円になるだけで、489万円の線には一生届きません。同じ60万円でも、一度に落とせたときだけ37万円の基礎控除が付いてくるという構造です。
この特例加算は令和8年分・9年分限りの措置で、令和10年分以降は縮小が予定されています。段差の位置は毎年動く前提で見てください。基礎控除そのものは令和8年分の基礎控除で詳しく扱っています。
法人は、一度に落としても取り戻しきれないことがある
法人側で事業所得400万円・600万円の一括が小さく出るのは、別の理由です。
役員報酬を最適額まで取ると、法人に残る課税所得はもともと薄くなります。事業所得400万円のケースでは、最適な役員報酬は月28万円で、法人の課税所得は15万5,000円しか残りません。ここへ60万円を一度に落とすと課税所得は0円になり、使い切れなかった44万5,000円はその年の税額を1円も減らしません。法人税等は7万円まで下がって止まりますが、これは赤字でも発生する均等割です。
ただし、この44万5,000円が消えるわけではありません。青色申告をしていれば繰越欠損金として翌期以降に持ち越せます。上の表は単年で切った数字なので、法人の一括が小さく見えるのは取り戻せないのではなく、取り戻す時期が後ろにずれていると読むのが正確です。
役員報酬をいくらに置くかで法人の課税所得の厚みは変わります。前提となる報酬額と手取りの関係は次のとおりです。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
計算の前提は計算方法にまとめています。
資本的支出に30万円未満の特例は使えるのか
資本的支出になった場合、30万円未満の少額減価償却資産の特例で一括償却できないかという疑問が出ます。
措置法通達67の5-3は、資本的支出について、取得価額を区分する特例により新たに取得したものとされるものであっても、既に有する減価償却資産への改良・改造のための支出であることから、原則としてこの特例の対象にならないとしています。そのうえで、規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には適用できるとしています。解説では、ソフトウエアのバージョンアップで既存機能の強化にとどまらず機能的独立性の高い新機能を追加した場合が例に挙げられています。
この特例は租税特別措置法に置かれた期限付きの措置で、適用期限はこれまで延長が繰り返されてきました。使えるかどうかは、その年の適用期限を国税庁の案内で確かめてください。
ソフトウエアの改修そのものの区分は、法人税基本通達7-8-6の2と所得税基本通達37-10の2にあります。障害の除去や現状の効用の維持なら修繕費、新たな機能の追加や機能の向上なら資本的支出です。償却方法の選び方は法人の減価償却方法、個人と法人の償却の違いは減価償却の比較で扱っています。
まとめ
- 20万円未満とおおむね3年周期は、価値が上がる工事と分かっていても修繕費にできる。60万円未満と10%以下は、資本的支出か修繕費か明らかでない金額にしか使えない
- 判定は「明らかに資本的支出か」「明らかに修繕費か」を先に見て、決まらない部分にだけ金額基準を当てる。30%の特例は最後で、しかも前期末取得価額の10%と比べて少ないほうを採る
- 10%基準の判定日は、個人事業主が前年12月31日、法人が前事業年度終了の時。分母は未償却残高ではなく取得価額
- 事業所得600万円・青色65万円控除の条件では、46万円を必要経費に落とせるかどうかで合計所得が489万円の線をまたぎ、基礎控除が37万円増える。取り戻せる額が1,000円の差で5万4,805円動く帯がある
- 法人は役員報酬を取ると課税所得が薄くなるため、大きな支出を一度に落としても単年では使い切れないことがある。使い切れない分は繰越欠損金として翌期以降に回る
ここに挙げた数字は、経費200万円・東京23区・独身という特定の条件で計算した概算です。基礎控除の段差をどこでまたぐかは、あなたの売上・経費・青色申告特別控除の額で変わります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
50万円の内装工事は60万円未満なので修繕費にできますか。
60万円の基準は、資本的支出か修繕費かが「明らかでない」金額にだけ当てはまります。用途変更のための模様替えなど、価値を高めることが明らかな工事は、60万円未満でもこの基準では修繕費になりません。
20万円未満なら価値が上がる工事でも修繕費にできますか。
法人税基本通達7-8-3と所得税基本通達37-12は、資本的支出の例示(7-8-1・37-10)に「かかわらず」修繕費にできると定めています。20万円未満であれば、価値が上がる工事でも修繕費として処理できます。
10%基準の「取得価額」はいつ時点のものですか。
個人事業主は前年12月31日、法人は前事業年度終了の時の取得価額です。未償却残高ではなく取得価額で見ます。
資本的支出に30万円未満の少額減価償却資産の特例は使えますか。
措置法通達67の5-3により、資本的支出は原則としてこの特例の対象になりません。ただし規模の拡張や単独資産としての機能の付加など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には適用できるとされています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。