役員報酬
役員報酬を期中に増やすと、増額分120万円が損金にならない
役員報酬を事業年度の途中で変更できる3つの例外と損金不算入額を解説。月30万円から50万円へ7か月目に増額した場合の法人税等を計算します。
4月から月30万円で始めた役員報酬を、売上が伸びた10月から月50万円へ増やす。会社は年間480万円を支払いますが、法人税で損金になるのは360万円、上乗せした120万円は損金不算入になるのが一般的な計算です。
報酬の振込み自体が禁止されるわけではありません。会社からお金は出て、社長個人には全額が給与として課税されるのに、会社では増額部分を経費にできないことが問題です。
役員報酬の変更は「3か月以内なら自由、過ぎたら違法」ではありません。原則と3つの改定類型を分け、変更日・理由・決議・毎月の支給額をそろえて判定します。
定期同額給与は、毎月同じ額が原則
国税庁No.5211によると、法人が役員へ払う給与のうち、原則として損金になるのは次の3種類です。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 要件を満たす一定の業績連動給与
一人会社で毎月払う役員報酬は、通常は定期同額給与です。1か月以下の一定期間ごとに支給し、その事業年度の各支給時期で同額にします。
ただし、事業年度中に一度も金額を変えられないわけではありません。次の改定なら、改定前の期間と改定後の期間でそれぞれ同額なら定期同額給与になり得ます。
| 改定の種類 | 時期・理由 | 典型例 |
|---|---|---|
| 通常改定 | 原則、期首から3か月以内 | 定時株主総会で年1回見直す |
| 臨時改定 | 役職・職務の重大な変更等 | 代表者急逝で取締役が代表へ就任 |
| 業績悪化改定 | 経営状況の著しい悪化等による減額 | 銀行等との再建協議で減額が必要 |
利益が増えたから増額する、生活費が増えたから上げる、節税のため利益を圧縮する、といった理由はこの表の例外に入りません。
原則は期首から3か月以内
3月決算なら事業年度は4月1日に始まります。通常の役員報酬改定は、原則として6月30日までに行います。
4月1日 事業年度開始
6月30日 3か月を経過する日
6月の定時株主総会で、7月支給分から月30万円を月40万円に変え、改定後は翌年3月まで毎月40万円を払う形なら、通常改定の範囲を検討できます。
ここで基準になるのは、振込日だけではありません。株主総会等で報酬額を決めた日、役員の職務執行期間、給与の支給対象期間、実際の支給日を確認します。
一人会社でも議事録を作ります。「自分しか株主がいないから口頭で決めた」では、いつ、いくらに変えたかを後から示せません。
7か月目の増額は、上乗せ部分が損金不算入
次の例を計算します。
- 報酬支払前の法人利益:1,000万円
- 1〜6か月目:月30万円
- 7〜12か月目:月50万円
- 増額理由:単に業績が好調
- 臨時改定事由には該当しない
実際に払う金額は480万円です。
30万円 × 6か月 + 50万円 × 6か月 = 480万円
国税庁の「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額」は、増額改定後も増額前の金額に相当する部分が引き続き定期同額給与として支給されていると考え、上乗せ部分を損金不算入としています。
この例では、年間を通じた月30万円部分の360万円が損金、後半6か月の上乗せ月20万円、合計120万円が損金不算入です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 実際の年間支給額 | 480万円 |
| 損金算入できる月30万円×12か月 | 360万円 |
| 損金不算入の月20万円×6か月 | 120万円 |
当サイトの2026年分計算エンジンで、東京23区の小規模法人の法人税等を計算しました。
| 税計算 | 法人税等 |
|---|---|
| 480万円全額が損金だと誤認 | 119万9,100円 |
| 120万円を加算して正しく計算 | 147万6,800円 |
| 差 | 27万7,700円増 |
支給額は同じでも、損金不算入120万円によって法人税等が27万7,700円増えます。この表はscripts/yakuin-hoshu-kichu-henko.mjsで再計算できます。
損金不算入は「会社の帳簿から給与費用を消す」というより、法人税申告書で会計上の利益へ加算して課税所得を増やす処理です。給与台帳、源泉徴収、社長個人の給与収入は実際の480万円を基にします。
代表者交代などは臨時改定事由になり得る
3か月を過ぎても、役員の職制上の地位や職務内容に重大な変更があり、報酬を改定せざるを得ない場合は臨時改定事由を検討します。
国税庁の質疑応答事例には、代表取締役が急逝し、取締役が新たに代表取締役へ就任したため、月50万円から前任代表と同じ月100万円へ増額した例があります。これは職制上の地位と職務内容が重大に変わるため、改定前後の給与が定期同額給与に該当するとされています。
一方、次のような事情は区別します。
- 売上が予想より増えた
- 営業部門の成績がよかった
- 社長の担当業務が忙しくなった
- 生活費や住宅ローン負担が増えた
- 期末利益を減らしたい
肩書だけを形式的に変えても、職務・責任・権限の実態が同じなら臨時改定の説明になりません。就任日、職務変更、権限、決議を議事録や組織図に残します。
業績悪化による減額は「目標未達」では足りない
経営状況の著しい悪化などにより、やむを得ず役員報酬を減額する場合も例外があります。
国税庁No.5211は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは業績悪化改定事由に含まれないと明記しています。
売上が10%落ちた、黒字幅が予算より小さい、といった事情だけで自動的に認められるものではありません。株主、債権者、取引銀行などとの関係で減額せざるを得ない客観的事情、事業継続への重大な影響などを確認します。
一人会社は外部株主がいないことが多いため、数字と資料が特に重要です。
- 月次試算表と資金繰り表
- 売上・利益・受注残の急減
- 銀行との返済条件変更や再建計画
- 主要取引先の倒産・契約解除
- 減額を決めた株主総会議事録
単に会社の預金が一時的に少ないだけなら、役員借入金など別の資金繰りと区別します。
遡って差額を一括支給しても損金にならない
期首から3か月以内に月額を増やす決議をしても、過去月へ遡った増額分を後の月にまとめて払うと問題が生じます。
国税庁の事例では、6月末の定時株主総会で増額し、4〜6月分の増額差額を7月に一括支給する場合、その一括支給額は定期同額給与に該当せず、損金にならないとしています。
定期同額給与は、すでに終わった職務の対価を事後的に上乗せする制度ではありません。改定後の支給分から新しい月額を適用し、過去月へ遡及しない形を基本にします。
法人税と社会保険は別の時計で動く
期中変更が法人税で損金にならなくても、実際に役員へ払った報酬で給与課税や社会保険の判定が動きます。
- 所得税:実際の支給額から源泉徴収
- 住民税:翌年度の給与所得に反映
- 社会保険:固定的賃金の変動後、一定の条件で随時改定
- 法人税:定期同額給与等に該当する額だけ損金
「法人税で経費にならないから社会保険の報酬にも入れない」という処理はできません。税と保険の届出を別々に確認します。
役員報酬の額を決め直すなら、96通り計算した役員報酬の最適額と標準報酬月額の等級表を次の期首前に確認します。
期首に作る報酬決定ファイル
毎期、次を一つのフォルダへ保存します。
- 当期の利益・資金繰り予測
- 株主総会または社員総会の議事録
- 改定前後の月額と適用開始月
- 給与台帳と銀行振込記録
- 社会保険の月額変更届の要否
- 期中変更なら、その理由と客観資料
増額したい事情が出てから例外を探すのではなく、期首から3か月以内に1年分の生活費、納税資金、会社の運転資金を見込んで決めます。
まとめ
- 役員報酬は毎月同額の定期同額給与が原則
- 通常改定は原則として事業年度開始から3か月以内
- 3か月後でも、職務の重大変更等や著しい業績悪化等なら改定できる場合がある
- 単なる好業績による増額、一時的な資金繰りによる減額は例外にならない
- 月30万円から7か月目に50万円へ増額すると、上乗せ120万円が損金不算入となる一般例
- この例の法人税等は、全額損金と誤認した場合より27万7,700円増える
- 過去月へ遡った増額差額の一括支給も、定期同額給与にならない
- 損金不算入でも、社長個人の給与課税と社会保険は実際の支給額で動く
役員報酬の期中変更で失うのは、変更の自由ではなく会社側の損金です。例外に当たる資料がなければ、増額は次の事業年度開始から3か月以内に行うのが基本です。
よくある質問
役員報酬は事業年度の途中で変更できますか?
支給額を変更すること自体はできます。ただし法人税で損金にするには、原則として期首から3か月以内の通常改定、職務の重大な変更等による臨時改定、経営状況の著しい悪化等による減額のいずれかに当たる必要があります。
期中に役員報酬を増額すると、年間の全額が損金不算入ですか?
一般的な増額例では、増額前から毎月支給していた金額は定期同額給与として扱われ、上乗せした部分が損金不算入になります。ただし複数回改定など事実関係で変わるため、個別に計算します。
売上が予想より増えたことは臨時改定事由になりますか?
通常はなりません。役員の職制上の地位や職務内容の重大な変更など、期首時点で予測しにくく、報酬を変えざるを得ない事情が必要です。単なる好業績による増額は対象外です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。