役員報酬

使用人兼務役員の賞与は届出なしで損金。一人会社が外れる3つの関門

使用人兼務役員に払う使用人分の賞与は、事前確定届出給与の届出をしなくても損金になります。ただし国税庁は、株を1株も持たない代表取締役の配偶者も使用人兼務役員にはなれないと回答しています。3つの関門と、否認されたときに増える法人税を役員報酬別に計算しました。

役員に夏と冬の賞与を出しても、原則として損金になりません。ところが使用人兼務役員だけは例外で、使用人としての職務に対する賞与は、事前確定届出給与の届出をしなくても損金にできます。

そこで「配偶者を取締役経理部長にして、従業員と同じ時期に賞与を出せばいい」という設計が思い浮かびます。しかし国税庁は、株式を1株も持たない代表取締役の配偶者について、使用人兼務役員にはなれないと回答しています。

一人会社と家族だけの会社が、この制度のどこで外れるのか。関門は3つあります。

使用人分の賞与だけは、役員給与の3類型の外にある

法人が役員に支給する給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないと損金になりません。役員賞与が原則として経費にならないのは、この枠組みによるものです。

ただし国税庁のNo.5211は、この「役員に対して支給する給与」から除かれるものを3つ挙げています。そのうちのひとつが「使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの」です。

つまり使用人分の給与と賞与は、最初から役員給与の損金不算入ルールの外にあります。届出も、毎月同額にする縛りもありません。除かれるのは損金不算入の判定からであって、不相当に高額な部分が損金にならない点は残ります。

届出をして役員賞与を出す方法との違いは、手続の重さです。事前確定届出給与は株主総会等の決議から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までに届出が要ります。1日でも遅れると、その賞与は損金になりません。届出の期限や社会保険料への影響は事前確定届出給与で社会保険料は下がるかで扱っています。

使用人分の賞与にはこの期限がありません。だからこそ、入口の判定が厳しく作られています。

関門1:肩書と職制で外れる

国税庁のNo.5205は、使用人兼務役員になれない役員を5つの区分で示しています。最初の4つは肩書と職制に関するものです。

  1. 代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人
  2. 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
  3. 合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員
  4. 取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限る)、会計参与および監査役ならびに監事

一人社長本人は、ここで終わります。 当サイトが既定にしている合同会社なら3の業務執行社員、株式会社で代表取締役になっていれば1に当たります。現場の作業をすべて自分でしていても、使用人兼務役員としては扱われません。

2の「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位」は、通達9-2-4が「定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等によりその職制上の地位が付与された役員」と定義しています。名刺に刷っただけの肩書ではなく、決議で与えた地位を指します。逆に言えば、家族役員に安易に「専務」と付けて決議まで残すと、この区分で外れます。

「経理担当」では地位にならない

では、どういう肩書なら使用人としての地位になるのか。通達9-2-5は「支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位」と例示し、続けてこう書いています。

したがって、取締役等で総務担当、経理担当というように使用人としての職制上の地位でなく、法人の特定の部門の職務を統括しているものは、使用人兼務役員には該当しない。

「経理部長」は該当し、「経理担当」は該当しない。この差は、機構として職制が定められているかどうかです。

職制を定めていない小さな会社には特例がある

従業員が数人の会社で、部長も課長も置いていないというのは普通のことです。通達9-2-6は、この場合の扱いを別に定めています。

事業内容が単純で使用人が少数である等の事情により、法人がその使用人について特に機構としてその職務上の地位を定めていない場合には、常時従事している職務が他の使用人の職務の内容と同質であると認められる役員については、9-2-5にかかわらず使用人兼務役員として取り扱うことができる、という内容です。

ここで注意したいのは、通達の文言が「他の使用人の職務の内容と同質であると認められるもの」となっている点です。比べる相手として他の使用人がいることを前提にした書き方になっています。社長と配偶者の2人だけで、従業員が1人もいない会社では、この特例が想定している比較の形が作れません。

役員の肩書と登記の関係は役員変更登記の任期と期限にまとめています。

関門2:同族会社の持株要件。配偶者の株は合算される

肩書の関門を抜けても、同族会社にはもうひとつの区分が待っています。No.5205の5番目は、同族会社の役員のうち、所有割合で判定して次の3つをすべて満たす役員は使用人兼務役員にならない、というものです。

要件内容
(1) 株主グループの順位所有割合の大きい順に並べ、50%超の第一順位の株主グループに属するか、第一順位と第二順位の合計で初めて50%を超える場合のこれらのグループに属するか、第一順位から第三順位までの合計で初めて50%を超える場合のこれらのグループに属すること
(2) グループの所有割合その役員の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること
(3) 本人の所有割合その役員(その配偶者およびこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含む)の所有割合が5%を超えていること

読み飛ばされやすいのが(3)の括弧書きです。本人の所有割合を見るときに、配偶者の持分が合算されます

国税庁はこの点を質疑応答で正面から扱っています。「私(代表取締役)の妻は当社の取締役経理部長に就任し、常時使用人としての職務に従事しています。妻は、当社の株式を全く所有していませんが、使用人兼務役員となることができますか」という問いに対する答えは、「あなたの配偶者は、使用人兼務役員にはなれません」です。所有割合の算定で本人と配偶者の合計を考慮するため、社長が50%超を持っていれば、配偶者の持株がゼロでも(3)を満たしてしまう、という説明になっています。

この質疑応答の設例は、肩書としては「取締役経理部長」で関門1を抜けています。それでも持株要件で外れる。一人会社の社長が100%出資しているなら、配偶者を役員にして使用人兼務役員にする道は、この時点で閉じます。

子や親を役員にした場合

通達9-2-7は、5号の「同族会社の役員」に次の役員が含まれることに留意する、としています。

  • 自らは株式または出資を有しないが、その役員の同族関係者が株式または出資を有している場合における当該役員
  • 自らは議決権を有しないが、その役員の同族関係者が議決権を有している場合における当該役員
  • 自らは社員または業務を執行する社員ではないが、その役員の同族関係者がそうである場合における当該役員

同族関係者には親族が含まれます。株を持たせていないから大丈夫、という整理は通達の想定に入っていません。

なお、そもそも登記していない家族が税務上の役員とみなされる場合もあり、みなし役員とされた人は使用人兼務役員にもなれません。その判定は家族への給与が「みなし役員」になる3条件で扱っています。

関門3:金額と支給時期。比べる相手がいないと決まらない

3つ目は、使用人兼務役員に該当した後の話です。使用人分だからいくらでも出せる、という制度ではありません。

まず通達9-2-21は、過大な役員給与を判定するときの「その役員に対して支給した給与の額」には、使用人兼務役員に支給する使用人分の給料、手当等を含むとしています。原則は役員分と使用人分の合計で見る、ということです。

例外は通達9-2-22で、定款または株主総会・社員総会等で「役員給与の限度額等に使用人兼務役員の使用人分の給与を含めない」旨を定めるか決議している法人です。この定めを置いていれば、使用人分は限度額の外で判定されます。

その場合の適正額の基準が通達9-2-23です。原則は、その使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人へ支給した給与の額です。そして、比準すべき使用人として適当な者がいないときは、次を参酌して適正に見積もった金額によることができるとしています。

  • その使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額
  • その後のベースアップ等の状況
  • 使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額等

家族だけの会社では、比べる相手が社内にいません。 そのとき効いてくるのが最初の項目です。役員になる直前にいくら払っていたかが、そのまま適正額の起点になります。法人成りの際に家族へ支払っていた専従者給与の水準は、この場面で意味を持ちます。専従者給与から役員報酬への切り替えは専従者給与と役員報酬の違いにまとめています。

未払計上した賞与は「異なる時期」になる

支給時期にも条件があります。使用人分の賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものは、過大な役員給与として損金になりません。

通達9-2-26は、この「異なる時期」の意味を具体的に示しています。他の使用人への賞与の支給時期に未払金として経理し、実際には他の役員への給与の支給時期に支払ったような場合は、異なる時期に支給したものに該当する、という内容です。帳簿上そろえても、現金が動いた時期がずれていれば通りません。決算賞与の未払計上そのものの要件は決算賞与を未払計上する3要件で扱っています。

いっぽうで、法人成りの年に使える扱いもあります。通達9-2-27は、使用人であった者が役員となった場合、その直後に支給した賞与のうち、使用人であった期間に係る賞与の額として相当と認められる部分は、使用人に対して支給した賞与として認めるとしています。個人事業のときから働いていた家族を、法人成りと同時に役員にしたケースがこれに当たります。

否認されると法人税はいくら増えるか。役員報酬の置き方で1.6倍違う

判定を誤って使用人分の賞与が損金不算入になると、法人の課税所得はその分だけ増えます。増える税額は一定ではありません。法人の利益水準によって変わり、その利益水準は役員報酬をいくらに置いたかで決まります。

まず、売上1,500万円・経費400万円の会社で役員報酬を動かしたときの内訳です。配偶者に給与を払う前提なので、配偶者控除は置いていません。

売上1,500万円・経費400万円(事業所得1,100万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円685.6万円102.8万円582.8万円33.4万円
月20万円703.9万円196.3万円507.6万円68.1万円
月30万円712.3万円289.1万円423.1万円102.2万円
月40万円716.3万円378.8万円337.6万円139.6万円
月50万円722.6万円468.6万円254.0万円170.3万円
月54万円 ←最適725.3万円504.8万円220.6万円180.5万円
月60万円716.5万円547.8万円168.7万円200.9万円
月70万円709.7万円625.4万円84.3万円228.6万円
月80万円710.5万円704.8万円5.8万円238.3万円
月90万円670.0万円784.4万円-114.4万円249.2万円
月100万円619.7万円860.2万円-240.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 718.4万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 725.3万円。

※ 経費400万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

この表と同じ条件で、60万円の使用人分賞与が否認されたときの法人税等の増加額を計算しました(node scripts/shiyonin-kenmu-yakuin-shoyo.mjs)。

役員報酬法人の税引前利益損金になる場合の法人税等否認された場合の法人税等増える額賞与に対する割合
月10万円962.9万円234.4万円254.6万円20.1万円33.6%
月20万円825.1万円190.6万円208.3万円17.7万円29.5%
月30万円687.6万円158.7万円172.6万円13.9万円23.2%
月40万円548.4万円126.5万円140.4万円13.9万円23.2%
月50万円412.7万円95.1万円108.9万円13.8万円23.0%
月54万円359.5万円83.8万円96.6万円12.8万円21.4%
月60万円277.0万円66.2万円79.0万円12.8万円21.3%
月70万円142.9万円37.5万円50.3万円12.8万円21.4%
月80万円18.0万円10.8万円23.6万円12.8万円21.3%

同じ60万円の否認でも、追加の税額は12.8万円から20.1万円まで動きます。差は1.57倍です。

方向は直感と逆になります。役員報酬を低く置いて法人に利益を残している会社ほど、否認で失う額が大きい。理由は法人税の軽減税率です。中小法人は所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%になります。この15%は令和9年3月31日までに開始する事業年度に適用される措置で、本則は19%です。役員報酬を月10万円に抑えると税引前利益が962.9万円になり、否認された60万円はまるごと23.2%の帯に乗ります。役員報酬が最適額の月54万円なら税引前利益は359.5万円で、同じ60万円は15%の帯に収まります。実効ベースの差が33.6%と21.4%です。軽減税率の境目そのものは法人税15%はどこまでかで扱っています。

「法人に利益を残したほうが有利」と考えて役員報酬を絞っている会社ほど、家族役員の賞与の判定を外したときの代償が重くなる、ということです。役員報酬の最適額そのものは役員報酬は結局いくらが最適かにまとめています。計算の前提は計算の考え方に置いています。

損金不算入でも、受け取った側の課税は消えない

否認されたときに残る負担は、法人税だけではありません。

給与所得は、俸給、給料、賃金、歳費および賞与ならびにこれらの性質を有する給与による所得です。法人側で損金にならなかったからといって、受け取った家族役員の側で給与所得でなくなるわけではありません。源泉徴収も、社会保険の標準賞与額としての保険料も、支給した事実にもとづいて発生します。法人は経費にできず、個人は課税される。 これが否認の実際の形です。

さらに、使用人兼務役員をあきらめて家族を純粋な使用人にした場合も、金額が青天井になるわけではありません。法人税法36条は、役員と特殊の関係のある使用人へ支給する給与のうち不相当に高額な部分を損金不算入としています。ここでいう特殊関係使用人には、役員の親族、役員と事実上婚姻関係と同様の事情にある者、役員から生計の支援を受けているもの、これらの者と生計を一にする親族が含まれます。

通達9-2-40は「役員から生計の支援を受けているもの」を、その役員から給付を受ける金銭その他の財産、または給付を受けた財産の運用によって生ずる収入を生活費に充てている者としています。同居の家族に給与を払う設計では、役員か使用人かにかかわらず、金額の相当性がついて回ります。

家族を雇う側のコストは一人社長が初めて従業員を雇う費用に年額でまとめています。ここまでの数字は特定の前提で計算した概算なので、自分の売上と経費で試算してから、判定が僅差になる部分だけを専門家に確認する順番が現実的です。

まとめ

  • 使用人兼務役員に支給する使用人分の給与・賞与は、役員給与の損金不算入の対象から除かれる。事前確定届出給与の届出は要らない
  • 関門1は肩書と職制。合同会社の業務執行社員と代表取締役は入口で外れ、「経理担当」のような担当名も使用人としての職制上の地位にならない
  • 関門2は同族会社の持株要件。所有割合の判定では本人と配偶者の持分が合算されるため、国税庁は持株のない代表取締役の配偶者も使用人兼務役員にはなれないと回答している
  • 関門3は金額と支給時期。比準すべき使用人がいない会社では、役員となる直前の給与額が適正額の起点になる。未払計上して他の役員と同じ時期に払った賞与は「異なる時期に支給したもの」に当たる
  • 60万円の賞与が否認されたときに増える法人税等は12.8万円から20.1万円。役員報酬を低く置いて法人に利益を残している会社ほど負担が重くなる

よくある質問

一人社長は自分を使用人兼務役員にできますか。

できません。国税庁が挙げる「使用人兼務役員になれない役員」に、合同会社の業務執行社員と代表取締役が含まれています。現場の作業を自分でしていても、使用人としては扱われません。

株式を1株も持っていない配偶者なら使用人兼務役員になれますか。

国税庁は、持株のない代表取締役の配偶者について使用人兼務役員にはなれないと回答しています。所有割合の算定で本人と配偶者の合計を考慮するため、社長が50%超を持っていれば配偶者も要件に当たります。

使用人分の賞与にも事前確定届出給与の届出は必要ですか。

必要ありません。使用人兼務役員に支給する使用人としての職務に対するものは、役員給与の損金不算入の対象から除かれています。ただし不相当に高額な部分と、他の使用人と異なる時期に支給したものは損金になりません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。