役員報酬

家族への給与が「みなし役員」になる3条件。賞与60万円の差

同族会社で働く配偶者や親族が、登記されていなくてもみなし役員になる条件を解説。株主グループの50%・10%・5%要件と経営従事、賞与の税額差を計算します。

一人会社で配偶者に経理を任せ、毎月20万円を払い、夏に60万円の賞与を出す。登記簿に配偶者の名前がなければ「従業員賞与」として全額を経費にできそうに見えます。

しかし、法人税にはみなし役員があります。取締役として登記されていなくても、持株関係と仕事の実態が一定の条件に当たれば、税務上は役員です。届出をせずに払った60万円の賞与が損金にならないことがあります。

結論は、家族だから役員になるのでも、登記がないから従業員になるのでもありません。株主グループの3つの数値条件と、経営に従事している実態の両方で判定します。

役員は登記簿だけで決まらない

国税庁のNo.5200が示す法人税上の役員は、大きく3種類です。

  1. 取締役、監査役、理事、清算人などの法定役員
  2. 使用人以外で、実質的に法人の経営に従事している人
  3. 同族会社の使用人で、持株関係の要件をすべて満たし、経営に従事している人

3が、家族従業員で問題になりやすいみなし役員です。

たとえば配偶者を取締役に選任していなくても、社長と一緒に資金繰り、価格、重要な契約、人員採用を決めていれば、「経理担当という肩書の従業員」だけでは判定できません。反対に、社長の配偶者でも、決められた時間に定型的な入力作業だけを行い、経営判断へ関与しないなら、親族という一点だけでみなし役員になるわけではありません。

税務は名刺や雇用契約書の名称より、権限と実際の行動を見ます。

同族会社の使用人にかかる3つの持株要件

同族会社の使用人がみなし役員になる持株関係は、次のすべてを満たすかで判定します。ここに「経営に従事」が加わります。

1. 50%を超えるまでの上位3グループに入る

株主グループを所有割合の大きい順に並べます。そして、次のいずれかに属することが第1要件です。

  • 第1順位だけで50%超なら、その第1グループ
  • 第1+第2順位で初めて50%超なら、その2グループ
  • 第1+第2+第3順位で初めて50%超なら、その3グループ

4番目以下のグループまで足して初めて50%を超える場合、その4番目をこの要件へ含めるわけではありません。

2. 本人が属する株主グループが10%超

その使用人が属する株主グループの所有割合が10%を超えることです。10%以上ではなく、条文上は10%超です。

3. 本人・配偶者等の所有割合が5%超

その使用人本人と配偶者の所有割合などを合わせた割合が5%を超えることです。一定の場合は、本人・配偶者が50%超を保有する他社の所有分も含みます。

ここでいう株主グループは、一人の株主だけではありません。その株主と親族など特殊な関係にある個人・法人をまとめたグループです。家族経営の会社では、社長本人が100%を持ち、配偶者自身の持株が0%でも、配偶者関係を含めて要件を満たすことがあります。

確認項目数値の線それだけで役員になるか
上位株主グループ3グループ以内で50%超ならない
本人が属するグループ10%超ならない
本人・配偶者等5%超ならない
経営への従事実態で判定数値3条件と両方必要

数値条件を満たしただけで結論を出さず、最後に仕事の実態を確認します。

「経営に従事」は役職名ではなく権限と行動

国税庁は、相談役や顧問などでも、会社内の地位や職務から実質的に経営に従事すると認められる人を役員に含めています。一方、経営従事の判定を「週何時間なら役員」という単一の数値では示していません。

実務では、次の資料と行動を並べて判断します。

  • 取締役会・経営会議・重要な打合せへの参加
  • 銀行借入、設備投資、価格設定、採用・解雇への決定権
  • 会社印、銀行印、ネットバンキングの管理権限
  • 重要契約への署名・承認
  • 他の従業員への指揮命令権
  • 給与額と職務内容の釣り合い
  • 雇用契約書、職務分掌、稟議書、議事録と実態の一致

単に請求書を入力する、電話を受ける、決められた発送作業をするだけなら使用人性を示す事情になります。ただし書類に「補助業務」と書いても、実際に資金移動や契約を一任されていれば、書類だけでは守れません。

次のように整理すると判断しやすくなります。

持株要件仕事の実態方向性
100%株主である社長の配偶者が、資金繰りと重要契約を社長と決める満たし得る経営に従事みなし役員の可能性が高い
同じ配偶者が、指示された領収書入力だけを行う満たし得る定型補助のみ数値だけで確定しない
持株関係のない一般従業員が部門を管理するこの類型は満たさない管理職この3条件によるみなし役員ではない

最終判断は個別事実によります。賞与を払った後ではなく、職務と権限を決める段階で税理士へ資料を示して確認する論点です。

みなし役員になると給与のルールが変わる

みなし役員も、法人税上は役員給与の制限を受けます。国税庁No.5211によると、役員給与のうち原則として損金になるのは、次のいずれかです。

  • 定期同額給与
  • 期限内に届け出て内容どおり支給する事前確定届出給与
  • 要件を満たす一定の業績連動給与

小さな同族会社で通常使うのは、毎月同額の定期同額給与と、事前確定届出給与です。毎月20万円を同じ日に払う部分は定期同額給与になり得ます。しかし「利益が出たので8月だけ60万円追加」は、事前確定届出給与の届出がなければ、原則として損金になりません。

本人へは60万円の給与所得として課税される一方、会社側で60万円を損金にできない、という不利な組み合わせが生じます。損金不算入は、支払自体が無効になる意味ではありません。会社の税計算で差し引けないという意味です。

60万円の賞与が損金にならない税額差

家族へ月20万円を12か月、夏に賞与60万円を支払う例を計算しました。家族給与を差し引く前の法人利益は800万円、東京23区の小規模法人とします。

判定現金支給額損金算入額法人税等税引後の会社負担
使用人(賞与も損金)300万円300万円115万2,400円230万4,800円
みなし役員(賞与は届出なし)300万円240万円129万1,500円244万3,900円

※ 法人税等は当サイトの2026年分計算エンジンによる概算。本人側の所得税・住民税・社会保険料は含めていません。

現金支給額は同じ300万円でも、みなし役員の賞与60万円を損金にできないと、法人税等は13万9,100円増えました。この表はscripts/minashi-yakuin-kazoku-kyuyo.mjsで再計算できます。

家族への給与を払うこと自体の世帯手取り効果は専従者給与と役員報酬はどちらが有利かで比較しています。今回の論点は金額の有利不利ではなく、法人側でその家族が使用人なのか役員なのかです。

なお、この法人利益800万円という前提を動かすと税額差も動きます。同じ60万円が損金にならないときの追加税額は、法人の利益水準によって12.8万円から20.1万円まで変わります。その計算と、届出なしで賞与を損金にできる使用人兼務役員の要件は使用人兼務役員の賞与と3つの関門にまとめています。

賞与を出すなら先に判定し、期限内に届ける

みなし役員へ賞与を出すなら、支給額と支給日を事前に決め、事前確定届出給与の要件を確認します。

国税庁No.5211が示す原則の届出期限は、株主総会等で定めた日から1か月を経過する日と、会計期間開始から4か月を経過する日のいずれか早い日です。新設法人が設立時から始まる職務について定めた場合は、設立日から2か月を経過する日が基準になります。

届出書を出すだけでは足りません。届出に記載した支給日と金額どおりに支給する必要があります。資金繰りが苦しくなって金額を変えると、損金算入できる範囲に影響するため、実行可能な計画にします。

役員賞与と社会保険料の上限は事前確定届出給与と社会保険で詳しく整理しています。

期中にみなし役員だと気づいたとき

「従業員だと思って賞与を払った後、税理士からみなし役員の可能性を指摘された」という順番が最も危険です。

まず、次を一式にします。

  1. 株主名簿と議決権の状況
  2. 親族関係を含む株主グループ図
  3. 雇用契約書、職務記述書、給与台帳
  4. 稟議・契約・銀行取引の承認履歴
  5. 経営会議の議事録、メール、チャット記録
  6. 賞与の決定日、支給日、事前確定届出の有無

そのうえで、各事業年度の時点で持株3条件と経営従事を判定します。肩書を後から変更しただけで、過去の実態は変わりません。

みなし役員なら毎月の給与についても、期首から3か月以内の通常改定、職務の重大な変更による臨時改定、著しい業績悪化による減額など、定期同額給与の要件を確認します。「売上が伸びた」「一時的に資金が足りない」だけでは、例外に当たらないことがあります。

まとめ

  • 法人税上の役員は登記された取締役だけではない
  • 同族会社の家族従業員は、株主グループの50%・10%・5%の3要件をすべて確認する
  • 数値要件に加え、実質的に経営へ従事していることが必要
  • 親族だから自動的にみなし役員、登記がないから自動的に従業員、のどちらも誤り
  • みなし役員の給与は定期同額給与などの制限を受け、届出なしの臨時賞与は原則損金にならない
  • 60万円の賞与が損金にならない例では、法人税等が13万9,100円増えた
  • 賞与を出す前に、株主名簿と実際の権限・職務をそろえて判定する

家族への給与は、払う額より先にその人が税務上の使用人か役員かを決める必要があります。株主関係と仕事の実態を図にし、給与・賞与の決議より前に確認してください。

よくある質問

社長の配偶者は必ずみなし役員になりますか?

いいえ。親族であるだけでは決まりません。同族会社の株主グループに関する50%・10%・5%の要件をすべて満たし、さらに実質的に会社の経営に従事しているかを事実関係から判定します。

登記されていなければ従業員として賞与を出せますか?

登記の有無だけでは決まりません。みなし役員に該当すれば法人税上は役員給与のルールが適用されます。届出なしの臨時賞与は原則として損金にならないため、支給前に判定が必要です。

みなし役員へ毎月同額の給与を払えば損金になりますか?

原則として、1か月以下の一定期間ごとに同額を払う定期同額給与に該当すれば損金算入の対象です。ただし不相当に高額な部分は損金にならず、期中の増減額にも制限があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。