役員報酬

一人社長の社員旅行は経費になる?「役員だけの旅行」は給与になる

社員旅行の費用が非課税になるのは、4泊5日以内・参加割合50%以上などの要件を満たすレクリエーション旅行だけで、国税庁は役員だけで行う旅行を対象外と明記しています。一人社長の旅行を会社で払って給与と認定された場合、自腹より手取りが減る金額帯があることを試算で示します。

社員旅行の費用を会社が負担しても非課税になるのは、国税庁の要件を満たす従業員レクリエーション旅行だけです。国税庁のタックスアンサー No.2603 は、役員だけで行う旅行はレクリエーション旅行に該当しないと明記しています。従業員のいない一人社長の旅行は、この除外に正面から当たります。

会社で払った旅行代が給与と認定されると、会社の損金にもならず、社長には所得税・住民税がかかります。当サイトの試算では、事業所得800万円で旅行代20万円なら、社長が自腹で払うより手取りが3.57万円少なくなります

非課税になる社員旅行の要件

所得税基本通達36-30は、使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われている会食、旅行、運動会等の費用を負担した場合、参加者が受ける経済的利益は課税しなくて差し支えないとしています。ただし次の2つは除かれます。

  • 参加しなかった人に、参加に代えて金銭を支給する場合
  • 役員だけを対象として行事の費用を負担する場合

旅行については、No.2603 がさらに具体的な目安を示しています。経済的利益が少額で、少額不追求の趣旨を逸脱しないことを前提に、次の両方を満たせば原則として給与にしなくてよいとしています。

要件内容
期間4泊5日以内(海外旅行は外国での滞在日数が4泊5日以内)
参加割合全体の人数の50%以上(工場や支店ごとの旅行はその職場ごとに50%以上)

さらに No.2603 は、要件を満たしていても従業員レクリエーション旅行に当たらないものとして4つを挙げています。

  1. 役員だけで行う旅行
  2. 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
  3. 実質的に私的旅行と認められる旅行
  4. 金銭との選択が可能な旅行

一人会社で社長だけが参加する旅行は、1にそのまま当たります。参加割合は100%ですが、「50%以上」の要件を満たすかどうかを問う前に、対象外の区分に入ってしまいます。

一人会社では「全員参加」が通用しない

一人会社なら社長1人が全員なので、全員参加の社員旅行だという説明を見かけます。しかし36-30とNo.2603の除外は、参加割合ではなく「役員だけ」という参加者の構成を見ています。全員が役員なら、全員参加でも役員だけの旅行です。

同じ構造は人間ドックの通達(36-29)にもあり、一人社長の人間ドックで扱いました。反対に、結婚祝金や香典の通達にはこの除外がありません(一人社長の慶弔見舞金)。福利厚生費といっても、通達ごとに一人会社で使えるものと使えないものが分かれます。

法人税では役員給与、しかも損金不算入

役員だけの旅行の費用は、法人税では役員に対する経済的な利益です。法人税基本通達9-2-9は、役員のために個人的費用を負担した場合のその費用の額を、給与と同様の経済的効果をもたらすものに挙げています。

役員給与が損金になるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たる場合です(No.5211)。経済的な利益でも毎月おおむね一定なら定期同額給与に当たりますが(9-2-11)、年に1回の旅行はそうなりません。会社の損金にならず、社長の給与所得にもなるという二重の負担になります。

交際費との関係では、No.5261 が交際費から除く旅行を「専ら従業員の慰安のために行われる」ものとしています。役員だけの旅行はこの除外の外にあります。

会社で払うと自腹より損になる金額帯がある

旅行代を社長が自腹で払った場合と比べて、会社で払った場合に判定ツールの手取りがどう変わるかを試算しました。福利厚生費と認められた場合(従業員がいて要件を満たすケース)と、役員だけの旅行として給与認定された場合を並べています。

事業所得最適報酬旅行代福利厚生費と認められた場合役員だけの旅行として給与認定
400万円月28万円10万円31,244円−756円
400万円月28万円20万円41,744円−11,256円
400万円月28万円30万円41,744円−22,756円
600万円月42万円10万円37,120円7,900円
600万円月42万円20万円66,988円−2,912円
600万円月42万円30万円76,188円−19,112円
800万円月54万円10万円36,960円3,800円
800万円月54万円20万円74,240円−35,700円
800万円月54万円30万円111,200円−43,100円
1,200万円月54万円10万円38,400円3,800円
1,200万円月54万円20万円76,960円−35,700円
1,200万円月54万円30万円115,520円−43,100円

※ 数値は、社長が自腹で払った場合と比べた判定ツールの手取りの差(プラスなら会社で払ったほうが多く残る) ※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 給与認定=臨時の支給として損金不算入、かつ役員の給与所得。社会保険の報酬への算入は含めていない ※ 法人に残る利益は判定ツールと同じ引出しコストで割り引いている

給与認定の列は、旅行代が10万円のうちはわずかにプラスですが、20万円を超えるとどの所得帯でもマイナスです。会社で払って給与と認定されるくらいなら、最初から自腹で払うほうが手元に残ります

会社で払っても得にならない理由

自腹で払う場合、社長の手取りは旅行代の分だけ減ります。会社で払って給与認定された場合、会社の税は減らず、会社に残るはずだった利益が旅行代の分だけ減ります。判定ツールは会社に残る利益を引出しコスト分だけ割り引いて数えるので、会社の側の減り方は旅行代より少し小さくなります。

この「少し小さい」分が会社で払う利点で、社長の所得税・住民税の増加がこれを上回ると自腹より損になります。役員報酬が月42万円以上の帯では、所得税と住民税を合わせた限界的な負担がこの利点を超えやすく、20万円でマイナスに転じます。

事業所得800万円で20万円を超えると基礎控除の段差をまたぐ

事業所得800万円の列は、旅行代10万円の+3,800円から20万円の−35,700円へ急に落ちています。役員報酬月54万円(年648万円)に旅行代20万円が給与として加わると、給与所得が482.4万円から491.2万円に上がり、令和8年分の所得税の基礎控除が合計所得489万円を境に104万円から67万円へ下がる段差をまたぐためです。住民税の基礎控除は43万円のままなので、段差は所得税の側だけに出ます。

役員報酬を最適額に合わせている社長ほど、給与所得がこの境目の手前に位置していることがあります。臨時の給与認定は、その境目を越える引き金になります。

従業員がいる会社でも確認すること

従業員が1人でもいて一緒に参加するなら、役員だけの旅行ではなくなります。そのうえで No.2603 の要件を当てはめます。

  1. 4泊5日以内か(海外は外国での滞在日数)
  2. 参加者が全体の50%以上か
  3. 不参加者に金銭を支給していないか
  4. 旅行の内容・規模・会社の負担額が、社会通念上一般に行われている範囲か
  5. 取引先の接待や実質的な私的旅行になっていないか

家族を従業員にしている場合は、勤務の実態と給与の支払いがあることが前提です。家族旅行を社員旅行の名目に置き換えただけなら、3の「実質的に私的旅行」に当たる可能性があります。家族への給与の考え方は家族を役員・従業員にする場合で扱っています。

業務のための旅行なら出張旅費と日当で

取引先訪問や視察など業務に直接必要な旅行なら、レクリエーション旅行ではなく出張です。この場合は旅費規程に基づく交通費・宿泊費・日当として扱い、36-30の要件は関係しません(出張旅費規程と日当)。

ただし No.2603 は研修旅行について、業務に直接必要でない部分の費用は参加者の給与になるとしています。出張の前後に観光を足した場合は、観光部分の宿泊費や交通費を社長個人の負担に分けておきます。

法人化の判定には入れない

社員旅行の費用は、一人社長の場合、会社で払っても自腹とほぼ同じか、それより重くなります。法人化すれば旅行も経費にできる、という期待で判定を寄せる理由にはなりません。判定ツールの差額は旅行のような任意の支出を含まない通常年の比較なので(計算方法)、まず自分の売上と経費で差額を確かめてください。

まとめ

  • 社員旅行が非課税になるのは、4泊5日以内・参加割合50%以上など要件を満たすレクリエーション旅行
  • 国税庁は役員だけで行う旅行をレクリエーション旅行に該当しないと明記。一人社長の旅行はここに当たる
  • 役員だけの旅行は役員給与で、年1回の支給なので定期同額給与に当たらず損金不算入
  • 給与認定されると、旅行代20万円以上ではどの所得帯でも自腹より手取りが減る。事業所得800万円では基礎控除の段差もまたぐ
  • 業務に直接必要な旅行は出張として旅費・日当で扱い、観光部分は個人負担に分ける

よくある質問

社長1人と従業員1人の会社でも社員旅行は非課税になりますか?

役員だけで行う旅行ではなくなるので、36-30の除外には当たりません。そのうえで、4泊5日以内、参加割合50%以上、社会通念上一般に行われている旅行で経済的利益が少額であることなど、No.2603の要件を満たすかで判断します。家族を形だけ従業員にしているなど実態が伴わない場合は、実質的に私的旅行と見られる可能性があります。

一人社長の旅行を会社の経費にしたらどうなりますか?

国税庁は役員だけで行う旅行を従業員レクリエーション旅行に該当しないとしており、費用は役員への給与などとして処理することになります。臨時の支給なので定期同額給与に当たらず、会社の損金にもなりません。

出張のついでに観光した場合はどうなりますか?

業務に直接必要な部分は旅費として扱えますが、観光など直接必要でない部分の費用は給与として課税されます。No.2603は研修旅行についても、直接必要でない部分は参加者の給与になるとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。