役員報酬

一人社長の人間ドックは会社負担できる?役員だけなら給与課税に注意

一人社長の健康診断・人間ドックを法人負担する条件を解説。国税庁の全員対象・一般的水準という基準、5万円の税効果、役員給与に認定された場合の二重負担を整理します。

一人社長が5万円の人間ドックを受け、会社のクレジットカードで払えば、そのまま福利厚生費になるのでしょうか。

結論は「一人会社だから必ず経費」「法人名義で払えば必ず経費」のどちらでもありません。国税庁は、一定年齢以上の希望者が全員受診でき、受診者全員の費用を会社が負担する一般的な人間ドックについて、給与課税は不要としています。一方、役員や特定の地位にある人だけを対象にすると、給与課税の問題が生じるとも明記しています。

従業員のいない一人会社では、受診者が結果的に社長1人になるため、この線引きが特に難しくなります。社内規程を1枚作るだけで安全になるわけではなく、対象者、検査内容、金額、支払方法という実態をそろえる必要があります。

国税庁の事例は「社長なら何でも可」ではない

国税庁の「人間ドックの費用負担」が給与課税不要とした事例には、次の事実があります。

  • 社内規程を設けている
  • 役員・使用人の健康管理が目的
  • 全員に年2回の定期健康診断を実施
  • 35歳以上の希望者は全員、2日間の人間ドックを受けられる
  • 会社と契約した特定の専門医療機関で実施
  • 受診者全員の検診料を会社が負担

大切なのは、35歳以上という合理的な条件はあっても、「社長だけ」「営業部長だけ」と地位で選んでいない点です。希望する対象者全員に同じ機会があります。

所得税基本通達36-29も、使用者が福利厚生施設の運営費などを負担して役員・使用人が受ける経済的利益について、著しく多額な場合または役員だけを対象とする場合を除き、課税しなくて差し支えないとしています。

したがって判断の軸は「健康に関係する支出か」だけではありません。

判断項目給与課税されにくい形給与課税のリスクが高い形
目的会社の健康管理社長個人の希望・私的な安心
対象年齢など客観的基準で全員役員・特定の人だけ
金額・内容一般的な健診・人間ドック著しく高額、社長だけ特別コース
支払い会社が医療機関と契約して直接支払う個人へ一律の現金手当を渡す
証拠規程、案内、請求書、結果管理が一致後から規程だけ作り、実態がない

一人社長は「全員が1人」と言い切れない

一人会社なら役員・使用人の全員が社長1人だから、「全員対象」の条件を満たすという説明があります。しかし、国税庁の回答は、役員だけを対象とする場合に課税問題が生じると明示しています。

従業員が1人もおらず、代表取締役だけが毎年高額な人間ドックを受ける事実は、形式的には全員でも、実質的には役員だけへの利益です。社内規程に「全役職員」と書いただけで、この事実が変わるわけではありません。

だからといって、一人社長の通常の健康診断がすべて給与になるとも断定できません。会社の事業継続が社長の健康に大きく依存し、一般的な検査を定期的に行い、将来従業員を雇ったときも同じ客観基準を適用する設計なら、健康管理目的を説明する材料になります。

一人会社では次の順で保守的に判断します。

  1. 法律上必要な一般健康診断に相当する内容を土台にする
  2. 年齢・受診頻度・上限または標準コースを社内規程で客観化する
  3. 会社が医療機関を指定または契約し、直接支払う
  4. 高額オプションや家族分は個人負担に分ける
  5. 一人社長だけという事実を税理士へ伝え、個別判断を残す

厚生労働省は、事業者が常時使用する労働者に対し1年以内ごとに1回、定期健康診断を行う義務を示しています。ただし代表取締役は通常、会社に使用される「労働者」とは立場が異なります。従業員向けの健康診断義務が、そのまま一人社長本人にも及ぶと決めつけないでください。

なお、同じ福利厚生でも、結婚祝金(所得税基本通達28-5)や香典・見舞金(9-23)の通達には「役員だけを対象とする場合を除く」の条件が付いていません。一人社長への慶弔金は判断の軸が違うので、一人社長の慶弔見舞金で分けて扱っています。

税務上の経費性と労働安全衛生法上の実施義務は別問題です。義務がない場合でも会社の健康管理として合理的な支出になり得ますが、義務があるという説明だけで給与課税を避けられるわけでもありません。

5万円を福利厚生費にできると税引後負担は3万8,700円

健診費用を会社の損金にできる場合と、役員給与に認定されて会社で損金不算入になる場合を比較します。

東京23区の小規模法人、健診費用計上前の所得500万円として、当サイトの2026年分法人税計算で概算しました。

健診費用損金なら法人税等の減少会社の税引後負担役員給与・損金不算入なら
2万円4,400円1万5,600円2万円+個人側の給与課税
5万円1万1,300円3万8,700円5万円+個人側の給与課税
10万円2万3,000円7万7,000円10万円+個人側の給与課税

会社が5万円を払う現金支出はどちらも同じです。適正な福利厚生費等なら所得が5万円減り、法人税等が約1万1,300円減るため、税引後負担は3万8,700円になります。

役員個人への経済的利益と認定されると、5万円は給与所得の対象になり、源泉徴収も検討します。さらに国税庁No.5202によれば、役員へ継続的に供与する経済的利益のうち毎月おおむね一定のものは定期同額給与になり得ますが、それ以外は原則として損金算入されません。年1回の臨時的な人間ドック代は、給与扱いになったうえで会社の損金にもならない可能性があります。

個人側の追加税額は、年間の役員報酬、給与所得控除、所得控除、他の所得で変わるため、表には固定額を置いていません。計算根拠はscripts/hitori-shacho-kenkoshindan-ningen-dock.mjsにあります。

これは、期中に役員報酬を増額した場合と似た二重の不利益です。役員報酬を期中変更すると増額分が損金不算入では、会社の損金にならなくても個人では給与課税される構造を計算しています。

なお、社長の資格取得費や研修費には、この36-29とは別に所得税基本通達36-29の2という受け皿があります。そちらには「役員だけを対象とする場合を除く」という制限がなく、判定の軸が職務との関連に移ります。一人社長の資格取得費・研修費はどこまで経費かで比較しています。

「5万円まで」などの一律上限はない

人間ドックについて、国税庁は「○万円までなら非課税」という固定上限を示していません。示しているのは「一般的に実施されている人間ドック程度」と「経済的利益が著しく多額でないこと」という判断基準です。

同じ10万円でも、地域の一般的な総合健診として必要な検査を含む場合と、社長だけが選んだ高級宿泊・美容・アンチエイジングのオプションを含む場合では説明が違います。料金だけでなく内容を請求書で分けます。

次の費用は特に切り分けが必要です。

  • 配偶者や家族の受診費用
  • 美容目的の検査・施術
  • 高級な宿泊や食事の差額
  • 健診で病気が見つかった後の治療費
  • 受診しなかった人へ代わりに渡す現金

治療費は原則として個人の医療費です。会社が社長個人の治療費を負担すれば、健康管理制度ではなく個人的債務の負担として給与課税される可能性が高まります。個人が払った通常の人間ドック費用は原則医療費控除の対象外ですが、重大な疾病が見つかり引き続き治療した場合には例外があります。会社経費と個人の医療費控除も別の判定です。

規程と支払いを同じ形にする

規程には、少なくとも目的、対象者、年齢基準、頻度、検査内容、会社負担範囲、受診機関、結果の取扱いを記載します。

たとえば「35歳以上の全役職員を対象に年1回、会社指定の標準人間ドックを受診できる。会社は指定医療機関へ直接、標準コース料金を支払う。任意オプションと家族分は本人負担」といった設計です。

ただし、規程例をコピーするだけでは足りません。従業員を採用したのに社長だけへ案内する、社長だけ高額コースを付ける、毎年内容が自由に変わるなら、実態が規程と一致しません。

保存する資料は次のとおりです。

  1. 取締役または株主による制度決定の記録
  2. 健康診断・人間ドック規程
  3. 対象者へ案内した記録
  4. 医療機関との契約、予約、法人宛て請求書
  5. 標準コースと個人負担オプションの内訳
  6. 会社が健康管理に使ったことが分かる受診記録

健診結果は要配慮個人情報です。従業員がいる会社は、税務証拠を残す目的で詳細な病歴を誰でも閲覧できる会計資料へ添付せず、アクセス権と保存方法を分けます。

まとめ

  • 国税庁は、一定年齢以上の希望者全員が受診でき、受診者全員を会社負担とする一般的な人間ドックを給与課税不要としている
  • 役員や特定の地位にある人だけが対象、または著しく多額なら給与課税の問題が生じる
  • 一人社長は「全員が1人だから安全」と機械的に判断できない
  • 5万円を適正な損金にできる例では、法人税等が約1万1,300円減り、税引後負担は約3万8,700円
  • 給与認定されると個人側で課税され、臨時的な経済的利益は会社で損金不算入になる可能性がある
  • 税務上の経費性と、労働安全衛生法上の健康診断義務は別に判定する
  • 規程、客観的な対象基準、一般的な検査内容、会社から医療機関への直接払いを実態としてそろえる

一人社長の健康を守る支出には事業上の意味があります。しかし、健康に良い支出と、税務上の福利厚生は同じではありません。 社長だけという弱点を隠さず、金額と実態を示して個別に確認してください。

よくある質問

一人社長の健康診断代は法人の経費にできますか?

一人会社だから自動的に経費になるわけではありません。健康管理を目的とする社内規程、役員・従業員を通じた客観的で公平な対象基準、一般的な水準の検査、会社から医療機関への支払いなどをそろえます。一人社長だけが対象になる事実関係では、役員だけへの経済的利益として給与課税されるリスクを個別に検討します。

人間ドックはいくらまでなら福利厚生費ですか?

国税庁は一律の上限額を示していません。「一般的に実施されている人間ドック程度」か、経済的利益が著しく多額ではないかを、検査内容・料金・対象者・会社規模などから判断します。高額なオプション検査を社長だけに付けるほど説明は難しくなります。

社長が立て替えた健康診断代を会社が精算してもよいですか?

立替精算だけで直ちに否認されるとは限りませんが、会社契約・会社払いのほうが福利厚生制度としての証拠が明確です。個人宛て領収書、自由選択の高額コース、現金の定額手当は個人的利益と見られやすいため、規程・対象基準・健診結果の取扱いをそろえてください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。