役員報酬

一人社長の慶弔見舞金は経費になる?結婚祝金・香典と「役員だけ」の壁

会社から一人社長へ出す結婚祝金・出産祝金・見舞金・香典は、社会通念上相当で慶弔規程などの一定の基準に従えば福利厚生費になり、社長は非課税です。人間ドックや社員旅行と違い「役員だけ」の除外がない理由と、給与認定された場合との手取り差を試算します。

会社から一人社長へ出す結婚祝金・出産祝金・見舞金・香典は、社会通念上相当な金額で、慶弔規程などの一定の基準に従って支給すれば、会社は福利厚生費として損金にでき、社長の側も課税されません。

一人会社の福利厚生でよく問題になる「役員だけを対象とする場合を除く」という条件は、人間ドックの通達(36-29)や社員旅行の通達(36-30)には付いていますが、慶弔金の通達(28-5・9-23)には付いていません。5万円の結婚祝金で試算すると、福利厚生費なら判定ツールの手取りは1.88万円増え、給与と認定されると1,900円しか増えません(事業所得800万円)。

慶弔金を支える通達は3つの層に分かれる

慶弔金の扱いは、社長の所得税、会社の法人税、社会保険の3つで別々に決まります。

税目根拠内容
所得税(祝金)所得税基本通達28-5役員又は使用人に雇用契約等に基づいて支給される結婚、出産等の祝金品は給与等。ただし地位等に照らし社会通念上相当なら課税しなくて差し支えない
所得税(香典・見舞金)所得税基本通達9-23葬祭料、香典、災害等の見舞金で社会通念上相当なものは課税しない(所得税法施行令30条)
法人税(交際費との区分)措置法関係通達61の4(1)-10(2)従業員等又はその親族等の慶弔、禍福に際し一定の基準に従って支給される金品は交際費等に含まれない
法人税(役員給与との区分)法人税基本通達9-2-9病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与は、役員給与とされる経済的な利益から除く

措置法関係通達61の4の「従業員等」は、同じ通達の中で役員及び従業員と定義されています。社長本人やその親族の慶弔も、この通達の対象に入ります。

国税庁のタックスアンサー No.5261 は、同じ区分の例として結婚祝、出産祝、香典、病気見舞いを挙げ、これらは福利厚生費になるとしています。

人間ドックや社員旅行と違い「役員だけ」の除外がない

一人会社の福利厚生費で最も効く制約は、「役員だけを対象とする場合」の除外です。通達ごとにこの条件の有無を並べると次のようになります。

支出通達「役員だけ」の除外一人会社への当てはまり
人間ドック・福利厚生施設所得税基本通達36-29あり役員だけへの利益と見られやすい
社員旅行・忘年会などの行事所得税基本通達36-30あり役員だけを対象とする行事は課税
自社商品の値引販売所得税基本通達36-23値引率が全員一律などの要件要件の当てはめが必要
結婚・出産等の祝金所得税基本通達28-5なし社会通念上相当かどうかで判断
香典・見舞金所得税基本通達9-23なし社会通念上相当かどうかで判断

36-29の人間ドックについては、社長1人だけが受ける事実が「実質的に役員だけへの利益」と見られやすいことを別記事で扱いました(一人社長の人間ドック)。慶弔金の2つの通達にはこの除外がないので、**判断の軸は「全員が対象か」ではなく「金額が社会通念上相当か」「一定の基準に従っているか」**に移ります。

ただし除外がないことは、社長だけ高額にしてよいという意味ではありません。28-5は「支給を受ける者の地位等に照らし」、9-23は「受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし」と書いています。役員の地位を考慮する余地はありますが、比べる相手は世間一般の相場です。

金額の基準は公表されていない

国税庁は、慶弔金をいくらまでなら非課税とするかの金額を示していません。通達の言葉は「社会通念上相当」と「一定の基準」だけです。

一人会社でこの2つを説明しやすくするには、次の形にしておきます。

  1. 支給事由と金額を先に決める。 結婚、出産、本人の入院、本人・配偶者・子・父母の死亡など、事由ごとに金額を規程に書く
  2. 将来の従業員にも同じ表を使える額にする。 役員と従業員で差を付けるなら、地位に応じた合理的な差にとどめる
  3. 事由の証拠を残す。 招待状、出生を確認できる書類、入院の領収書、会葬礼状など
  4. 規程の後に支給する。 事由が起きてから規程を作ると、その支給のための基準に見える

措置法関係通達の「一定の基準」は、規程という名称を要件にしているわけではありません。ただ、支給のたびに金額を決めていると、それは基準ではなく個別の贈与に近くなります。

5万円を福利厚生費にした場合と、給与認定された場合

会社が社長に慶弔金を出したとき、福利厚生費として認められた場合と、給与と認定された場合で、判定ツールの手取りがどう動くかを試算しました。給与と認定されると、臨時の支給なので定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらず、会社の損金にもなりません。

事業所得最適報酬支給額福利厚生費:法人の税の減少給与認定:役員の税の増加手取りの変化(福利厚生費)手取りの変化(給与認定)
400万円月28万円5万円10,700円5,300円18,560円4,544円14,016円
400万円月28万円10万円21,400円10,600円31,244円−756円32,000円
600万円月42万円5万円10,800円6,100円18,640円3,900円14,740円
800万円月54万円3万円6,500円4,800円11,200円1,200円10,000円
800万円月54万円5万円11,000円8,100円18,800円1,900円16,900円
800万円月54万円10万円21,200円16,200円36,960円3,800円33,160円
1,200万円月54万円5万円11,400円8,100円19,120円1,900円17,220円
1,500万円月54万円5万円11,500円8,100円19,200円1,900円17,300円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 慶弔金は社会保険の報酬に入れない(日本年金機構の事例集:恩恵的な見舞金・結婚祝い金は原則として報酬等に該当しない) ※ 手取りの変化=支給しなかった場合との差。法人に残る利益は判定ツールと同じ引出しコストで割り引いている ※ 給与認定=臨時の支給として損金不算入、かつ役員の給与所得

5万円出して手取りが1.88万円しか増えない理由

福利厚生費で5万円を出しても、手取りの増加は5万円ではなく1.88万円です(事業所得800万円)。支給しなければ、その5万円は会社に残り、法人税等を払ったうえで、いずれ退職金や配当で引き出すことになります。判定ツールはこの「会社に残る利益」を引出しコスト分だけ割り引いて手取りに数えているので、比較の相手は「5万円の現金」ではなく「会社に残した場合の評価額」です。

言い換えると、1.88万円は、会社に残して後で引き出すより、慶弔金として非課税で受け取るほうが多く残る額です。給与認定されると、会社の税は1円も減らず、社長の所得税・住民税が8,100円増えるので、その差は1,900円まで縮みます。

所得が低いと給与認定の10万円はマイナスになる

事業所得400万円で10万円を出し、給与と認定された場合は、手取りが756円減ります。役員報酬が月28万円と低く、会社に残る利益にかかる法人税等が軽い帯なので、会社に残しておく価値が相対的に高くなるためです。給与認定の可能性が高い支給は、出さないほうが手元に残るという結果になります。

社会保険の報酬には原則として入らない

日本年金機構の事例集は、事業主が恩恵的に支給するものは労働の対償とは認められないため、原則として「報酬等」に該当しないとし、例に見舞金、結婚祝い金、餞別金を挙げています。慶弔金で標準報酬月額が上がることは原則ありません。

例外もあります。恩恵的な支給でも、労働協約等に基づき経常的(定期的)に支払われるものは報酬等に当たるとされ、例として傷病手当金と給与の差額補填を目的とした見舞金が挙がっています。病気で休む間に毎月見舞金を出す設計は、慶弔金ではなく報酬として扱われます(傷病手当金と一人社長)。

個人事業主のときは、自分への慶弔金は経費にならない

個人事業主が自分自身に結婚祝金や見舞金を出しても、支払う人と受け取る人が同じなので必要経費にはなりません。従業員に出す慶弔金なら個人事業でも福利厚生費になりますが、事業主本人の分は対象外です。

法人化すると、社長も会社から見れば役員という別人格になるので、この仕組みが使えるようになります。ただ、慶弔金は数年に一度の支出で、上の表のとおり1回あたりの差は1万〜3万円台です。法人化するかどうかを左右する金額ではないので、判定はまず売上と経費で行い、慶弔金は法人化後の実務として整えるのが順序です(計算の前提は計算方法)。

まとめ

  • 一人社長への結婚祝金・出産祝金(28-5)、香典・見舞金(9-23)は、社会通念上相当なら社長は非課税
  • 措置法関係通達61の4(1)-10の「従業員等」は役員を含み、一定の基準に従った慶弔金は交際費ではなく福利厚生費
  • 36-29・36-30と違い、28-5・9-23には「役員だけ」の除外がない。軸は金額の相当性と基準の有無
  • 5万円を福利厚生費で出すと手取りは約1.9万円増え、給与認定なら1,900円。事業所得400万円で10万円なら給与認定はマイナス
  • 恩恵的な慶弔金は社会保険の報酬に入らないが、毎月の差額補填の見舞金は報酬になる

よくある質問

慶弔見舞金はいくらまでなら非課税ですか?

国税庁は金額の基準を示していません。所得税基本通達28-5は支給を受ける者の地位等に照らし社会通念上相当と認められるもの、9-23は受贈者の社会的地位や贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものを非課税としています。会社の規程で、将来の従業員にも同じ基準を当てはめられる額にしておくことが説明の材料になります。

慶弔規程がないと経費になりませんか?

措置法関係通達61の4(1)-10は「一定の基準に従って支給される金品」を交際費等から除いています。規程という名称は要件ではありませんが、支給事由と金額をあらかじめ決めておくことが一定の基準を示すいちばん確かな方法です。

社長の親族が亡くなったときの香典も会社から出せますか?

措置法関係通達61の4(1)-10は「従業員等又はその親族等の慶弔、禍福」を対象にしており、役員の親族の不幸に際して一定の基準で支給する香典も福利厚生費の範囲に入ります。所得税でも9-23により社会通念上相当な香典は課税されません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。