役員報酬

役員報酬を未払いにしたら損金?源泉徴収は支払時

役員報酬を未払計上したときは、損金算入、源泉徴収、社会保険を別に判定します。一部支払の源泉税按分と、報酬放棄時の処理を解説します。

役員報酬を未払いにしても、税金と社会保険の扱いは一斉には止まりません。法人税の損金、源泉所得税、社会保険料は別々に判定します。

毎月の報酬が未払いなら、源泉徴収は原則として実際の支払時です。一方、会社が費用を計上できるかは、未払金の仕訳ではなく、決議済みの報酬債務が実在し、定期同額給与の要件を満たすかで判断します。社会保険料は振込を止めただけでは0円になりません。

未払金の仕訳だけでは損金算入は決まらない

役員報酬を損金へ入れる基本条件は、定期同額給与など法人税法上の区分に当たることです。定期同額給与は、1か月以下の一定期間ごとに支給し、各支給時期の金額が同額である給与をいいます。

たとえば株主総会で月50万円、毎月25日支給と決め、8月25日に資金不足で振り込めなかった場合を考えます。会計では8月分を次のように記録できます。

役員報酬 500,000円 / 未払金 500,000円

しかし、この仕訳を入力しただけで損金が確定するわけではありません。少なくとも次を確認します。

  • 会社法上必要な手続で役員ごとの月額が確定している
  • 毎月の支給日と同額支給の定めがある
  • 役員が会社へ50万円を請求できる債権が実在する
  • 決算後に利益を見て架空の未払金を追加していない
  • 不相当に高額な部分ではない

最初から払う意思がなく、決算対策で帳簿にだけ費用を置いた場合は、債務の実在性が問題になります。反対に一時的な資金不足でも、後日支払う債務として管理し、役員別の未払残高と返済記録が一致する状態なら、単なる「振込漏れ」と「報酬額の改定」を区別できます。

毎月の給与は実際に支払う時に源泉徴収する

国税庁No.2526は、定められた支給日に給与が支払われず未払となった場合、原則として支払われるまでは源泉徴収しないと案内しています。

月50万円を全額未払いにした月は、その月に現金で支払った給与が0円なので、原則としてその時点の源泉徴収も0円です。後日50万円を支払う時に、支払時の手続として源泉徴収します。

ただし、給与所得の収入時期や年末調整・源泉徴収票の記載まで、すべて現金主義になるという意味ではありません。支給日が定められた給与の収入時期はその支給日とされ、年末時点の未払額は源泉徴収票で内書きする取扱いがあります。会社側の源泉徴収タイミングと、役員個人の給与収入の帰属年を混同しないでください。

一部だけ払ったときは源泉税も支払割合で按分する

給与の一部を払い、残りを未払いにした場合、源泉税は0円でも全額でもありません。まず支給すべき給与全額を税額表へ当てはめ、その税額を実際の支払額の割合で按分します。

node scripts/yakuin-hoshu-mibarai.mjs で、支給すべき月額50万円、全額に対する源泉税2万5,000円という例を計算しました。

実際の支払額未払残高支払割合支払時に源泉徴収する額
0円500,000円0%0円
100,000円400,000円20%5,000円
250,000円250,000円50%12,500円
500,000円0円100%25,000円

10万円だけ払ったから、税額表へ10万円を当てはめるのではありません。本来の月額50万円に対する税額を求めてから20%を掛けるのが順序です。

実額は扶養親族数、社会保険料控除後の給与額、甲欄・乙欄などで変わります。役員報酬の源泉徴収はいくらからで税額表の入口を確認し、その後に未払割合を掛けます。

未払いでも社会保険料は自動で止まらない

健康保険・厚生年金の保険料は、日本年金機構が決定した標準報酬月額を基に毎月発生します。会社は本人負担分と会社負担分を合わせ、対象月の翌月末までに納めます。

役員報酬の振込を1回止めても、被保険者資格や標準報酬月額が自動で消える制度ではありません。会社には現金がないのに、次の3つが同時に残ることがあります。

項目未払月の扱い
役員への現金支払0円または一部だけ
源泉所得税実際の支払額に対応する分を徴収
社会保険料決定済みの標準報酬月額を基に納付が続く

会社が本人負担分を役員報酬から控除できない場合でも、年金機構への納付額が会社負担分だけになるわけではありません。会社が一時的に本人分も立て替えたなら、役員に対する債権として回収関係を記録します。

一人社長の社会保険料では、会社が本人負担分を預かり、会社負担分を加えて納める通常の流れを示しています。未払い時はこの預かりができないため、資金繰りはむしろ苦しくなります。

報酬の放棄は「未払いの継続」と別の取引

資金不足が長引き、役員が未払報酬を受け取らないと決めた場合は、単なる未払金のままではありません。役員が債権を放棄すれば、会社側では債務が消えます。

国税庁の法人税基本通達には、会社整理、事業再建、業況不振のため、取締役会等の決議に基づいて未払給与の全部または大部分を支払わない場合の免除益に関する取扱いがあります。一定の基準で決められた場合に益金算入しないことができる規定ですが、一人会社が自由に未払金を消せる一般的な免税規定ではありません。

放棄するなら、少なくとも次を分けて残します。

  1. 当初の役員報酬決議と各月の債務発生
  2. 実際に支払った額と未払残高
  3. 放棄を決めた日、理由、決議書
  4. 会社側の債務免除益の税務処理
  5. 役員個人側の給与所得・源泉徴収の処理

また、翌月から月額50万円を30万円へ変えるなら、未払金の放棄ではなく役員報酬の改定です。役員報酬を期中に変更した場合の通常改定、臨時改定、業績悪化改定の要件を確認します。

未払いを資金調達の代わりに常態化させない

役員報酬の未払いは、会社から見ると役員から無利息で資金を借りている状態に近く、貸借対照表には未払金が積み上がります。月50万円を6か月止めれば残高は300万円です。

未払残高が増えると、実際の返済可能額、会社の債務超過、金融機関への説明、役員個人の生活資金が同時に悪化します。後からまとめて払う月には、源泉徴収と未払社会保険の立替回収も重なります。

当サイトの判定ツールは、決めた役員報酬を毎月支払い、本人負担の社会保険料を給与から控除する通常状態を前提にしています。未払いを続けると、その前提から外れます。役員報酬を払えない利益水準なら、未払金を積む前に報酬額と法人化の資金計画を見直してください。

まとめ

  • 未払金の仕訳だけで損金算入は決まらず、確定した債務と定期同額給与の要件を確認する
  • 毎月の給与の源泉徴収は、原則として実際に支払う時に行う
  • 一部支払では、全額に対する源泉税を実際の支払割合で按分する
  • 給与の振込を止めても、被保険者資格と標準報酬月額が続く限り社会保険料は止まらない
  • 未払報酬の放棄は、報酬改定とも未払い継続とも別の取引として決議と税務処理を残す

よくある質問

役員報酬を未払計上すれば当期の損金になりますか?

未払という仕訳だけで決まりません。株主総会等で確定した月額、毎月の支給時期、定期同額給与の要件、債務が実在することを確認します。

未払いの役員報酬から源泉徴収しますか?

毎月の給与は原則として実際に支払う時に源泉徴収します。一部だけ支払う場合は、全額に対する源泉税を実際の支払割合で按分します。

役員報酬の振込を止めれば社会保険料も止まりますか?

自動では止まりません。被保険者資格と決定済みの標準報酬月額が続く間は、給与の振込有無とは別に保険料が納付対象になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。