役員報酬

役員の通勤手当は月15万円まで非課税。でも社会保険料は増える

通勤手当は所得税では非課税でも、社会保険では全額が報酬に入ります。役員報酬 月54万円に月1.5万円の手当を足すと標準報酬月額が1等級上がり、労使合計で年10万2,168円増える計算を出しました。

通勤手当は所得税では非課税です。ただし社会保険では全額が「報酬」に入ります。この2つの制度のズレが、一人社長の会社では金額として表に出ます。役員報酬 月54万円に月1万5,000円の通勤手当を足すと、所得税は1円も増えないのに、社会保険料は労使合計で年10万2,168円増えます。

しかも損得を決めているのは手当の額ではなく、役員報酬が等級のどこに置かれているかでした。

非課税になるのは「通勤に通常必要な額」まで

限度額は通勤の方法で分かれます。電車やバスだけで通勤する場合、非課税になるのは最も経済的かつ合理的な経路・方法による定期券などの金額で、それが1か月15万円を超えるときは15万円が限度です。新幹線や特急の運賃も、その経路・方法が最も経済的かつ合理的なら含まれますが、グリーン料金は含まれません。

マイカーや自転車で通勤する場合は距離で決まります。

片道の通勤距離1か月あたりの限度額
2km未満全額課税
2km以上10km未満4,200円
10km以上15km未満7,300円
15km以上25km未満13,500円
25km以上35km未満19,700円
35km以上45km未満25,900円
45km以上55km未満32,300円
55km以上65km未満38,700円
65km以上75km未満45,700円
75km以上85km未満52,700円
85km以上95km未満59,600円
95km以上66,400円

※ 国税庁 タックスアンサー No.2585(令和8年4月1日現在法令等)

一定の要件を満たす駐車場等を利用している場合は、上の額に1か月あたりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算できます。有料道路を使うなら合理的な料金の額も加算でき、この場合の最高限度は15万円です。片道2km未満は駐車場を借りていても全額課税で、ここだけは救済がありません。

限度額を超えて支給した部分は給与として課税され、その月の給与に上乗せして源泉徴収します。なお通勤手当を他の手当とまとめて支給する場合でも、給与明細で通勤費の実費部分が区分識別できれば非課税として扱われます。国税庁は「住宅通勤手当45,000円(うち通勤手当28,000円)」のような表示が必要だとしています。

所得税では非課税でも、社会保険では報酬に入る

ここが分かれ目です。日本年金機構は、通勤手当は労務の対償として受けるものであり標準報酬月額の対象となる報酬に含まれる、と明記しています。数か月分を一括で支給しても、それは支払上の便宜によるものと考えられるため報酬に含まれ、報酬月額に計上するときは月数で割って各月に含めます。

つまり標準報酬月額は「役員報酬+通勤手当」の合計で等級を引くことになります。所得税で非課税だった分が、社会保険では消えません。

役員報酬を変えずに月1万5,000円の通勤手当だけを足すと、等級はこう動きます。

通勤手当 月15,000円を上乗せしたとき(役員報酬は変えない)

役員報酬報酬月額上乗せ前の等級上乗せ後の等級等級社会保険料の増減(年・労使計)
月18万円195,000円15等級(180,000円)17等級(200,000円)上がる+68,112円
月24万円255,000円19等級(240,000円)20等級(260,000円)上がる+68,112円
月30万円315,000円22等級(300,000円)23等級(320,000円)上がる+68,112円
月38万円395,000円26等級(380,000円)27等級(410,000円)上がる+102,168円
月44万円455,000円28等級(440,000円)29等級(470,000円)上がる+102,168円
月50万円515,000円30等級(500,000円)31等級(530,000円)上がる+102,168円
月54万円555,000円31等級(530,000円)32等級(560,000円)上がる+102,168円
月60万円615,000円33等級(590,000円)34等級(620,000円)上がる+102,168円
月68万円695,000円36等級(680,000円)37等級(710,000円)上がる+36,288円
月90万円915,000円41等級(880,000円)42等級(930,000円)上がる+60,480円

※ 東京支部・40歳未満/健康保険料率 9.85%+子ども・子育て支援金 0.23%、厚生年金保険料率 18.3%。労使合計(合計 28.38%)/2026年(令和8年)分基準 ※ 報酬月額=役員報酬+通勤手当。標準報酬月額はこの合計額で等級を引く。等級は健康保険の等級

月68万円と月90万円の増加額が小さいのは、厚生年金の標準報酬月額が32等級・65万円で頭打ちになるためです。この水準を超えると増えるのは健康保険料だけになります。健康保険のほうは50等級・139万円まで上がり続けるので、2つの上限を取り違えないでください。等級表そのものは標準報酬月額の等級表で全50等級を出しています。

前提になる役員報酬の水準は、判定ツールの総当たり計算から取っています。

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円33.4万円
月20万円642.4万円196.3万円446.1万円68.1万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円102.2万円
月40万円654.8万円378.8万円276.1万円139.6万円
月50万円659.7万円468.6万円191.1万円170.3万円
月54万円 ←最適662.4万円504.8万円157.6万円180.5万円
月60万円653.6万円547.8万円105.8万円200.9万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円228.6万円
月80万円615.8万円704.8万円-89.0万円238.3万円
月90万円570.0万円784.4万円-214.4万円249.2万円
月100万円519.7万円860.2万円-340.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

同じ通勤費でも、払い方3通りで手取りが変わる

通勤費そのものは、手当を出しても出さなくてもかかります。違うのは誰がどう払うかだけです。次の3通りで比べました。どれも役員の手元に通勤費は残りません。

  • 案1 個人が自腹:役員報酬はそのまま。通勤費は役員の手取りから出る
  • 案2 通勤手当で支給:役員報酬はそのまま+非課税の通勤手当
  • 案3 役員報酬を増額:増額分は全額が課税される給与になる

事業所得1,000万円・役員報酬 月54万円のとき、通勤費の額で3案がどう動くか

通勤手当(月)年間の通勤費健保等級案1 個人が自腹案2 通勤手当案3 報酬を増額案2−案1
5,000円6万円31→32等級657.9万円652.8万円651.8万円−5.1万円
10,000円12万円31→32等級651.9万円649.0万円647.1万円−2.9万円
15,000円18万円31→32等級645.9万円645.2万円638.4万円−0.6万円
20,000円24万円31→32等級639.9万円641.4万円633.3万円+1.6万円
30,000円36万円31→32等級627.9万円633.9万円622.5万円+6.1万円
50,000円60万円31→33等級603.9万円611.5万円594.0万円+7.7万円
100,000円120万円31→35等級543.9万円559.2万円526.3万円+15.3万円
150,000円180万円31→36等級483.9万円518.9万円469.8万円+35.0万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 通勤手当はいずれも所得税の非課税限度額(電車・バス通勤は月15万円)の範囲内

案3が3つの中で最も少ないのは一貫しています。同じ金額を渡すなら、非課税の通勤手当のほうが課税される給与より役員の手元に残る、という点は直感どおりです。

直感と食い違うのは案1と案2です。通勤費が小さいうちは、会社から通勤手当で出すより個人が自腹で払ったほうが手取りが多くなります。 月5,000円なら案1のほうが5.1万円多く、逆転するのは月1万6,000円と1万7,000円のあいだでした。非課税で浮く所得税・住民税より、等級が1つ上がって増える社会保険料のほうが大きいためです。

この境目は報酬水準で動きます。事業所得1,800万円・役員報酬 月90万円だと、逆転は月8,000円と9,000円のあいだまで下がります。厚生年金がすでに上限に達していて、増えるのが健康保険料だけになるからです。

損得を決めるのは、手当の額ではなく役員報酬の置き場所

ここが最も効きます。同じ月1万5,000円の通勤手当でも、役員報酬を1万円ずらすだけで結論が変わります。

事業所得1,000万円・通勤手当 月15,000円のとき、役員報酬の置き場所で結果が変わる

役員報酬健保等級等級の上限までの余白手当を足すと社会保険料の増減(年・労使計)案2−案1
月48万円29等級5,000円29→30等級+102,168円−0.6万円
月49万円30等級25,000円30→30等級0円+6.7万円
月50万円30等級15,000円30→31等級+102,168円−0.6万円
月51万円30等級5,000円30→31等級+102,168円−0.6万円
月52万円31等級25,000円31→31等級0円+6.7万円
月53万円31等級15,000円31→32等級+102,168円−0.6万円
月54万円31等級5,000円31→32等級+102,168円−0.6万円
月55万円32等級25,000円32→32等級0円+6.7万円
月56万円32等級15,000円32→33等級+102,168円−0.3万円
月57万円32等級5,000円32→33等級+102,168円−0.1万円
月58万円33等級25,000円33→33等級0円+6.7万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 「案2−案1」は、通勤手当で支給した場合の手取り合計から、個人が自腹で払った場合を引いた額

役員報酬が等級の下端にある月49万円・52万円・55万円・58万円では、手当を足しても等級が動かず、保険料は1円も増えません。このとき通勤手当は6.7万円分の得になります。一方、等級の上限まで5,000円しか余白がない月48万円・51万円・54万円・57万円では等級が上がり、通勤手当を出すほうが損になります。同じ手当なのに、報酬の置き場所だけで結論が7.3万円ぶれます。

判定ツールが事業所得1,000万円で出す最適報酬 月54万円は、31等級の上限54万5,000円まで5,000円しか余白がありません。通勤手当を出すなら、この額は前提から外れます。

実際、通勤手当を前提に役員報酬を月5万〜100万円で総当たりし直すと、最適額そのものがずれます。

通勤手当 月15,000円を出す前提で、役員報酬を総当たりし直した結果

事業所得ツールの最適報酬手当込みの最適報酬ツールの額で出したとき最適額で出したとき
800万円月54万円月55万円519.4万円521.9万円+2.5万円
1,000万円月54万円月55万円645.2万円647.8万円+2.5万円
1,200万円月54万円月55万円770.8万円773.4万円+2.7万円
1,500万円月54万円月55万円955.1万円957.8万円+2.7万円
1,800万円月90万円月88万円1135.9万円1137.9万円+2.0万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 手取り合計は役員個人の手取り+法人に残る額(引き出しコスト20%控除後)。通勤費は通勤手当で全額まかなわれる前提

報酬を月1万円上げても、手当と合わせた報酬月額が同じ32等級の範囲に収まるため保険料は変わらず、増えた分だけ手元に残ります。当サイトの判定ツールは通勤手当を持っていないので、この調整までは織り込んでいません。計算の前提は計算の根拠にまとめています。

保険料が上がるのは、手当を出した翌月ではない

等級が上がるといっても、支給の翌月から保険料が変わるわけではありません。随時改定(月額変更届)は3つの要件をすべて満たしたときだけ行われます。

  1. 昇給・降給等により固定的賃金に変動があった
  2. 変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額による標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
  3. その3か月の報酬の支払基礎日数が17日以上である

固定的な手当の追加は1に当たります。ただし上の表で等級が動いた行のうち、2等級以上動くのは月18万円の行(健康保険15等級→17等級)だけで、残りはすべて1等級です。1等級の差では随時改定は行われません。 例外は標準報酬月額の上限または下限にわたる等級変更で、この場合だけ1等級差でも対象になります。

では上がらないのかというと、そうではありません。定時決定で拾われます。事業主は7月1日現在の被保険者について4月・5月・6月の報酬月額を算定基礎届で届け出て、決定し直された標準報酬月額がその年の9月から翌年8月まで適用されます。4〜6月に通勤手当を払っていれば、そこに含めて計算されます。

この記事の金額は、いずれも等級が変わったあとの年額です。実際に負担が変わる時期は、いつ手当を出し始めたかでずれます。

自宅が仕事場なら、そもそも通勤手当ではない

一人社長の会社では、ここが実務上いちばん引っかかります。通勤手当が非課税になるのは通勤の実態があるからで、自宅がそのまま仕事場なら通勤という行為自体が発生しません。

在宅勤務については、日本年金機構が事例集の別紙で整理を示しています。判断の分かれ目は支給の名目ではなく、その日の労務の提供地がどこかです。

その日の労務の提供地「自宅−会社」間の移動費用の扱い社会保険料の算定基礎
自宅業務として一時的に出社する場合は実費弁償対象にならない
会社通勤手当対象になる

※ 日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」別紙

同じ事例集は、事業主が負担すべきものを立て替えてその実費弁償を受ける場合は労働の対償と認められないため報酬等に該当しない、として出張旅費・赴任旅費を例に挙げています。実費弁償と認められれば、社会保険料の算定基礎に入りません。 ここまで見てきた等級の話は、定額の通勤手当を毎月払う場合の話です。出張日当の側から同じ論点を扱ったのが役員の出張日当は非課税。同じ24万円でも報酬に乗せると手取りは減るで、日当を報酬に上乗せした場合との差を等級別に計算しています。

ただしこの整理は労働者について示されたもので、労働契約のない役員にそのまま当てはまるとは書かれていません。役員側には別の道筋があります。国税庁は質疑応答事例で、常には出勤を要しない役員に支払う出勤のための費用は、所得税基本通達9−5により旅費の取扱いに準じて課税しなくて差し支えないとしています。2以上の法人の役員を兼務している場合も、そのいずれについても同じ通達で判断するという回答です。所得税法上、通勤手当(9条1項5号)と旅費(同項4号)は別の条文で、旅費のほうに月15万円のような限度額はありません。

自宅を仕事場にしている一人社長が、月々いくらかを「通勤手当」の名目で出すという形は、この整理のどれにも収まりにくいものです。名目ではなく、実態としてどの日にどこで働き、どの移動に実費がいくらかかったかを説明できるかどうかで決まります。役員報酬と住居費の関係については役員社宅、会社負担分を含めた保険料の全体像は一人社長の社会保険料で扱っています。法人化そのものの損得は法人化のデメリットから辿れます。

まとめ

  • 通勤手当の非課税限度額は電車・バスなら月15万円、マイカーは片道距離で4,200円〜66,400円。要件を満たす駐車場代は上限5,000円まで加算できる
  • 所得税で非課税でも社会保険では全額が報酬に入る。標準報酬月額は「役員報酬+通勤手当」で等級を引く
  • 役員報酬 月54万円に月1万5,000円を足すと1等級上がり、労使合計で年10万2,168円増える。厚生年金は65万円で頭打ちなので、報酬が高いほど増加額は小さい
  • 損得を決めるのは手当の額ではなく役員報酬の置き場所。等級の下端に置けば保険料は増えず、上限ぎりぎりなら増える。同じ手当で結論が7.3万円ぶれる
  • 1等級の変動では随時改定は行われず、4〜6月の報酬による定時決定で9月分から反映される
  • 自宅が仕事場なら通勤手当ではなく実費弁償や旅費の整理になる。名目ではなく実態で決まる

ここに出した金額は、経費200万円・東京23区・40歳未満・独身という条件での概算です。等級の境目は報酬月額の1,000円単位で動くため、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費、実際の報酬月額で確かめてください。

よくある質問

一人社長の会社でも、自分に通勤手当を出せますか。

通勤手当の非課税規定は「役員や使用人などの給与所得者」を対象にしているため、役員である社長も対象になります。ただし実際に自宅から事業所へ通勤している実態と、その経路・方法が最も経済的かつ合理的であることが前提です。

通勤手当を出すと社会保険料は必ず上がりますか。

必ずではありません。標準報酬月額は「役員報酬+通勤手当」の合計で等級を引くため、合計額が同じ等級の範囲に収まれば保険料は1円も変わりません。等級の境目をまたぐ場合だけ上がります。

6か月分の定期券をまとめて支給した場合はどう扱いますか。

日本年金機構は、複数月単位で支給した通勤手当も月数で割って1か月あたりの金額を算出し、各月の報酬月額に含めるとしています。支給した月にまとめて計上するわけではありません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。