役員報酬
役員の出張日当は非課税。同じ24万円でも報酬に乗せると手取りは減る
出張日当は所得税が非課税で、社会保険の報酬にも入らず、国内出張なら消費税の仕入税額控除まで受けられます。年24万円を日当で出す場合と役員報酬に上乗せする場合を計算エンジンで比べ、手取り合計が8.9万円増える側と6.6万円減る側に分かれる理由を出しました。
出張日当は、所得税では非課税、社会保険では報酬に含まれず、国内出張なら消費税の仕入税額控除まで受けられます。この3つを同時に外れる手当は他にありません。同じ年24万円を会社から役員へ渡すとき、日当で出すか役員報酬に上乗せするかで、手取り合計は15万4,491円変わります。しかも一方は増え、もう一方は減ります。
出張日当は税と社会保険の3つを同時に外れる
日当の扱いは、税目ごとに根拠が違います。まとめると次のとおりです。
| 制度 | 日当の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 所得税 | 非課税(通常必要と認められる範囲) | 所得税基本通達9-3 |
| 社会保険 | 報酬等に該当しない | 日本年金機構 事例集 問1③ |
| 消費税 | 国内出張なら課税仕入れ | タックスアンサー No.6459 |
| 法人税 | 損金 | ― |
所得税は、所得税基本通達9-3が「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」を非課税としています。非課税なので、源泉徴収の対象にもなりません。
社会保険が効いてくるのはここからです。日本年金機構の「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の問1は、報酬等に該当するもの・しないものを6つに分けています。その③が「事業主が負担すべきものを被保険者が立て替え、その実費弁償を受ける場合」で、例として挙がっているのが出張旅費と赴任旅費です。労働の対償と認められないため、標準報酬月額の算定に入りません。
同じ事例集は、報酬等に当たるかどうかは名称ではなく実態に合わせて判断する、と注記しています。出張の実態に対応した実費弁償だから外れるのであって、「日当」という名前を付ければ外れるわけではありません。
この点が通勤手当との決定的な違いです。通勤手当は所得税では月15万円まで非課税ですが、社会保険では全額が報酬に入ります。役員報酬 月54万円に月1.5万円の通勤手当を足すと標準報酬月額が1等級上がり、労使合計で年10万2,168円の保険料が増えます(役員の通勤手当は月15万円まで非課税。でも社会保険料は増える)。日当にはこの増加がありません。
消費税は、国内の出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分が課税仕入れになります。しかも役員や社員は適格請求書発行事業者ではないため、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます(出張旅費等特例)。帳簿には通常の記載事項に加えて「出張旅費」など、帳簿のみの保存で控除が認められる仕入れである旨を書きます。
年24万円の日当なら、税込金額に含まれる消費税は10/110の21,818円です。一般課税で申告している会社は、この分だけ納付する消費税が減ります。ただし簡易課税や2割特例(令和8年9月30日を含む課税期間で終了)は売上から納税額を計算する方式なので、日当を払っても納付額は動きません。
同じ24万円でも、報酬に乗せると差は最大15万4,491円
ここからは当サイトの計算エンジンで実際に計算します。売上1,200万円・経費200万円の合同会社で、年24万円を役員へ渡す方法を2通り比べました。会社が出す現金はどちらも同額です。
売上1,200万円・経費200万円、年24万円を役員へ渡す2通り
| 役員報酬 | 厚年等級 | 日当で出す | 報酬を増額 | 差(日当−増額) | 増額時の社保増 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月20万円 | 17→18 | 652.2万円 | 644.7万円 | +75,281円 | 68,112円 |
| 月30万円 | 22→23 | 660.8万円 | 652.9万円 | +79,041円 | 68,112円 |
| 月40万円 | 27→27 | 665.2万円 | 662.3万円 | +29,000円 | 0円 |
| 月54万円 | 31→32 | 672.7万円 | 657.3万円 | +154,491円 | 102,168円 |
| 月60万円 | 33→34 | 664.1万円 | 650.8万円 | +133,351円 | 102,168円 |
| 月70万円 | 37→37 | 657.4万円 | 649.4万円 | +80,200円 | 0円 |
※ 手取りは役員個人の手取りと法人に残る額(引出コスト20%控除後)の合計。消費税の仕入税額控除は含めていません ※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
差は一定ではありません。2万9,000円から15万4,491円まで、5倍以上動きます。
分かれ目は標準報酬月額の等級です。月40万円と月70万円の行は、月2万円を上乗せしても等級が変わりません(27等級と37等級のまま)。この2行では、差の内訳が所得税と住民税だけになります。
- 月40万円:所得税が9,800円、住民税が19,200円増えて、合計2万9,000円
- 月70万円:所得税が5万7,200円、住民税が2万3,000円増えて、合計8万200円
同じ「等級が動かない」帯でも、所得税の累進があるので月70万円のほうが差は大きくなります。
これに対して月54万円の行では、報酬を月56万円へ上げると等級が31から32へ動きます。所得税5万5,200円・住民税1万5,300円に加えて、本人と会社で合わせて10万2,168円の社会保険料が乗り、差が15万4,491円まで開きます。等級表の段差については標準報酬月額の等級表(令和8年度)で扱っています。
つまり、日当と報酬増額の差が大きく出るかどうかは、金額の大小ではなくいま自分の報酬額が等級の境目のどこにいるかで決まります。月54万円は当サイトのツールがこの条件で最適と判定する報酬額なので、ちょうど最も差が出る位置に当たります。
会社に置いたままより、日当で出したほうが合計は増える
もう一段、方向まで見ると景色が変わります。役員報酬を月54万円で固定したまま、渡す額だけを変えたのが次の表です。基準は「何も渡さない(全額を会社に残す)」場合です。
役員報酬 月54万円のまま、渡す額を変えたときの手取り合計の増減
| 年間の日当 | 日当で出したとき | 報酬を増額したとき | 差 |
|---|---|---|---|
| 6万円 | 2.2万円 | -6.0万円 | +82,391円 |
| 12万円 | 4.4万円 | -4.8万円 | +92,331円 |
| 24万円 | 8.9万円 | -6.6万円 | +154,491円 |
| 36万円 | 13.3万円 | -5.4万円 | +187,071円 |
| 48万円 | 17.8万円 | -11.0万円 | +287,923円 |
| 60万円 | 22.2万円 | -9.8万円 | +320,663円 |
※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
日当の列はすべてプラス、報酬増額の列はすべてマイナスです。 同じ現金を会社から出しても、符号が逆になります。
日当がプラスになるのは、会社に利益を残しても法人税等と将来の引出コストが引かれるからです。24万円を会社に残した場合、法人税等を払い、退職金や配当で引き出すときのコスト20%を差し引くと、手取り合計に残るのはおよそ15万円です。日当なら24万円がそのまま個人の手元に入るので、差の約9万円が増えます。この約9万円という増え方は報酬額をあまり選びません。月40万円で9万2,640円、月54万円で8万8,880円、月70万円で8万9,040円と、ほぼ同じ幅で効きます。
報酬増額がマイナスになる理由は前の節のとおりで、月54万円から等級が上がるためです。ただしこれも報酬額次第で、月40万円なら報酬を上げても手取り合計は6万3,640円のプラスになります。「役員報酬を増やすと損」でも「日当なら得」でもなく、どちらも等級の位置で決まるというのが表から読み取れることです。
なお、この表が成り立つのは実際に出張があった場合だけです。出張の実態がないのに毎月定額を渡せば、それは日当ではありません。日当は移動と宿泊に伴う雑費を会社が負担する仕組みであって、報酬を非課税で受け取る手段ではない、という前提は動きません。
いくらまで出せるのか。国税庁は金額を示していない
ここが読者の知りたい点だと思いますが、国税庁は日当の上限額を公表していません。所得税基本通達9-3が挙げているのは金額ではなく、次の2つの判定要素です。
- その支給額が、支給する側の役員および使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものかどうか
- その支給額が、同業種・同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるかどうか
通勤手当(月15万円)や食事補助(月7,500円)のような具体的な上限額が定められている手当とは、この点で作りが違います(役員の食事補助は月7,500円まで非課税)。金額そのものではなく、決め方が問われます。
1番目の要素は「基準によって計算されたもの」という書き方をしています。旅費規程の存在自体が非課税の要件として条文に書かれているわけではありませんが、支給額の根拠を文書で残しておく意味はここにあります。役員が1人だけの会社では「全てを通じてバランス」の比較対象が自分しかいないため、2番目の要素、つまり同業種・同規模の他社との比較のほうが実質的な歯止めになります。
消費税の側では、国税庁のオンライン説明会資料が、出張旅費等特例は社内規程や基準の有無にかかわらず、また概算払いか実費精算かにかかわらず、通常必要と認められる部分が対象になると明示しています。所得税で非課税となる範囲がそのまま特例の範囲になる、という関係です。
出しすぎた分は、役員だと二重に不利になる
通常必要と認められる範囲を超えた部分は、所得税基本通達9-4により給与所得の収入金額に算入されます。ここまでは役員でも従業員でも同じです。
違うのは会社側です。法人が役員に支給する給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しなければ損金の額に算入されません。臨時に払われた超過部分は、この3つのどれにも当たりません。 従業員なら超過部分も会社の損金にはなりますが、役員では個人に課税されたうえで会社の経費にもならない、という組み合わせが起こります。役員給与の期中変更については役員報酬を期中に増やすと、増額分120万円が損金にならないでも扱っています。
消費税でも、通常必要と認められる部分を超える金額は仕入税額控除の対象外です。所得税・法人税・消費税の3つで同時に不利になるため、「多めに出しておく」の代償は小さくありません。
海外出張には別の注意があります。所得税の非課税は国内・海外を区別していませんが、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません。国内出張の感覚のまま海外分まで仕入税額控除に含めると過大控除になります。
個人事業主が自分に日当を払っても、この仕組みは使えない
ここまでの話は、すべて法人だから成り立ちます。
所得税基本通達9-3が非課税としているのは「使用者等から」支給される金品で、9-4も給与所得を有する者の旅行を前提に所得区分を定めています。消費税の出張旅費等特例も「従業員等に支給する」ものが対象です。いずれも支給する側と受け取る側が別人格であることを前提に組まれています。個人事業主が自分に日当を払う形は、この構造に当てはまりません。
個人事業主の必要経費になるのは、実際に支出した交通費や宿泊費です。必要経費は総収入金額を得るために直接要した費用と、その年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用とされています(タックスアンサー No.2210)。実費は落とせますが、実費と別に日当という名目の金銭を自分に渡しても、そこに非課税の枠は生まれません。
出張が多い事業なら、この差は法人化の判断材料の1つになります。ただし表のとおり効き方は年10万円前後で、法人住民税の均等割7万円と税理士報酬という毎年の固定費を単独で埋めるほどではありません。判定を動かすとすれば、最適な役員報酬がちょうど等級の境目に来ている場合です。計算の前提は計算方法と前提条件に置いてあります。一般論の数字ではなく、自分の売上・経費・報酬額で確かめてください。
まとめ
- 出張日当は所得税が非課税、社会保険では実費弁償として報酬等に該当せず、国内出張なら消費税の課税仕入れになる
- 同じ年24万円を渡すとき、日当と役員報酬の上乗せの差は2万9,000円から15万4,491円まで動く。分かれ目は標準報酬月額の等級をまたぐかどうか
- 会社に残さず日当で出すと手取り合計は年8.9万円前後増えるが、同額を報酬に乗せると月54万円の会社では6.6万円減る
- 非課税の上限額は公表されていない。判定は所得税基本通達9-3の2つの要素で、金額ではなく決め方が問われる
- 超過部分は給与になり、役員の場合は会社の損金にもならない。個人事業主が自分に払う日当には、そもそもこの枠がない
よくある質問
出張日当はいくらまでなら非課税ですか。
国税庁は金額の基準を公表していません。所得税基本通達9-3は、役員と使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれた基準で計算されているか、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当かの2点で判定するとしています。
旅費規程がないと日当は認められませんか。
消費税の出張旅費等特例については、国税庁の説明資料が社内規程の有無にかかわらず対象になるとしています。ただし所得税基本通達9-3は「基準によって計算されたもの」かどうかを判定要素に挙げているため、支給額の根拠を残しておく意味はあります。
海外出張の日当も同じ扱いですか。
所得税の非課税は国内・海外を区別していませんが、消費税は異なります。海外への出張・転勤のために支給した出張旅費、宿泊費、日当は原則として課税仕入れになりません。
出典
- 国税庁 所得税基本通達 法第9条《非課税所得》関係(9-3 非課税とされる旅費の範囲、9-4 範囲を超えるものの所得区分)
- 国税庁 タックスアンサー No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い
- 国税庁 質疑応答事例(消費税)出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問107 出張旅費、宿泊費、日当等
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問107-2 実費精算の出張旅費等
- 国税庁 インボイス制度オンライン説明会「応用編」資料抜粋(出張旅費等特例)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 日本年金機構 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。