税金の基礎

使わなくなった設備は捨てなくても除却損。有姿除却の要件と法人成り

結論

使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使う可能性がないと認められる固定資産は、解体や廃棄をしていなくても、帳簿価額(個人は未償却残額)から処分見込価額を差し引いた額を除却損として経費にできます(所得税基本通達51-2の2、法人税基本通達7-7-2)。売上1,200万円・経費200万円の条件で除却損100万円を計上すると、個人事業主なら税・保険料が40.9万円減り、最適報酬(月54万円)を取る法人なら法人の税が21.4万円減りました。

  • 対象は①使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使う可能性がない固定資産、②特定の製品の生産を中止し、将来使う可能性がほとんどない専用の金型等
  • ソフトウエアも、業務の廃止や切替えで今後使わないことが明らかなら、物理的に廃棄していなくても除却できる(所基通51-2の3、法基通7-7-2の2)
  • 除却損は、残りの耐用年数で償却するはずだった額を前倒しで経費にするもの。税が永久に減るのではなく、計上の時期が早まる

使わなくなったパソコンや機械、撤退した事業の設備。捨てるにも費用がかかるので、倉庫や事務所の隅に置いたままにしていることは珍しくありません。帳簿には未償却の残高が残り、毎年少しずつ減価償却が続きます。

税務では、こうした資産を廃棄していなくても、一定の要件を満たせば残高を一度に経費にできます。これが「有姿除却」です。この記事では、要件を国税庁の通達で確認し、除却損で減る税を個人と法人で比べたうえで、法人成りのときにどう使えるかを整理します。

廃棄していなくても、使う見込みがなければ除却できる

所得税基本通達51-2の2と法人税基本通達7-7-2は、ほぼ同じ文言で有姿除却を定めています。次のような固定資産は、解体・破砕・廃棄などをしていなくても、除却損を経費(損金)にできます。

対象内容
使用を廃止した固定資産その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められるもの
専用の金型等特定の製品の生産のために使っていた金型等で、その製品の生産を中止したことにより、将来使う可能性がほとんどないことがその後の状況等から明らかなもの

除却損の額は、個人は未償却残額から、法人は帳簿価額から、それぞれ処分見込価額を差し引いた額です。個人と法人で要件は同じで、違うのは計算の出発点の呼び方だけです。

ソフトウエアにも同じ考え方がある

所得税基本通達51-2の3と法人税基本通達7-7-2の2は、ソフトウエアについても、物理的な除却や廃棄がなくても、今後業務に使わないことが明らかな事実があれば除却できるとしています。例として、そのソフトで処理していた業務を廃止した場合や、ハードウエアやOSの変更で別のソフトに切り替え、従来のソフトを使わなくなったことが明らかな場合が挙げられています。

「使わない」と言えるかは、事実で示す

有姿除却が認められるかどうかは、「今後通常の方法で事業に使う可能性がない」と言えるかにかかっています。次のような状態は要件を満たしにくくなります。

  • 予備機として保管している
  • 繁忙期だけ使うことがある
  • 修理すれば使えるので、いずれ使うかもしれない

逆に、撤退した事業の専用設備、規格が変わって接続できなくなった機器、生産をやめた製品の型などは、使わないことを事実で説明しやすい資産です。除却を決めた日付、理由、資産の写真、処分見込価額の根拠(買取業者の見積りなど)を残しておくと、後から説明できます。

除却損100万円で、個人と法人の税はいくら減るか

計算エンジンで、除却損を計上した年に税・保険料がいくら減るかを出しました。

除却損(帳簿価額−処分見込価額)個人事業主の税・保険料の減少法人の税の減少
30.0万円11.7万円6.4万円
50.0万円19.8万円10.7万円
100.0万円40.9万円21.4万円
200.0万円83.6万円42.7万円

※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/yushi-jokyaku-kojin-houjin.mjs)で計算 ※ 個人は所得税・住民税・個人事業税・国保の減少の合計。法人は役員報酬を最適額(月54万円)に固定し、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の減少の合計

同じ100万円の除却損でも、個人事業主なら40.9万円、法人なら21.4万円です。個人の側では所得税・住民税に加えて個人事業税と国保も下がるのに対し、法人は最適報酬を取ると法人税の軽減税率の帯に入っているためです。

税が減るのではなく、時期が早まる

注意したいのは、除却損は残りの耐用年数で償却するはずだった額を、前倒しで経費にするものだという点です。除却しなければ、同じ額が毎年の減価償却費として少しずつ経費になります。有姿除却で得られるのは、経費の時期が早まる効果です。

ただし個人と法人では、この「時期」の意味が違います。法人は減価償却費の計上を自分で調整できますが、個人の減価償却は強制償却で、赤字の年でも進みます。この違いは減価償却を止められるのは法人だけ。個人は赤字でも進むで扱っています。

法人成りのときは、個人の最後の年に除却する選択肢がある

法人成りでは、個人で使っていた資産を会社に売るか、個人に残すかを決めます。車やパソコンなど会社で使い続ける資産の扱いは法人成りの資産引継ぎ。車・パソコンは時価で売るのかで整理しました。

一方、会社では使わない資産を、帳簿価額のまま会社に売る必要はありません。使用を廃止し今後使う見込みがないなら、個人事業の最後の年に有姿除却して、事業所得の計算で経費にできます。上の表のとおり、個人の側のほうが除却損1円あたりの税・保険料の減り方が大きいので、個人の最後の年に計上する効果は小さくありません。

なお、有姿除却した資産を、市区町村に申告する償却資産(固定資産税)でどう扱うかは、所得税・法人税の通達とは別の話です。申告先の市区町村に確認してください。償却資産の申告については償却資産税は150万円未満でも申告。40万円未満の即時償却も対象で扱っています。

まとめ

  • 使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使う可能性がない固定資産は、廃棄していなくても除却損を計上できる(所基通51-2の2、法基通7-7-2)
  • 除却損は帳簿価額(個人は未償却残額)から処分見込価額を差し引いた額。ソフトウエアにも同じ考え方がある
  • 予備機やいずれ使うかもしれない資産は要件を満たしにくい。使わない事実と処分見込価額の根拠を残す
  • 除却損100万円で、個人事業主なら税・保険料が40.9万円、法人なら法人の税が21.4万円減る(この条件)。効果は経費の時期の前倒し
  • 法人成りのとき、会社で使わない資産は売らずに、個人の最後の年に有姿除却する選択肢がある

法人成りの年の経費の組み立ては、手取りの差に直結します。まず自分の売上と経費で、法人化した場合の手取りを確かめてください。

よくある質問

倉庫に置いたままの古い機械も、除却損にできますか?

その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められるものであれば、廃棄していなくても除却損にできます(所基通51-2の2、法基通7-7-2)。予備として残している、いずれ使うかもしれない、という状態では要件を満たしません。

処分見込価額はどう決めますか?

除却損は帳簿価額(個人は未償却残額)から処分見込価額を差し引いた額です。スクラップとして売れる見込みがあるなら、その見込額を差し引きます。買取業者の見積りなどを根拠として残しておくと説明しやすくなります。

有姿除却した資産を後で売ったらどうなりますか?

除却損を計上した後の帳簿上の価額は処分見込価額です。それより高く売れれば、その差額が売却した年の収入(益金)になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。