税金の基礎

財産債務調書は法人化で外れるか。所得2,000万円と自社株の数え方

結論

財産債務調書の1つ目の基準は「退職所得を除く各種所得金額の合計が2,000万円超」かつ「財産3億円以上または有価証券等1億円以上」です。売上2,500万円・経費300万円の個人事業主は所得が2,135.0万円で所得基準を超えますが、法人化して最適報酬(月100万円)を取ると給与所得は1,005.0万円になり、所得基準を外れます。給与所得が2,000万円を超えるのは役員報酬が月183万円からです。ただし財産10億円以上の基準は所得に関係なく残り、自社株と会社への貸付金も財産に数えます。

  • 提出義務は①所得2,000万円超で、財産3億円以上か有価証券等1億円以上、②財産10億円以上の居住者のいずれか。提出期限は翌年6月30日(国税庁 No.7457)
  • 非上場の自社株の見積価額は、直前の決算書の純資産価額(帳簿価額)に持株割合を掛けて計算する方法が認められている(国税庁 財産債務調書制度FAQ)
  • 期限内に提出し記載がある財産の申告漏れは過少申告加算税等が5%軽減、提出がない・記載がない場合は5%加重される

所得が増えてくると、確定申告とは別に「財産債務調書」の提出を求められることがあります。持っている財産の種類・数量・価額と債務を一覧にして、翌年6月30日までに税務署へ出す書類です。

法人化すると、この判定の材料が2つとも入れ替わります。所得は事業所得から給与所得に変わり、事業の蓄えは会社の財産になって、手元には自社株と会社への貸付金が残ります。この記事では、判定基準を国税庁の説明で確認し、法人化の前後で所得基準がどう動くかを計算エンジンで並べます。

提出義務は「所得と財産」か「財産だけ」の2本立て

国税庁 No.7457 によると、財産債務調書を提出しなければならないのは、次のどちらかに当たる人です。

基準所得の条件財産の条件
①確定申告書を提出する必要がある人などで、退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円超12月31日に財産の価額の合計が3億円以上、または有価証券等の価額の合計が1億円以上
②なし12月31日に財産の価額の合計が10億円以上の居住者

財産の価額は総額で判定し、債務を差し引いた純額ではありません。有価証券等の範囲は、国外転出時課税(所得税法60条の2)と同じです。提出期限は翌年の6月30日で、「財産債務調書合計表」を添付します。

法人化すると、所得基準の「2,000万円」が遠くなる

個人事業主の各種所得金額は、事業所得そのものです。法人化して役員報酬を受け取ると、社長個人の所得は給与所得になり、収入から給与所得控除が差し引かれます。給与所得控除は収入850万円超で195万円が上限です(国税庁 No.1410)。

計算エンジンで、売上規模ごとに個人事業主の所得と、法人化して最適報酬を取った場合の給与所得を並べました。

売上経費個人事業主の所得所得基準法人化後の最適報酬役員の給与所得所得基準毎年法人に残る利益
2500万円300万円2135.0万円超える月100万円1005.0万円超えない664.5万円
3000万円500万円2435.0万円超える月100万円1005.0万円超えない863.7万円
4000万円800万円3135.0万円超える月100万円1005.0万円超えない1328.6万円
5000万円1000万円3935.0万円超える月100万円1005.0万円超えない1860.0万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax 65万円控除)・インボイス登録済み・合同会社・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/zaisan-saimu-chosho-houjinka.mjs)で計算 ※ 個人事業主の所得は青色申告特別控除後の事業所得。最適報酬はいずれも探索範囲の上限(月100万円)に達している ※ 毎年法人に残る利益は、法人税等を差し引いた後の額

個人事業主のままなら、どの売上でも所得基準を超えます。法人化して最適報酬を取ると、給与所得は1,005.0万円で、所得基準を外れます。給与所得が2,000万円を超えるのは、役員報酬が月183万円(年2,196万円)からです。

所得基準を外れても、②の10億円基準は残る

法人化で外れるのは①の基準だけです。②の財産10億円以上は所得に関係なく適用されます。また、役員報酬のほかに不動産所得や配当所得、株式の譲渡所得があれば、各種所得金額に合算されます。法人に残した利益を配当で受け取る年は、その配当所得が所得基準に加わります。

会社の預金は数えず、自社株と貸付金を数える

財産債務調書に書くのは、社長個人の財産です。法人化すると、事業の財産の数え方が次のように変わります。

財産個人事業主のとき法人化後
事業用の預金・売掛金・設備本人の財産(事業用として記載)会社の財産。本人の財産には数えない
自社株・合同会社の持分なし本人の財産(有価証券)
会社に貸したお金(役員借入金)なし本人の財産(貸付金)

国税庁の財産債務調書制度FAQは、財産債務を「一般用」と「事業用」に分けて記載するとしており、個人事業主の売掛金や事業用の預金も記載の対象です。法人化すると、これらは会社のものになり、社長の調書から外れます。

その代わりに入ってくるのが自社株です。FAQは、取引相場のない株式の見積価額として、直前に終了した事業年度の決算書に基づく純資産価額(帳簿価額)に、自己の持株割合を掛けて計算する方法を挙げています。一人社長なら持株割合は100%なので、会社の簿価純資産がそのまま自社株の価額になります。上の表の「毎年法人に残る利益」は、そのまま毎年の自社株の価額の増加分の目安です。

会社に運転資金を貸している場合は、その残高が貸付金として財産に入ります。財産の判定は総額なので、社長が会社に貸した1,000万円は、会社側の借入金と相殺されずに社長の財産として数えられます。

有価証券等1億円の判定は、自社株も合算する

①の基準のうち「有価証券等1億円以上」には、自社株も含まれます。個人で持つ上場株式や投資信託と合わせて判定します。自社株の価額が何年で積み上がるかは、国外転出時課税の判定と同じ考え方で国外転出時課税は自社株も1億円に数える。法人化で近づく年数に計算を載せています。ただし国外転出時課税では非上場株式の価額を所得税基本通達59-6に準じて求めるため、調書の見積価額とは計算方法が違います。

出すと加算税が軽く、出さないと重くなる

国外に5,000万円を超える財産がある場合は、別に国外財産調書も必要です。何が国外財産に当たるかは国外財産調書は5,000万円超。国外取引所の暗号資産は対象外で整理しています。

財産債務調書には、提出を促すための加算税の調整があります(国税庁 No.7457)。

状況調書に関係する財産・債務で申告漏れが生じた場合
期限内に提出し、その財産・債務の記載がある過少申告加算税等が5%軽減(所得税・相続税)
期限内に提出がない、または記載すべき財産・債務の記載がない過少申告加算税等が5%加重(所得税)

相続の開始の年は、相続で取得した財産を記載しないで提出でき、その年の提出義務も相続財産を除いて判定します。

法人化の判断で見落とされやすい点

財産債務調書の提出そのものに税金はかかりません。法人化で調書の提出義務が外れることを、法人化の理由にするのは筋違いです。ただ、高所得の個人事業主にとっては、毎年の調書作成の手間がなくなる一方で、法人の決算書が自社株の価額の根拠になるという入れ替わりが起きます。

法人化した場合の手取りと、毎年法人に残る利益の額は、売上と経費で大きく変わります。まず自分の条件で計算し、その「法人に残る利益」が自社株の価額としてどう積み上がるかを見てください。

まとめ

  • 財産債務調書は、①所得2,000万円超かつ財産3億円以上か有価証券等1億円以上、②財産10億円以上のいずれかで提出義務が生じ、期限は翌年6月30日
  • 法人化すると所得は給与所得になり、最適報酬(月100万円)なら給与所得は1,005.0万円で所得基準を外れる。給与所得が2,000万円を超えるのは月183万円から
  • 会社の預金や売掛金は社長の財産から外れ、代わりに自社株と会社への貸付金が財産に入る
  • 自社株の見積価額は、決算書の純資産価額(帳簿価額)×持株割合で計算できる
  • 期限内に提出すれば関連する申告漏れの加算税が5%軽減、未提出・記載漏れなら5%加重される

所得基準を外れるかどうかは、役員報酬の設計しだいです。自分の売上と経費で最適な報酬額と法人に残る利益を確かめてから、調書の扱いを考えてください。

よくある質問

法人化した会社の預金や売掛金も、自分の財産債務調書に書くのですか?

書きません。会社の預金や売掛金は法人の財産で、社長個人の財産ではないからです。社長の財産として記載するのは、その会社の株式(合同会社なら持分)と、会社に貸しているお金(貸付金)です。

自社株の価額は、相続税評価額で書かなければいけませんか?

財産債務調書の価額は12月31日の時価または見積価額で、国税庁FAQは、非上場株式の見積価額として、直前に終了した事業年度の決算書に基づく純資産価額(帳簿価額)に持株割合を掛ける方法を挙げています。財産評価基本通達で評価した価額によることもできるとされています。

所得2,000万円の基準は、役員報酬の額面で判定しますか?

判定に使うのは各種所得金額の合計で、給与なら収入から給与所得控除を差し引いた給与所得の金額です。役員報酬が年1,200万円でも給与所得は1,005万円になります。配当所得や不動産所得など他の所得があれば合算します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。