インボイス・消費税
振込手数料を差し引かれたら。売上値引きならインボイス不要
結論
取引先が振込手数料相当額を差し引いて入金した場合、売手はそれを売上値引き(対価の返還等)として処理すれば、1万円未満なら返還インボイスの交付は不要で、追加の書類なしで売上の消費税を減らせます(国税庁 インボイスQ&A 問29)。支払手数料として処理するなら買手の適格請求書か売手が作る仕入明細書、立替金として処理するなら金融機関の適格請求書と立替金精算書等が必要です。なお取適法の対象取引では、合意の有無にかかわらず振込手数料を売手に負担させて差し引くことが禁止されています。
- 1件440円の振込手数料を月30件差し引かれると、年15万8,400円のうち消費税は1万4,400円。処理の選び方と書類しだいで、この額を控除できるかが決まる
- 支払手数料として処理していた会社が、売上値引きの処理に変えることも問題ないとされている(同 問30)
- 軽減税率8%の商品の売上から差し引かれた振込手数料を売上値引きにする場合、値引きにも8%が適用される
請求書どおりの金額が入らず、振込手数料の440円や660円が差し引かれて入金される。取引先からの入金でよく起きることです。インボイス制度が始まってから、この差し引かれた手数料を消費税でどう扱うかが、売手の側の悩みになりました。
国税庁はインボイスQ&Aの問29でこの場面を取り上げ、処理を3通りに分けています。この記事ではその3通りと必要な書類を整理し、年間でいくらの消費税が処理と書類しだいで動くかを示します。
処理は「売上値引き」「支払手数料」「立替金」の3通り
国税庁 インボイスQ&A 問29によると、売手が負担する振込手数料相当額は、取引当事者間の契約関係等により、次のように対応が分かれます。
| 処理 | 考え方 | 売手に必要なもの |
|---|---|---|
| 売上値引き | 売上げに係る対価の返還等 | 原則は買手への適格返還請求書の交付。1万円未満なら交付不要 |
| 支払手数料 | 買手から「代金決済上の役務提供」を受けた対価 | 買手から交付を受けた適格請求書、または売手が作り買手の確認を受けた仕入明細書 |
| 立替金 | 買手が売手のために金融機関へ振込手数料を立替払した | 買手が金融機関から受け取った適格請求書と、買手が作成した立替金精算書等 |
売上値引きなら、書類が要らない
売上値引きとして処理する場合、売手は対価の返還等を行ったことになります。原則として買手に適格返還請求書を交付しますが、1万円未満の対価の返還等は交付義務が免除されています(消費税法57条の4第3項、消費税法施行令70条の9第3項2号)。振込手数料相当額は通常1万円未満なので、交付は不要です。
この処理だと、売手の課税売上げが10,000円、対価の返還等が440円となり、売上の消費税がそのぶん減ります。相手の書類に頼らずに処理が完結するのが利点です。
支払手数料・立替金は、相手の書類しだい
支払手数料として処理する場合、売手は買手から役務の提供を受けたことになるため、仕入税額控除には買手の適格請求書が必要です。買手が適格請求書発行事業者でなければ、そもそも受け取れません。代わりに、売手が仕入明細書を作って買手の確認を受ける方法もあります。仕入明細書の要件は仕入明細書はインボイスになる?発注者作成の確認要件で整理しています。
立替金として処理する場合は、買手が金融機関から受け取った振込手数料の適格請求書と、買手が作成した立替金精算書等が必要です。差し引かれた金額が金融機関の振込手数料と同額であることも条件です。ただし買手がATMで振り込んだ場合は自動販売機特例の対象になり、売手は一定の要件のもとで帳簿のみの保存で控除できます。帳簿のみ保存の類型はインボイスの帳簿のみ保存は10類型。3万円未満の電車代と出張旅費、立替金精算書は立替金精算書とインボイス。役員の立替払いで控除を残す方法で扱っています。
年間でいくらが書類しだいで動くか
差し引かれる振込手数料は1件では小さくても、件数が多いと年間では無視できない額になります。
| 差し引かれる手数料(1件・税込) | 月の件数 | 年間の手数料 | うち消費税(10/110) |
|---|---|---|---|
| 440円 | 10件 | 52,800円 | 4,800円 |
| 440円 | 30件 | 158,400円 | 14,400円 |
| 660円 | 30件 | 237,600円 | 21,600円 |
| 880円 | 50件 | 528,000円 | 48,000円 |
※ 当サイトのスクリプト(scripts/furikomi-tesuryo-urite-futan.mjs)で計算。手数料に含まれる消費税を10/110で計算した
月30件・1件440円なら、年1万4,400円の消費税が、売上値引きなら書類なしで減らせ、支払手数料なら買手の書類がそろったときだけ控除できます。どの処理でも書類がそろえば消費税の額は同じで、違うのは書類の手間と、そろわなかったときに控除が消えるかどうかです。
一定規模以下なら、少額特例もある
基準期間の課税売上高が1億円以下などの一定規模以下の事業者は、令和11年9月30日までの課税仕入れで、支払対価が1万円未満なら帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる少額特例があります(国税庁 インボイスQ&A 問29の注)。支払手数料・立替金で処理する場合でも、この特例を使えば書類の問題は小さくなります。特例の条件はインボイスの少額特例は1万円未満。期限と法人成り後の判定で確認できます。
カードの加盟店手数料やファクタリングの手数料は、振込手数料と違って消費税が非課税です。こちらはカード手数料とファクタリング手数料は消費税が非課税。控除すると過大にで扱っています。
支払手数料から売上値引きへの切り替えは問題ない
これまで支払手数料として記帳してきた場合でも、国税庁 インボイスQ&A 問30は、売上げに係る対価の返還等の処理に変えることは問題ないとしています。会計ソフトの科目は支払手数料のままにして、消費税法上は対価の返還等として扱うこともできます。その場合は、通常の支払手数料と区別できるよう、科目コードを分けるなどして帳簿に記載します。
注意点は税率です。軽減税率8%の商品の売上から差し引かれた振込手数料を売上値引きにする場合、値引きにも8%が適用されます。もとの売上の税率に従うからです。
取適法の対象取引では、差し引き自体が禁止
国税庁 インボイスQ&A 問29は、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)の対象取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させ、代金から差し引くことは禁止されていると付記しています。
自分が取適法の「中小受託事業者」に当たり、取引先が「委託事業者」に当たる取引なら、差し引かれた手数料は消費税の処理以前に、払ってもらうべきものです。資本金や従業員数による区分は取適法の資本金1,000万円の線。法人化で守る側から規制側へ?で整理しています。
まとめ
- 差し引かれた振込手数料の処理は、売上値引き・支払手数料・立替金の3通り
- 売上値引きなら、1万円未満の返還インボイスは交付不要で、相手の書類なしで売上の消費税を減らせる
- 支払手数料は買手の適格請求書か仕入明細書、立替金は金融機関の適格請求書と立替金精算書等が必要
- 1件440円・月30件なら年1万4,400円の消費税が、処理と書類しだいで控除できるかどうかが分かれる
- 取適法の対象取引では、振込手数料を売手に負担させて差し引くこと自体が禁止されている
細かな手数料の扱いが効いてくるのは、課税事業者として原則課税で申告する場合です。インボイス登録の有無と法人化で消費税の負担がどう変わるかは、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
振込手数料を売上値引きにした場合、取引先に何か送る必要はありますか?
売上値引きは対価の返還等なので、原則は適格返還請求書の交付が必要です。ただし1万円未満の対価の返還等は交付義務が免除されており、振込手数料相当額は通常これに当たります(国税庁 インボイスQ&A 問29)。
会計ソフトでは「支払手数料」の科目で記帳しています。売上値引きとして扱えますか?
国税庁 インボイスQ&A 問30は、経理処理を支払手数料としつつ消費税法上は対価の返還等とすることもできるとしています。その場合は、通常の支払手数料と区別できるよう、科目コードを分けるなどして帳簿に対価の返還等であることを記載する必要があります。
免税事業者でも、この処理を気にする必要がありますか?
免税事業者は消費税の申告がないので、売上値引きか支払手数料かで納税額は変わりません。所得税・法人税ではどちらの処理でも利益は同じです。課税事業者になったとき、特に原則課税で申告する場合に効いてくる論点です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。