インボイス・消費税

インボイス未登録で値引き要請。何%までなら登録と同じ手取りか

結論

取引先が控除できなくなる額だけの値引きなら、登録して3割特例や簡易課税で消費税を納める場合と手取りはほぼ同じです。令和8年10月から令和10年9月までは税込支払額の2.73%がその線で、売上600万円なら年18万円。これを超える値引き、たとえば消費税相当額をまるごと差し引く要請は、登録したほうが手取りが残ります。

  • 取引先の負担増は、控除できない割合×支払った消費税相当額。令和8年10月から30%、令和10年10月から50%、令和12年10月から70%
  • 売上600万円・サービス業の試算で、2.73%の値引きと3割特例での登録はどちらも手取り394.5万円。消費税相当額を全額値引きすると366.7万円まで下がる
  • 双方納得の上の値下げは問題にならないが、仕入れの消費税も払えない価格の一方的な設定や、協議に応じない代金決定は独占禁止法・取適法上問題になり得る

値引きを求める側には、根拠となる金額があります。免税事業者から仕入れると、取引先は支払った消費税相当額の一部を控除できなくなり、その分だけ納める消費税が増えるからです。

問題は、求められた値引きがその金額に見合っているかどうかです。この記事では、取引先の負担増と、あなたが登録して消費税を納めた場合の負担を、同じ計算エンジンで円に直して比べます。そのうえで、法律上問題になる値引きの線を財務省・公正取引委員会などのQ&Aで確認します。

値引きの根拠は「取引先が控除できない額」

取引先が一般課税で申告している場合、免税事業者への支払いに含まれる消費税相当額は、本来は仕入税額控除ができません。ただし経過措置があり、一定割合までは控除が認められています。国税庁の令和8年度税制改正特集によると、この割合は令和8年10月1日から段階的に下がります。

期間取引先が控除できる割合控除できない割合
令和8年9月30日まで80%20%
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%30%
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%50%
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%70%
令和13年10月1日以降0%100%

取引先の負担増は「支払った消費税相当額×控除できない割合」です。税込660万円(うち消費税相当額60万円)を払っている取引先なら、令和8年10月からは年18万円。**税込の支払額に対しては2.73%**です。

逆に言えば、取引先が簡易課税や2割特例で申告しているなら、負担増はそもそもありません。財務省等のQ&Aも、売上先が消費者・免税事業者・簡易課税の事業者である場合は取引への影響は生じないと明記しています。値引きを求められたら、まず相手の申告方法を確かめる価値があります。

2.73%の値引きと、3割特例での登録は同じ手取りになる

では、あなたの側の選択肢を並べます。当サイトの計算エンジンで、売上600万円(税抜)・経費100万円の個人事業主について、免税のまま値引きを受け入れた場合の手取りを計算しました。

期間取引先の負担増(年)税込支払額に対する率免税のまま値引きを受けた手取り値引きなしとの差
令和8年9月30日まで12.0万円1.82%398.5万円-7.9万円
令和8年10月〜令和10年9月18.0万円2.73%394.5万円-11.9万円
令和10年10月〜令和12年9月30.0万円4.55%386.6万円-19.9万円
令和12年10月〜令和13年9月42.0万円6.36%378.6万円-27.8万円
令和13年10月以降60.0万円9.09%366.7万円-39.8万円

※ 値引き額=取引先の負担増とした場合。値引きなしの手取りは406.4万円

次に、インボイス登録して消費税を納めた場合です。登録すれば取引先は全額を控除できるので、値引きの理由はなくなります。代わりにあなたが消費税を納めます。

申告方法納める消費税(年)手取り免税・値引きなしとの差
2割特例(令和8年分まで)12.0万円398.5万円-7.9万円
3割特例(令和9年分・令和10年分)18.0万円394.5万円-11.9万円
簡易課税・第5種(みなし仕入率50%)30.0万円386.6万円-19.9万円
一般課税54.0万円370.6万円-35.8万円

※ 売上600万円(税抜)・経費100万円(うち課税仕入れ6割)・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・サービス業/2026年(令和8年)分基準 ※ 値引きも納めた消費税も、所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税の計算に反映しています。計算は scripts/invoice-nebiki-yousei.mjs で再現できます

2つの表を見比べると、同じ手取りが並んでいます。 取引先の負担増に見合った値引きを受け入れることと、登録して特例で消費税を納めることは、手元に残るお金で見ると同じです。18万円の値引きも18万円の納税も、事業所得を18万円減らす点で違いがないからです。所得税・住民税・国保が連動して下がるので、手取りの減少は11.9万円にとどまります。

なぜ金額がそろうのか。3割特例は「売上税額の3割を納める」制度で、経過措置の70%控除は「相手が3割を控除できない」制度です。どちらも消費税相当額の3割が、あなたか取引先のどちらかの負担になります。値引きは、その3割を取引先からあなたに付け替える行為だと言えます。

時期によって、登録のほうが得になる3か月と3か月がある

このつり合いは、期間の区切りが合っているところだけで成り立ちます。個人事業者の特例の期間は暦年、経過措置の期間は10月区切りなので、境目にずれがあります。

期間取引先の負担増(=見合う値引き)登録した場合に納める額どちらが軽いか
令和8年1〜9月2%2割特例 2%同じ
令和8年10〜12月3%2割特例 2%登録
令和9年1月〜令和10年9月3%3割特例 3%同じ
令和10年10〜12月5%3割特例 3%登録
令和11年1月〜令和12年9月5%簡易課税・第5種 5%同じ
令和12年10月以降7%→10%簡易課税・第5種 5%登録

※ 率は税抜売上に対する割合。簡易課税は事業区分で変わり、第4種(みなし仕入率60%)なら4%、第3種(70%)なら3%

令和12年10月以降は、取引先が負担増をそのまま値引きで求めてくると、登録したほうが手取りは多くなります。 サービス業(第5種)の場合で、他の事業区分ならもっと早く登録側が有利になります。

もう1つ注意したいのは、3割特例の要件です。国税庁によると対象は個人事業者だけで、基準期間(令和9年分なら令和7年)の課税売上高が1,000万円以下であることが条件です。法人は使えません。法人化した後で登録すると、最初から簡易課税か一般課税になります。詳しくは2割特例の終了と3割特例の記事で扱っています。

消費税分をまるごと差し引く要請は、登録より手取りが減る

実際の値引き要請は、取引先の負担増ぴったりとは限りません。多いのは「免税事業者なら消費税分はいらないはず」として、税込660万円を600万円にする要請です。

これは値引き率9.09%、年60万円にあたります。計算エンジンでは手取りが366.7万円になり、値引きなしから39.8万円減ります。令和8年10月以降の取引先の負担増は18万円ですから、要請額はその3倍を超えています。同じ売上で登録して3割特例で申告すれば手取りは394.5万円、簡易課税(第5種)でも386.6万円です。

選択手取り
免税のまま、消費税相当額を全額値引き366.7万円
登録して簡易課税(第5種)386.6万円
登録して3割特例394.5万円
免税のまま、取引先の負担増(2.73%)だけ値引き394.5万円

全額値引きに応じるくらいなら、登録したほうが年20〜28万円多く残る計算です。値引き要請を受けたら、要請額を取引先の負担増(今なら税込支払額の2.73%)と比べることが、交渉の出発点になります。

免税事業者も、仕事に使う物やサービスを買うときには消費税を払っています。財務省等のQ&Aも、免税事業者が自らの仕入れの消費税を支払っていることを踏まえて交渉するよう求めています。消費税相当額をまるごと値引くと、その分まで失うことになります。

法律上問題になる値引き、ならない値引き

財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省のQ&A(令和8年1月30日改正)は、取引条件の見直しそのものは直ちに問題にならないとしつつ、次のような行為を問題になり得るものとして挙げています。

行為扱い
控除できない分について、免税事業者の仕入れの消費税も考慮し、双方納得の上で価格を設定結果的に値下げになっても独占禁止法上問題にならない
再交渉が形式的で、仕入れの消費税も払えないような著しく低い価格を一方的に設定優越的地位の濫用として問題になる
発注時に決めた代金を、免税事業者であることを理由に後から減額取適法の「減額」の禁止に当たる(取適法の対象取引の場合)
価格据え置きの代わりに、根拠が不明確な協賛金・販売促進費を要請優越的地位の濫用として問題になる
登録しなければ値下げ、応じなければ取引停止と一方的に通告独占禁止法上・取適法上問題になるおそれ
登録させた後、新たな消費税分を協議せずに価格を据え置く優越的地位の濫用・取適法の買いたたきのおそれ

表の1行目と2行目の違いが、上で計算した線です。取引先の負担増に見合う値引きを話し合って決めるのは問題になりません。仕入れの消費税まで払えない水準を一方的に押し付けるのは問題になります。

下請法は令和8年1月から「取適法」になった

公正取引委員会のリーフレットによると、下請法は改正されて令和8年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)になりました。資本金基準に加えて従業員基準が加わり、たとえばデザインやコンテンツ制作などの情報成果物作成委託では、従業員100人超の会社から個人が受ける発注も対象になります。**「協議に応じない一方的な代金決定」**も新たに禁止されました。

フリーランス法も同じ方向を向いている

従業員を使わない個人に1か月以上の業務を委託した発注者には、フリーランス法で7つの行為が禁止されています。公正取引委員会の特設サイトは、一方的に○%減として単価を引き下げることも「買いたたき」に該当し得ると説明しています。

どの法律が当てはまるかは、取引先の規模と取引の内容で変わります。相談先は公正取引委員会や中小企業庁の窓口で、Q&Aの別紙に一覧があります。

法人化を考えている人が確かめておくこと

インボイス未登録で値引きを求められている人の中には、「どうせなら法人化して免税期間を取り直そう」と考える人もいます。法人の設立から2期は、資本金1,000万円未満などの条件を満たせば消費税が免税になり得るからです。

ただし、免税になっても取引先の控除の問題は同じように残ります。法人になっても未登録なら値引きの交渉は続き、登録すれば個人事業者だけの3割特例は使えません。インボイスと法人化の免税の関係はインボイス登録済みなら法人化しても免税にならない記事にまとめています。

判定ツールでは「インボイス登録」を「なし」「あり」で切り替えて、手取りの差を確かめられます。値引きを受け入れた場合は、売上の欄を値引き後の金額に下げて計算してください。

まとめ

  • 値引きの根拠は取引先が控除できない額。令和8年10月から令和10年9月は税込支払額の2.73%、令和10年10月から4.55%
  • その額だけの値引きと、登録して3割特例・簡易課税(第5種)で納める消費税は、手取りで見るとほぼ同じ
  • 消費税相当額をまるごと差し引く要請(9.09%)は、売上600万円で登録より年20〜28万円手取りが減る
  • 双方納得の値下げは問題にならないが、仕入れの消費税も払えない価格の一方的な設定や、協議に応じない代金決定は独占禁止法・取適法上問題になり得る
  • 取引先が簡易課税や2割特例なら、そもそも負担増はない

一般論の数字ではなく、自分の売上と取引先の申告方法で確かめてください。値引き率と登録後の納税額を並べれば、応じるか登録するかの判断材料になります。

よくある質問

取引先が簡易課税なら、値引きを求められる理由はありますか。

税金の面ではありません。簡易課税や2割特例で申告している事業者は、インボイスを保存しなくても仕入税額控除ができるため、免税事業者からの仕入れでも負担は増えません。財務省等のQ&Aも、売上先が消費者・免税事業者・簡易課税の事業者なら取引への影響は生じないとしています。

値引きの代わりに協賛金や手数料を求められました。

財務省・公正取引委員会等のQ&Aは、取引価格を据え置く代わりに協賛金や販売促進費などの負担を求めることについて、負担額や算出根拠が明確でなく、あらかじめ計算できない不利益を与える場合などは優越的地位の濫用として問題になるとしています。

登録を求められたうえで、価格を据え置くと言われました。

取引先の要請で課税事業者になった場合に、新たに納める消費税分について明示的に協議せず価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法上の買いたたきとして問題になるおそれがあるとQ&Aは示しています。登録するなら、消費税分の価格への反映を協議の議題にしてください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。