インボイス・消費税
新設法人の「2期免税」が崩れる4つの条件。一人社長に効くのは1つ
法人化すれば消費税が2期免除される、という説明には4つの例外があります。資本金・特定期間・特定新規設立法人・インボイス登録のうち、従業員のいない一人社長にとって現実に効くのはどれか、免税1期分の金額とあわせて整理します。
「法人化すれば消費税が2年間免除される」という説明をよく見かけます。制度としては存在しますが、成立するには4つの関門を全部通る必要があります。
しかも、そのうち3つは従業員のいない一人社長にはほとんど関係がなく、実際に免税を壊しているのはインボイス登録の1つだけ、というのが多くのケースの実態です。順番に確認します。
そもそも、なぜ2期は免税になるのか
消費税の納税義務は、原則として基準期間の課税売上高で判定します。基準期間は、法人ならその事業年度の前々事業年度です。
新しく設立した法人には、1期目にも2期目にも前々事業年度が存在しません。基準期間がないので判定のしようがなく、結果として納税義務が免除されます。これが「2期免税」の正体です。
つまり免税は特典として与えられているのではなく、判定材料がないことの帰結です。だから判定材料を別に用意する特例が、いくつも後から追加されました。それが以下の4つです。
条件1:資本金1,000万円以上なら1期目から課税
基準期間がない法人でも、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であれば、納税義務は免除されません。
これは1期目・2期目それぞれの期首で判定します。1期目を999万円で設立し、2期目の期首までに増資して1,000万円以上にすると、2期目は課税事業者になります。
当サイトの試算は資本金1,000万円未満を前提に置いています。資本金は法人住民税の均等割の区分にも使われ、1,000万円を超えると均等割の額も上がるため、二重の意味で境目になります。
条件2:特定期間 ── 一人社長はまず超えない
2期目についてだけ、追加の判定があります。特定期間の課税売上高が1,000万円を超えると、基準期間がなくても課税事業者になります。
法人の特定期間は、前事業年度開始の日以後6か月の期間です。1期目の前半6か月、ということになります。
ここに救済があります。この判定は課税売上高に代えて、その期間の給与等支払額の合計額で行うこともでき、どちらで判定するかは事業者が選べます。課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円以下であれば、給与のほうで判定して免税事業者でいられます。
一人社長の場合、6か月の給与等支払額は役員報酬6か月分です。
| 役員報酬(月) | 6か月の給与等支払額 | 1,000万円超か |
|---|---|---|
| 54万円 | 324万円 | 超えない |
| 90万円 | 540万円 | 超えない |
| 100万円 | 600万円 | 超えない |
| 166万7,000円 | 1,000万2,000円 | 超える |
6か月で1,000万円を超えるには、役員報酬が月166万6,667円を超える必要があります。当サイトの総当たり探索で最適な役員報酬が月100万円を上回るのは、事業所得が相当に大きい場合に限られます。従業員を雇っていない法人にとって、この関門は実質的に通過できます。
もうひとつ、前事業年度が7か月以下の場合はその事業年度を特定期間としないという扱いもあります(短期事業年度)。1期目を7か月以下に設定すれば、2期目は特定期間の判定を受けません。ただし1期目を短くすれば免税でいられる期間そのものが縮むので、年度途中で法人化するときの決算期の置き方と合わせて判断する必要があります。
条件3:特定新規設立法人 ── 規模の大きい親がいる場合
基準期間がなく資本金1,000万円未満の法人でも、特定新規設立法人に該当すると免税になりません。
該当するのは、事業年度開始の日に他の者に支配されているなどの特定要件を満たし、かつその判定の基礎となった者やその特殊関係法人のうちいずれかについて、基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超える場合です。令和6年10月1日以後は、これに加えて売上金額などの合計額が国外を含めて50億円を超える場合も対象になりました。
個人事業主が自分ひとりで法人を設立する場合、この条件に触れることはまずありません。触れるとすれば、既存の大きな法人やその経営者が新会社を作るケースです。
条件4:インボイス登録 ── これが本命
ここが実務でいちばん効きます。適格請求書発行事業者(インボイス)の登録をすると、免税事業者ではいられません。
インボイスを発行できるのは課税事業者だけです。登録した時点で、基準期間の課税売上高がいくらであっても、新設法人であっても、納税義務が生じます。上の3つの条件を全部クリアしていても、登録した瞬間に免税は消えます。
そして個人事業主として取引先の求めでインボイス登録をしている人は、法人化した後も登録を続けるのが普通です。取引先から見れば、法人化は相手が変わることであり、新しい法人でインボイスを発行できなければ取引条件の見直しになります。
「法人化すれば2年間消費税が免除される」という一般論が成立しないケースが、今は多数派です。 この点はインボイス登録済みなら法人化しても2年間免税は受けられないで詳しく扱っています。
免税1期分の価値はいくらか
4つの関門を全部通った場合に得られる金額を、計算エンジンで出しました。
| 売上 | 免税1期分の価値 | 2期分なら |
|---|---|---|
| 1,200万円 | 108.0万円 | 216.0万円 |
| 1,500万円 | 138.0万円 | 276.0万円 |
| 1,800万円 | 168.0万円 | 336.0万円 |
| 2,000万円 | 188.0万円 | 376.0万円 |
| 2,500万円 | 238.0万円 | 476.0万円 |
| 3,000万円 | 288.0万円 | 576.0万円 |
※ 経費200万円(うち課税仕入割合60%)・東京23区・40歳未満・独身・合同会社。本則課税での納付見込額/2026年(令和8年)分基準
売上1,200万円・経費200万円で、インボイス登録の有無だけを変えて比較します。
| 初年度の実質差額 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| インボイス未登録 | +43.3万円 | +53.3万円 | −14.7万円 |
| インボイス登録済み | −24.7万円 | −14.7万円 | −14.7万円 |
※ 初年度は設立費用(合同会社10万円)、各年とも税理士報酬の差(年20万円)を控除後
初年度で68.0万円の差が出ています。3期目以降は同じ数字に収束するので、免税は最初の2期だけを押し上げる一時的な効果です。設立するかどうかを初年度の数字で判断すると、この一時的な効果に引きずられます。
なお免税事業者が受け取った消費税相当額は、そのまま懐に入るわけではありません。法人の収益となり法人税の対象になります。上の表の金額は、その分を差し引いた後の手取りベースです。
登録の有無で結論が変わる領域なので、ご自身の条件を入れて確かめてください。
この4条件の外側に、もう1つ免税が止まる経路があります。設備投資の消費税還付を受けるために課税事業者を選んだり、高額な資産を取得したりした場合の3年の制限です。消費税の課税事業者選択と3年縛りで扱っています。
まとめ
- 2期免税は特典ではなく、基準期間(前々事業年度)が存在しないことの帰結
- 条件1:資本金1,000万円以上なら該当する期は課税。期首ごとに判定する
- 条件2:特定期間(前事業年度開始から6か月)の課税売上高が1,000万円超で課税。ただし給与等支払額で判定してもよいので、一人社長は月166万6,667円を超えない限り通過できる
- 条件3:特定新規設立法人(課税売上高5億円超の者に支配されている等)。個人が単独で設立する場合はまず該当しない
- 条件4:インボイス登録をすれば免税ではいられない。現実にはこれが免税を壊している
- 免税が2期分成立した場合の価値は、売上1,200万円で216.0万円、3,000万円で576.0万円
よくある質問
資本金は999万円にしておけばよいのですか?
消費税の判定という観点だけを見れば、事業年度開始の日の資本金が1,000万円未満であれば新設法人の特例には該当しません。ただし資本金は法人住民税の均等割の区分にも使われ、1,000万円を超えると均等割の額も上がります。取引先や金融機関からの見え方も含めて決める項目です。
免税事業者でいる間に受け取った消費税相当額はどうなりますか?
免税事業者は消費税の申告と納付が不要なので、受け取った消費税相当額は法人の収益になり、法人税の課税対象に含まれます。まるごと手元に残るわけではありません。
個人事業のときに提出した届出は法人に引き継がれますか?
引き継がれません。法人は個人事業主とは別の事業者として扱われるため、消費税の各種届出はあらためて法人として提出する必要があります。インボイスの登録番号も個人のものは使えません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。