税金の基礎
外国で引かれた税は取り戻せるか。外国税額控除の枠は個人と法人で違う
結論
外国税額控除の枠(控除限度額)は、日本で払う所得税・法人税の額に国外所得の割合を掛けた額です。売上1,200万円・経費200万円のうち30%が国外からの著作権の使用料で、外国で10%(36万円)が源泉された場合、個人事業主なら所得税112.6万円に対して国税と地方税の枠が合計43.7万円あり、全額を控除できます。同じ事業を法人で行い最適報酬の月54万円を取ると、法人税と地方法人税は41.0万円まで下がり、国税の枠は12.3万円しかありません。
- 居住者(非永住者を除く)と内国法人の普通法人は、国内外すべての所得に課税される。国外で課された税との二重課税は外国税額控除で調整する
- 個人の控除限度額は「所得税額×調整国外所得金額÷所得総額」で、これを超えた分は所得税の控除限度額の30%を上限に住民税から控除できる。法人の国外所得金額には所得金額の90%の上限がある
- 控除の代わりに、個人は必要経費(所法46条)、法人は損金(法法41条)に算入する方法も選べる。控除しきれなかった額は個人・法人とも前3年の枠の余りと繰り越して調整する
海外のプラットフォームや出版社から使用料を受け取ると、支払の段階で相手国の税金が引かれることがあります。日本の居住者は全世界の所得に課税されるので、同じ所得に日本の税金もかかります。この二重課税を調整するのが外国税額控除です。
ただし、引かれた税額がそのまま全額戻るわけではありません。控除できるのは「日本で払う税額のうち、国外所得に対応する部分」までです。この枠の決まり方が個人と法人で同じ形をしているため、法人化して利益を役員報酬で抜くと、法人の税額とともに枠が縮みます。この記事では、その差を計算エンジンで並べます。
個人も法人も、日本では全世界所得に課税される
国税庁 No.2010 によると、非永住者以外の居住者は、国内および国外で生じたすべての所得に課税されます。非永住者(日本国籍がなく、過去10年以内に国内に住所・居所があった期間が合計5年以下の人)は、国外源泉所得以外の所得と、国外源泉所得のうち国内で支払われたものや国外から送金されたものに限られます。
法人も同じです。国税庁「法人税のあらまし」によると、内国法人は国内に本店または主たる事務所を有する法人で、株式会社や合同会社などの普通法人は全ての所得に課税されます。
つまり、個人事業主のままでも法人化しても、国外からの収入は日本で課税されます。違いが出るのは、国外で引かれた税を日本の税額からどこまで差し引けるかです。
控除できるのは「日本の税額×国外所得の割合」まで
個人の外国税額控除の控除限度額は、国税庁 No.1240 で次のとおり示されています。
所得税の控除限度額 = その年分の所得税額 ×(その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)
復興特別所得税にも同じ割合の枠があり、所得税の枠を超えた分を差し引けます。それでも残った分は、地方税(住民税)から控除できます。**地方税の控除限度額は、所得税の控除限度額の30%**です。
法人の算式も同じ形です。法人税法施行令142条は、法人税の額に「所得金額のうちに調整国外所得金額の占める割合」を掛けた額を控除限度額としています。地方法人税と法人住民税にも、それぞれ国外所得に対応する枠があります。
法人だけに付く「90%シーリング」
個人と法人で形が違うのは、国外所得金額の上限です。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 控除限度額の算式 | 所得税額×調整国外所得金額÷所得総額 | 法人税額×調整国外所得金額÷所得金額 |
| 国外所得金額の上限 | 所得総額まで | 所得金額の90%まで(法令142条3項) |
| 国税で引ききれない分 | 住民税から(所得税の枠の30%まで) | 地方法人税・法人住民税の枠から |
| 控除の代わりに選べる方法 | 必要経費に算入(所法46条) | 損金に算入(法法41条) |
| 引ききれない額の調整 | 前3年以内の枠の余りと相互に繰越し | 前3年内事業年度の枠の余りと相互に繰越し |
国税庁の解説は、この算式の意味を「国内源泉の所得に対して課されるべき法人税額にまで浸食して控除を認めることはしない」と説明しています。所得の全部が国外から来ていても、法人は所得金額の90%までしか国外所得として扱えません。
何が「国外源泉所得」になるかで、枠そのものが消える
控除限度額の分子になるのは、国外源泉所得に係る所得です。国税庁 No.1240 は、国外源泉所得として次のようなものを挙げています。
- 国外において人的役務の提供を主たる内容とする一定の事業を行う者が受ける、その役務の対価
- 国外において業務を行う者から受ける著作権の使用料または譲渡の対価で、その業務に係るもの
- 租税条約で相手国が課税できるとされる所得のうち、外国所得税が課されるもの
ここで注意したいのは、日本国内で作業して海外の会社に納品した役務の対価は、原則として国外源泉所得ではないことです。国外所得がなければ控除限度額は0円で、相手国で引かれた税は外国税額控除では取り戻せません。
さらに、租税条約で相手国が課税できる額を超えて課された部分は、そもそも外国税額控除の対象になりません(国税庁 No.1240)。条約で免除・軽減されるはずの源泉税は、相手国での届出や還付請求で取り戻すのが本来の順番です。
計算エンジンで比べる:個人の枠と法人の枠
ここからは、国外源泉所得になる典型として著作権の使用料を例に取ります。前提は次のとおりです。
- 売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)
- 売上のうち30%(360万円)が国外の出版社・プラットフォームから受け取る著作権の使用料
- その使用料に、相手国で10%(36万円)の外国所得税が源泉徴収された
- 経費は売上に比例してかかるものとし、国外所得の割合を30%とする
個人事業主の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 112.6万円 |
| 控除限度額(国税) | 33.8万円 |
| 控除限度額(地方税) | 9.9万円 |
| 控除できる額 | 36.0万円 |
| 控除しきれない額 | 0.0万円 |
| 必要経費に算入した場合に減る日本の税・保険料 | 14.1万円 |
※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/gaikoku-zeigaku-kojo-kojin-houjin.mjs)で計算
※ 地方税の控除限度額は、所得税(復興特別所得税を除く)の控除限度額の30%
※ 必要経費に算入した場合の欄は、所得税・住民税・個人事業税・国保の減少額の合計
個人では、国税の枠33.8万円と地方税の枠9.9万円で、36万円を全額控除できます。必要経費に入れると日本の税と国保が14.1万円減りますが、控除なら36万円がそのまま税額から引かれるので、この条件では控除が有利です。
法人の場合(役員報酬別)
同じ事業を合同会社で行った場合です。外国所得税は法人が受け取る使用料から引かれるので、控除できるのは法人の税額からです。
| 役員報酬 | 法人税+地方法人税 | 控除限度額(国税) | 控除しきれない額 | 損金算入した場合に減る法人の税 |
|---|---|---|---|---|
| 月30万円 | 92.2万円 | 27.6万円 | 8.4万円 | 8.3万円 |
| 月40万円 | 70.7万円 | 21.2万円 | 14.8万円 | 8.2万円 |
| 月50万円 | 49.4万円 | 14.8万円 | 21.2万円 | 7.7万円 |
| 月54万円 | 41.0万円 | 12.3万円 | 23.7万円 | 7.7万円 |
| 月60万円 | 27.9万円 | 8.4万円 | 27.6万円 | 7.7万円 |
| 月70万円 | 6.8万円 | 2.0万円 | 34.0万円 | 7.7万円 |
※ 同じ条件・同じスクリプトで計算。合同会社・インボイス登録済み。月54万円はこの条件で手取り合計が最大になる役員報酬 ※ 控除限度額は国税(法人税・地方法人税)だけで計算している。法人住民税にも別に枠がある ※ 損金算入した場合の欄は、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の減少額の合計
表から読めること
法人の手取りが最大になる月54万円の報酬では、法人税と地方法人税が41.0万円しかなく、国税の枠は12.3万円です。外国で引かれた36万円のうち23.7万円は、その年には控除できません。
理由は単純です。役員報酬は法人の損金になるので、報酬を上げるほど法人の所得と法人税が減ります。外国税額控除の枠は法人税額に比例するため、手取りを最大にする報酬設計が、そのまま控除の枠を削ることになります。役員個人の所得税で引くこともできません。外国所得税を納めたのは法人で、役員報酬は国内の給与だからです。
損金算入を選んでも、法人の税は7.7万〜8.3万円しか減りません。控除しきれない額は、前3年以内に生じた枠の余りや、後の年の枠の余りと相互に繰り越して調整できます。翌年以降に法人税が増える見込みがあるなら繰越しで取り戻せる余地があり、ないなら損金算入と比べる形になります。
法人化の判断に、国外収入の割合を足して考える
国外からの使用料の割合が大きい人ほど、法人化で外国税額控除の枠が縮む影響は大きくなります。法人化の手取り差だけを見て判断すると、相手国で引かれた税のうち日本で取り戻せない額が抜け落ちます。
為替の換算差が個人と法人でどの年に出るかは外貨建て売掛金の期末換算、個人と法人で為替差損益の年がずれる、海外向け売上が消費税の判定に入るかどうかは海外向け売上は消費税1,000万円の判定に入る?で扱っています。国外の取引が多い場合は、法人化の手取り差を出したうえで、外国税の扱いを専門家に確認する価値があります。
まとめ
- 非永住者以外の居住者と内国法人の普通法人は、国内外すべての所得に課税される。国外で引かれた税は外国税額控除で調整する
- 控除限度額は、日本の税額に国外所得の割合を掛けた額。法人の国外所得金額には所得金額の90%の上限がある
- 日本国内で行った役務の対価は原則として国外源泉所得ではなく、控除の枠が生じない。条約の限度を超えて引かれた税も対象外
- 国外からの使用料が売上の30%・外国税10%の条件では、個人なら36万円を全額控除できるが、法人で最適報酬(月54万円)を取ると国税の枠は12.3万円しかない
- 控除の代わりに必要経費・損金に算入する方法もあり、控除しきれない額は前後3年の枠と繰り越して調整する
国外からの収入がある場合は、まず法人化したときの最適な役員報酬と法人に残る税額を自分の売上と経費で出し、その税額が外国税額控除の枠として足りるかを確かめてください。
よくある質問
日本で作業して海外の会社に納品した報酬に、相手国で税金を引かれました。日本で控除できますか?
日本国内で行った人的役務の対価は、原則として国外源泉所得になりません。国外所得金額がなければ控除限度額も生じないため、外国税額控除では取り戻せないことがあります。また、租税条約で相手国が課税できる額を超えて課された部分は、外国税額控除の対象外です(国税庁 No.1240)。相手国での条約の届出や還付請求を先に確認する必要があります。
同じ外国所得税を、外国税額控除と必要経費の両方に使えますか?
使えません。所得税法46条は、外国税額控除の適用を受ける外国所得税の額を必要経費に算入しないと定めています。法人も同じで、法人税法41条により、外国税額控除の適用を受ける外国法人税の額は損金に算入されません。どちらか一方を選ぶ形です。
外国税額控除を受けるのに必要な書類は何ですか?
個人の場合は「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」、外国所得税を課されたことを証する書類、税の名称・金額・納付日などを記載した書類、国外源泉所得の金額の計算明細などを確定申告書に添付します(国税庁 No.1240)。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。