税金の基礎

火災保険金・損害賠償金は非課税か。個人と法人で課税が分かれる

結論

個人が資産の損害で受け取る損害保険金・損害賠償金は非課税です(所得税法9条1項18号)。ただし商品(棚卸資産)や休業中の収益を補う分は事業収入になります。法人は保険金が全額益金で、帳簿価額150万円の設備に保険金400万円が出ると差額250万円が課税され、事業所得800万円の条件で法人税等が53.4万円増えます。代替資産を取得して圧縮記帳すれば当期の増加は0円です。

  • 個人:事業用の設備の保険金は非課税。損失から保険金を差し引き、保険金が損失を超えても超えた分は課税されない
  • 個人でも、商品の損害の保険金・賠償金と休業中の収益補償は事業所得の収入金額になる(所得税法施行令94条)
  • 法人:保険金は益金、滅失損は損金。保険差益は代替資産を取得すれば圧縮記帳(法人税法47条)で課税を繰り延べられる

同じ「保険金を受け取った」でも、個人事業主と法人では課税の出発点が逆です。個人は、資産の損害に対する保険金・賠償金が原則非課税で、例外として事業収入になるものを拾い出します。法人は全額が益金で、例外として課税を繰り延べる圧縮記帳を使います。この違いが、同じ火災で数十万円の差になります。

この記事は、受け取る側の課税に絞ります。被災した年の所得控除(雑損控除・災害減免法)は雑損控除と災害減免法。法人化で被災時の税の戻り方が変わるで扱っています。

個人が受け取る保険金・賠償金は「何の損害か」で決まる

所得税法9条1項18号は、損害保険契約に基づく保険金や損害賠償金で、心身や資産に加えられた損害について受けるものを非課税にしています。どれが非課税になるかは、所得税法施行令30条が具体的に定めています。

国税庁のタックスアンサー(No.1700)の整理に沿うと、個人が受け取るお金は次のように分かれます。

受け取るもの課税根拠
けがの治療費・慰謝料、けがで働けない間の収益の補償非課税所得税法施行令30条1号
火災・事故で自宅や車など資産が受けた損害の保険金・賠償金非課税所得税法施行令30条2号
事業用の設備・車両の損害の保険金・賠償金非課税(資産損失の計算で差し引く)所得税法51条1項
商品(棚卸資産)の損害の保険金・賠償金事業所得の収入金額所得税法施行令94条1項1号
休業・業務の休止による収益の補償事業所得の収入金額所得税法施行令94条1項2号
仮店舗の家賃など、必要経費を補塡する部分事業所得の収入金額所得税法施行令30条かっこ書き

境目の考え方は1つです。売上の代わりになるお金、経費の穴埋めになるお金は課税される。 資産そのものが失われたことの埋め合わせは課税されない。

「けがで働けない間の補償」と「休業補償」は別物

ここは混同しやすいところです。事業主本人がけがをして働けない間の収益を補う損害賠償金は、心身の損害に基因するものとして非課税です(所得税法施行令30条1号のかっこ書き)。

一方、店舗が燃えて営業できない間の売上を補う保険金は、資産の損害に伴う休業の補償です。こちらは所得税法施行令94条1項2号により、事業所得の収入金額になります。同じ「休業補償」という名前でも、原因が体か、事業用の資産かで扱いが逆になります。

商品の保険金が課税される理由

商品は、売れれば売上になる資産です。その商品が燃えて保険金が出れば、それは売上の代わりです。そのうえ、燃えた商品の原価は売上原価として経費に入ります。保険金を非課税にすると、経費だけが落ちて収入が立たず、所得が実際より小さくなってしまいます。所得税法施行令94条は、この不均衡を防ぐための規定です。

事業用の設備は非課税だが、損失から差し引く

個人事業主の店舗の設備や事業用の車が火災・事故で失われた場合、所得税法51条1項により、その損失は必要経費に入ります。ただし、損失の金額からは保険金や損害賠償金で補塡される部分を除きます。

そして、保険金が損失を上回った場合の扱いが、法人との最大の違いです。タックスアンサーNo.1700は、事業用車両の損害賠償金について、損失額を超えたとしても全額が非課税になると明記しています。

たとえば帳簿価額150万円の器具備品が全焼して、保険金400万円を受け取ったとします。

  • 資産損失150万円は、全額が保険金で補塡されるので必要経費は0円
  • 保険金400万円は非課税。損失を超える250万円も課税されない
  • 事業所得は、火災がなかった場合と同じ

保険金が帳簿価額を上回るのは珍しくありません。減価償却で帳簿価額は年々下がりますが、保険金額は再調達価額(同じものを買い直す値段)で契約されていることが多いからです。古い設備ほど、この差は大きくなります。

法人は全額が益金。差額は「保険差益」として課税される

法人には、所得税法9条のような非課税規定がありません。法人税は、資本取引以外の収益をすべて益金に入れるのが原則です。同じ火災を法人で受けると、次のようになります。

項目個人事業主法人
保険金400万円非課税益金
帳簿価額150万円の滅失必要経費0円(保険金で補塡)損金(滅失損)
所得への影響0円+250万円(保険差益)
新しい設備の取得価額買った金額のまま圧縮記帳をすればその分減る

法人にとって250万円は、帳簿上は「150万円の資産が400万円のお金に変わった」利益です。ところが実際には、同じ設備を買い直すと400万円かかり、手元には何も残りません。それでも課税されると、買い直しの資金が税金で削られます。

圧縮記帳は、この矛盾を和らげる仕組み

法人税法47条は、所有する固定資産の滅失・損壊で保険金等を受け取り、その事業年度終了の時までに同一種類の代替資産を取得した場合に、保険差益の範囲内で新しい資産の帳簿価額を減らし、その減額分を損金にできるとしています。

圧縮できる上限(圧縮限度額)は、法人税法施行令85条で計算します。考え方は次のとおりです。

  • 保険差益 = 保険金 − 焼跡整理費などの経費 − 滅失した資産の帳簿価額(被害部分)
  • 保険金(経費控除後)のうち、代替資産の取得に充てた割合だけ圧縮できる

保険金を全額買い直しに使えば保険差益の全額を、半分しか使わなければ半分を圧縮できます。

圧縮記帳の対象外になる保険金

法人税基本通達10-5-1は、固定資産の滅失に関連して受け取るものでも、次の保険金等には圧縮記帳を使えないとしています。

  • 棚卸資産の滅失で受ける保険金
  • 休業などで減った収益や、増えた費用を補塡する保険金

この2つは個人でも事業収入になるものです。つまり商品と休業補償は、個人でも法人でも課税される。差が出るのは設備など固定資産の保険金だけ、ということになります。

また、法人税基本通達10-5-2により、圧縮記帳を使うときは、保険金の額が確定するまで滅失損を仮勘定にしておき、損金に入れません。決算をまたいで保険金の査定が続くときは、処理の時期に注意が必要です。

同じ火災で、個人と法人の税負担はいくら違うか

帳簿価額150万円の設備が全焼し、保険金400万円を受け取った年について、税負担の増加を計算エンジンで出しました。法人の役員報酬は期中に変えられない(定期同額給与)ため、火災前に手取りが最大になる額で固定しています。

帳簿価額150万円の設備が全焼し、保険金400万円を受け取った年の税負担の増加

事業所得(火災前)法人の役員報酬個人:税・国保の増加法人:法人税等の増加(圧縮記帳なし)法人:保険差益の税引後法人:圧縮記帳ありの当期増加
600万円月42万円0.0万円(課税なら108.0万円)53.4万円196.6万円0.0万円
800万円月54万円0.0万円(課税なら102.9万円)53.4万円196.6万円0.0万円
1,000万円月54万円0.0万円(課税なら107.2万円)55.0万円195.0万円0.0万円
1,200万円月54万円0.0万円(課税なら121.7万円)57.9万円192.1万円0.0万円
1,500万円月54万円0.0万円(課税なら121.7万円)74.7万円175.3万円0.0万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人税等は法人税・地方法人税・法人住民税・事業税・特別法人事業税の合計。役員報酬は火災前の最適額で固定 ※ 「課税なら」は、仮に250万円が個人の事業所得に加わった場合に増える所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料(非課税規定がどれだけ効いているかの参考値)

表から読み取れることは3つあります。

  1. 個人は増加0円です。 非課税規定がなければ100万円を超える負担になる金額が、まるごと課税の外にあります
  2. 法人は圧縮記帳をしないと53万〜75万円増えます。 事業所得600万円と800万円では増加額が同じ53.4万円です。所得が上がると、法人の課税所得のうち税率の高い部分に250万円がかかるため、増加額が大きくなります
  3. 圧縮記帳をすれば当期の増加は0円です。 ただし、これは個人の非課税とは性質が違います

圧縮記帳は「非課税」ではなく「繰延べ」

圧縮記帳をすると、400万円で買った新しい設備の帳簿価額は150万円になります。耐用年数にわたって計上できる減価償却費の合計も、400万円ではなく150万円になります。250万円分の損金が将来から前倒しで使われただけで、数年かけて同じだけ課税所得が戻ってきます。

個人のほうは、新しい設備を400万円で取得すれば、400万円をそのまま減価償却できます。非課税の250万円が後から課税されることはありません。この点で、設備の保険差益については個人のほうが有利な制度設計になっています。補助金の圧縮記帳と個人の総収入金額不算入の比較は補助金100万円で増える負担は個人42.8万円・法人37.1万円で計算しています。こちらは保険金と違い、個人側も繰延べです。

代替資産を買わない場合

設備を買い直さず廃業する、あるいは別の種類の資産に切り替える場合、法人税法47条の圧縮記帳は使えません。同一種類かどうかは、法人税基本通達10-5-3により耐用年数省令の別表の区分で判定します。たとえば焼けた器具備品の代わりに車両を買っても、代替資産にはなりません。

事業年度内に取得が間に合わない場合には、法人税法48条(保険差益等に係る特別勘定)の制度があります。これも課税の繰延べを目的とした制度で、取得の期限などの要件は個別に確認が必要です。

法人化を考えるときに見ておく点

保険金の課税差は、火災や事故が起きた年にしか表に出ません。それでも、法人化の比較で見落とされやすい論点が2つあります。

保険の契約者を法人に切り替える必要がある

法人化して事業用の設備を法人に移したのに、火災保険の契約者・被保険者が個人のままでは、保険金を法人の資産の損害として受け取れない可能性があります。法人成りの際に、事業用の損害保険の名義を見直すのはこの理由です。保険料の損金算入の扱いは法人保険は全額損金にならない。返戻率別の4区分が参考になります。

休業補償は、個人でも法人でも課税される

休業中の収益を補う保険金は、個人は事業所得、法人は益金です。休業で減った売上を埋めるお金なので、平年並みの所得が立つことになります。ここに法人と個人の差はありません。

一方、法人の場合は役員報酬を期中に変えられないため、休業で売上が落ちても報酬と社会保険料はそのまま出ていきます。補償保険金が入るまでの資金繰りは、個人より厳しくなることがあります。

火災保険の差は単年の事象です。法人化の判断そのものは、毎年の売上と経費で決まる部分が大半を占めます。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 個人が資産の損害について受け取る損害保険金・損害賠償金は非課税(所得税法9条1項18号・所得税法施行令30条)
  • 商品の損害と休業中の収益の補償、経費を補塡する部分は、個人でも事業収入になる(所得税法施行令94条)
  • 事業用の設備の保険金は、損失から差し引いたうえで、損失を超えた部分も非課税
  • 法人は保険金が全額益金。帳簿価額150万円・保険金400万円の例で、法人税等は53.4万〜74.7万円増える
  • 法人は代替資産を取得すれば圧縮記帳(法人税法47条)で当期の課税を0円にできるが、減価償却費が減る繰延べにすぎない

よくある質問

自宅の火災保険金や家財の保険金は確定申告が必要ですか。

個人が自宅や家財といった資産の損害について受け取る損害保険金は、所得税法9条1項18号で非課税とされているため、所得として申告する必要はありません。雑損控除を受ける場合は、損失額から受け取った保険金を差し引いて計算します。

事故の相手から受け取った車の修理代(損害賠償金)は課税されますか。

個人が受け取る、突発的な事故で資産に加えられた損害についての損害賠償金は非課税です。事業用の車でも非課税ですが、廃車にして資産損失を経費にする場合は、損失額から賠償金で補塡される部分を差し引きます。代車の費用など経費を補塡する部分は事業収入になります。

法人が受け取った保険金で同じ設備を翌期に買う場合も圧縮記帳できますか。

法人税法47条の圧縮記帳は、保険金を受け取った事業年度の終了時までに代替資産を取得したことが前提です。翌期以降に取得する予定のときは、法人税法48条の保険差益等に係る特別勘定の制度が別にあります。要件と期限は個別に確認が必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。