税金の基礎
法人保険は全額損金にならない。返戻率別の4区分
法人契約の定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率によって保険料の40%・60%・最大90%を資産計上します。節税ではなく繰延べになる仕組みを整理します。
「法人保険は保険料を損金にできる」という説明だけで加入すると、初年度の節税額を大きく見誤ります。返戻率の高い定期保険等は、保険料の一部を前払保険料として資産に置くためです。
さらに、損金になる部分も会社から現金が出ていく点は変わりません。解約時には益金が生じるため、「払った年」「保有中」「解約した年」の3時点を一つの表で比較する必要があります。
最高解約返戻率で資産計上割合が決まる
国税庁の法人税基本通達9-3-5の2は、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものを次のように区分しています。
| 最高解約返戻率 | 資産計上する割合 | 当期に損金となる割合 |
|---|---|---|
| 50%以下 | 通達9-3-5の2の対象外 | 契約内容による |
| 50%超70%以下 | 40% | 60% |
| 70%超85%以下 | 60% | 40% |
| 85%超 | 当初10年は90%、その後は70% | 当初10年は10%、その後は30% |
たとえば年間保険料120万円、最高解約返戻率80%なら、資産計上は72万円、当期の損金は48万円です。120万円全額で法人所得が下がるわけではありません。
年間保険料120万円で区分を比較する
| 最高解約返戻率 | 資産計上額 | 当期損金額 | 会社から出る現金 |
|---|---|---|---|
| 65% | 48万円 | 72万円 | 120万円 |
| 80% | 72万円 | 48万円 | 120万円 |
| 90%・当初10年 | 108万円 | 12万円 | 120万円 |
返戻率90%の契約では、120万円を払っても当初の損金は12万円です。仮に損金12万円で当期の法人税等が数万円下がっても、残りの現金は保険契約へ移っています。「120万円使って、税金が120万円減る」関係ではありません。
ここでいう最高解約返戻率は、加入時点の解約返戻金ではなく、契約期間を通じて最も高くなる率です。初年度の返戻率が低いから50%以下の区分になる、という判定ではありません。設計書の返戻率推移を確認します。
最高解約返戻率70%以下で、被保険者1人あたりの年換算保険料相当額が30万円以下なら例外があります。複数契約は合計して判定するため、契約を分ければ必ず例外になるわけでもありません。
30万円基準は契約ごとではなく被保険者ごと
年換算保険料相当額30万円以下の例外は、最高解約返戻率が70%以下の契約に限られます。同じ社長を被保険者とする複数契約があれば合計します。
| 同じ被保険者の契約 | 年換算保険料 | 合計判定 |
|---|---|---|
| 契約A | 18万円 | |
| 契約B | 15万円 | |
| 合計 | 33万円 | 30万円超 |
契約を2本に分けて1本ずつ30万円以下にしても、合計33万円なら基準内にはなりません。また、死亡保険、医療保険、がん保険など商品名だけでは税務処理を決められません。契約者、被保険者、保険金受取人、保険期間、解約返戻率を一組で確認します。
対象になる契約と、同じ表を使えない契約
国税庁の返戻率別ルールは、法人が契約者となり、役員・使用人等を被保険者とする、保険期間3年以上の一定の定期保険・第三分野保険が中心です。
| 契約の特徴 | 確認する取扱い |
|---|---|
| 保険期間3年以上、返戻率50%超の定期保険等 | 返戻率別の資産計上ルール |
| 返戻率50%以下 | 契約内容に応じた別の通達 |
| 養老保険 | 満期保険金受取人等による取扱い |
| 終身保険 | 定期保険と同じ表をそのまま使わない |
| 役員だけを被保険者とする医療保険 | 福利厚生性や受取人を含めて確認 |
「50%以下だから全額損金」とも限りません。この記事の4区分は、返戻率の高い定期保険等に多額の前払部分がある場合のルールです。別種類の保険へ機械的に当てはめないでください。
返戻率が低い掛け捨ての契約で保険料が全額損金になる場合でも、保険金の受取人を遺族にすると扱いが変わります。一人社長は被保険者が自分ひとりなので、その保険料は役員給与になります。個人で払って生命保険料控除を取る場合との比較は生命保険料控除と法人契約の比べ方にまとめました。
保険期間の前半で資産、後半で取り崩す
50%超85%以下の区分では、保険期間の前半に資産を積み、後半の取崩期間で均等に損金へ移します。支払時に消えたのではなく、費用化の時期が後ろへ動いただけです。
50%超85%以下の資産計上期間
この区分では、原則として保険期間の開始から40%相当期間まで資産計上します。その後すぐ全額を取り崩すのではなく、保険期間の75%相当期間を経過した後から終了まで、資産を均等に取り崩します。
たとえば保険期間20年なら、概念上は次のように分かれます。
| 経過期間 | 主な会計処理の考え方 |
|---|---|
| 開始〜8年 | 区分に応じ40%または60%を資産計上 |
| 8年超〜15年 | 新たな資産計上期間は終わるが、既存資産は残る |
| 15年超〜20年 | 資産計上残高を均等に取り崩して損金化 |
実際の契約日・払込方法・保険期間で月数計算が必要です。「資産計上期間が終わった=その時点で全額損金」とは限りません。
85%超は返戻率の上がり方も見る
最高解約返戻率85%超では、当初10年間は支払保険料の90%を資産計上し、その後は70%を資産計上するのが基本です。資産計上期間は、単純に保険期間の40%ではなく、最高返戻率となる期間や返戻率の増加割合に連動します。
返戻率が高いほど現金が戻る可能性は高く見えますが、その分だけ損金化が先送りされます。ピーク直前に解約する設計でも、会社の利益や資金需要が予定どおりになる保証はありません。
これは経営セーフティ共済の出口課税と似ています。加入年の税額だけでなく、解約返戻金を受け取る年の利益、退職金など同じ年に出す費用、資金が拘束される期間をセットで見ます。
解約時は返戻金と資産残高の差を見る
年間120万円を5年間払い、合計600万円、資産計上割合60%で単純化すると、資産残高は360万円です。5年目に解約返戻金480万円を受け取った場合、差額120万円が益金になるイメージです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 支払保険料累計 | 600万円 |
| 支払時までの損金累計 | 240万円 |
| 資産計上残高 | 360万円 |
| 解約返戻金 | 480万円 |
| 解約時の益金 | 120万円 |
| 現金ベースの損失 | 120万円 |
支払時に240万円を損金へ入れ、解約時に120万円の益金が戻るため、課税のタイミングが動きます。同時に現金は600万円出て480万円しか戻っていません。税効果だけでなく、返戻率による120万円の現金差も比較対象です。
退職金600万円を同じ年に払えば、益金と費用が相殺される可能性はあります。しかし、退職の事実、役員退職金の相当額、株主総会等の決議が必要です。「将来退職金を出す予定」というだけで、加入時点の節税効果が確定するわけではありません。
「税率分だけ得する」ではない
保険料120万円のうち48万円が損金になり、仮にその年の法人税等が軽くなっても、会社の現金は120万円減っています。さらに解約時は、受取額から資産計上残高を差し引いた部分が益金になります。
したがって比較すべきなのは次の4点です。
- 保障として必要な保険金額
- 支払保険料のうち当期に損金となる額
- 解約返戻率と解約予定年
- 解約年に益金を受け止める費用が本当にあるか
法人税だけの負担率は法人税の実効税率の記事で確認できますが、保険商品の利回りや解約控除は別計算です。
法人化シミュレーションへ入れるときの注意
保険料を経費欄へ全額入れると、法人側の手取りを過大に見積もります。たとえば年120万円、返戻率80%なら当期損金は48万円で、72万円は資産です。
一方、判定ツールの「経費」は通常の事業経費を想定し、将来の解約返戻金や資産取崩しまで追跡しません。法人保険を比較へ入れるなら、少なくとも次の2ケースを別にします。
- 保険加入前:保険料を入れず、通常の法人化損益分岐点を確認する
- 保険加入後:当期損金部分だけを経費へ追加し、残りは会社資産として扱う
そのうえで、返戻金受取年の益金を別年度で試算します。単年度の税額が下がるケースだけで法人化や保険加入を決めないでください。
契約前に受け取る資料と確認項目
- 契約者・被保険者・死亡保険金受取人
- 保険期間と保険料払込期間
- 年ごとの解約返戻金と返戻率
- 最高解約返戻率と到達年度
- 年換算保険料相当額、同一被保険者の他契約
- 資産計上期間と取崩期間の会計処理
- 解約控除、払済変更、失効時の取扱い
- 保障が必要な期間と必要保険金額
販売資料の「損金割合」だけでなく、設計書の全期間表と経理処理の根拠を保存します。自分の売上・経費で法人化の基本差額を確認し、その差額と保険料による現金拘束を別々に比較してください。
保障目的と資金運用目的を混ぜない
社長が死亡したときの借入返済、当面の固定費、後継者採用費を備えるなら、必要保障額から保険金額を決めます。解約返戻率が高いことは、必要保障額が適切であることの代わりになりません。
| 目的 | 先に決める数字 |
|---|---|
| 借入返済 | 借入残高と個人保証の範囲 |
| 事業継続 | 固定費を何か月分確保するか |
| 死亡退職金 | 退職金規程と相当額 |
| 将来の解約 | 必要時期、返戻金、同年の益金・費用 |
死亡退職金は、遺族の側では500万円×法定相続人の数まで相続税がかかりません。ただし法人化して数年のうちは、非課税枠より損金にできる額の目安のほうが小さいことが多くあります。勤続年数別の比較は死亡退職金・弔慰金の非課税枠で計算しています。
保障が不要になった時期と返戻率のピークが一致するとは限りません。ピークまで持つために不要な保険料を払い続ければ、返戻率だけ高くても総額では不利になることがあります。
定期預金や現預金で持つ場合は流動性が高い一方、死亡保障はありません。法人保険は保障と資金拘束が一体です。税引後利回りだけでなく、必要なときに解約できるかを比較します。
まとめ
- 返戻率の高い法人保険は全額損金にならない
- 最高解約返戻率50%超70%以下は40%、70%超85%以下は60%を資産計上する
- 85%超は当初10年の資産計上割合が90%になる
- 節税ではなく費用化を後ろへ送る効果が中心
- 保障、資金拘束、解約時の益金まで並べて判断する
よくある質問
法人保険の保険料は全額を経費にできますか?
契約内容によります。最高解約返戻率が50%を超える一定の保険は、保険料の一部を資産計上します。
解約返戻金を受け取るとどうなりますか?
受取額と資産計上残高との差額が益金または損金になります。加入時だけでなく解約時の税負担まで比較が必要です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。