税金の基礎
生命保険料控除は12万円で頭打ち。法人契約とどちらが効くか
同じ保険料を個人で払って生命保険料控除を取る場合と、法人契約で損金にする場合を計算エンジンで比較しました。年間保険料10万円で減る税は個人が4,800〜1万2,000円、法人は最大2万3,300円。ただし法人が赤字になる役員報酬帯では順位が入れ替わります。
個人事業主のうちは、自分の生命保険料の置き場所は1つしかありません。生命保険料控除です。法人化すると「会社の損金」という置き場所が増え、同じ保険料でも減る税額が変わります。
売上1,200万円・経費200万円の一人会社で、年間保険料10万円の掛け捨て定期保険を計算エンジンに通すと、個人で払った場合に減る税は4,800〜1万2,000円、会社で払った場合は最大2万3,300円でした。ただし順位が入れ替わる報酬帯があります。
個人事業主のうちは、保険料の置き場所が1つしかない
事業主本人の生命保険料は必要経費になりません。国税庁のタックスアンサー No.2210 は、必要経費に算入する際の注意事項として「家事上の費用は必要経費となりません」と示しています。本人や家族の生命保険は事業のための支出ではないため、ここに入ります。
代わりに使えるのが生命保険料控除です。これは売上から差し引く経費ではなく、所得金額が確定したあとに差し引く所得控除です(所得税法76条)。国民健康保険料や国民年金保険料と違って、控除できる額に上限があります。
従業員を雇っている個人事業主が、従業員を対象とする保険料を負担する場合の扱いは別です。この記事で扱うのは、あくまで事業主本人・一人社長本人を被保険者とするケースに限ります。
生命保険料控除は年8万円の保険料で頭打ちになる
生命保険料控除でまず押さえるのは、保険料を増やしても控除額が増えない線があることです。平成24年1月1日以後に締結した契約(新契約)の控除額は次のとおりです。所得税と住民税で表が違うので、どちらの税の話かを常に区別してください。
所得税の控除額(新契約・1区分あたり)
| 年間の支払保険料等 | 所得税の控除額 |
|---|---|
| 2万円以下 | 支払保険料等の全額 |
| 2万円超 4万円以下 | 支払保険料等×1/2+1万円 |
| 4万円超 8万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万円 |
| 8万円超 | 一律4万円 |
住民税の控除額(新契約・1区分あたり)
| 年間の支払保険料等 | 住民税の控除額 |
|---|---|
| 1万2,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
| 1万2,000円超 3万2,000円以下 | 支払保険料等×1/2+6,000円 |
| 3万2,000円超 5万6,000円以下 | 支払保険料等×1/4+1万4,000円 |
| 5万6,000円超 | 一律2万8,000円 |
所得税の控除額は国税庁 No.1140、住民税の控除額は東京都主税局が公表している個人住民税の計算方法によります。頭打ちになる保険料が所得税は年8万円、住民税は年5万6,000円と違う点に注意してください。
この表は「一般の生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つにそれぞれ当てはめます。そのうえで、所得税は3つ合わせて12万円、住民税は3つ合わせて7万円が上限です。住民税は2万8,000円×3=8万4,000円にはならず、7万円で切られます。
平成23年12月31日以前に締結した契約(旧契約)は別表で、所得税は1区分あたり最高5万円、住民税は最高3万5,000円です。旧契約は介護医療保険料控除の区分がないため、対象は一般と個人年金の2つになります。
令和8年分から、23歳未満の扶養親族がいれば一般だけ枠が広がる
令和8年分以降の申告では、23歳未満の扶養親族がいる人の新生命保険料(一般の生命保険料のうち新契約分)について、別の計算式が使われます。
| 年間の新生命保険料 | 控除額(所得税) |
|---|---|
| 3万円以下 | 新生命保険料の全額 |
| 3万円超 6万円以下 | 新生命保険料×1/2+1万5,000円 |
| 6万円超 12万円以下 | 新生命保険料×1/4+3万円 |
| 12万円超 | 一律6万円 |
所得税の控除が頭打ちになる保険料が年8万円から年12万円へ、控除額の上限が4万円から6万円へ広がります。年間保険料10万円なら、所得税の控除額は4万円から5万5,000円になります。
対象は一般の生命保険料だけで、介護医療保険料と個人年金保険料の上限は4万円のままです。また国税庁 No.1140 が示しているのは所得税の控除額です。東京都主税局が示す住民税の新契約の表には、2026年9月時点で23歳未満の扶養親族による区分は設けられていません。
合計12万円の上限は動いていないので、満額の人は増えない
見落としやすいのはここです。国税庁 No.1140 は、各控除額の合計が12万円を超える場合は生命保険料控除額を12万円とすると明記しています。この合計の上限は据え置かれています。
3区分とも新契約で年8万円以上払っている人は、拡充前でも所得税の控除額が4万円+4万円+4万円=12万円で上限に達しています。拡充後は6万円+4万円+4万円=14万円になりますが、12万円で切られるため控除額は1円も増えません。枠が広がって効くのは、一般の保険料は多いが介護医療・個人年金が少ない人です。
所得控除は「上限に当たった瞬間に、それ以上の支出が税額に効かなくなる」性質を持ちます。医療費控除では動かないのが足切りの10万円でしたが、生命保険料控除で動かないのは上限のほうです。
法人契約は、保険金の受取人で3つに分かれる
法人が契約者になると、保険料の扱いは商品名ではなく保険金の受取人で決まります。国税庁 No.5364 は、保険期間3年以上で最高解約返戻率が50%を超えるものを除く定期保険・第三分野保険について、次のように整理しています。
| 保険金・給付金の受取人 | 法人の保険料の扱い |
|---|---|
| 法人 | 期間の経過に応じて損金に算入 |
| 被保険者またはその遺族 | 期間の経過に応じて損金に算入 |
| 被保険者またはその遺族で、役員等のみを被保険者とする場合 | その役員または使用人に対する給与 |
一人社長は、被保険者が自分ひとりです。国税庁がいう「役員または部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含みます。)のみを被保険者としている場合」に必ず当てはまります。つまり受取人を家族にした時点で、保険料は役員給与になります。
給与になっても会社の損金にはなります。同 No.5364 の注書きは、役員に対する給与とされる保険料のうち法人が経常的に負担するものは、経済的な利益の額が毎月おおむね一定なので定期同額給与になるとしています。減るのは法人の所得で、増えるのは役員個人の給与収入です。
そのうえで国税庁は、給与と認定された保険料はその役員または使用人の生命保険料控除の対象になるとしています。会社が払っているのに個人の控除が使える、という扱いです。
一人社長では養老保険の「ハーフタックス」が成立しない
死亡保険金の受取人を遺族、満期保険金の受取人を法人にして保険料の2分の1を損金にする設計は、養老保険の定番として知られています。国税庁 No.5363 の3番目の区分がこれにあたります。
ただし同じ区分に、役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合は、その残額(2分の1)はその役員に対する給与となる、というただし書きが付いています。従業員がいない一人会社では、この設計でも損金と給与の切り分けは起きません。
なお、この記事の計算で使うのは解約返戻金のない掛け捨ての定期保険です。最高解約返戻率が高い契約は保険料の一部を資産に計上するため、全額が当期の損金になりません。その区分は法人保険の返戻率別の資産計上割合にまとめてあります。
役員報酬別に、年10万円の保険料で減る税額を比べる
ここから実際の数字です。前提は売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円相当)の合同会社で、東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み。まず役員報酬ごとの内訳を出します。
売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合
| 役員報酬 | 手取り合計 | 役員個人の手取り | 法人に残る額 | 社会保険料(労使計) |
|---|---|---|---|---|
| 月10万円 | 632.5万円 | 102.8万円 | 529.6万円 | 33.4万円 |
| 月20万円 | 642.4万円 | 196.3万円 | 446.1万円 | 68.1万円 |
| 月30万円 | 650.8万円 | 289.1万円 | 361.6万円 | 102.2万円 |
| 月40万円 | 654.8万円 | 378.8万円 | 276.1万円 | 139.6万円 |
| 月50万円 | 659.7万円 | 468.6万円 | 191.1万円 | 170.3万円 |
| 月54万円 ←最適 | 662.4万円 | 504.8万円 | 157.6万円 | 180.5万円 |
| 月60万円 | 653.6万円 | 547.8万円 | 105.8万円 | 200.9万円 |
| 月70万円 | 646.8万円 | 625.4万円 | 21.4万円 | 228.6万円 |
| 月80万円 | 615.8万円 | 704.8万円 | -89.0万円 | 238.3万円 |
| 月90万円 | 570.0万円 | 784.4万円 | -214.4万円 | 249.2万円 |
| 月100万円 | 519.7万円 | 860.2万円 | -340.4万円 | 261.3万円 |
個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額
この表の役員報酬ごとに、年間保険料10万円の掛け捨て定期保険を2通りで処理し、減る税額を同じ計算エンジンで出しました。個人契約は新契約の一般生命保険料として所得税4万円・住民税2万8,000円の控除、法人契約は受取人を法人として10万円全額を損金にした場合です。
| 役員報酬 | 個人で払う(生命保険料控除) | 会社で払う(受取人=法人・全額損金) |
|---|---|---|
| 月20万円 | 4,800円 | 2万3,300円 |
| 月30万円 | 4,800円 | 2万3,300円 |
| 月40万円 | 4,800円 | 2万3,400円 |
| 月54万円(最適) | 6,900円 | 2万1,400円 |
| 月70万円 | 1万1,000円 | 2万1,500円 |
| 月90万円 | 1万2,000円 | 0円 |
※ 2026年(令和8年)分基準。個人側は所得税(復興特別所得税を含む)と住民税所得割の減少額、法人側は法人税・地方法人税・法人住民税法人税割・法人事業税・特別法人事業税の減少額
個人側が4,800円から1万2,000円までしか動かないのは、控除額が4万円と2万8,000円で固定されているからです。動くのは限界税率のほうだけです。うち住民税分は所得割の税率が一律10%なので、報酬がいくらでも2,800円から変わりません。報酬で動いているのは所得税分(2,000円〜9,200円)です。
一方、法人側は保険料10万円がそのまま課税所得を減らすため、減税額は2万円台に乗ります。控除額に上限がない分だけ効きが大きい、という関係です。
法人が赤字になる報酬帯では順位が入れ替わる
表の最終行を見てください。役員報酬が月90万円になると、法人で払った場合の減税額が0円になります。
この条件では、月90万円の役員報酬と会社負担の社会保険料を引いた時点で法人の税引前利益がマイナス207万円です。課税所得はすでにゼロなので、保険料10万円を損金にしても法人税等は1円も減りません。増えるのは欠損金だけです。青色申告の法人なら欠損金は10年繰り越せるので将来の利益と相殺できますが、その年の税額は動きません。
このとき残るのは個人側の1万2,000円です。「会社で払ったほうが効く」という一般論は、法人に課税所得があることを前提にしています。 役員報酬を取りすぎて法人が赤字になる帯では前提が崩れ、個人の生命保険料控除のほうだけが残ります。
受取人を遺族にした場合も見ておきます。保険料10万円が役員給与として個人の収入に上乗せされ、同時に生命保険料控除4万円が使えるケースです。社会保険料は変わらないものとして、個人側の税額の増加分を計算しました。
| 役員報酬 | 保険料が給与になることによる個人の増税 | 法人の減税から差し引いた残り |
|---|---|---|
| 月20万円 | 5,800円 | 1万7,500円 |
| 月54万円 | 9,300円 | 1万2,100円 |
| 月70万円 | 1万6,400円 | 5,100円 |
| 月90万円 | 2万1,300円 | −2万1,300円 |
受取人を遺族にすると、法人の減税分が個人の増税で目減りします。月90万円の帯では法人側がゼロなので、増税だけが残って手取りは2万1,300円減ります。
ただし、税額だけで受取人を決められない点は押さえてください。受取人を法人にすれば保険料は損金になりますが、保険金は会社に入ります。遺族へ渡すには死亡退職金・弔慰金として支給する手続きが要り、その非課税枠の範囲内かどうかが別に問題になります。減る税額と、保険金が誰の手元に入るかは別の話です。
役員報酬をいくらにするかで法人の課税所得は大きく変わります。自分の売上と経費で法人の利益がどのあたりに着地するかは、役員報酬の最適額と合わせて確かめてください。計算の前提は計算の根拠にまとめています。
まとめ
- 事業主本人の生命保険料は必要経費にならず、所得控除である生命保険料控除で処理する。所得税は3区分合計で最高12万円、住民税は最高7万円
- 新契約の一般生命保険料は、年8万円を超えると所得税の控除額が4万円で頭打ちになる(住民税は年5万6,000円超で2万8,000円)
- 令和8年分以降、23歳未満の扶養親族がいれば一般の枠は所得税で6万円に広がる。ただし合計12万円の上限は据え置きなので、3区分とも満額の人は増えない
- 法人契約の扱いは受取人で決まる。一人社長が受取人を遺族にすると、被保険者が役員のみなので保険料は役員給与になる(給与とされた保険料も生命保険料控除の対象)
- 売上1,200万円・経費200万円の試算では、年10万円の保険料で減る税は個人が4,800〜1万2,000円、法人が最大2万3,300円。法人が赤字になる月90万円の帯では法人側が0円になり、順位が入れ替わる
ここで出した金額は、東京23区・40歳未満・独身という特定の条件での概算です。役員報酬の水準と法人の課税所得の有無で結論が変わるので、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
個人事業主は自分の生命保険料を経費にできますか?
できません。事業主本人の生命保険料は家事上の費用にあたり、必要経費になりません。所得控除である生命保険料控除として、所得税で最高12万円、住民税で最高7万円まで差し引く形になります。
法人契約にすれば保険料は必ず損金になりますか?
契約内容によります。保険金の受取人が法人で、解約返戻金がないか最高解約返戻率が低い定期保険であれば、期間の経過に応じて損金になります。返戻率が高い契約は保険料の一部を資産に計上します。
法人が払った保険料が給与とされた場合、生命保険料控除は使えますか?
使えます。国税庁は、給与と認定された保険料はその役員または使用人の生命保険料控除の対象になるとしています。会社側では毎月おおむね一定の経済的利益として定期同額給与に該当します。
役員報酬を上げて法人が赤字になると、保険料の損金はどうなりますか?
その年の税額は減りません。損金は増えますが、課税所得がすでにゼロなので法人税等は動かず、欠損金が増えるだけです。欠損金は青色申告の法人なら翌期以降に繰り越せます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。