役員報酬

死亡退職金・弔慰金の非課税枠。一人社長は役員報酬の半年分が効く

役員が亡くなったとき、法人から遺族に払う死亡退職金は500万円×法定相続人の数まで、弔慰金は業務外の死亡なら報酬の半年分まで相続税がかかりません。報酬を月54万円から月30万円に下げると弔慰金の枠は144万円縮みます。勤続年数別に、どちらの枠が先に効くかも計算しました。

一人社長が亡くなったとき、法人から遺族に払うお金には相続税の非課税枠が2つあります。死亡退職金は「500万円×法定相続人の数」、弔慰金は業務外の死亡なら「役員報酬の半年分」までです。

2つの枠は決まり方がまったく違います。前者は家族の人数で決まり、後者は役員報酬の月額で決まります。役員報酬が月54万円なら、弔慰金の枠は324万円です。そして個人事業主には、そもそもどちらの枠もありません。

2つの非課税枠は、決まり方がまったく違う

まず2つを並べます。

死亡退職金弔慰金
根拠相続税法(国税庁 No.4117)相続税法基本通達3-20(国税庁 No.4120)
非課税の範囲500万円 × 法定相続人の数業務上の死亡:普通給与の3年分/業務外の死亡:普通給与の半年分
何で決まるか家族の人数亡くなった人の役員報酬の月額
超えた部分相続税の課税対象退職手当金等として扱われ、死亡退職金の枠で判定される
相続人以外が受け取った場合非課税の適用なし3-20の範囲は弔慰金として扱われる

死亡退職金は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものが相続税の対象になります。現金を相続したのではなく、相続で取得したものとみなされる財産(みなし相続財産)という扱いです。法定相続人の数は、相続を放棄した人がいても放棄がなかったものとして数えます。養子は、実子がいれば1人まで、いなければ2人までです。

弔慰金は、名目が弔慰金でも実質が退職手当金なら退職手当金として扱われます(相続税法基本通達3-18・3-19)。そうでないものについて、3-20が「弔慰金等に相当する金額」を決めています。業務上の死亡なら死亡当時の普通給与の3年分、業務外の死亡なら半年分です。これを超えた部分は退職手当金等として、死亡退職金の500万円×人数の枠に合算されます。

所得税もかからない

どちらも所得税の対象にはなりません。死亡後に支給期が到来する退職手当等で、相続税の課税価格の計算に算入されるものは課税しない(所得税基本通達9-17)とされています。葬祭料・香典などで社会通念上相当と認められるものも課税しません(同9-23)。国税庁の質疑応答事例は、雇用主から受ける弔慰金はこの9-23で扱うと整理しています。

個人事業主には、払ってくれる法人がない

死亡退職金も弔慰金も、雇用主などが遺族に支払うお金です。個人事業主は自分自身が事業主なので、自分の事業から自分の死亡退職金を出すことはできません。

例外は小規模企業共済です。共済契約者が亡くなったときの共済金は死亡退職金として支払われ、みなし相続財産として500万円×人数の枠の対象になります。この扱いは会社等の役員として加入している場合も同じです。

一人社長が小規模企業共済にも入っている場合、法人の死亡退職金と共済金は同じ1つの枠を分け合います。非課税限度額は、すべての相続人が受け取った死亡退職金の合計額で判定するからです。法人成り後も共済を続けられることは小規模企業共済は法人成り後も継続できるで扱っています。

弔慰金の枠は、役員報酬の月額で決まる

弔慰金の枠の基礎になる「普通給与」は、賞与以外の俸給・給料・賃金・扶養手当などの合計です。一人社長なら、定期同額給与として毎月払っている役員報酬がそのまま入ります。

当サイトの判定ツールで出る最適な役員報酬を入れると、枠は次のようになります。

事業所得最適な役員報酬弔慰金の非課税限度(業務外の死亡・半年分)弔慰金の非課税限度(業務上の死亡・3年分)
400万円月28万円168万円1,008万円
600万円月42万円252万円1,512万円
800万円月48万円288万円1,728万円
1,000万円月48万円288万円1,728万円
1,200万円月54万円324万円1,944万円
1,500万円月54万円324万円1,944万円
1,800万円月90万円540万円3,240万円

※ 経費200万円・東京23区・40〜64歳・配偶者あり・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

事業所得1,200万円と1,500万円では枠が同じ324万円です。最適な役員報酬がどちらも月54万円で止まるため、弔慰金の枠も動きません。枠を決めるのは会社の儲けではなく、毎月いくら自分に払っているかです。この構造は役員退職金の功績倍率と同じです。

賞与に寄せると、枠は縮む

3-20は「賞与以外の普通給与」と明記しています。社会保険料を下げる目的で月額を抑え、事前確定届出給与で賞与に寄せると、年間の支給総額が同じでも弔慰金の枠は月額の分しか残りません(事前確定届出給与で社会保険料は下がるか)。

非常勤役員で賞与だけを受けていた場合は、直近の賞与額や同業の同じ地位の役員の給与などから、普通給与を評定し直します(3-21)。

一人社長の死亡は、多くが「業務外」の枠になる

3-22は、業務上の死亡を「直接業務に起因する死亡又は業務と相当因果関係があると認められる死亡」としています。病気で亡くなった場合は、多くがこの定義から外れて半年分の枠になります。

もう1つ、従業員と役員で差がつく規定があります。3-23は、法律に基づく遺族補償などを退職手当金等に当たらないものとして列挙しています。その(13)は、業務上の死亡で就業規則などに基づき支給される災害補償金・遺族見舞金などを加えています。ただし対象は「従業員(役員を除く)」です。役員への上乗せの災害補償金は、この扱いを受けられません。

一方、(1)の労災保険の遺族補償給付・葬祭料は役員に限定されていません。一人社長が労災保険に特別加入していれば、そこから出る遺族補償給付は退職手当金等にも弔慰金の枠にも入りません。特別加入の可否は一人社長は労災に入れるかで扱っています。

報酬を下げると、手取りの差より弔慰金の枠のほうが大きく動く

事業所得1,200万円のケースで、役員報酬を動かしたときの手取りと、弔慰金・退職金の枠を並べます。

役員報酬手取り合計(年)最適額との差弔慰金の非課税限度(半年分)弔慰金の非課税限度(3年分)退職金の目安(勤続10年)
月10万円737.2万円−50.3万円60万円360万円300万円
月20万円760.8万円−26.7万円120万円720万円600万円
月30万円774.9万円−12.6万円180万円1,080万円900万円
月40万円777.4万円−10.1万円240万円1,440万円1,200万円
月54万円 ←最適787.5万円324万円1,944万円1,620万円
月70万円774.5万円−13.0万円420万円2,520万円2,100万円
月90万円766.6万円−20.9万円540万円3,240万円2,700万円

※ 経費200万円・東京23区・40〜64歳・配偶者あり・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 退職金の目安は功績倍率法(最終報酬月額×勤続年数×倍率)で倍率を3.0と仮に置いたもの。倍率に法令上の数値基準はない

月54万円から月30万円に下げると、手取りの減少は年12.6万円です。その裏で、業務外の弔慰金の枠は324万円から180万円へ144万円縮みます

最適額より上げる方向も見ておきます。月70万円にすると手取りは年13.0万円減り、弔慰金の枠は96万円広がります。枠を広げるために報酬を上げる、という使い方は割に合いません。枠が広がっても、それを使うのは亡くなったときだけだからです。

この表から言えるのは、報酬を下げる判断が手取りの表だけでは見えない枠も動かす、ということです。判定ツールが出す最適額は手取りが最大になる額で、死亡時の枠は計算に入っていません。まず自分の条件で最適報酬を確かめ、その6倍が弔慰金の枠の目安になると押さえておけば足ります。

若くして亡くなると、非課税枠より損金の目安のほうが小さい

死亡退職金の非課税枠は、家族の人数だけで決まります。一方、法人がその額を実際に払えるかは別の問題です。役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項)。実務では功績倍率法の目安がよく使われます。

役員報酬月54万円で、勤続年数別に目安と非課税枠を並べます。

役員としての勤続年数損金にできる退職金の目安非課税枠(相続人2人:1,000万円)非課税枠(相続人3人:1,500万円)
1年162万円838万円余る1,338万円余る
3年486万円514万円余る1,014万円余る
5年810万円190万円余る690万円余る
7年1,134万円使い切る(超過134万円)366万円余る
10年1,620万円使い切る(超過620万円)使い切る(超過120万円)
15年2,430万円使い切る(超過1,430万円)使い切る(超過930万円)
20年3,240万円使い切る(超過2,240万円)使い切る(超過1,740万円)

※ 功績倍率3.0は仮に置いた倍率。実際に相当と認められる額は、業務に従事した期間・退職の事情・同業種同規模法人の支給状況等で判定される

配偶者と子2人(相続人3人)なら、目安が非課税枠に届くのは勤続10年目です。相続人1人なら4年、2人なら7年、4人なら13年になります。

それより前に亡くなった場合、効いているのは相続税の非課税枠ではありません。法人がいくらまで損金として払えるか、そしてその現金が法人にあるか、のほうです。法人化して数年の一人社長では、非課税枠は余る側にあります。

法人成りした場合、個人事業主だった期間は役員の勤続年数に入りません(役員退職金はいくらまで損金か)。死亡退職金の原資を法人保険で準備する場合、保険料の損金算入の扱いは法人保険は全額損金にならないで扱っています。

相続税がかからない家族なら、枠の大小は結果を変えない

ここまでの枠は、相続税がかかる場合に初めて意味を持ちます。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。

法定相続人の数相続税の基礎控除死亡退職金の非課税枠死亡保険金の非課税枠
1人3,600万円500万円500万円
2人4,200万円1,000万円1,000万円
3人4,800万円1,500万円1,500万円
4人5,400万円2,000万円2,000万円

死亡保険金にも同じ算式の非課税限度額があり、死亡退職金の枠とは別に計算します。さらに配偶者には、取得した財産が1億6千万円か法定相続分相当額のどちらか多い金額までなら相続税がかからない税額軽減があります。ただしこの軽減は、申告して初めて受けられます。

つまり、遺産の合計が基礎控除に届かない家族では、非課税枠をいくら残しても使い道がありません。枠の大きさが効くのは、遺産が基礎控除を超える家族だけです。枠の計算より先に、遺産全体が基礎控除を超えそうかを確かめるほうが順番として正しいでしょう。

もう1つ、非課税枠は相続人が受け取った分にしか使えません。内縁の配偶者のように相続人でない人が受け取った死亡退職金には、500万円×人数の枠は適用されません。

遺族には、相続税とは別に公的年金からの給付もあります。在職中に亡くなった場合の遺族厚生年金は、役員報酬の月額と家族の形で年額が決まります(遺族厚生年金は法人化で年65万円)。遺族年金は所得税も相続税もかからないので、ここまでの枠とは別に家族の手元に残ります。

判定ツールの数字は、生きて働き続ける前提の単年の手取りです。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で最適報酬を出し、その月額からこの記事の枠を当てはめてみてください。

まとめ

  • 法人から遺族に払うお金の非課税枠は2つ。死亡退職金は500万円×法定相続人の数、弔慰金は業務外の死亡なら普通給与の半年分、業務上なら3年分
  • 弔慰金の枠は役員報酬の月額で決まる。月54万円なら324万円。月30万円に下げると手取りは年12.6万円減る一方、枠は144万円縮む
  • 普通給与は賞与以外。事前確定届出給与に寄せると枠は月額の分しか残らない。役員には3-23(13)の災害補償金の扱いがない
  • 役員報酬月54万円・功績倍率3.0(仮)なら、損金の目安が非課税枠(相続人3人・1,500万円)に届くのは勤続10年目。それまでは非課税枠より損金と現金のほうが先に尽きる
  • 個人事業主には払ってくれる法人がない。例外の小規模企業共済は、法人の死亡退職金と同じ1つの枠を分け合う

よくある質問

法人から遺族が受け取る弔慰金に所得税はかかりますか?

葬祭料や香典などで、受け取る人の社会的地位や贈与者との関係に照らして社会通念上相当と認められるものは、所得税基本通達9-23により課税されません。国税庁の質疑応答事例も、雇用主から受ける弔慰金はこの通達で扱うとしています。

内縁の配偶者が死亡退職金を受け取った場合も非課税枠はありますか?

ありません。死亡退職金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)は相続人が取得した分に適用されるもので、相続人以外の人が取得した死亡退職金には適用されません。

死亡退職金に所得税の退職所得の課税はかかりますか?

死亡後に支給期が到来する退職手当等で、相続税の課税価格の計算の基礎に算入されるものは、所得税基本通達9-17により所得税が課されません。退職所得控除の計算ではなく、相続税の枠組みで扱われます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。