社会保険

遺族厚生年金は法人化で年65万円。加入1年でも25年分で計算される

個人事業主が亡くなっても、子のない配偶者には遺族基礎年金が出ません。一人社長が在職中に亡くなると、加入1年でも300月とみなされ、役員報酬月54万円なら遺族厚生年金は年65万3,609円。世帯の形別の受取額と、2028年4月からの見直しの影響まで計算しました。

個人事業主が亡くなったとき、子のない配偶者は遺族基礎年金を受け取れません。国民年金から出るのは、条件を満たした場合の寡婦年金か死亡一時金だけです。

一人社長が在職中に亡くなると、配偶者には遺族厚生年金が出ます。役員報酬が月54万円なら年65万3,609円です。しかも厚生年金の加入期間が短くても、300月(25年)加入したものとみなして計算されます。法人化した翌年に亡くなっても、この額は変わりません。

遺族基礎年金は「子のある配偶者」にしか出ない

公的年金の遺族給付も2階建てです。1階の遺族基礎年金は、個人事業主にも一人社長にも共通です。ただし受け取れるのは「子のある配偶者」と「子」に限られます。

ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までの子か、20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子です。令和8年4月分からの年金額は次のとおりです。

遺族基礎年金(令和8年4月分から)年額
配偶者の基本額(昭和31年4月2日以後生まれ)847,300円
子の加算(1人目・2人目)各243,800円
子の加算(3人目以降)各81,300円

子が高校を卒業する年度を過ぎれば、遺族基礎年金は止まります。子のいない夫婦なら、最初から1円も出ません。

その穴を埋めるのが、国民年金の第1号被保険者だけにある2つの独自給付です。

  • 寡婦年金:第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が10年以上ある夫が亡くなったとき、婚姻関係が10年以上続いていた妻が60歳から65歳になるまで受け取る。額は夫の第1号被保険者期間で計算した老齢基礎年金の4分の3
  • 死亡一時金:第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月以上ある人が亡くなったとき、生計を同じくしていた遺族が受け取る。額は12万円〜32万円

両方を受け取れる場合は、どちらか一方を選びます。夫が第1号被保険者として全期間納付していた場合の額は次のとおりです。

夫の第1号被保険者期間寡婦年金(年額)寡婦年金の5年間の総額死亡一時金
120月(10年)158,869円794,345円120,000円
180月(15年)238,303円1,191,515円145,000円
240月(20年)317,738円1,588,690円170,000円
300月(25年)397,172円1,985,860円220,000円
360月(30年)476,606円2,383,030円270,000円
420月(35年)556,041円2,780,205円320,000円

※ 寡婦年金は老齢基礎年金の満額847,300円 × 納付月数 ÷ 480 × 3/4 で計算。死亡一時金は付加保険料の加算(8,500円)を含まない/令和8年4月分からの額

寡婦年金は妻にしか出ず、受け取れるのも60歳から65歳までの5年間だけです。夫を40歳で亡くした妻は、20年待たないと1円も受け取れません。

遺族厚生年金は報酬比例の4分の3。在職中なら加入1年でも300月

2階の遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者が亡くなったときなどに支給されます。受給要件は5つあり、大きく2つに分かれます。

  • 短期要件:厚生年金保険の被保険者である間に亡くなったとき/被保険者期間中に初診日がある傷病で初診日から5年以内に亡くなったとき/1級・2級の障害厚生年金を受けている方が亡くなったとき
  • 長期要件:受給資格期間が25年以上ある方が亡くなったとき

年金額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。平成15年4月以後の期間は「平均標準報酬額 × 5.481 ÷ 1000 × 加入月数」で報酬比例部分を計算します。

一人社長が在職中に亡くなった場合は短期要件にあたります。短期要件では、加入期間が300月未満なら300月とみなして計算します。役員報酬別に出したのが次の表です。

役員報酬(月)厚年の標準報酬月額報酬比例(300月みなし)遺族厚生年金(年額)1か月あたり
月20万円200,000円328,860円246,645円20,554円
月28万円280,000円460,404円345,303円28,775円
月42万円410,000円674,163円505,622円42,135円
月54万円530,000円871,479円653,609円54,467円
月65万円650,000円1,068,795円801,596円66,800円
月90万円650,000円1,068,795円801,596円66,800円

※ 在職中の死亡(短期要件)・賞与なし・報酬額が全期間一定・再評価率1.000として計算した概算/令和8年4月分からの乗率

月28万・42万・54万円は、事業所得400万・600万・800万円のときに当サイトの判定ツールが出す最適な役員報酬です。月65万円と月90万円の行は同じ額になっています。厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円です。報酬月額63万5,000円以上はすべて同じ等級なので、遺族厚生年金もそこで頭打ちになります。上限は令和9年9月から段階的に引き上げられます(厚生年金の上限が75万円へ)。

老齢厚生年金と、計算に使う月数が違う

法人化で厚生年金は年69万円増えるでは、老齢厚生年金を実際の加入月数で計算しました。役員報酬月54万円で20年加入すると、報酬比例部分は年69万7,183円です。

遺族厚生年金は違います。在職中の死亡なら、加入1年目でも300月分の報酬比例部分を土台にします。1か月あたりの保障の厚さでいえば、法人化した直後がいちばん厚いということです。障害厚生年金にも同じ300月みなしがあります(障害年金の3級は厚生年金だけ)。

短期要件のうち在職中の死亡と初診日から5年以内の死亡には、保険料の納付要件があります。死亡日の前日時点で、国民年金の加入期間のうち保険料納付済期間(厚生年金の期間を含む)と免除期間が3分の2以上あることが原則です。死亡日が令和18年3月末日までで65歳未満なら、直近1年間に未納がなければ満たすという特例があります。役員報酬から天引きされる厚生年金保険料は、この直近1年の条件を自然に満たしていきます。

世帯の形別に並べると、差がいちばん大きいのは子のない40代の妻

役員報酬月54万円の一人社長が在職中に亡くなった場合と、個人事業主が亡くなった場合を、遺された家族の形別に並べます。

遺された家族個人事業主が亡くなった場合(年額)一人社長(月54万円)が在職中に亡くなった場合(年額)差(年額)
妻と子2人(子が18歳年度末まで)1,334,900円1,988,509円653,609円
妻と子1人1,091,100円1,744,709円653,609円
子のない妻(40歳以上65歳未満)0円1,289,109円1,289,109円
子のない妻(30歳以上40歳未満)0円653,609円653,609円
子のない妻(30歳未満)0円653,609円653,609円

※ 個人事業主の側は遺族基礎年金のみ(寡婦年金・死亡一時金は受給開始や一時金のため含めない)。現行制度(2028年3月までの死亡)での額/令和8年4月分から

子のない40歳以上の妻の行だけ差が倍になっているのは、中高齢の寡婦加算が付くためです。夫が亡くなったときに妻が40歳以上65歳未満で子がいない場合、遺族厚生年金に40歳から65歳になるまで年635,500円が加算されます。子のある妻も、子が18歳の年度末を過ぎて遺族基礎年金が止まった時点で40歳以上なら、その後この加算に切り替わります。

中高齢の寡婦加算には、長期要件で受け取る場合に限り「夫の厚生年金の加入期間が20年以上」という条件があります。在職中の死亡は短期要件なので、この20年の条件はかかりません。法人化1年目の一人社長でも加算の対象になります。

子のない30歳未満の妻は、遺族厚生年金が5年間の有期給付になります。表の年額は、その5年間の額です。

65歳までの受取総額にすると

年額の差を、妻が65歳になるまでの総額にしたのが次の表です。個人事業主の側は、夫が第1号被保険者として20年間保険料を納めていた前提で、寡婦年金(5年間)と死亡一時金の多いほうを置いています。

夫が亡くなったときの妻の年齢個人事業主:65歳までの受取総額一人社長:65歳までの受取総額
35歳158.9万円1,960.8万円1,802.0万円
40歳158.9万円3,222.8万円3,063.9万円
45歳158.9万円2,578.2万円2,419.3万円
50歳158.9万円1,933.7万円1,774.8万円
55歳158.9万円1,289.1万円1,130.2万円
60歳158.9万円644.6万円485.7万円

※ 子のない妻・役員報酬月54万円・在職中の死亡・現行制度で計算。年金額は令和8年度の額で固定し、改定率による変動は見込んでいない

差がいちばん大きいのは40歳の3,063.9万円です。35歳より40歳のほうが大きいのは、中高齢の寡婦加算が「夫の死亡時に40歳以上」を要件にしているためです。35歳で夫を亡くした妻は、40歳になっても加算は付きません。

なお遺族厚生年金は65歳で終わる給付ではありません。65歳以降は妻自身の老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金はそれに相当する額が支給停止されます。配偶者の死亡による場合は、本来の額と「その3分の2+本人の老齢厚生年金の2分の1」のうち高いほうが遺族厚生年金の額になります。表を65歳で止めているのは、この調整が妻本人の年金額で変わるためです。

国民年金法・厚生年金保険法に基づく遺族年金は、原則として所得税も相続税もかかりません。表の額がそのまま手元に残ります。法人から遺族に払う死亡退職金と弔慰金にも、相続税の非課税枠があります(死亡退職金・弔慰金の非課税枠)。

法人をたたむと、300月みなしも寡婦加算も消える

300月みなしは短期要件の話です。法人を解散して個人事業主に戻ったあとで亡くなると、多くの場合は長期要件(受給資格期間25年以上)での支給になります。長期要件には300月みなしがなく、実際に厚生年金に加入していた月数で計算します

一人社長だった期間(月54万円)在職中に亡くなった場合(短期要件)退任後に亡くなった場合(長期要件)中高齢の寡婦加算(長期要件)
1年653,609円26,144円なし
5年653,609円130,722円なし
10年653,609円261,444円なし
15年653,609円392,166円なし
20年653,609円522,887円635,500円

※ 長期要件は国民年金の期間と合わせて受給資格期間25年以上が前提。長期要件の乗率は死亡した方の生年月日によって異なる場合がある。退任後に被保険者期間中の傷病で初診日から5年以内に亡くなった場合は短期要件になる

5年で法人をたたむと、遺族厚生年金は在職中の5分の1になります。長期要件で中高齢の寡婦加算を受けるには、厚生年金の加入が20年以上必要です。

同じことは役員報酬を0円にしたときにも起こります。報酬がなければ厚生年金の被保険者にならず、在職中の死亡という前提が崩れます(役員報酬0円で社会保険は外れるか)。報酬を低く抑えて配当で受け取る設計も、300月みなしの土台になる標準報酬月額を下げます(役員報酬と配当はどっちが得か)。

社長が妻なら、夫への給付は2028年4月から変わる

ここまでは亡くなるのが夫の場合でした。一人社長が妻で、夫が遺される場合は条件が大きく違います。

現行制度では、夫が遺族厚生年金を受け取るには妻の死亡当時に55歳以上であることが必要で、受給開始は60歳からです。55歳未満の夫には受給権がありません。中高齢の寡婦加算も妻だけの制度で、夫には同様の加算がありません。

この男女差は、令和7年6月13日に成立し6月20日に公布された年金制度改正法で見直されます。遺族厚生年金の見直しの施行は2028年4月です。

現行制度2028年4月から
子のない夫(60歳未満で死別)55歳未満は給付なし。55歳以上は60歳から無期給付原則5年間の有期給付
子のない妻(60歳未満で死別)30歳未満は5年間の有期給付。30歳以上は無期給付原則5年間の有期給付。20年かけて段階的に実施
60歳以上で死別無期給付無期給付(変更なし)
中高齢の寡婦加算年635,500円(令和8年度)施行日以降に新規に発生する加算は、令和35年度まで25年かけて段階的に縮小

見直し後の有期給付には「有期給付加算」が上乗せされ、厚生労働省は額が現在の遺族厚生年金の約1.3倍になると説明しています。5年経過後も、障害状態にある方や収入が十分でない方には給付が続きます(継続給付)。また、有期給付では現在の収入要件(年収850万円未満)が外れます。

影響を受けないのは、すでに遺族厚生年金を受け取っている方、60歳以降に受給権が発生する方、18歳年度末までの子を養育している間の方、2028年度に40歳以上になる女性です。中高齢の寡婦加算も、一度受け取り始めた額は65歳まで変わりません。

上の3つの表は、2028年3月までに亡くなった場合の現行制度の額です。いま40歳未満の妻について、法人化の判断を何十年も先まで遺族年金に頼るのは危ういということになります。一方で、妻が社長で夫が遺される世帯では、2028年4月以降は現行の「給付なし」から5年間の有期給付に変わります。

判定ツールの差額に、この給付は入っていない

当サイトのシミュレーターが出すのは、単年の手取りの差額です。遺族年金は金額に入れていません。計算の前提は計算の考え方にまとめています。

配偶者がいる場合の単年の差額は、事業所得800万円で年−8.4万円、1,000万円で年−1.4万円です(東京23区・40歳未満・経費200万円・税理士報酬の差と均等割を控除後)。この帯の最適な役員報酬は月54万円で、在職中に亡くなれば遺族厚生年金は年65万3,609円です。厚生年金保険料は、標準報酬月額53万円なら労使合計で年116万3,880円かかります。

保険料の見返りのうち、老齢年金は長生きしたときに、遺族年金は早く亡くなったときに効きます。単年の手取りで僅差の世帯ほど、この2つを並べて見る価値があります。 差が最も大きいのは子のない配偶者がいる世帯です。配偶者も子もいない場合、遺族厚生年金の対象は父母・孫・祖父母に移り、父母と祖父母は死亡当時55歳以上に限られます(受給開始は60歳)。

働けなくなったときの保障は一人社長の傷病手当金はいくらか、法人化の不利な面の一覧は法人化のデメリットで扱っています。

遺族年金の差は家族の形で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で手取りの差額を出したうえで、この記事の表を重ねてみてください。

まとめ

  • 遺族基礎年金は子のある配偶者と子にしか出ない。子のない配偶者には、国民年金からは寡婦年金(妻のみ・60〜65歳)か死亡一時金(12万〜32万円)しかない
  • 一人社長が在職中に亡くなると、遺族厚生年金は加入1年でも300月とみなして計算される。役員報酬月54万円なら年65万3,609円で、月65万円以上は頭打ち
  • 子のない40歳以上の妻には中高齢の寡婦加算(年635,500円)が付き、65歳までの総額の差は40歳で死別した場合に3,063.9万円
  • 法人をたたんだあとは長期要件になり、実際の加入月数で計算する。5年で退任すると額は5分の1で、寡婦加算は加入20年以上が必要
  • 2028年4月から、子のない60歳未満の配偶者は男女とも原則5年の有期給付になり、中高齢の寡婦加算は新規分が25年かけて縮小する。上の額は現行制度のもの

よくある質問

遺族厚生年金に税金はかかりますか?

国民年金法・厚生年金保険法に基づいて遺族に支給される年金は、原則として所得税も相続税も課税されません。国税庁のタックスアンサー No.1605 に記載があります。

65歳を過ぎたら、遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金は両方もらえますか?

自分の老齢厚生年金は全額支給され、遺族厚生年金はそれに相当する額が支給停止されます。配偶者の死亡による遺族厚生年金は、本来の額(報酬比例の4分の3)と「その3分の2+本人の老齢厚生年金の2分の1」のうち高いほうが年金額になります。

役員報酬を0円にしていても遺族厚生年金は出ますか?

役員報酬が0円だと厚生年金の被保険者にならないため、在職中の死亡として遺族厚生年金を受ける前提がなくなります。遺族厚生年金は厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときの給付です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。