役員報酬

役員報酬を配当に替えると手取りは38万円増える。ただし年金は減る

一人会社が利益を配当で取り出すと、社会保険料はかかりませんが法人税を払った後の利益に総合課税が乗ります。実効負担率を事業所得別に計算し、配当込みで手取りが最大になる役員報酬額と、そこで失う厚生年金までを出しました。

一人会社が会社に残った利益を配当で取り出すと、社会保険料はかかりません。事業所得1,000万円で役員報酬を月9万円まで下げ、残りを配当にすると、手取りは701.9万円。判定ツールが出す最適額(月54万円・662.4万円)より39.5万円多い計算です。

ただしこの38万円は、20年後に受け取る厚生年金が年58万1,425円少なくなることと引き換えです。数字の両側を出します。

配当は法人税を払ったあとの利益からしか出せない

役員報酬と配当のいちばん大きな違いは、法人の側にあります。

役員報酬は損金になります。定期同額給与などの要件を満たせば、払った分だけ法人の課税所得が減ります。一方配当は損金になりません。法人税基本通達1-5-4は、資本等取引にあたる利益または剰余金の分配には「法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含む」としています。損金の額に算入されるのは資本等取引以外の取引に係るものなので、配当はここから外れます。

つまり配当は、法人税・地方法人税・法人事業税・法人住民税をすべて払ったあとに残った利益から出します。そして受け取った個人の側で、もう一度所得税と住民税がかかります。二階建てです。なお、この3つ(報酬・配当・退職金)のどれも通さずに会社の口座からお金を出すと役員貸付金になり、また別の課税が始まります(役員貸付金の認定利息)。

役員報酬配当
法人の損金なるならない
社会保険料かかるかからない
個人側の所得区分給与所得配当所得
個人側の控除給与所得控除配当控除
金額を決める時期事業年度開始から3か月以内決算で利益が確定したあと

この二重課税をやわらげるのが配当控除です。国税庁タックスアンサーNo.1250によると、課税総所得金額等が1,000万円以下の場合、剰余金の配当等に係る配当所得の10%が所得税額から控除されます。1,000万円を超える部分に含まれる配当所得については5%です。住民税にも同じ仕組みがあり、名古屋市の資料では利益の配当等について1,000万円以下の部分が市民税2.24%・県民税0.56%(合計2.8%)、1,000万円超の部分が合計1.4%となっています。

社会保険料はかかりません。日本年金機構は標準報酬月額の対象となる報酬を「労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもの」と説明しており、配当は労働ではなく出資者としての地位にもとづいて受け取るものだからです。「役員報酬を下げて配当で取れば社会保険料が減る」という話は、ここまでは正しく成立します。

なお、上場株式等以外の配当等は総合課税の対象で、申告分離課税は選べません。給与所得と合算した累進税率がそのまま乗ります。合同会社の利益の配当も、No.1250が対象として挙げる「利益の配当」にあたるので、株式会社と扱いは同じです。

取り出すときの実効負担率は2.0%から36.7%まで開く

当サイトの判定ツールは、法人に残った税引後利益をそのまま手取りに数えていません。退職金や配当で引き出すときのコストとして20%を差し引いてから合計しています(前提の詳細は計算の前提)。

では、実際に配当で引き出すと何%なのか。各事業所得での最適な役員報酬を置いたうえで、税引後利益を全額配当した場合の増える税額を計算しました。

税引後利益を全額配当したときの負担(役員報酬は各所得の最適額)

事業所得最適な役員報酬税引前利益法人税等税引後利益=配当額配当で増える所得税・住民税実効負担率
400万円月28万円16.3万円10.4万円5.9万円0.1万円2.0%
600万円月42万円26.2万円12.6万円13.6万円0.5万円3.7%
800万円月54万円61.8万円20.2万円41.6万円9.7万円23.3%
1,000万円月54万円261.8万円62.9万円198.9万円38.1万円19.2%
1,200万円月54万円461.8万円106.4万円355.4万円65.3万円18.4%
1,500万円月54万円761.8万円175.9万円585.9万円112.8万円19.3%
1,800万円月90万円595.4万円137.4万円458.0万円130.4万円28.5%
2,000万円月90万円795.4万円183.7万円611.7万円187.5万円30.7%
2,500万円月100万円1169.4万円303.8万円865.6万円301.0万円34.8%
3,000万円月100万円1669.4万円471.7万円1197.7万円439.5万円36.7%

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分 基準 ※ 配当は年1回・全額を支払う前提。借入金の利子はないものとしています

ここでいう実効負担率は、配当を受け取ったことで増える所得税と住民税を、配当額で割ったものです。法人税等はこの率に含めていません(配当する・しないにかかわらず発生するため)。

読み取れることは2つあります。

ひとつは、既定の20%が実態に近いのは事業所得1,000万〜1,500万円の帯だけだということ。400万〜600万円では2.0〜3.7%しかかからず、2,500万円を超えると35%前後まで上がります。ツールの前提値をそのまま信じると、低所得帯では法人化の有利さを過小に、高所得帯では過大に見積もることになります。同じ前提値を退職金の側から検証した記事が法人に残した利益は、退職金で引き出すと負担率3%です。あわせて読むと、20%という1つの数字が2つの出口のどこにも当てはまらないことが分かります。

もうひとつは、所得が上がるほど配当は不利になること。総合課税なので配当所得は累進税率の一番上に積み上がります。さらに課税総所得金額等が1,000万円を超えると、その超える部分に含まれる配当所得の控除率は10%から5%へ半分になります。分子(税率)が上がりながら分母側の緩和(配当控除)が縮むので、負担率は加速して上がります。

事業所得800万円では、増えた所得税の全額が基礎控除の段差だった

上の表で、800万円の行だけが並びから外れています。1,000万円(19.2%)や1,200万円(18.4%)より、800万円(23.3%)のほうが重い。配当額はわずか41.6万円なのにです。

原因は配当そのものではありません。基礎控除の段差です。

令和8年分の基礎控除には、合計所得金額489万円以下なら104万円という特例加算後の額が使われます。489万円を超えると67万円まで下がります。事業所得800万円・役員報酬月54万円のとき、給与所得は474.4万円。489万円の内側です。ここに配当41.6万円が乗ると合計所得金額は516.0万円となり、段差を越えます。

計算エンジンで切り分けました。

配当なし配当あり基礎控除が据え置きだったと仮定
合計所得金額474.4万円516.0万円516.0万円
基礎控除104.0万円67.0万円104.0万円
所得税186,400円253,500円186,400円

配当を受け取っても基礎控除が104万円のままだったなら、所得税は1円も増えません。配当41.6万円に対する所得税は、配当控除でちょうど相殺されるからです。つまり増えた所得税6万7,100円は、全額が基礎控除の縮小によるものでした。

この段差は配当に限った話ではありません。合計所得金額を押し上げるものなら何でも同じことが起きます。仕組みは基礎控除104万円が使えるのは所得489万円までで扱っています。特例加算は令和8年・9年分限りなので、令和10年分以降は段差の位置そのものが動きます。

配当込みで手取りが最大になるのは、役員報酬を月9万円にしたとき

ここまでは「ツールが出した最適報酬をそのまま置いたら」という前提でした。配当を前提にすると、最適な報酬額自体が動きます。

まず、ツールが出している役員報酬別の内訳です。

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円33.4万円
月20万円642.4万円196.3万円446.1万円68.1万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円102.2万円
月40万円654.8万円378.8万円276.1万円139.6万円
月50万円659.7万円468.6万円191.1万円170.3万円
月54万円 ←最適662.4万円504.8万円157.6万円180.5万円
月60万円653.6万円547.8万円105.8万円200.9万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円228.6万円
月80万円615.8万円704.8万円-89.0万円238.3万円
月90万円570.0万円784.4万円-214.4万円249.2万円
月100万円519.7万円860.2万円-340.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

この「法人に残る額」を20%引きの概算ではなく、実際に配当して所得税・住民税を計算しなおすと、順位が入れ替わります。

事業所得1,000万円・役員報酬別の手取り(配当ルートと内部留保ルート)

役員報酬配当額役員個人の手取り(給与のみ)配当も受け取った手取りツールの手取り合計(引出コスト20%)
月10万円662.0万円102.8万円701.6万円632.5万円
月20万円557.7万円196.3万円688.6万円642.4万円
月30万円452.1万円289.1万円684.0万円650.8万円
月40万円345.1万円378.8万円673.4万円654.8万円
月50万円238.9万円468.6万円665.8万円659.7万円
月54万円197.1万円504.8万円664.0万円662.4万円
月60万円132.2万円547.8万円656.0万円653.6万円
月70万円26.8万円625.4万円646.4万円646.8万円
月80万円0.0万円615.8万円615.8万円615.8万円
月90万円0.0万円570.0万円570.0万円570.0万円
月100万円0.0万円519.7万円519.7万円519.7万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分 基準 ※ 月80万円以上は法人が赤字になり配当を出せません。不足額は役員が補填する前提です

ツールの列は月54万円で山になりますが、配当の列は報酬を下げるほど右肩上がりです。1万円刻みで探索すると、最大になるのは月9万円で701.9万円でした。

月9万円という額には理由があります。厚生年金の標準報酬月額は、報酬月額9万3,000円未満なら最低等級の8万8,000円にとどまります。1万円刻みでその内側に収まるいちばん高い報酬が月9万円です。給与所得控除の最低保障額74万円もまだ余っています。等級の刻み方は標準報酬月額の等級表で確認できます。

月9万円と月54万円で何がどう入れ替わるのかを分解しました。

役員報酬 月9万円役員報酬 月54万円
社会保険料(労使計)30.0万円180.5万円
法人の税引前利益876.6万円259.5万円
法人税等205.5万円62.4万円
配当額671.1万円197.1万円
役員個人の所得税16.1万円42.3万円
役員個人の住民税46.2万円48.5万円
手取り701.9万円664.0万円
配当の実効負担率9.2%19.2%

社会保険料が150.5万円減り、法人税等が143.1万円増えます。ここだけ見ればほぼ相殺ですが、個人側で差がつきます。報酬が月9万円だと給与所得が34万円しかないため、配当671.1万円を足しても課税総所得金額は628.1万円にとどまり、所得税率は20%の帯です。しかも配当控除67万1,425円がそこから引かれます。結果として配当の実効負担率は9.2%まで下がります。

この最適額は事業所得1,180万円で崩れる

ただし「報酬を下げるほど有利」はどこまでも続きません。事業所得を変えながら1万円刻みで探索すると、最適な役員報酬は次のように動きます。

事業所得配当込みで最適な役員報酬そのときの手取り
1,000万円月9万円701.9万円
1,100万円月9万円756.8万円
1,170万円月9万円793.8万円
1,180万円月24万円799.3万円
1,200万円月26万円811.7万円
1,500万円月48万円980.5万円

事業所得1,170万円までは月9万円のままですが、1,180万円で月24万円へ跳びます。報酬を下げると配当がその分ふくらみ、総合課税の課税所得を押し上げるためです。配当は法人税を払ったあとの利益に累進税率が乗る二階建てなので、個人の限界税率が一段上がるたびに損益が反転します。事業所得1,500万円まで来ると、最適額は月48万円まで戻ります。

社会保険料を最小にする置き方が有利なのは、事業所得1,170万円あたりまで、というのがこの表から言えることです。

単年で38万円多く残る代わりに、厚生年金は年58万円少なくなる

ここまでは単年の手取りだけの話です。判定ツールも単年で結論を出します。写らないものを最後に置きます。

厚生年金の報酬比例部分は、平成15年4月以後の期間について「平均標準報酬額 × 5.481 ÷ 1000 × 被保険者期間の月数」で計算します。賞与を出さない一人社長なら、平均標準報酬額は標準報酬月額とほぼ同じです。

役員報酬標準報酬月額20年加入後の報酬比例部分(年額)
月9万円8万8,000円11万5,758円
月54万円53万円69万7,183円

差は年58万1,425円。単年で38.2万円多く残しても、受け取り始めて1年で追い越されます。老齢年金は生涯にわたって受け取るものなので、20年・30年で見れば桁が変わります。回収年数の考え方は法人化で厚生年金は年69万円増えるで扱っています。

減るのは老齢年金だけではありません。障害厚生年金と遺族厚生年金も報酬比例部分をもとに計算されます。在職中に亡くなった場合の遺族厚生年金は、月9万円なら報酬比例の土台が標準報酬月額8万8,000円になります。役員報酬別の額は遺族厚生年金は法人化で年65万円にまとめました。傷病手当金・出産手当金も同じで、こちらは厚生年金ではなく健康保険の標準報酬月額をもとに計算されます。報酬月額9万円なら健康保険の標準報酬月額も8万8,000円なので、支給額は最低水準になります。傷病手当金の額と、役員報酬を止めないと受け取れないという条件は一人社長の傷病手当金はいくらかにまとめました。

なお、報酬を下げても社会保険の加入義務そのものは外れません。法人の代表者は報酬額にかかわらず被保険者になります。金額だけで対象から外れる制度ではない点は法人化すると社会保険は強制加入で扱っています。

配当を出すときに手続きで詰まりやすい3点

金額の話とは別に、実務で先に決めておく必要があるものがあります。

1. 順序が逆になる。 定期同額給与として損金にするには、役員報酬の額を事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに決めなければなりません。以後は臨時改定事由や業績悪化改定事由がない限り動かせません。一方、配当は決算で利益が確定したあとに決めます。つまり報酬を下げる判断だけが先で、配当できる額が分かるのは後です。利益が読みにくい年ほど、この順序が効いてきます。役員報酬の決め方そのものは役員報酬はいくらが最適かにあります。

2. 源泉徴収は納期の特例の対象外。 上場株式等以外の配当等を支払うときは20.42%(地方税なし)の税率で源泉徴収し、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。納期の特例で年2回にまとめられるのは、給与や退職金から源泉徴収したものと、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から源泉徴収したものに限られます。配当はここに入りません。 「うちは納期の特例だから年2回」と処理すると期限を落とします。対象の切り分けは一人会社の源泉所得税は年2回にできるに一覧があります。なお源泉徴収された税額は確定申告で精算されるので、最終的な負担額は上の表のとおりです。

3. 少額配当の申告不要制度を選ぶと配当控除が消える。 1回に支払を受けるべき配当等の金額が「10万円 × 配当計算期間の月数 ÷ 12」以下なら、所得税の確定申告をしないことを選べます。年1回の配当なら10万円が境目です。ただし確定申告不要制度を選択した配当は配当控除の対象になりません。20.42%の源泉徴収で終わるほうが有利かどうかは、その人の税率次第です。さらに東京都主税局は、非上場株式の配当について「総合課税として住民税について申告する必要があるため、総所得金額に含まれます」としています。所得税で申告不要を選んでも、住民税の申告は残ります。

配当は法人の利益処分なので、法人税を払ったあとに残った利益からしか出せません。赤字の年は選択肢に入らない、というのも計算の前に確認しておく点です。

まとめ

  • 配当は損金にならない。法人税等を払ったあとの利益に、個人の総合課税がもう一度乗る二階建て
  • 税引後利益を配当で取り出すときの実効負担率は事業所得400万円の2.0%から3,000万円の36.7%まで開く。ツールの既定値20%が近いのは1,000万〜1,500万円の帯だけ
  • 事業所得800万円で増えた所得税6万7,100円は、全額が基礎控除の段差(合計所得489万円)によるもの。配当そのものへの所得税は配当控除で相殺される
  • 配当込みで手取りが最大になる役員報酬は月9万円(厚生年金の最低等級にとどまる範囲で最も高い額)。ただし有利なのは事業所得1,170万円あたりまでで、1,180万円からは月24万円へ跳ぶ
  • 単年で38.2万円多く残る代わりに、20年加入後の厚生年金は年58万1,425円少なくなる

ここで挙げた数字はすべて経費200万円・東京23区・40歳未満・独身という条件のものです。配偶者の有無や住んでいる自治体で、分岐点も最適な報酬額も動きます。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

合同会社でも配当控除は使えますか?

使えます。配当控除の対象は「日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配など」で、合同会社の利益の配当もここに含まれます。ただし総合課税で確定申告したものに限られます。

配当には社会保険料がかかりますか?

かかりません。標準報酬月額の対象になるのは労働の対償として受けるもので、配当は出資者としての地位にもとづいて受け取るものだからです。ただし保険料が減れば将来の厚生年金も減ります。

非上場会社の配当でも申告分離課税を選べますか?

選べません。上場株式等以外の配当等は総合課税の対象で、申告分離課税は選択できません。1回の支払額が少額配当にあたる場合に、所得税の確定申告不要制度を選べるだけです。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。