役員報酬
役員貸付金の認定利息はいくら?課税されない境目は残高55万円
法人の口座に残ったお金を社長が個人的に使うと、役員貸付金として返済義務と利息が発生します。無利息なら利息相当額が給与として課税されますが、1年で5,000円以下なら課税されません。残高でいくらまでかを計算し、判定ツールが「法人に残る額」を20%割り引いている理由も示します。
法人化すると、役員報酬を払ったあとの利益が会社の口座に残ります。判定ツールはこれを「法人に残る額」として手取りに算入していますが、額面のままではなく20%割り引いています。
会社の口座にあるお金は、社長個人のお金ではないからです。個人的に使えば、それは会社から社長への貸付けになります。そして無利息で貸し付けたままにすると、利息相当額が給与として課税されます。
ここでは、その利息がいくらになるのか、課税されない境目はどこかを整理します。あわせて、「会社に残ったお金=自分のお金」と考えると判定がどう狂うかを計算エンジンで確かめます。
役員報酬が月54万円で止まる理由は、残った利益の評価にある
まず、判定ツールが何を計算しているかを見ます。売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)で、役員報酬を月10万円から月100万円まで動かしたときの内訳です。
売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合
| 役員報酬 | 手取り合計 | 役員個人の手取り | 法人に残る額 | 社会保険料(労使計) |
|---|---|---|---|---|
| 月10万円 | 632.5万円 | 102.8万円 | 529.6万円 | 33.4万円 |
| 月20万円 | 642.4万円 | 196.3万円 | 446.1万円 | 68.1万円 |
| 月30万円 | 650.8万円 | 289.1万円 | 361.6万円 | 102.2万円 |
| 月40万円 | 654.8万円 | 378.8万円 | 276.1万円 | 139.6万円 |
| 月50万円 | 659.7万円 | 468.6万円 | 191.1万円 | 170.3万円 |
| 月54万円 ←最適 | 662.4万円 | 504.8万円 | 157.6万円 | 180.5万円 |
| 月60万円 | 653.6万円 | 547.8万円 | 105.8万円 | 200.9万円 |
| 月70万円 | 646.8万円 | 625.4万円 | 21.4万円 | 228.6万円 |
| 月80万円 | 615.8万円 | 704.8万円 | -89.0万円 | 238.3万円 |
| 月90万円 | 570.0万円 | 784.4万円 | -214.4万円 | 249.2万円 |
| 月100万円 | 519.7万円 | 860.2万円 | -340.4万円 | 261.3万円 |
個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額
この表で目を引くのは、「法人に残る額」が最も大きい月10万円の行が、手取り合計では最下位に近いことです。月10万円なら529.6万円が会社に残り、月54万円なら157.6万円しか残りません。それでも手取り合計は月54万円のほうが31.2万円多くなります。
理由は、会社に残った額を8割で評価しているからです。役員報酬として受け取った分は、社会保険料と所得税・住民税を引かれたあと、そのまま社長の口座に入ります。会社に残った分は、まだ社長の手元に来ていません。
引出コストを0とみなすと、最適な役員報酬は月11万円に変わる
では、会社に残ったお金を「どうせ自分の会社だから100%自分のもの」と考えると、答えはどう変わるのか。同じ計算エンジンで、引出コストの前提だけを0にして総当たりを走らせました。
| 事業所得 | 引出コスト20%(ツールの既定) | 引出コスト0%とみなした場合 |
|---|---|---|
| 800万円 | 月54万円(手取り合計536.6万円) | 月9万円(613.0万円) |
| 1,000万円 | 月54万円(662.4万円) | 月11万円(765.4万円) |
| 1,500万円 | 月54万円(972.0万円) | 月39万円(1,102.8万円) |
事業所得1,000万円で、最適額は月54万円から月11万円へ、年間で516万円も下がります。事業所得800万円ではさらに下がって月9万円です。
「役員報酬は低くして会社に利益を残すほうが得」という説が生まれるのは、この読み方をしているためです。社会保険料は報酬に対してかかるので、報酬を下げれば労使合計で年180.5万円が33.4万円まで減ります。会社に残る利益は法人税等を払っても手元に積み上がっていくように見えます。
抜けているのは、その利益を社長個人が使えるようにするまでのコストです。引出コストの前提を10%(退職金中心)にした場合との比較は、役員退職金でいくら引き出せるか で扱っています。前提値の意味は 計算の前提 にも書いています。
会社の口座から出たお金には、必ず名前がつく
会社に残った利益が社長個人のものになる経路は限られています。役員報酬(定期同額給与)、事前確定届出給与、役員退職金、そして配当です。配当は法人税を払ったあとの利益から支払われ、受け取った個人にも所得税がかかります。
問題は、この経路を通らずにお金が出ていく場合です。会社の口座から生活費を引き出す、会社のカードで私物を買う、会社の現金で個人の税金を払う。いずれも会計上は、役員貸付金(または仮払金)として処理することになります。
国税庁のタックスアンサー No.5202 は、経済的利益として給与と同様に扱われるものを12種類挙げています。一人会社で問題になりやすいのは次の2つです。
- 役員等に対して無利息または低率で金銭の貸付けをした場合の、通常取得すべき利率で計算した利息と実際に徴収した利息の差額(7番目)
- 役員等の個人的費用の負担額(10番目)
つまり、貸付金として整理しても利息の問題が残り、整理しなければ支出額そのものが給与として扱われます。どちらの道を通るかで金額が変わるので、順に見ます。
無利息で借りたときの利率は、貸し付けた年で決まる
会社が役員に金銭を貸し付けた場合の利息相当額は、国税庁のタックスアンサー No.2606 が定めています。会社が他から借り入れて貸し付けたのであればその借入金の利率、それ以外は貸付けを行った日の属する年に応じた次の利率です。
| 貸付けを行った年 | 利率 |
|---|---|
| 平成30年から令和2年中 | 年1.6% |
| 令和3年中 | 年1.0% |
| 令和4年から令和7年中 | 年0.9% |
利率は「返済している年」ではなく「貸し付けた年」で決まります。 令和7年中に貸し付けた残高は、その後も年0.9%で計算します。
なお、令和8年中に貸付けを行ったものに適用される利率は、この記事の時点で No.2606 に掲載されていません(同ページは令和7年4月1日現在の法令等にもとづく表示です)。掲載され次第、この記事に追記します。
念のため書き添えると、No.2606 が定めているのは会社が役員に貸し付けた場合の利率です。社長が会社にお金を貸す逆方向の取引は、このページの対象ではありません。
課税されない境目は、残高55万5,555円
No.2606 には、給与として課税しなくてよい場合が3つ示されています。一人会社で実際に効くのは3番目です。
- 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員等へ、合理的と認められる金額・返済期間で貸し付ける場合
- 会社の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、その利率で貸し付ける場合
- 上記以外の貸付金で、利息相当額と実際に支払う利息との差額が1年間で5,000円以下である場合
年0.9%で計算すると、この5,000円が残高でいくらに当たるかが出ます。
| 貸付残高 | 年0.9%の利息相当額 | 5,000円以下か |
|---|---|---|
| 30万円 | 2,700円 | 課税しなくてよい |
| 50万円 | 4,500円 | 課税しなくてよい |
| 55万5,555円 | 4,999円 | 境目 |
| 60万円 | 5,400円 | 5,400円が給与 |
| 100万円 | 9,000円 | 9,000円が給与 |
| 300万円 | 27,000円 | 27,000円が給与 |
| 500万円 | 45,000円 | 45,000円が給与 |
読み違えやすいのは、5,000円を超えたときの扱いです。超えた部分だけが給与になるのではなく、利息相当額の全額が給与になります。 残高100万円なら、課税対象は9,000円から5,000円を引いた4,000円ではなく、9,000円です。
金額としては小さく見えます。月54万円の役員報酬なら、所得税の課税所得は280万1,000円で、税率は10%の帯にあります。残高100万円の利息相当額9,000円が乗っても、所得税・住民税の増加は数千円です。
それでも触れておく価値があるのは、この5,000円が残高の水準を測る物差しになるからです。生活費の立替が一時的に50万円出ている状態と、300万円が居座っている状態とでは、話が変わります。
精算しないほうが高くつく。100万円で法人税等が21.4万円増える
貸付金として整理せず、社長の個人的費用を会社が負担したままにした場合はどうなるか。No.5202 の10番目により、その負担額が経済的利益、すなわち役員給与として扱われます。
ここで効いてくるのが、役員給与の損金算入のルールです。国税庁のタックスアンサー No.5211 は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しない役員給与は損金の額に算入されないと定めています。臨時に出ていった生活費は、どれにも当たりません。
No.5202 も同じことを、経済的利益の側から書いています。役員に継続的に供与される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当して損金に算入されますが、それ以外は損金に算入されません。無利息貸付けの利息相当額は残高が一定なら毎月おおむね一定になりますが、生活費の引き出しは月ごとに額が動きます。
損金不算入が100万円分生じると、法人税等はいくら増えるか。事業所得1,000万円・役員報酬月54万円のケースで計算すると、税引前利益261.8万円に対する法人税等は62.9万円です。ここに100万円が上乗せされると84.3万円になり、差は21.4万円でした。
同じ100万円に、法人側の21.4万円と、個人側の給与としての所得税・住民税が重なります。貸付金として整理して返済していれば、かかるのは利息相当額9,000円分の課税だけでした。損金不算入が金額別・利益別にどう効くかは、交際費の800万円は法人だけの上限 で表にしています。
なお、認定利息の計算方法についても古い通達があります。昭和29年の「認定利息の取扱について」は、同族会社の代表者等に対する仮払金について利息を認定するのは当然としたうえで、複利計算はせず元本に対してだけ利息を認定する、認定利息の集積額にはさらに利息を認定しない、としています。利息が雪だるま式に増える計算はしない、ということです。
貸付金は、単年の手取り比較の外側で効く
判定ツールが出すのは、その年の手取りの比較です。役員貸付金は、そこに現れないところで効いてきます。
1つは、金融機関との関係です。決算書に役員貸付金が載っていると、会社の資産のうちその分は事業に使われていないお金として見られます。法人口座の開設で何を確認されるかは 法人口座の開設審査 にまとめています。
もう1つは、出口です。会社に残った利益は、最後に役員退職金として引き出す前提で20%を割り引いています。貸付金の残高があると、退職金と相殺する形で精算することになり、実際に受け取れる現金はその分減ります。金額の見当は 役員退職金でいくら引き出せるか を参照してください。
役員報酬をいくらに置くかは、この「会社に残った利益をどう評価するか」で答えが変わります。月54万円という数字も、引出コスト20%という前提の上に乗ったものです。役員報酬の最適額 と合わせて、一般論の数字ではなく自分の売上と経費で確かめてください。
まとめ
- 会社が役員に無利息で貸し付けた場合、利息相当額が給与として課税される。利率は貸付けを行った年で決まり、令和4年から令和7年中に貸し付けたものは年0.9%
- 利息相当額が1年で5,000円以下なら課税しなくてよい。年0.9%なら残高55万5,555円が境目で、超えると全額が給与になる
- 貸付金として整理せず個人的費用を会社が負担したままにすると、その額が役員給与となり、定期同額給与に該当しないため損金に算入されない。事業所得1,000万円のケースでは100万円あたり法人税等が21.4万円増えた
- 判定ツールが「法人に残る額」を20%割り引くのは、この出口のコストを見込んでいるため。引出コストを0とみなすと、事業所得1,000万円での最適な役員報酬は月54万円から月12万円へ動く
よくある質問
会社から借りたお金に利息を払っていれば、給与として課税されませんか?
国税庁が定める利率以上の利息を実際に支払っていれば、利息相当額との差額が生じないため給与課税の問題は起きません。令和7年中に貸付けを行ったものの利率は年0.9%です(国税庁 No.2606)。
役員貸付金はいつまでに返さなければいけませんか?
国税庁のタックスアンサー No.2606 が定めているのは利率であって、返済期限ではありません。ただし残高が残っている限り、貸付けを行った年に応じた利率で毎年の利息相当額が計算されます。
会社のクレジットカードで私物を買ってしまった場合はどうなりますか?
役員の個人的費用を法人が負担した額は、国税庁の No.5202 が経済的利益の例として挙げています。貸付金や立替金として精算しなければ、その額は役員給与として扱われます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。