役員報酬
iDeCo一時金の「5年ルール」は10年に。役員退職金の受け取る順番
令和8年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金は、役員退職金の年の前年以前9年内なら退職所得控除の重複期間が調整されます。一時金60歳・退職金65歳という定番の順番は、税額が138.9万円から216.3万円へ。一人社長が退任の時期と受け取る順番をどう組むかを計算しました。
iDeCoを60歳で一時金として受け取り、5年空けて65歳で退職金を受け取る。退職所得控除を二重に使えるこの順番は、長く「5年ルール」として定番でした。令和8年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金では、この5年が10年になりました。
令和7年度の税制改正で、老齢一時金(iDeCoなど確定拠出年金の一時金)を先に受け取った場合の調整期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延びています。iDeCo 1,000万円・役員退職金2,000万円の設例で計算すると、定番の順番の税額は138.9万円から216.3万円に増えます。
退職所得控除は、前に受け取った退職手当等と重なる期間を差し引く
退職金にかかる税は、収入金額から退職所得控除額を引き、その2分の1を他の所得と分けて課税します。退職所得控除額は勤続年数で決まります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円未満なら80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
iDeCoの一時金も退職手当等とみなされ、同じ退職所得控除を使います。このときの「勤続年数」は、iDeCoの加入者期間です。
問題は、同じ期間を2つの退職手当等で数えている場合です。個人事業主の時代からiDeCoに入っていた人が法人を作ると、法人の役員としての期間とiDeCoの加入期間が重なります。前の年以前に受け取った退職手当等と期間が重なっていれば、後から受け取るほうの控除額から、重なった年数分の控除額を差し引きます(重なった期間の1年未満の端数は切り捨て)。
どこまで前に受け取ったものを調整の対象にするかは、受け取る順番で3つに分かれます。
| 先に受け取るもの | 後に受け取るもの | 調整の対象になる期間 |
|---|---|---|
| 退職手当等(役員退職金・小規模企業共済など) | 退職手当等 | 後の年の前年以前4年内 |
| iDeCoの一時金(令和8年1月1日以後に受け取ったもの) | iDeCoの一時金以外の退職手当等 | 後の年の前年以前9年内 |
| 退職手当等 | iDeCoの一時金 | 後の年の前年以前19年内 |
※ 国税庁「源泉徴収のあらまし(令和8年版)」。9年内の対象は令和8年1月1日以後に支払を受けた老齢一時金に限られ、それより前に受け取った一時金は4年内で判定する。この改正は令和8年分以後の所得税に適用
改正前は、iDeCoの一時金を先に受け取っても、後の退職金との間が5年以上空いていれば調整されませんでした。これが「5年ルール」の正体です。改正後は、間を10年以上空けないと調整を避けられません。
前の一時金が控除額より少ないときは、期間を縮めて数える
もう1つ、見落としやすい規定があります。前に受け取った退職手当等の金額が、その勤続年数で計算した退職所得控除額に満たないときは、前の期間を金額から逆算した年数に縮めて重複を数えます。800万円以下なら「収入金額÷40万円」、800万円を超えるなら「(収入金額−800万円)÷70万円+20」で、1未満の端数は切り捨てです。
加入25年のiDeCoなら控除額は1,150万円です。一時金が1,000万円なら控除を使い切っていないので、期間は25年ではなく22年として重複を数えます。控除を余らせた分は、後の退職金の側に残してもらえる仕組みです。
5年空ける定番の順番は、税額が77.5万円増える
設例は次のとおりです。iDeCoは35歳から60歳まで25年加入し、一時金1,000万円。45歳で法人を設立し、役員退職金は2,000万円です。
| 受け取り方 | 一時金の控除 | 一時金の税額 | 退職金の控除 | 退職金の税額 | 税額の合計 | 調整 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 一時金60歳 → 退職金65歳(令和7年までの一時金) | 1,150万円 | 0.0万円 | 800万円 | 138.9万円 | 138.9万円 | 調整なし |
| 一時金60歳 → 退職金65歳(令和8年以後の一時金) | 1,150万円 | 0.0万円 | 320万円 | 216.3万円 | 216.3万円 | 退職金側で重複12年を調整(一時金の期間を22年とみなす) |
| 同じ年に受け取る(65歳) | (合算) | − | 1,500万円 | 186.2万円 | 186.2万円 | 同じ年(通算30年) |
| 退職金65歳 → 一時金66歳以降 | 550万円 | 35.5万円 | 800万円 | 138.9万円 | 174.4万円 | 一時金側で重複15年を調整 |
※ 所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の合計。役員としての勤続年数は20年で、特定役員退職手当等(役員勤続5年以下)には当たらない/2026年(令和8年)分基準
一時金を60歳、退職金を65歳で受け取る順番は、改正前なら調整なしで138.9万円でした。令和8年以後の一時金では、退職金の年の前年以前9年内に入るので、退職金の控除が800万円から320万円に削られます。税額は216.3万円、77.5万円の増加です。
退職金を65歳に置いたまま順番を比べると、改正後は並びが入れ替わります。
- 退職金が先で、一時金を後に受け取る:174.4万円(19年内なので一時金の側で調整)
- 同じ年に受け取る:186.2万円(期間を通算して30年で1つの控除)
- 一時金が先で、5年後に退職金:216.3万円
かつての定番が、3つのうちでいちばん税額の大きい順番になりました。 退職金を先にしても19年内の調整はかかりますが、削られるのは一時金の側の控除です。一時金は1,000万円と退職金より小さいので、控除が削られても課税される額が小さく済みます。
なお同じ年に受け取る場合は計算のしかたが違います。前年以前の重複排除ではなく、最も長い期間(iDeCoの25年)に重複しない部分(役員の60〜65歳の5年)を加えた30年で、合計額から1つの控除を引きます。
一人社長は、退任の時期を自分で決められる
会社員なら退職の時期は会社の定年で決まりますが、一人社長は退任の時期を自分で決められます。一時金を60歳で受け取り、退任の時期を動かしたときの税額です。
| 一時金から退職金までの間隔 | 令和7年までに受け取った一時金(4年内) | 令和8年以後に受け取る一時金(9年内) | 差 |
|---|---|---|---|
| 4年(退職64歳・役員勤続19年) | 223.0万円 | 223.0万円 | 0.0万円 |
| 5年(退職65歳・役員勤続20年) | 138.9万円 | 216.3万円 | 77.5万円 |
| 6年(退職66歳・役員勤続21年) | 128.2万円 | 204.6万円 | 76.4万円 |
| 7年(退職67歳・役員勤続22年) | 117.6万円 | 192.9万円 | 75.3万円 |
| 8年(退職68歳・役員勤続23年) | 106.9万円 | 181.2万円 | 74.2万円 |
| 9年(退職69歳・役員勤続24年) | 96.3万円 | 169.4万円 | 73.2万円 |
| 10年(退職70歳・役員勤続25年) | 85.6万円 | 85.6万円 | 0.0万円 |
※ 一時金60歳・1,000万円(iDeCo 35〜60歳の25年加入)、役員退職金2,000万円(45歳で法人設立)。退任が遅いほど役員としての勤続年数も延びる
間隔が5〜9年の帯で、改正後だけ73万〜77万円多くなります。10年空けると調整がなくなり、差は消えます。9年で退任するか10年で退任するかで、169.4万円と85.6万円に分かれます。
iDeCoの一時金は原則60歳から受け取れ、60歳から受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要です。60歳より前には受け取れないので、10年空けるには退任を70歳以降にすることになります。
70歳まで役員を続けるなら、別の論点も出てきます。老齢厚生年金を受け取っていれば在職老齢年金で一部が止まることがあり(在職老齢年金の基準が65万円へ)、退職金の額が損金として認められるかは最終報酬月額と勤続年数から判断されます(役員退職金はいくらまで損金?)。
小規模企業共済と、年金で受け取る場合
一人社長は、iDeCoと小規模企業共済の両方に入っていることがよくあります。小規模企業共済の共済金も一括で受け取れば退職所得です(小規模企業共済のデメリット)。
ただし今回9年内に延びたのは、確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金、つまりiDeCoや企業型DCの一時金です。小規模企業共済の共済金を先に受け取った場合は、改正前と同じ4年内で判定します。3つを受け取る人は、それぞれの期間と順番を並べて確かめる必要があります。
iDeCoを一時金ではなく年金として受け取る方法もあります。年金で受け取る分は退職所得にならないので、この重複排除とは別の扱いです。その代わり毎年の所得に加わり、65歳以降の介護保険料の段階などに影響することがあります(65歳以降の介護保険料は、一人社長だと段階が3つ下がる)。
当サイトの判定ツールは、法人に残った利益を引き出すときのコストを一律20%と置いています。役員退職金で引き出すときの実際の負担率は法人に残した利益は、退職金で引き出すと負担率3%で計算していますが、iDeCoの一時金と期間が重なると、その負担率は上がります。計算の前提は計算の考え方にまとめています。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で法人に残る額を出したうえで、受け取る順番をこの表に当てはめてみてください。
まとめ
- 令和8年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金は、後の退職金の年の前年以前9年内なら、退職金の退職所得控除から重複期間分が差し引かれる(改正前は4年内)
- 設例(iDeCo 1,000万円・退職金2,000万円)では、一時金60歳・退職金65歳の定番の順番の税額が138.9万円から216.3万円へ、77.5万円増える
- 退職金65歳で比べると、改正後は「退職金が先」174.4万円<「同じ年」186.2万円<「一時金が先」216.3万円の順になり、かつての定番がいちばん重くなる
- 一時金から退職金までを10年空ければ調整はなくなる。一時金は60歳より前に受け取れないので、一人社長なら退任を70歳以降に置くことになる
- 小規模企業共済の共済金を先に受け取る場合は4年内のまま。前の一時金が控除額より少ないときは、期間を金額から逆算した年数に縮めて重複を数える
よくある質問
令和7年中にiDeCoの一時金を受け取っていた場合も、9年内で判定されますか?
9年内で判定されるのは、令和8年1月1日以後に支払を受けた老齢一時金に限られます。令和8年1月1日前に受け取った一時金は、改正前と同じく前年以前4年内かどうかで判定します。
小規模企業共済の共済金も9年内の対象ですか?
今回9年内に延びたのは、確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金です。小規模企業共済の共済金は、改正前からの一般の退職手当等と同じく前年以前4年内で判定されます。
iDeCoと役員退職金を同じ年に受け取るとどうなりますか?
同じ年に2つ以上の退職手当等を受け取る場合は、それぞれの期間のうち最も長い期間に、重複しない部分の期間を加えて勤続年数を計算し、合計額から1つの退職所得控除額を引きます。前の年に受け取った場合の重複排除とは計算のしかたが違います。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。