税金の基礎

小規模企業共済のデメリット。20年未満の解約で元本割れする

掛金が全額所得控除になる小規模企業共済ですが、任意解約は掛金納付月数240か月未満だと元本割れします。しかも国民健康保険料と個人事業税は1円も減りません。法人成りしたときの扱いまで含めて整理します。

小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になる制度です。個人事業主の節税手段としてまず名前が挙がります。

ただし「入っておけば損はない」とは言い切れません。任意解約で元本割れする条件があり、しかも国民健康保険料と個人事業税は1円も減りません。 節税額を計算するときに、この2点はよく抜け落ちます。

まず、有利な部分を正しく把握する

掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位で自由に決められます。年84万円が上限です。

この掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、全額が課税所得から引かれます。生命保険料控除のように上限で頭打ちになる控除ではありません。

課税所得の帯ごとに、年84万円を掛けた場合の税の軽減額は次のようになります。

課税所得所得税率所得税+復興特別+住民税年84万円拠出時の軽減額
195万円以下5%15.105%12万6,882円
195万円超 330万円以下10%20.21%16万9,764円
330万円超 695万円以下20%30.42%25万5,528円
695万円超 900万円以下23%33.483%28万1,257円
900万円超 1,800万円まで33%43.693%36万7,021円
1,800万円超 4,000万円まで40%50.84%42万7,056円

※ 復興特別所得税は所得税額の2.1%、住民税の所得割は10%として計算/2026年(令和8年)分 基準

課税所得900万円超の帯では、84万円を積み立てて36万7,021円が戻ってくる計算です。積立額の4割強が税で戻るのだから、投資対象として考える前に制度として強い、というのが正しい理解です。

デメリット1:国民健康保険料は1円も下がらない

ここが最も誤解されている点です。

国民健康保険料の算定基礎は「旧ただし書所得」で、次の式で計算します。

旧ただし書所得 = 総所得金額等 − 43万円

この式に所得控除は入りません。 配偶者控除も扶養控除も社会保険料控除も、そして小規模企業共済等掛金控除も反映されません。青色申告特別控除は総所得金額等を計算する段階で引かれるので効きますが、小規模企業共済の掛金は効かない側です。

同じことが個人事業税にも言えます。個人事業税は事業所得から事業主控除290万円を引いて計算するもので、所得控除は関係しません。

整理すると次のようになります。

負担小規模企業共済の掛金で減るか
所得税減る
住民税(所得割)減る
国民健康保険料減らない
個人事業税減らない
国民年金保険料減らない(定額)

年84万円を拠出しても、動くのは表の上2つだけです。「節税」と聞いて手取り全体が同じだけ増えると考えると、見込みが外れます。

国民健康保険料がどう決まるかは国民健康保険が高いから法人化、は所得次第で逆効果になるで詳しく扱っています。

デメリット2:240か月未満の任意解約で元本割れする

解約手当金の額は、掛金納付月数に応じて掛金合計額の**80%〜120%**です。支給割合は次のように動きます。

掛金納付月数支給割合
1〜11か月0%(掛け捨て)
12〜83か月80%
84〜245か月80.5%〜100%(6か月ごとに0.75ポイント増)
246か月〜100.25%〜120%(6か月ごとに0.25ポイント増)

納付した掛金に対して100%以上を受け取れるのは、掛金納付月数が240か月(20年)以上からです。それ未満で任意解約すると掛金合計額を下回ります。

特にきついのが最初の7年です。12か月から83か月までは支給割合が80%で固定されているので、月7万円を5年間積んだ420万円は、任意解約すると336万円になります。 84万円が消える計算です。

さらに、加入から12か月未満の任意解約では解約手当金そのものが受け取れません。納付した掛金は全額掛け捨てです。

掛金を増減すると、区分ごとに月数を数える

見落としやすい罠がもうひとつあります。掛金月額を途中で増額・減額すると、掛金区分ごとに納付月数がカウントされます。

加入から25年経っていても、20年目に増額した部分は納付月数5年分としてしか扱われません。その部分だけ支給割合80.5%前後になり、全体としては元本割れに近づきます。「余裕が出たから増額する」という自然な運用が、そのまま不利に働く構造です。

デメリット3:受け取り方で税金がまったく変わる

拠出時に全額控除される制度は、受取時に課税されるのが原則です。小規模企業共済も例外ではありませんが、受け取る理由によって所得区分が変わります。

受け取り方所得区分
共済金・準共済金を一括受取り退職所得
共済金を分割受取り公的年金等の雑所得
任意解約(65歳以上)退職所得
任意解約(65歳未満)一時所得
12か月以上の掛金滞納による機構解約一時所得

退職所得は、退職所得控除を引いたうえで残額の2分の1にしか課税されない、最も有利な区分です。一時所得は50万円の特別控除後に2分の1課税ですが、退職所得控除のような大きな枠がありません。

つまり65歳になる前に任意解約すると、元本割れと課税の不利が同時に来ます。 ここが制度上いちばん避けたいパターンです。

なお契約者が亡くなって遺族が受け取る共済金は、所得税ではなく相続税の側で扱われます。死亡退職金としてみなし相続財産になり、500万円×法定相続人の数の非課税枠の対象です。法人成りして役員として続けている場合は、法人から出る死亡退職金と同じ1つの枠を分け合います(死亡退職金・弔慰金の非課税枠)。

役員退職金やiDeCoの一時金と期間が重なる場合は、受け取る順番で退職所得控除が調整されます。令和8年からiDeCoの一時金を先に受け取る場合の調整期間は9年内に延びましたが、共済金を先に受け取る場合は4年内のままです(iDeCo一時金の「5年ルール」は10年に)。

デメリット4:資金が長期間動かせない

240か月という制約は、実質的に20年の資金拘束です。30代で加入すれば50代まで、まとまった金額が引き出せない状態になります。

貸付制度はあります。納付した掛金の範囲内で、担保・保証人なしで事業資金を借りられます。ただし借入であって引き出しではないので、返済義務が残ります。

手元資金に余裕がない状態で満額の月7万円を設定するのは、制度の使い方として無理があります。 掛金は月1,000円単位まで下げられるので、事業が安定するまでは低い金額から始めるほうが構造に合っています。

法人化するとどうなるか

個人事業主が法人成りしたとき、共済契約の扱いは3つに分かれます。

法人成り後の立場扱い
設立した法人の役員たる小規模企業者になる同一人通算で契約を継続できる
法人の役員に就任しない準共済金(一括受取りなら退職所得)
法人の役員になるが小規模企業者に該当しない準共済金

小規模企業共済に加入できるのは、建設業・製造業・運輸業・不動産業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)などでは常時使用する従業員20人以下、商業(卸売業・小売業)とサービス業(宿泊業・娯楽業を除く)では5人以下の個人事業主または会社の役員です。ひとり社長の法人であれば、この要件は満たします。

つまり多くの法人化ではそのまま継続できます。 掛金納付月数も引き継がれるので、20年の時計が振り出しに戻ることはありません。

ただし同一人通算の手続きは、法人成りから1年以内に行う必要があります。この期限を逃すと通算できません。法人設立の手続きに追われている時期なので、忘れやすい部分です。

なお医療法人や一般社団法人の役員になった場合は、そもそも小規模企業共済に加入できないため通算もできません。個人事業の廃止による共済金の請求になります。

法人化と、どちらを先に検討するか

小規模企業共済と法人化は、どちらも「所得を圧縮する」手段に見えますが、効く場所が違います。

小規模企業共済法人化
所得税・住民税減る減る
国民健康保険料減らない社会保険に切り替わる
個人事業税減らないなくなる(法人事業税に変わる)
毎年の固定費なし均等割と税理士報酬で年27万円前後
資金の拘束あり(20年)なし
取り消し元本割れのリスクあり元に戻すのは手間が大きい

固定費がかからないぶん、先に検討すべきは小規模企業共済のほうです。 年84万円の枠を使い切っていない状態で法人化を検討するのは、順番として飛ばしすぎています。

一方で、共済に入っても国民健康保険料は下がりません。国保の負担が重くて法人化を考えているなら、共済は解決策になりません。何が重いのかを先に特定してください。

法人化した場合に負担がどう変わるかは、当サイトのシミュレーターで自分の売上と経費を入れて確かめられます。

まとめ

  • 掛金は月1,000円〜7万円(年84万円)。全額が所得控除で、課税所得900万円超なら年36万7,021円の軽減になる
  • 国民健康保険料と個人事業税は1円も減らない。 国保は所得控除を反映しない旧ただし書所得で計算されるため
  • 任意解約は掛金納付月数240か月(20年)未満で元本割れ。12〜83か月は支給割合80%で固定、12か月未満は全額掛け捨て
  • 掛金を増減すると区分ごとに月数を数える。後から増額した部分だけ元本割れすることがある
  • 受け取り方で所得区分が変わる。65歳未満の任意解約は一時所得で、共済金の退職所得扱いより不利
  • 法人成りしても、役員たる小規模企業者になれば同一人通算で継続できる。ただし手続きは1年以内

法人化の判断は、この枠を使い切ったうえで自分の売上と経費で計算してみてください。

よくある質問

掛金を途中で減額すると何か不利になりますか?

掛金月額は月に1回まで変更できますが、増額・減額をすると掛金区分ごとに納付月数がカウントされます。全体の加入期間が240か月以上でも、区分ごとの月数が240か月に満たない部分があると、任意解約したときの解約手当金が掛金合計額を下回ることがあります。

共済金を受け取るときに税金はかかりますか?

かかります。ただし扱いが有利です。共済金・準共済金を一括で受け取る場合は退職所得、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得になります。任意解約による解約手当金は、65歳以上なら退職所得、65歳未満なら一時所得です。

会社員でも加入できますか?

できません。加入できるのは小規模企業の個人事業主・共同経営者・会社等の役員です。給与所得だけの人は対象外です。副業として個人事業を営んでいる場合も、その事業が事業所得として申告できる規模かどうかが問われます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。