税金の基礎

個人事業主の節税は順番がある。法人化は最後に来る

同じ84万円を投じても、経費になるものと所得控除になるもので手取りの差は年11万円出ます。国民健康保険料まで下がるかどうかが分かれ目です。青色申告から法人化までの5段階を、実際の計算結果で順番に並べました。

節税の手段はいくつもありますが、効く相手が違います。 所得税だけに効くもの、国民健康保険料まで下げるもの、固定費と引き換えのもの。この違いを見ずに手を出すと、思ったほど手取りが増えません。

売上1,000万円・経費200万円の個人事業主で計算すると、同じ84万円を投じても、経費になるか所得控除になるかで年11万3,972円の差が出ます。

節税手段は2種類しかない

まず全体の見取り図です。個人事業主の節税策は、次の2つのどちらかに分類できます。

分類何が減るか代表例
経費(必要経費)になるもの事業所得そのもの経営セーフティ共済、通常の経費
所得控除になるもの課税所得(事業所得は変わらない)小規模企業共済、iDeCo、社会保険料控除

この違いが効いてくるのは、国民健康保険料と個人事業税です。

国民健康保険料の算定基礎は「旧ただし書所得」で、総所得金額等から43万円を引いた額です。所得控除はこの計算に入りません。 個人事業税も事業所得から事業主控除290万円を引いて計算するもので、やはり所得控除は関係ありません。

負担経費が増えると所得控除が増えると
所得税減る減る
住民税減る減る
国民健康保険料減る減らない
個人事業税減る減らない

同じ84万円で、いくら違うか

売上1,000万円・経費200万円(東京23区・40歳未満・独身・青色申告e-Tax)で、84万円を投じた場合の負担の減り方です。

経費になるもの所得控除になるもの
所得税−16万3,600円−17万1,600円
住民税−7万5,100円−8万4,000円
国民健康保険料−8万8,872円0円
個人事業税−4万2,000円0円
合計−36万9,572円−25万5,600円

※ 2026年(令和8年)分 基準。所得税・住民税の減り方が経費側でやや小さいのは、国民健康保険料が下がるぶん社会保険料控除も減るため

差は11万3,972円です。投じた84万円に対して13.6ポイントぶんの違いになります。所得控除型のほうが所得税・住民税の減りが大きいのに、合計では逆転します。

順番1:青色申告特別控除65万円

コストがゼロで効果が出るのはこれだけです。最優先で埋めてください。

同じ売上1,000万円・経費200万円で、申告方法だけを変えた場合の負担額です。

申告方法控除額税+国民健康保険料の合計白色との差
青色申告(e-Tax・電子帳簿保存)65万円237万7,709円−24万5,470円
青色申告(紙で提出)55万円241万5,689円−20万7,490円
青色申告(簡易簿記)10万円258万5,499円−3万7,680円
白色申告0円262万3,179円

e-Tax で提出するか紙で提出するかだけで、年3万7,980円変わります。同じ帳簿を作って、出し方を変えるだけの差です。

青色申告特別控除は所得控除ではなく、事業所得を計算する段階で引かれます。だから国民健康保険料も下がります。ただし個人事業税では適用されません。 上の表で事業税だけが25万5,000円のまま動かないのはそのためです。

順番2:小規模企業共済(年84万円)

掛金は月1,000円から7万円まで、全額が所得控除になります。所得控除型なので国民健康保険料は下がりませんが、出口の扱いが優遇されている点が強みです。

  • 共済金・準共済金を一括で受け取れば退職所得
  • 分割で受け取れば公的年金等の雑所得
  • 納付した掛金の範囲内で、担保・保証人なしの貸付制度が使える

退職所得は、退職所得控除を引いた残額の2分の1にしか課税されません。入口で全額控除、出口も優遇という二重の有利さがあります。

弱点は、掛金納付月数240か月(20年)未満で任意解約すると元本割れすることです。詳しくは小規模企業共済のデメリット。20年未満の解約で元本割れするにまとめています。

順番3:iDeCo(年81万6,000円、12月から年90万円)

こちらも所得控除型で、出口は退職所得または公的年金等の雑所得です。小規模企業共済と併用でき、それぞれ別の上限があります。

違いは3点です。

  • 元本が変動する。 運用しだいで増えるが減ることもある
  • 60歳まで引き出せない。 貸付制度もない
  • 令和8年12月から上限が月7万5,000円に上がる。 拠出できる年齢も70歳になるまでに延びる

資金の拘束という意味では小規模企業共済より強いので、貸付制度がある共済を先に埋めるほうが資金繰りの上では安全です。 詳しくは個人事業主のiDeCoは月6.8万円。12月から7.5万円に上がるをご覧ください。

順番4:経営セーフティ共済(年240万円まで)

掛金月額は5,000円から20万円まで、掛金残高が800万円に達するまで積めます。この掛金は必要経費になります。

前掲のとおり、経費型は国民健康保険料と個人事業税まで下げます。年240万円を満額拠出できるなら、効果は他の制度を大きく上回ります。

ただしこれは節税ではなく課税の繰延べです。

  • 解約手当金を受け取った年に、全額が収入になる
  • 掛金納付月数40か月未満で解約すると、掛金全額は戻らない
  • 令和6年10月1日以後に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は必要経費に算入できない

払った年の負担は確実に減りますが、受け取る年にまとめて課税されます。廃業する年、大きな設備投資をする年、赤字が見込まれる年など、受け取る時期をぶつけられる人にとって効果が大きい制度です。出口を考えずに積むと、解約した年に所得が跳ね上がって国民健康保険料まで上がります。実際に計算すると、一度に解約した場合は積立時に減らした分を上回る負担が出ます(経営セーフティ共済で負担は年100万円減る。ただし出口がない)。

なお、決算書上の利益も減ります。融資を予定しているなら、そのタイミングとの兼ね合いを見てください。

順番5:法人化

ここまでの4つは、固定費がかかりません。 法人化だけが違います。

法人化で毎年増える固定費金額の目安
法人住民税 均等割7万円
税理士報酬の増加分20万円前後
合計27万円前後

利益が出ようが出まいが、毎年出ていきます。だから先に固定費ゼロの手段を使い切ってから検討するのが順番として自然です。

当サイトの試算では、東京23区・40歳未満・独身・青色申告という条件で、法人化が有利に転じるのは事業所得1,266万円あたりでした。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)実質差額(年)判定
800万円540.7万円536.6万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円+47.0万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

ただし、ここまでの4つと法人化は排他ではありません。法人化しても経営セーフティ共済は法人契約として続けられます。小規模企業共済は、法人成りしても役員たる小規模企業者になれば同一人通算で継続できます。 一方でiDeCoの枠は第2号被保険者の額に縮みます。

順番が入れ替わる条件

上の順番は一般的な並びです。次の場合は変わります。

国民健康保険料の負担が重いと感じているなら、経営セーフティ共済を先に。 所得控除型をいくら積んでも国保は1円も下がりません。国保が重いという問題に対して、小規模企業共済とiDeCoは解決策になりません。

資金繰りに余裕がないなら、共済系は後回しに。 どの制度も、拠出した資金は簡単には戻りません。手元資金を削って所得控除を取るのは、順番として危険です。

課税所得が低いうちは、効果そのものが小さい。 課税所得195万円以下なら所得税率は5%で、住民税と合わせても15.105%です。84万円を拠出して戻るのは12万6,882円で、資金を長期間拘束する見返りとしては薄い水準です。

なお、法人化すると個人の課税所得が役員報酬の水準まで下がるため、ふるさと納税の控除上限も一緒に下がります。事業所得1,200万円では約26万円分の枠が消えました。計算はふるさと納税の上限は法人化で下がるにあります。

まとめ

  • 節税手段は「経費になるもの」と「所得控除になるもの」に分かれる。国民健康保険料と個人事業税が下がるのは前者だけ
  • 同じ84万円でも、経費型は年36万9,572円、所得控除型は年25万5,600円。差は11万3,972円
  • 順番1は青色申告特別控除65万円。e-Tax で出すだけで紙より年3万7,980円有利
  • 順番2・3は小規模企業共済とiDeCo。所得控除型だが、出口が退職所得として優遇される
  • 順番4は経営セーフティ共済。国保まで下がるが、解約時に全額が収入になる課税の繰延べ
  • 順番5が法人化。毎年27万円前後の固定費がかかるので、固定費ゼロの手段を使い切ってから検討する

固定費ゼロの手段を埋めたうえで、法人化の差額が残るかどうかを自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

経費を増やすのと所得控除を増やすのは、どちらが得ですか?

同じ金額なら経費のほうが効果は大きくなります。経費は事業所得そのものを減らすので、所得税・住民税に加えて国民健康保険料と個人事業税も下がるためです。所得控除は所得税と住民税にしか効きません。

経営セーフティ共済は本当に節税になりますか?

掛金を払った年の負担は確実に減ります。ただし解約手当金を受け取った年に全額が収入になるため、正確には課税の繰延べです。廃業や大きな赤字が出た年など、受け取る時期を選べる人にとって効果が大きい制度です。

節税を優先すると融資が受けにくくなりませんか?

所得を圧縮すれば決算書上の利益は小さくなるので、融資審査では不利に働くことがあります。特に経費計上型の共済は利益を直接減らします。借入を予定しているなら、その前後で拠出額を調整する判断が必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。