税金の基礎
経営セーフティ共済で負担は年100万円減る。ただし出口がない
経営セーフティ共済の掛金は全額が必要経費になるため、所得税・住民税だけでなく国民健康保険料と個人事業税まで下がります。事業所得別の軽減額と、解約時に増える負担が積立時の軽減を上回る仕組みを計算しました。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の掛金は、全額が必要経費になります。所得控除ではなく経費なので、所得税と住民税に加えて国民健康保険料と個人事業税まで下がります。
事業所得1,000万円の個人事業主が年240万円を掛けた場合、減る負担は年100万7,000円。掛金に対して42.0%です。ただしこの制度には、他の節税手段にはない性質の問題があります。出口で全額が戻ってくることです。
制度の骨格
取引先が倒産したときに、無担保・無保証人で借入れができる制度です。積み立てた掛金総額の10倍(上限8,000万円)まで、共済金の貸付けを受けられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 掛金月額 | 5,000円〜20万円(5,000円単位で自由に設定・変更できる) |
| 掛金の積立限度額 | 総額800万円 |
| 税務上の扱い | 法人は損金、個人事業主は必要経費 |
| 全額が戻る条件 | 掛金を40か月以上納付 |
| 加入の要件 | 継続して1年以上事業を行っている中小企業者 |
年240万円(月20万円)が上限なので、800万円に達するまで3年4か月です。それ以降は積み立てられません。効果に期限がある制度だという点を、最初に押さえておく必要があります。
掛金を経費にすると、何がいくら減るか
事業所得1,000万円(掛金を引く前)の個人事業主が、年240万円を掛けた場合の内訳です。
| 項目 | 掛金なし | 掛金240万円 | 差 |
|---|---|---|---|
| 所得税 | 112万5,700円 | 65万7,600円 | −46万8,100円 |
| 住民税 | 77万7,400円 | 55万7,300円 | −22万0,100円 |
| 個人事業税 | 35万5,000円 | 23万5,000円 | −12万円 |
| 国民健康保険料 | 95万5,957円 | 75万6,889円 | −19万9,068円 |
| 合計 | −100万7,269円 |
※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・第1種事業(税率5%)/2026年(令和8年)分基準
税以外が32万円近くを占めています。 ここが小規模企業共済やiDeCoとの決定的な違いです。あちらは所得控除なので、国民健康保険料と個人事業税には効きません。同じ金額を掛けても効き方が変わる理由は個人事業主の節税は順番があるで整理しています。
国民健康保険料が下がるのは、算定の基礎になる旧ただし書所得が事業所得から計算されるためです。仕組みは国民健康保険が高いと感じたらで扱っています。
事業所得によって軽減率は変わる
掛金240万円に対する軽減額を、事業所得別に計算しました。
| 事業所得(掛金前) | 減る負担 | 掛金に対する割合 |
|---|---|---|
| 500万円 | 71.7万円 | 29.9% |
| 700万円 | 99.6万円 | 41.5% |
| 1,000万円 | 100.7万円 | 42.0% |
| 1,300万円 | 108.4万円 | 45.2% |
| 1,600万円 | 116.9万円 | 48.7% |
| 2,000万円 | 116.9万円 | 48.7% |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)/2026年(令和8年)分基準
所得が高いほど軽減率は上がりますが、1,600万円と2,000万円で同じになっています。国民健康保険料が賦課限度額に達していて、所得が増えてもそれ以上は上がらないためです。所得が高い層では、掛金を積んでも国保の削減効果が消えます。
掛金の額を変えた場合も見ておきます(事業所得1,000万円)。
| 掛金(年) | 減る負担 | 軽減率 |
|---|---|---|
| 60万円 | 23.8万円 | 39.7% |
| 120万円 | 49.4万円 | 41.2% |
| 180万円 | 75.1万円 | 41.7% |
| 240万円 | 100.7万円 | 42.0% |
掛金を増やしても軽減率はほぼ横ばいです。掛ければ掛けるほど効率が上がる制度ではありません。
40か月未満で解約すると元本割れする
自己都合の解約(任意解約)の場合、掛金の納付月数によって戻る金額が変わります。
- 12か月未満:解約手当金はありません(掛け捨て)
- 12か月以上40か月未満:掛金総額の8割以上
- 40か月以上:掛金の全額
40か月は3年4か月です。掛金が800万円に達するタイミングと、全額が戻るタイミングがほぼ重なるように設計されています。月20万円で積むと、上限に達した直後が全額返戻の入口です。
途中で資金繰りが苦しくなって解約すると、8割しか戻りません。掛金は減額もできますが、払える範囲で設定しないと元本を削ることになります。
出口がない ── 積立時の軽減より、解約時の負担のほうが大きい
ここがこの制度のいちばん重要な点です。解約手当金は、その年の収入として全額が課税対象になります。
事業所得1,000万円の人が、年240万円を3年4か月かけて800万円まで積み、その後に解約した場合を計算しました。
| 金額 | |
|---|---|
| 積立期間に減らせた負担の累計 | 約335.7万円 |
| 解約手当金800万円が乗った年に増える負担 | 375.0万円 |
| 差引 | −39.3万円 |
※ 解約年の事業所得が1,000万円で、そこに解約手当金800万円が上乗せされる前提
一度に解約すると、積立時に減らした分より多く払うことになります。 理由は所得税の累進構造です。積立時は毎年240万円ずつ所得を圧縮したのに対し、解約時は800万円が一度に乗るため、より高い税率帯に入ります。
つまりこの制度は、税を減らすものではなく繰り延べるものです。しかも繰り延べた先で、そのまま解約すると割高になります。
有効に使うには、解約手当金を受け取る年に、それを吸収できる大きな支出や損失をぶつける必要があります。設備投資をする年、事業を縮小して所得が落ちる年、法人であれば役員退職金を支給する年などです。法人の退職金については法人に残した利益は退職金で引き出すで扱っています。
その予定がないまま加入すると、繰り延べただけで終わります。
令和6年10月からの制限
もうひとつ、新しい制約が入りました。令和6年10月1日以後に共済契約を解約し、あらためて契約を結び直した場合、その解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は、必要経費または損金に算入できません。
これは「解約して800万円を受け取り、すぐ再加入してまた掛金を経費にする」という繰り返しを封じるための改正です。解約と再加入を回し続ける使い方は、もう成立しません。
加入・解約のタイミングは、2年先まで見て決める必要があります。
法人化すると何が変わるか
掛金が損金になる点は同じですが、効き方が変わります。
法人の場合、掛金は法人の損金になるので法人税・法人事業税が下がります。一方、個人事業主のときに効いていた国民健康保険料と個人事業税は、そもそもなくなっています。役員報酬は掛金の額と切り離して決めるため、掛金を増やしても社会保険料は変わりません。
つまり上の表で32万円近くを占めていた「税以外」の部分は、法人化すると消えます。この制度の効き目がもっとも大きいのは、国民健康保険料と個人事業税を負担している個人事業主のときです。
加入するかどうかは、いま個人のままでいるのか、法人化するのかによって判断が変わります。ご自身の売上と経費で試算してから決めてください。
まとめ
- 掛金は月5,000円〜20万円、総額800万円まで。全額が必要経費になる
- 所得控除型と違い、国民健康保険料と個人事業税にも効く。事業所得1,000万円・掛金240万円で年100.7万円の軽減
- 軽減率は事業所得1,600万円あたりで頭打ち。国保が賦課限度額に達するため
- 12か月未満は掛け捨て、40か月未満は8割。全額が戻るのは40か月から
- 解約手当金は全額が課税対象。一度に解約すると、積立時の軽減を39.3万円上回る負担が発生する
- 令和6年10月1日以後の解約・再加入では、解約から2年間の掛金が経費にならない
よくある質問
加入するのに事業歴は必要ですか?
継続して1年以上事業を行っている中小企業者であることが加入の要件です。開業したばかりの年には加入できません。法人化した場合、法人としては新しい事業者になるため、この点をあらためて確認する必要があります。
掛金を毎月払わず、まとめて払うことはできますか?
前納の制度があります。1年以内の前納であれば、前納した期間分をその年の必要経費または損金に算入できます。決算直前に加入して1年分をまとめて払う使い方が可能ですが、翌年以降は同じ効果を繰り返せません。
掛金が800万円に達したらどうなりますか?
それ以上は積み立てられません。掛金の払込みを止めることになり、必要経費に算入できる金額もゼロになります。節税の効果はそこで打ち切られ、積み立てた800万円は解約するまで動かせない資金として残ります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。