税金の基礎
ふるさと納税の上限は法人化で下がる。所得1,200万円で26万円減
ふるさと納税の控除上限を決めているのは住民税の所得割額です。法人化すると役員報酬の水準まで所得が下がるため、上限も一緒に下がります。個人事業主のままの場合と法人化した場合で、上限がいくら変わるかを計算しました。
法人化を検討している人が見落としやすいものに、ふるさと納税があります。法人化すると、全額控除される寄附額の上限が下がります。
当サイトの計算エンジンで試算すると、事業所得1,200万円の人では上限が34.7万円から8.7万円へ、約26万円下がりました。理由は制度が変わるからではなく、法人化によって個人としての所得が下がるからです。
上限を決めているのは住民税の所得割額
ふるさと納税の控除は3つに分かれます。所得税からの控除、住民税からの控除(基本分)、住民税からの控除(特例分)です。
所得税からの控除 =(寄附額 − 2,000円)× 所得税の限界税率
住民税の控除(基本分)=(寄附額 − 2,000円)× 10%
住民税の控除(特例分)=(寄附額 − 2,000円)×(100% − 10% − 所得税の限界税率)
自己負担2,000円で済むのは、この3つを足して寄附額の全部がまかなえる範囲までです。そして特例分には上限があり、住民税の所得割額の20%までとされています。ここを超えると自己負担が2,000円で収まらなくなります。
つまり上限を決めているのは、住民税の所得割額です。所得割額は課税所得の10%なので、課税所得が下がれば上限も下がります。
法人化すると所得割額が下がる
ここが本題です。法人化すると、事業の利益がそのまま個人の所得になるのをやめ、役員報酬として受け取る形に変わります。残りは法人に残るので、個人の課税所得は報酬の水準まで下がります。
個人事業主のままの場合と、法人化して最適な役員報酬を取った場合を比べました。
| 事業所得 | 個人:住民税所得割 | 個人:上限 | 法人:役員報酬 | 法人:住民税所得割 | 法人:上限 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 23.0万円 | 56,255円 | 月28万円 | 13.4万円 | 33,568円 | −22,687円 |
| 600万円 | 40.9万円 | 119,620円 | 月42万円 | 24.4万円 | 59,435円 | −60,185円 |
| 800万円 | 58.8万円 | 171,014円 | 月54万円 | 33.9万円 | 86,872円 | −84,142円 |
| 1,000万円 | 77.2万円 | 234,241円 | 月54万円 | 33.9万円 | 86,872円 | −147,369円 |
| 1,200万円 | 97.2万円 | 347,214円 | 月54万円 | 33.9万円 | 86,872円 | −260,342円 |
| 1,500万円 | 127.2万円 | 453,773円 | 月54万円 | 33.9万円 | 86,872円 | −366,901円 |
| 1,800万円 | 157.2万円 | 560,332円 | 月90万円 | 71.5万円 | 216,952円 | −343,380円 |
| 2,500万円 | 228.6万円 | 931,983円 | 月100万円 | 82.9万円 | 251,199円 | −680,784円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 上限は総務省の計算式から求めた全額控除される寄附額の目安。ほかの所得控除があると変わる
どの所得水準でも法人化すると下がります。 差がいちばん大きいのは事業所得2,500万円で、68万円分の枠が消えます。
事業所得1,200万円で実際に計算してみる
表の1行を分解します。まず個人事業主のままの場合です。
住民税の所得割額 971,900円
課税所得 9,554,960円 → 所得税の限界税率 33%
特例分の上限 = 971,900円 × 20% = 194,380円
寄附額にかかる係数 = 90% − 33% × 1.021 = 56.307%
上限 = 194,380円 ÷ 0.56307 + 2,000円 = 347,214円
次に法人化して役員報酬を月54万円にした場合です。
住民税の所得割額 338,600円
課税所得 2,801,516円 → 所得税の限界税率 10%
特例分の上限 = 338,600円 × 20% = 67,720円
寄附額にかかる係数 = 90% − 10% × 1.021 = 79.790%
上限 = 67,720円 ÷ 0.79790 + 2,000円 = 86,872円
※ 1.021は復興特別所得税(所得税額の2.1%)を織り込むための係数
下がる要因が2つ重なっています。 1つは住民税の所得割額が971,900円から338,600円へ減ったこと。もう1つは、所得税の限界税率が33%から10%に下がったことです。
限界税率が下がると係数(分母)が大きくなり、同じ特例分の枠でまかなえる寄附額が小さくなります。税率が下がるのは手取りの面では有利ですが、ふるさと納税の上限にとっては不利に働きます。 ここが直感に反するところです。
800万円から1,500万円まで上限が動かない理由
表の法人側を見ると、事業所得800万円・1,000万円・1,200万円・1,500万円のすべてで上限が86,872円で止まっています。事業所得が倍近く増えても、ふるさと納税の枠は1円も増えません。
理由は役員報酬の欄にあります。この帯では最適な役員報酬が月54万円で止まっているからです。事業所得が増えても報酬を上げないほうが手取りが大きくなるため、個人の課税所得は変わらず、住民税の所得割額も動きません。増えた分は法人に残ります。
報酬が月54万円で止まる仕組みは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。標準報酬月額の等級と給与所得控除の頭打ちが重なる位置です。
手取りを最大にする報酬額と、ふるさと納税の枠を最大にする報酬額は一致しません。 枠を戻したいなら報酬を上げることになりますが、そのぶん社会保険料と所得税が増えます。ふるさと納税のためだけに報酬を上げると、手取り全体では損をする可能性があります。
法人にも制度はあるが、代わりにはならない
法人向けには**企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)**があります。ただし個人向けとは別の制度で、性質がかなり違います。
- 寄附先は、国の認定を受けた地域再生計画に基づく事業に限られる
- 返礼品を受け取ることはできない(経済的な利益の供与が認められていない)
- 軽減されるのは法人税等で、個人の所得税・住民税ではない
つまり「個人で減った枠を法人で取り返す」という使い方はできません。返礼品を目当てにしているのであれば、法人化によってその分は単純に減ると考えておくのが実態に近くなります。
手続きは法人化で楽になることがある
ここまで下がる話ばかりでしたが、改善する面もあります。ワンストップ特例です。
ワンストップ特例は、確定申告をすれば受けられる控除を、申告なしで住民税から受けられるようにする仕組みです。使える条件は2つあります。
- 確定申告の不要な給与所得者等であること
- 寄附先の自治体が5団体以内であること(6団体以上になると確定申告が必要)
条件の1つ目に注目してください。個人事業主は事業所得の確定申告をするので、ワンストップ特例を使えません。 毎年、寄附金の受領証明書を集めて申告書に記載する手間がかかります。
法人化して役員報酬だけを受け取る形になると、給与所得者になります。年末調整で完結し、ほかに申告すべき所得がなければ確定申告は不要なので、ワンストップ特例が使えるようになります。寄附先を5団体以内に収めれば、申請書を出すだけで済みます。
ただし給与収入が2,000万円を超える場合や、ほかに一定額を超える所得がある場合は確定申告が必要になり、特例は使えません。役員報酬が高い人ほど、この恩恵からは外れます。
枠は小さくなるが、手続きは簡単になる。 ふるさと納税に関して言えば、法人化はこの組み合わせになります。
判定に組み込むほどの額か
年間26万円の枠が消えるといっても、消えるのは寄附できる額であって手取りではありません。ふるさと納税は寄附した金額が税から控除される仕組みなので、得をしているのは返礼品の分です。
返礼品等の調達に要する費用を寄附額の3割以下とすることが、ふるさと納税の指定基準として定められています(地方税法第37条の2第2項第2号ほか)。このため、26万円の枠が消えることによる実質的な損失は、その3割にあたる8万円前後と見るのが目安になります。判定を覆すほどの額ではありませんが、法人化のデメリットで挙げた毎年27万円の固定費に上乗せされる性質のものです。
判定が僅差の場合には、この分も踏まえて考える価値があります。上限は所得やほかの控除の有無で変わるので、寄附の前に必ずご自身の条件で確認してください。
同じ「限界税率が下がると効きが弱くなる」構造は、医療費控除にもあります。こちらは控除の枠ではなく戻る額のほうが縮み、医療費100万円・事業所得1,500万円で年21万3,800円の差になります(医療費控除は法人化で戻る額が減る)。
同じように個人の所得税額が下がることで縮む枠が、もう1つあります。住宅ローン控除です。こちらは所得税から引ききれない分を住民税から拾える額に97,500円の天井があり、法人化で年3万4,900円が使えなくなります(住宅ローン控除は法人化で年3.5万円使えなくなる)。
まとめ
- ふるさと納税の上限を決めているのは住民税の所得割額。特例分は所得割額の20%が上限
- 法人化すると個人の課税所得が役員報酬の水準まで下がるため、上限も下がる
- 事業所得1,200万円では34.7万円から8.7万円へ、約26万円減
- 下がる要因は2つ。所得割額が減ることに加え、所得税の限界税率が下がることも上限を押し下げる
- 事業所得800万〜1,500万円では法人側の上限が86,872円で横ばい。最適な役員報酬が月54万円で止まるため
- 企業版ふるさと納税は別制度で、認定事業への寄附に限られ返礼品は受け取れない
- 実質的な損失は返礼品相当分(返礼割合は3割以下が指定基準)とみるのが目安
- 一方でワンストップ特例は法人化で使えるようになる。個人事業主は確定申告をするため使えない
よくある質問
法人化したあと、法人としてふるさと納税はできますか?
個人向けのふるさと納税とは別に、企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)があります。ただし国の認定を受けた地域再生計画に基づく事業への寄附に限られ、返礼品を受け取ることはできません。個人向けの制度の代わりになるものではありません。
役員報酬を上げれば上限も戻りますか?
戻ります。上限は住民税の所得割額に比例するため、報酬を上げれば上限も上がります。ただし報酬を上げると社会保険料と所得税が増えるため、手取り全体では不利になる場合があります。ふるさと納税の枠だけで報酬額を決めない判断が要ります。
この記事の上限額をそのまま使ってよいですか?
目安としてお使いください。実際の上限は医療費控除や住宅ローン控除など、ほかの控除の有無で変わります。寄附する前に、寄附先の自治体やポータルサイトの試算、確定申告書等作成コーナーで確認することをおすすめします。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。