税金の基礎
住宅ローン控除は法人化で年3.5万円使えなくなる。逆転する帯もある
住宅ローン控除は所得税額から引き、余りは住民税から97,500円までしか引けません。法人化で役員報酬にすると所得税額が下がるので、控除の受け皿が縮みます。売上別・役員報酬別に使えなくなる額を計算し、逆に法人化で控除が復活する帯も示します。
住宅ローン控除は、所得税額から直接引く税額控除です。所得控除と違い、引く先の税金がなければ効きません。
法人化すると個人の所得は役員報酬に変わり、当サイトの試算で最適になりやすい月54万円あたりだと所得税額は年18万2,600円まで下がります。控除可能額が31万5,000円あっても、年3万4,900円は引く先がありません。13年間では45万3,700円です。
引く先は2段ある。2段目には97,500円の天井がある
住宅ローン控除の引き方は2段構えです。
| 順番 | 引く先 | 限度 |
|---|---|---|
| 1 | その年の所得税額 | 所得税額まで |
| 2 | 翌年度の個人住民税 | 前年分の所得税の課税総所得金額等の5%、かつ97,500円 |
総務省は、平成21年から令和12年12月31日までの間に居住し、所得税で控除しきれなかった金額がある場合に、翌年度の個人住民税で控除が適用されるとしています。市区町村への申告は不要です。
問題は2段目の天井です。所得税額がいくら小さくても、住民税から拾えるのは最大97,500円までです。受け皿の合計は「所得税額 + 97,500円」を超えません。
繰越しもありません。控除しきれなかった額は、その年で消えます。
令和8年入居の控除可能額
控除額は年末残高の0.7%です。住宅の区分ごとに限度があります。令和8年に居住した場合の控除限度額は次のとおりです。
| 住宅の区分(令和8年入居) | 借入限度額 | 各年の控除限度額 | 控除期間 |
|---|---|---|---|
| 認定住宅(認定長期優良住宅・認定低炭素住宅) | 4,500万円 | 31.5万円 | 13年 |
| ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 | 24.5万円 | 13年 |
| 省エネ基準適合住宅 | 2,000万円 | 14万円 | 13年 |
| その他の住宅 | − | 0円 | 0年 |
40歳未満で配偶者がいる人、40歳未満の配偶者がいる人、19歳未満の扶養親族がいる人は「特例対象個人」にあたり、控除限度額が1段階上(認定住宅なら35万円)になります。
年末残高から見た控除可能額はこうなります。
| 年末残高 | 控除可能額(残高×0.7%) | 住宅の区分(令和8年入居)の控除限度額 |
|---|---|---|
| 1000万円 | 70,000円 | 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅なら全額 |
| 2000万円 | 140,000円 | 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅なら全額 |
| 3000万円 | 210,000円 | 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅なら全額 |
| 3500万円 | 245,000円 | 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅なら全額 |
| 4000万円 | 280,000円 | 認定住宅なら全額 |
| 4500万円 | 315,000円 | 認定住宅なら全額 |
以下では、認定住宅で年末残高4,500万円、控除可能額31万5,000円のケースで計算します。
売上別に、いくら使えなくなるか
東京23区・40歳未満・配偶者なし・青色申告65万円・インボイス登録済み・合同会社という条件で、個人事業のままの場合と、法人化して最適な役員報酬にした場合を比べます。
| 売上(経費200万円) | 個人の所得税額 | 個人で使える額 | 法人化後の所得税額 | 法人化後に使える額 | 使えなくなる額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 347,900円 | 315,000円 | 92,600円 | 185,292円 | 129,708円 |
| 1000万円 | 715,500円 | 315,000円 | 182,600円 | 280,100円 | 34,900円 |
| 1200万円 | 1,102,500円 | 315,000円 | 182,600円 | 280,100円 | 34,900円 |
| 1500万円 | 1,946,800円 | 315,000円 | 182,600円 | 280,100円 | 34,900円 |
| 2000万円 | 3,596,800円 | 315,000円 | 970,300円 | 315,000円 | 0円 |
所得税額は復興特別所得税を含まない本体の額です。住宅ローン控除はこの額から引き、控除後の残額に復興特別所得税がかかります。表は
scripts/jutaku-loan-kojo-houjinka.mjsで再生成できます。
売上1,000万円から1,500万円の帯では、法人化しても最適な役員報酬が月54万円前後で止まります。売上が増えても役員個人の所得税額は変わらないので、使えなくなる額も3万4,900円で一定です。
売上800万円だと、最適な役員報酬がさらに低くなるため12万9,708円まで広がります。売上2,000万円になると最適な役員報酬が上がり、所得税額が控除可能額を上回るので差はなくなります。
住宅ローン控除の目減りが効くのは、法人化の判定がちょうど僅差になる帯です。年3万4,900円は、当サイトの試算で出る法人化の差額と同じ桁になることがあります。
役員報酬を下げるほど、受け皿は小さくなる
同じ売上1,200万円で、役員報酬だけを変えたときの受け皿です。
| 役員報酬(月) | 課税総所得金額等 | 所得税額 | 所得税から | 住民税から(上限97,500円) | 使える合計 | 余る額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 月20万円 | 219,440円 | 10,900円 | 10,900円 | 10,972円 | 21,872円 | 293,128円 |
| 月30万円 | 889,160円 | 44,400円 | 44,400円 | 44,458円 | 88,858円 | 226,142円 |
| 月40万円 | 1,661,852円 | 83,000円 | 83,000円 | 83,092円 | 166,092円 | 148,908円 |
| 月54万円 | 2,801,516円 | 182,600円 | 182,600円 | 97,500円 | 280,100円 | 34,900円 |
| 月70万円 | 4,646,892円 | 501,700円 | 315,000円 | 0円 | 315,000円 | 0円 |
役員報酬を月20万円まで下げると、31万5,000円のうち29万3,128円が消えます。社会保険料を下げるために報酬を絞る発想は、住宅ローン控除を持っている人には逆向きに効きます。
月54万円までは、住民税側の限度が「課税総所得金額等の5%」で決まっています。97,500円の天井に届くのは課税総所得が195万円を超えてからです。役員報酬が低い帯では、天井の97,500円すら使えません。
役員報酬の決め方そのものは役員報酬はいくらが最適かにまとめています。判定ツールは96通りを計算しますが、住宅ローン控除は計算に入れていません。
逆に、法人化で控除が復活する帯がある
住宅ローン控除にはその年分の合計所得金額が2,000万円以下という要件があります。超えるとその年は1円も控除できません。個人事業の所得が大きい人は、この要件で弾かれます。
法人化すると、個人の所得は事業所得から給与所得に変わります。役員報酬を超える利益は法人に残るので、個人の合計所得金額は下がります。
| 売上(経費200万円) | 個人の合計所得金額 | 個人は要件を満たすか | 法人化後の給与所得 | 法人化後は要件を満たすか |
|---|---|---|---|---|
| 2000万円 | 17,350,000円 | 満たす | 8,850,000円 | 満たす |
| 2300万円 | 20,350,000円 | 満たさない | 9,450,000円 | 満たす |
| 2500万円 | 22,350,000円 | 満たさない | 10,050,000円 | 満たす |
| 3000万円 | 27,350,000円 | 満たさない | 10,050,000円 | 満たす |
| 4000万円 | 37,350,000円 | 満たさない | 10,050,000円 | 満たす |
売上2,300万円(経費200万円・青色65万円控除後の事業所得2,035万円)で、個人のままなら控除はゼロです。法人化して役員報酬にすると給与所得は945万円になり、要件を満たします。この帯では、法人化によって年31万5,000円の控除が戻ります。
つまり住宅ローン控除は、法人化の判定に対して2方向に働きます。
- 売上800万〜1,500万円の帯:受け皿が縮み、年3.5万〜13万円が使えなくなる
- 売上2,300万円以上の帯:所得要件を満たすようになり、年最大31.5万円が戻る
同じ性質の逆転は、ふるさと納税でも起きます。こちらは法人化で上限が下がる側です。金額はふるさと納税の上限は法人化で下がるで計算しました。
手続きは1年目だけ確定申告
住宅ローン控除は、最初の年は確定申告が必要です。2年目以降は、税務署から届く控除証明書と金融機関の残高証明書を出せば年末調整で処理できます。
一人社長は、自分で自分の年末調整をします。役員報酬から源泉徴収した所得税を、年末に精算する手続きです。住宅ローン控除もここに入ります。手順は一人社長も年末調整が必要にまとめました。
なお法人化した年は、個人事業の期間と役員報酬の期間が同じ年に混ざります。個人事業の所得と給与所得を合算した合計所得金額で2,000万円以下を判定するので、法人化した年だけ要件を外れることがあります。
当サイトの判定ツールは住宅ローン控除を計算に含めていません。前提は計算方法についてに置いています。控除を持っている人は、この記事の金額を手で足し引きしてください。
まとめ
- 住宅ローン控除の受け皿は「その年の所得税額 + 住民税から最大97,500円」。繰越しはない
- 法人化して役員報酬を月54万円にすると、売上1,000万〜1,500万円の帯では毎年3万4,900円が使えなくなる(13年で45万3,700円)
- 売上800万円だと12万9,708円、役員報酬を月20万円まで下げると29万3,128円が消える
- 住民税側の限度は「課税総所得金額等の5%」。課税総所得195万円までは97,500円の天井にも届かない
- 合計所得金額2,000万円以下という要件があるため、売上2,300万円以上では法人化で控除が戻る
よくある質問
法人化すると住宅ローン控除は受けられなくなりますか?
受けられなくなるわけではありません。役員報酬は給与所得なので、そこから計算した所得税額から控除します。ただし役員報酬を下げると所得税額そのものが小さくなり、控除しきれない部分が出ます。引ききれない分は住民税から控除できますが、所得税の課税総所得金額等の5%かつ97,500円が限度です。
控除しきれなかった分は翌年に繰り越せますか?
繰り越せません。住宅ローン控除はその年の所得税額と、翌年度の住民税の限度額までで完結します。使えなかった分はそのまま消えます。
所得が高くて住宅ローン控除を使えていない場合はどうなりますか?
住宅ローン控除には、その年分の合計所得金額が2,000万円以下という要件があります。個人事業の所得がこれを超えていると1円も控除できません。法人化して役員報酬にすると合計所得金額が給与所得に変わるため、要件を満たす側へ動くことがあります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。