社会保険

非常勤役員は社会保険に入らなくていい?判定は勤務実態で決まる

「非常勤役員なら社会保険に入らなくていい」という説明をよく見ます。しかし役員の加入判定は肩書きでも報酬額でもなく、勤務の実態で決まります。令和8年3月の新通知が示す2つの基準と、被保険者になった場合の会社負担額を、標準報酬月額の全50等級の実データで整理します。

「妻を非常勤役員にして役員報酬を出せば、社会保険料はかからない」——法人化の節税策としてよく語られます。しかし、この理解は制度の入口を取り違えています。

役員が社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者になるかどうかは、「常勤か非常勤か」という肩書きでも、報酬額でも決まりません。 決め手は勤務の実態です。そして令和8年3月には、名目だけの役員を適用対象から外すための通知が新しく出ました。

役員も「原則は被保険者」。ここが出発点

まず押さえるべきは、役員も原則として被保険者だという点です。健康保険法第3条第1項と厚生年金保険法第9条は、適用事業所に常態的に使用される者を被保険者とします。役員についても、昭和24年7月28日保発第74号の通知が「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」と定めています。

つまり「常勤/非常勤」という区分は、制度上の入口ではありません。法人が社長1人でも強制適用事業所になることは法人化すると社会保険は強制加入。ひとり社長に例外はないで扱ったとおりで、役員個人が被保険者になるかどうかも、この「常態的な使用関係」があるかどうかで判断されます。

判定は「金額」ではなく「実態」

令和8年3月18日の厚生労働省通知(保保発0318第1号・年管管発0318第1号)は、役員の被保険者資格を判断する基準を2つに整理しています。

  1. その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか
  2. その報酬が当該業務の対価として法人より経常的に支払いを受けるものであるか

この2つを基準に、実態を踏まえて総合的に判断する、というのが現在の運用です。ここに「週◯時間」「月◯万円」という数値基準は登場しません。

数値基準がないことは、逆方向からも確認できます。日本年金機構の疑義照会回答は、役員報酬を「月に数円」まで下げた場合でも、最低金額を設定してその金額を下回る場合は被保険者資格がないとするのは妥当ではない、と回答しています。加入するかどうかは金額で切れる話ではなく、複数の判断材料から実態に基づいて総合的に判断する、というのが理由です。「報酬を下げれば社会保険から外れられる」という発想は、この時点で成り立ちません。

パートやアルバイトの「週20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上(この賃金要件は令和8年10月に撤廃予定)」といった加入基準は、あくまで「短時間労働者」=雇われて働く人向けのものです。 役員報酬の判定基準ではありません。この2つを混同すると、「役員報酬を月8.8万円未満にすれば入らなくて済む」という誤った結論になります。

令和8年3月、名目だけの役員は「適用なし」と明確化された

同じ令和8年3月18日の通知には、もう一つ大きな内容があります。社会保険料の削減をうたって個人事業主やフリーランスを名目上の役員にし、低い保険料で健康保険等に加入させる事業所が現れたことへの対応です。役員報酬を上回る額を「会費」などと称して本人に支払わせているケースが問題視されました。

通知は、次のいずれかに当てはまる場合は健康保険等の適用はないと判断する、と示しました。

  • 経営参画の経常的な労務提供に該当しない例:役員会等に出席しているが、連絡調整や職員への指揮監督に従事していない場合/求めに応じて意見を述べる立場にとどまっている場合
  • 経常的な報酬の支払いに該当しない例:役員会等への出席について支払われる報酬、旅費など実費弁償的な支払い、退職手当(毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされる場合は報酬に該当)

さらに、経営に対する参画といえるかを判断する具体的な事実として、通知は次を挙げています。指揮命令権を有する職員の有無、決裁権を有する所管業務の有無、役員間の取りまとめや代表者への報告業務の有無、会議への出席頻度とそれ以外の業務・出勤の頻度です。

読み替えると、結論はこうなります。「非常勤役員だから外れる」のではありません。経営参画の実態がないから外れるのです。裏を返せば、実態が伴う役員は「非常勤」でも被保険者になります。家族を役員にする場合の税務上の扱いは専従者給与と役員報酬、家族はどっちが得かみなし役員とは?家族への給与が否認される条件で整理していますが、社会保険の加入判定はこれらとは別の枠組みで動きます。

被保険者になったら、会社はいくら負担するか

では、非常勤役員が被保険者と判定された場合、会社はいくら負担するのでしょうか。保険料は標準報酬月額の等級で決まります。次は令和8年3月分以降の料率で計算した全50等級です(本人負担分。健康保険・厚生年金はいずれも労使折半なので、会社もほぼ同額を負担します)。

健保等級標準報酬月額報酬月額の範囲厚年等級厚年の標準報酬月額健康保険料(本人)厚生年金保険料(本人)
158,00063,000円未満88,0002,9238,052
268,00063,000円以上 73,000円未満88,0003,4278,052
378,00073,000円以上 83,000円未満88,0003,9318,052
488,00083,000円以上 93,000円未満188,0004,4358,052
598,00093,000円以上 101,000円未満298,0004,9398,967
6104,000101,000円以上 107,000円未満3104,0005,2429,516
7110,000107,000円以上 114,000円未満4110,0005,54410,065
8118,000114,000円以上 122,000円未満5118,0005,94710,797
9126,000122,000円以上 130,000円未満6126,0006,35011,529
10134,000130,000円以上 138,000円未満7134,0006,75412,261
11142,000138,000円以上 146,000円未満8142,0007,15712,993
12150,000146,000円以上 155,000円未満9150,0007,56013,725
13160,000155,000円以上 165,000円未満10160,0008,06414,640
14170,000165,000円以上 175,000円未満11170,0008,56815,555
15180,000175,000円以上 185,000円未満12180,0009,07216,470
16190,000185,000円以上 195,000円未満13190,0009,57617,385
17200,000195,000円以上 210,000円未満14200,00010,08018,300
18220,000210,000円以上 230,000円未満15220,00011,08820,130
19240,000230,000円以上 250,000円未満16240,00012,09621,960
20260,000250,000円以上 270,000円未満17260,00013,10423,790
21280,000270,000円以上 290,000円未満18280,00014,11225,620
22300,000290,000円以上 310,000円未満19300,00015,12027,450
23320,000310,000円以上 330,000円未満20320,00016,12829,280
24340,000330,000円以上 350,000円未満21340,00017,13631,110
25360,000350,000円以上 370,000円未満22360,00018,14432,940
26380,000370,000円以上 395,000円未満23380,00019,15234,770
27410,000395,000円以上 425,000円未満24410,00020,66437,515
28440,000425,000円以上 455,000円未満25440,00022,17640,260
29470,000455,000円以上 485,000円未満26470,00023,68843,005
30500,000485,000円以上 515,000円未満27500,00025,20045,750
31530,000515,000円以上 545,000円未満28530,00026,71248,495
32560,000545,000円以上 575,000円未満29560,00028,22451,240
33590,000575,000円以上 605,000円未満30590,00029,73653,985
34620,000605,000円以上 635,000円未満31620,00031,24856,730
35650,000635,000円以上 665,000円未満32650,00032,76059,475
36680,000665,000円以上 695,000円未満32650,00034,27259,475
37710,000695,000円以上 730,000円未満32650,00035,78459,475
38750,000730,000円以上 770,000円未満32650,00037,80059,475
39790,000770,000円以上 810,000円未満32650,00039,81659,475
40830,000810,000円以上 855,000円未満32650,00041,83259,475
41880,000855,000円以上 905,000円未満32650,00044,35259,475
42930,000905,000円以上 955,000円未満32650,00046,87259,475
43980,000955,000円以上 1,005,000円未満32650,00049,39259,475
441,030,0001,005,000円以上 1,055,000円未満32650,00051,91259,475
451,090,0001,055,000円以上 1,115,000円未満32650,00054,93659,475
461,150,0001,115,000円以上 1,175,000円未満32650,00057,96059,475
471,210,0001,175,000円以上 1,235,000円未満32650,00060,98459,475
481,270,0001,235,000円以上 1,295,000円未満32650,00064,00859,475
491,330,0001,295,000円以上 1,355,000円未満32650,00067,03259,475
501,390,0001,355,000円以上32650,00070,05659,475

※ 東京支部・40歳未満(介護保険料なし)/令和8年3月分以降の料率 ※ 健康保険料率 9.85%+子ども・子育て支援金 0.23%、厚生年金保険料率 18.3%。いずれも労使折半後の本人負担分(月額)

この表から、非常勤役員の負担について2つのことが読み取れます。

1つ目は、負担が報酬額(等級)に比例することです。 「非常勤だから安い」という割引はありません。役員報酬を月20万円(標準報酬月額200,000円)とすると、会社負担分だけで年約34万1,000円、本人分と合わせた労使合計は年約68万1,000円です。月30万円なら会社負担は年約51万1,000円、労使合計は年約102万2,000円に増えます。負担額を決めるのは肩書きではなく、報酬の等級です。

2つ目は、報酬を下げても下限で止まることです。 標準報酬月額の下限は月額58,000円(第1等級)なので、役員報酬を月5万円まで下げても標準報酬月額は58,000円のまま、会社負担は年約13万2,000円から下がりません。労使合計では年約26万3,000円です。「報酬を圧縮して保険料を減らす」やり方には、この下限という天井があります。だからこそ、負担を左右するのは金額そのものではなく、そもそも被保険者になるのか(=経営参画の実態があるのか)という入口の判定だといえます。

なお、会社が負担する保険料は法定福利費として全額が法人の損金です。役員報酬額をいくらにするかで法人と個人の税・社会保険がどう動くかは、役員報酬の最適額はいくら?手取りが最大になる金額を探すや当サイトの計算の前提で確認できます。

まとめ

  • 役員も原則は被保険者です。「常勤/非常勤」という肩書きは、加入判定の入口ではありません(昭和24年7月28日保発第74号)。
  • 判定基準は「経営参画の経常的な労務の提供」と「業務の対価としての経常的な報酬」の2つ。実態を踏まえた総合判断で、「週◯時間」「月◯万円」という数値基準はありません。
  • 令和8年3月18日の通知で、役員会に出て意見を述べるだけ、報酬が実費弁償にとどまる、といった名目だけの役員は「適用なし」と明確化されました。
  • 被保険者になれば、会社負担は報酬の等級に比例します。月20万円で会社負担は年約34万円(概算)。報酬を下げても標準報酬月額58,000円で止まります。
  • 「非常勤にすれば外れる」「報酬を下げれば外れる」ではなく、勤務実態が問われます。家族を役員にしたときの会社負担は、あなたの報酬設定で変わるので、自分の条件で試算してください。

よくある質問

妻を非常勤役員にすれば、社会保険料はかからずに役員報酬を出せますか?

「非常勤」という肩書きだけでは判断されません。役員が被保険者になるかどうかは、経営に参画する経常的な労務の提供があるか、その対価として経常的に報酬を受けているかという実態で総合的に判断されます。実態が伴えば非常勤でも被保険者になり、会社と本人で保険料を負担します。逆に名目だけであれば、そもそも役員報酬として認められない扱いになる場合があります。

役員報酬を月5万円まで下げれば社会保険から外れられますか?

外れられません。日本年金機構の疑義照会回答は、報酬が月数円のような低額であっても、最低金額を設定してそれを下回る場合は被保険者資格がないとするのは妥当でない、としています。加入するかどうかは金額ではなく勤務実態で決まるためです。なお標準報酬月額には下限(月額58,000円)があり、報酬を下げても保険料はそこで止まります。

他社で常勤している人を、自分の会社の非常勤役員にした場合はどうなりますか?

自分の会社での勤務実態がなければ、その会社では被保険者になりません。役員会に出席して意見を述べるだけ、報酬が実費弁償にとどまる、といった場合は経営参画の経常的な労務提供に当たらないと判断されることがあります。複数の会社で報酬を受ける場合の保険料按分は、勤務実態のある会社ごとに考えます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。