社会保険

役員報酬を下げても保険料が下がるのは4か月目。3か月で17万円の差

役員報酬を減らしても社会保険料はすぐに下がりません。随時改定の3要件と、変動月から4か月目という改定時期、2等級以上動かないと改定されない仕組み、厚生年金が上限で止まっている帯では下げてもほとんど効かないことを、令和8年度の料率で計算しました。

役員報酬を月80万円から月50万円へ下げても、社会保険料はその月からは下がりません。下がるのは4か月目です。その間の3か月は前の等級のまま払い続けるので、労使合計で17万46円を余分に負担します。

しかも、下げ幅によっては1円も下がりません。社会保険には「2等級以上動かないと改定しない」という決まりがあるためです。

保険料が下がるのは、報酬を下げた月から4か月目

役員報酬を変えたときに標準報酬月額を見直す手続きを随時改定といい、届出の名前から月額変更届とも呼ばれます。日本年金機構は、次の3つにすべて該当した場合に随時改定を行うとしています。

要件内容
1昇給または降給等により固定的賃金に変動があった
2変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
3変動月以後引き続く3か月の報酬の支払基礎日数が17日以上である

役員報酬は毎月同額を支払う定期同額給与なので、1と3は自動的に満たします。判定を分けるのは2だけです。

そして改定される月は、日本年金機構の説明では「変動月から起算して4か月目」です。4月に支払われる給与を下げたなら、改定されるのは7月分の標準報酬月額からになります。

実際に納める額が下がるのは8月末

保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日です。4月分の保険料の期限は5月末日、7月分の保険料の期限は8月末日になります。

3月決算の会社が4月支給分から役員報酬を下げた場合、時間の流れはこうなります。

時期何が起きるか
4月役員報酬を下げる(変動月)
4月・5月・6月新しい報酬額で3か月分を支払う。保険料は旧等級のまま
7月7月分の標準報酬月額から改定。速やかに月額変更届を出す
8月末7月分の保険料の納付期限。ここで初めて引落額が下がる

報酬を下げた月から数えて、資金繰りが実際に楽になるまで4か月半かかります。

3か月分の差額はいくらか

東京支部・40歳未満で計算した、減額パターン別の差額です。労使合計(本人負担+会社負担)の金額です。

役員報酬の変更改定前の労使合計(月)改定後の労使合計(月)月の差3か月分の差額年間の減少額
月80.0万円 → 月50.0万円198,582円141,900円56,682円170,046円680,184円
月60.0万円 → 月40.0万円167,442円116,358円51,084円153,252円613,008円
月50.0万円 → 月30.0万円141,900円85,140円56,760円170,280円681,120円
月40.0万円 → 月25.0万円116,358円73,788円42,570円127,710円510,840円
月30.0万円 → 月20.0万円85,140円56,760円28,380円85,140円340,560円
月20.0万円 → 月10.0万円56,760円27,812円28,948円86,844円347,371円

東京支部・40歳未満(介護保険料なし)。健康保険料率9.85%に子ども・子育て支援金率0.23%を加えた10.08%、厚生年金保険料率18.3%で計算しています。事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金0.36%は含めていません。

月50万円から月30万円へ下げるケースが、3か月で17万280円ともっとも重くなります。 下げ幅は月80万円からのケースより10万円小さいのに、タイムラグの負担は大きくなります。等級の刻みが報酬の低い帯ほど細かいためです。

この3か月分は、報酬を下げた効果が出るまでの待ち時間のコストです。年度の途中で資金繰りが苦しくなってから報酬を下げても、その月の支出はすぐには軽くなりません。

2等級以上動かないと、そもそも改定されない

要件2の「2等級以上の差」は、下げ幅の絶対額では決まりません。いまどの等級にいるかで必要な下げ幅が変わります。

改定前の報酬月額健保等級2等級下の標準報酬月額そこへ入る報酬月額必要な下げ幅
20.0万円17(200,000)180,000184,999円以下15,001円以上
30.0万円22(300,000)260,000269,999円以下30,001円以上
41.0万円27(410,000)360,000369,999円以下40,001円以上
50.0万円30(500,000)440,000454,999円以下45,001円以上
65.0万円35(650,000)590,000604,999円以下45,001円以上

月50万円の役員報酬を月48万円に下げても、標準報酬月額は50万円のままです。1等級も動かないので、届出も改定もありません。報酬だけが年24万円減って、保険料は変わらないという結果になります。

等級表の全体は標準報酬月額の等級表(令和8年度)にまとめています。自分の報酬額がどの等級の、どのあたりにいるかを先に確認してください。

上限と下限の付近だけは1等級でも改定される

例外が2つあります。日本年金機構は、厚生年金で31等級・62万円の人の報酬月額が66万5,000円以上になった場合と、2等級・9万8,000円の人の報酬月額が8万3,000円未満になった場合を、1等級差でも随時改定の対象として挙げています。健康保険でも49等級・133万円から報酬月額141万5,000円以上へ上がる場合が同じ扱いです。

等級表の端では上下に1等級しか余地がないため、2等級差という条件では改定できなくなるからです。一人社長で該当するのは、報酬を下限近くまで下げるケースです。

月80万円を月70万円にしても、保険料は月8,064円しか下がらない

もう1つ、下げても効かない帯があります。厚生年金の標準報酬月額は32等級・65万円が上限で、報酬月額63万5,000円以上はすべて同じ保険料になるためです。

役員報酬の変更健保の等級厚年の等級健保料の差(月)厚年料の差(月)労使合計の差(月)下げ幅に対する割合
月100.0万円 → 月80.0万円43 → 3932 → 3219,152円0円19,152円9.6%
月90.0万円 → 月70.0万円41 → 3732 → 3217,136円0円17,136円8.6%
月80.0万円 → 月70.0万円39 → 3732 → 328,064円0円8,064円8.1%
月70.0万円 → 月60.0万円37 → 3332 → 3012,096円10,980円23,076円23.1%
月60.0万円 → 月50.0万円33 → 3030 → 279,072円16,470円25,542円25.5%
月50.0万円 → 月40.0万円30 → 2727 → 249,072円16,470円25,542円25.5%

月80万円から月70万円へ、月10万円下げたときに減る保険料は月8,064円です。下げ幅の**8.1%**しか回収できません。同じ月10万円でも、月60万円から月50万円へ下げれば月2万5,542円、下げ幅の25.5%が減ります。

差がつくのは厚生年金です。報酬月額63万5,000円以上の帯では厚生年金保険料が1円も動きません。健康保険は50等級・139万円まであるので健保だけが下がり、保険料全体としては鈍い反応になります。

この上限は令和9年9月から3段階で75万円へ引き上げられる予定です。引上げ後は動く帯が広がります。時期と影響額は厚生年金の上限が75万円へにまとめました。

下げ続けても、労使合計は年26.3万円で止まる

反対側の端にも壁があります。健康保険の標準報酬月額の下限は5万8,000円、厚生年金は8万8,000円です。役員報酬を月3万円にしても月5万円にしても、労使合計の保険料は年26万3,405円で変わりません。

つまり随時改定で下げられるのは、この下限までです。報酬を下げるほど額面に対する保険料の割合は上がっていきます。下限まで下げた場合の内訳と、報酬別の保険料額は一人社長の社会保険料はいくらかで扱っています。

定期同額給与の3か月と、随時改定の3か月は別のもの

役員報酬の話には「3か月」が2回出てきます。混ざりやすいので分けて整理します。

定期同額給与(法人税)随時改定(社会保険)
根拠法人税法健康保険法・厚生年金保険法
3か月の意味事業年度開始の日から3か月以内なら改定できる変動月から3か月の平均で判定する
守らないと差額が損金不算入になる改定されず等級が変わらない
手続き届出は不要(議事録などで記録)月額変更届を速やかに提出

法人税で損金にするための改定期限は事業年度開始の日から3か月以内、社会保険の改定はその変動月から4か月目です。先に法人税の期限が来て、あとから社会保険が動くという順番になります。

3月決算の会社なら、6月末までに改定しなければ定期同額給与の要件を外れます。この期限を逃して期中に減額すると、経営状況の著しい悪化など限られた事由に当たらない限り損金不算入の問題が出ます。期中改定の3つの例外と損金不算入額は役員報酬を期中に増やすとで計算しています。

7月から9月に改定が入るときは算定基礎届が要らない

毎年7月には、4月・5月・6月の報酬から標準報酬月額を決め直す定時決定があります。決まった等級は9月から翌年8月までの各月に適用されます。

4月改定の一人社長は、随時改定(7月分から)と定時決定(9月分から)の両方の時期に当たります。日本年金機構は、7月から9月に随時改定が予定される人について、算定基礎届の報酬月額欄を記入せず空欄とし、備考欄の「3.月額変更予定」に丸を付けて提出するよう案内しています。二重に届け出るものではありません。

なお随時改定の要件に該当しないことが後から判明した場合は、速やかに算定基礎届を提出することになります。2等級差に届くかどうかを先に確かめておく理由がここにもあります。

報酬を下げる判断は、保険料だけでは決まらない

保険料が下がることだけを見て役員報酬を下げると、別のところで戻ってきます。

  • 標準報酬月額は将来の厚生年金額の計算に入ります。下げた期間はそのまま報酬比例部分に反映されます
  • 傷病手当金や出産手当金の額も標準報酬月額から計算します
  • 会社に残る利益が増えるので、法人税等が増えます。個人の所得税・住民税が減るぶんと相殺されます

当サイトの判定ツールは、この3つを込みで月5万円から月100万円まで96通りを計算し、手取りが最大になる報酬額を出します。計算の前提は計算方法についてに置いています。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 随時改定は、固定的賃金の変動・2等級以上の差・支払基礎日数17日以上の3要件をすべて満たしたときに行われ、改定は変動月から起算して4か月目から
  • 保険料の納付期限は翌月末日なので、4月に報酬を下げると引落額が下がるのは8月末納付分から
  • 月80万円から月50万円へ下げた場合、改定までの3か月で労使合計17万46円を余分に負担する
  • 2等級以上動かない下げ幅では改定されない。月50万円を月48万円にしても保険料は変わらない
  • 厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限。この帯では月80万円を月70万円にしても下がるのは月8,064円(下げ幅の8.1%)

よくある質問

役員報酬を下げると社会保険料はいつから下がりますか?

随時改定の要件を満たす場合、報酬が変動した月から起算して4か月目の標準報酬月額から改定されます。4月支給分から下げたなら7月分の保険料からです。保険料の納付期限は翌月末日なので、実際に納める額が下がるのは8月末納付分からになります。

少しだけ下げても保険料は下がりますか?

下がりません。随時改定は、変動月以後3か月の報酬の平均から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合に行われます。1等級しか動かない下げ幅では改定されず、次の定時決定まで従前の等級のままです。

役員報酬は期の途中でも下げられますか?

支払額を変えること自体はできますが、法人税で損金にするには定期同額給与の要件を満たす必要があります。原則は事業年度開始の日から3か月以内の改定で、期中の減額は経営状況の著しい悪化など限られた事由に当たる場合に限られます。社会保険の随時改定とは別の制度なので、両方を確認します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。