社会保険

一人社長は育児休業で社会保険料を免除できない。産休との違い

一人社長や代表取締役は、育児休業を理由とする健康保険・厚生年金保険料の免除を原則申請できません。役員報酬別に免除されない額を計算し、女性役員の産前産後免除、令和8年10月開始の国民年金育児免除との違いを整理します。

一人社長や代表取締役は、育児のために実際の業務を休んでも、育児休業を理由とする健康保険・厚生年金保険料の免除を原則として受けられません

社会保険の被保険者であることだけでは足りません。免除対象は育児・介護休業法に基づく育児休業等に限られ、代表権・業務執行権を持つ一人社長は通常、同法の「労働者」に当たらないためです。

役員報酬月54万円なら、東京・40歳未満の健康保険と厚生年金は労使合計で月15万414円です。一般の従業員が要件を満たす育児休業を1か月取れば本人分・会社分とも免除されますが、一人社長はこの15万円を免除できません。

日本年金機構が2026年1月に「申し出できない」と明記した

育児休業中の社会保険料免除は、育児・介護休業法に基づく育児休業等を取得した健康保険・厚生年金の被保険者について、事業主が日本年金機構へ申し出る制度です。

免除されるのは次の両方です。

  • 役員・従業員本人が負担する健康保険・厚生年金保険料
  • 会社が負担する健康保険・厚生年金保険料

保険料を納めなくても、免除期間は将来の厚生年金額を計算するときに納付済みとして扱われます。一般の従業員にとっては、本人と会社の両方に大きな効果があります。

しかし対象期間は、法律に基づく育児休業等に限られます。日本年金機構は2026年1月29日更新のQ&Aで、事業主または労働者ではない役員は育児・介護休業法に基づく育児休業等を取得できず、免除の申し出もできないと明記しました。

立場育児・介護休業法の育児休業社会保険料免除
一般の従業員要件を満たせば取得できる本人分・会社分とも対象
代表取締役・一人社長通常は労働者ではないため取得できない対象外
非代表の役員兼従業員実態として労働者なら対象になり得る個別の労働者性と休業実態で判定
一人会社の従業員役員でなければ取得できる対象

会社の就業規則に「役員も育児休業を取れる」と書くだけでは、育児・介護休業法上の労働者にはなりません。会社が独自に役員の休業を認めることと、法律上の育児休業による社会保険料免除は別です。

実際に仕事と報酬を止めても、免除にはならない

一人社長が「この1か月は仕事をしない」と決め、役員報酬の振込みも止めたとしても、それだけで社会保険料は0円になりません。被保険者資格と標準報酬月額が続く限り、会社には通常どおり保険料の納付義務があります。

役員報酬別に、育児休業の免除対象にならない月額を計算しました。

役員報酬標準報酬月額(健康保険)健康保険等・厚生年金(労使計、月)12か月分
月20万円20万円56,760円68.1万円
月28万円28万円79,464円95.4万円
月32万円32万円90,816円109.0万円
月42万円41万円116,358円139.6万円
月54万円53万円150,414円180.5万円
月60万円59万円167,442円200.9万円
月90万円88万円207,654円249.2万円

※ 東京支部・40歳未満・2026年(令和8年)分。健康保険料率9.85%、子ども・子育て支援金率0.23%、厚生年金保険料率18.3%。本人負担と会社負担の合計

この表は「育休を取れば節約できる額」ではありません。一般の従業員なら免除され得るが、代表取締役にはその入口がない金額です。一人社長の社会保険料を会社負担込みで計算した記事と同じ計算エンジンから出しています。

役員報酬を期中に0円へ変える方法も、単純な代替にはなりません。税務上、役員報酬は定期同額給与が原則で、事業年度の途中に自由に増減すると損金算入が崩れる場合があります。報酬を止めた事実と社会保険の被保険者資格がどうなるかも別の判定です。

「免除の届出を出せないなら、報酬を払ったことにしなければよい」と処理するのではなく、税務と社会保険の両方を確認する必要があります。

月末・14日という免除ルールは、対象者になってからの話

育児休業の保険料免除について、次の数字を見かけることがあります。

  • 月額保険料は、育児休業開始月から終了日の翌日が属する月の前月まで免除
  • 開始月と終了日の翌日が同じ月でも、その月に14日以上の育児休業を取得すれば月額保険料を免除
  • 賞与保険料は、賞与月の月末を含む連続1か月超の育児休業がある場合に免除

これらは、育児・介護休業法上の育児休業を取得できる人について、どの月を免除するかを決めるルールです。14日休めば役員も対象になる、という意味ではありません。

たとえば一人社長が8月1日から8月31日まで業務を止めても、代表者として労働者に当たらなければ、31日間という日数だけで免除要件は満たしません。最初に「法律上の育児休業を取得できるか」を判定し、その後に月末や14日の要件を見ます。

申出書の提出期限も同じです。一般の対象者は育児休業期間中、または終了日から1か月以内に事業主が申出書を提出しますが、対象外の役員が期限内に書類を出せば免除されるわけではありません。

女性役員の産前産後休業は、育児休業と扱いが違う

混同しやすいのが、産前産後休業の保険料免除です。こちらは事業主等であっても、健康保険・厚生年金の被保険者なら対象になります。

日本年金機構は、次の期間に妊娠・出産を理由として労務に従事しなかった場合、事業主等も産前産後休業の保険料免除を受けられると明示しています。

  • 出産予定日以前42日(多胎妊娠は98日)
  • 出産の日後56日
女性の一人社長・代表取締役
産前産後休業の保険料免除被保険者で、対象期間に労務に従事しなければ申出可能
産後の育児休業の保険料免除労働者ではない役員は原則申出不可

出産前後の免除が終わったあと、そのまま「育児休業の免除」に自動で切り替わるわけではありません。同じ子の出産・育児でも、根拠となる制度と役員の扱いが違います。

役員が産前産後休業の申出をする場合も、単に会社へ出社しなかっただけでなく、対象期間に妊娠・出産を理由として実際に労務へ従事しなかったことが前提です。申出は休業中または終了日から1か月以内に行います。

従業員を兼ねる役員は、肩書きではなく実態で分かれる

すべての「取締役」が一律に対象外というわけではありません。代表権や業務執行権を持たない役員が、別に部長・支店長など従業員としての身分を持ち、他の業務執行役員の指揮監督下で働いている場合は、労働者性が認められる余地があります。

しかし一人会社の代表取締役には、自分を指揮監督する別の業務執行者がいません。自分で自分へ育児休業を申し出る形式を作っても、通常の一人社長が労働者へ変わるわけではありません。

役員兼従業員を判定するときは、少なくとも次の実態を確認します。

  • 代表権・業務執行権があるか
  • 他の役員から指揮命令を受けているか
  • 役員報酬と従業員賃金が区分されているか
  • 勤務時間・職務内容・就業規則の適用が一般従業員と同じか

名刺の肩書きを変更するだけの話ではありません。免除のために形式だけを整えると、後から対象外と判断されたときに会社負担分を含む保険料が戻ります。

令和8年10月から、個人事業主側には国民年金の育児免除ができる

法人側だけが育児中の保険料で有利、とは限らなくなりました。令和8年10月1日から、国民年金第1号被保険者に育児免除制度が始まります。

対象は、1歳未満の子を養育する20歳以上60歳未満の自営業者、農業者、学生、無職の人などです。所得要件はなく、実父母・養父母が対象で、夫婦とも第1号被保険者なら2人とも申請できます

免除期間は納付済みとして老齢基礎年金額に反映されます。令和8年度の国民年金保険料は月17,920円なので、最大期間での金額は次のとおりです。

対象最大の免除期間令和8年度月額でみた金額
実父または養父母子の養育開始月から1歳の誕生日前月まで最大12か月215,040円
第1号被保険者の夫婦それぞれ最大12か月2人合計 430,080円
実母産前産後免除に続く9か月(合計最大13か月)育児免除部分161,280円

※ 金額は令和8年度の月額17,920円を期間分掛けた比較。年度をまたぐ場合は各年度の保険料額で変わる

この制度は「仕事を完全に休んだか」ではなく、親子関係と同一住所などの養育要件で判定します。一人社長が育児休業の免除を使えない一方、個人事業主は事業を続けながら国民年金の育児免除を受けられるという非対称が生まれます。

ただし法人化の損得を、最大21万5,040円だけで決めることはできません。法人側には厚生年金の増額や被扶養者制度があり、個人側には国保と国民年金があります。年間の税・社会保険全体で比較する必要があります。

育児休業給付も、社会保険料免除とは別に対象外

育児休業給付は雇用保険の制度です。代表取締役は原則として雇用保険の被保険者にならないため、一人社長は通常、育児休業給付も受けられません。

保険料免除と給付金は別制度ですが、一人社長については次のように両方の入口が閉じます。

制度根拠一人社長が通常対象外になる理由
健康保険・厚生年金の育休免除育児・介護休業法に基づく休業労働者ではない
育児休業給付雇用保険代表者は雇用保険の被保険者ではない

一人社長が雇用保険の失業給付を受けられない理由と同じく、会社と社長が法律上別人格であっても、社長が自社の労働者になるとは限りません。

まとめ

  • 一人社長・代表取締役は通常、育児・介護休業法上の労働者ではなく、育児休業による社会保険料免除を申請できない
  • 役員報酬月54万円では、東京・40歳未満の本人分+会社分は月15万414円。実際に業務を休んでも自動では0円にならない
  • 月末・14日以上という免除ルールは、法律上の育児休業を取得できる人について免除月を決める条件
  • 女性役員の産前産後休業は別制度で、被保険者が妊娠・出産を理由に労務へ従事しなければ事業主等も免除を申し出できる
  • 令和8年10月から個人事業主等の国民年金育児免除が始まり、令和8年度月額なら1人最大21万5,040円。第1号被保険者の夫婦は2人とも対象

「社会保険に入っているから育休免除も使える」とは限りません。役員か労働者か、産前産後か育児かを分けたうえで、自分の売上・報酬と家族条件による年間負担を確かめてください。

よくある質問

代表取締役が実際に仕事を休めば、育児休業の保険料免除を受けられますか

実際に仕事を休むだけでは受けられません。免除対象は育児・介護休業法に基づく育児休業等であり、事業主または労働者ではない役員は同法の育児休業を取得できないためです。

女性の一人社長も、出産時に社会保険料を免除されないのですか

産前産後休業の保険料免除は別制度です。健康保険・厚生年金の被保険者で、所定期間に妊娠・出産を理由として労務に従事しなかった女性役員は、事業主等であっても免除を受けられます。その後の育児休業免除は原則受けられません。

一人社長は育児休業給付金も受けられますか

代表者は原則として雇用保険の被保険者ではないため、育児休業給付も通常は対象外です。社会保険料免除と育児休業給付は別制度ですが、一人社長はいずれも労働者性が前提になる点で対象になりません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。