社会保険

国民年金の免除で減る年金は年1万円。追納の減税は法人化前が大きい

国民年金保険料を1年間全額免除にすると、老齢基礎年金は年10,591円減ります。追納の加算額は10年分でも2.4%にとどまる一方、追納した年に減る所得税・住民税は15.1〜50.8%。法人化後は減り方が最大49,200円小さくなることまで計算しました。

売上が落ちた年に国民年金保険料の免除を受けた。その後に売上が戻り、いま法人化を考えている。この順番でここに来た人にとって、免除の判断はもう終わった話ではありません。追納には10年という期限があり、追納した保険料は納めた年の社会保険料控除になるからです。1年分を追納したときに減る所得税・住民税は、事業所得400万円で31,800円、1,200万円で91,700円。ところが法人化した後だと同じ1,200万円でも42,500円まで落ちます。

免除は4種類。納めなかった額1円あたりで見ると、どれも同じ

国民年金保険料を納めなくてよくなる制度は、性質の違う2系統に分かれます。免除(全額・4分の3・半額・4分の1の4種類)と、納付猶予・学生納付特例です。前者は年金額に一部が反映され、後者は1円も反映されません。

令和8年度の保険料は1カ月あたり17,920円、老齢基礎年金の満額は847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)です。この2つを使って、1年間それぞれの区分だった場合に納めずに済む額と、将来減る年金額を並べます。

区分1年間に納める保険料納めずに済む額年金額への反映減る老齢基礎年金(年額)保険料の差を年金の減りで割った年数受給資格期間
全額免除0円215,040円4/810,591円20.3年算入される
4分の3免除53,760円161,280円5/87,943円20.3年算入される
半額免除107,520円107,520円6/85,296円20.3年算入される
4分の1免除161,280円53,760円7/82,648円20.3年算入される
納付猶予・学生納付特例0円215,040円021,183円10.2年算入される
未納0円215,040円021,183円10.2年算入されない

※ 令和8年度の保険料1カ月あたり17,920円、老齢基礎年金の満額847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)で計算 ※ 年金額への反映と受給資格期間は日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」の区分による

右から2列目に注目してください。免除の4区分は、どれを選んでも20.3年でそろいます。4分の3免除は「保険料の4分の1を納めれば年金は8分の5もらえる」と書かれるので得に見えますが、全額免除でも8分の4は付きます。追加で納めた53,760円に対して増える年金は8分の1ぶんの2,648円で、比率は全額免除とまったく同じです。

免除の区分は、所得基準を満たすかどうかで決まるものであって、有利不利を選ぶものではありません。区分が変わっても、納めた額に対する年金の戻り方は動かない。ここを取り違えると「半額免除のほうが得だから半額にしてもらおう」という発想になりますが、その余地はありません。

納付猶予と学生納付特例だけ、回収年数が2倍速い

同じ表の下2行は性質が違います。納付猶予と学生納付特例は年金額に1円も反映されないため、1年ぶんで減る老齢基礎年金は21,183円。免除の2倍です。保険料215,040円との比では10.2年で並びます。

65歳から受け取り始めるとすると、全額免除だった1年は85.3歳、納付猶予だった1年は75.2歳で「納めておいたほうが多かった」に転じる計算になります。長生きするほど不利に働く点は同じですが、その到達が2倍速い。

納付猶予は20歳以上50歳未満の人が対象で、審査するのは本人と配偶者の前年所得だけです。免除のほうは世帯主の前年所得も見ます。世帯主の所得が基準を超えていると免除にならず、納付猶予に流れる構造になっているので、実家住まいで独立したばかりの個人事業主は納付猶予側に入りやすい。年金額への反映という点では、この振り分けが効きます。

なお一部免除には落とし穴があります。日本年金機構は、一部免除の承認を受けている期間について、減額された保険料を納付している必要があるとしています。承認を取っただけで納めなければ未納と同じ扱いになり、追納もできません。

追納の加算額は10年分でも2.4%。急ぐ理由としては小さい

免除・納付猶予・学生納付特例を受けた期間は、あとから納める(追納する)ことができます。期限は、追納が承認された月の前10年以内。それより古い期間は納められません。

追納でよく言われるのが「3年度目以降は加算額が上乗せされるから早く納めたほうがよい」という話です。これは事実ですが、額を見ると印象が変わります。日本年金機構が公表している令和8年度中の追納額と、当時の保険料額を突き合わせました。

免除を受けた年度当時の保険料(1カ月あたり)令和8年度中に追納する額(1カ月あたり)加算額加算率1年分(12カ月)の追納額
平成28年度16,260円16,850円590円3.6%202,200円
平成29年度16,490円17,070円580円3.5%204,840円
平成30年度16,340円16,900円560円3.4%202,800円
令和元年度16,410円16,950円540円3.3%203,400円
令和2年度16,540円17,070円530円3.2%204,840円
令和3年度16,610円17,110円500円3.0%205,320円
令和4年度16,590円16,990円400円2.4%203,880円
令和5年度16,520円16,770円250円1.5%201,240円
令和6年度16,980円16,980円203,760円
令和7年度17,510円17,510円210,120円

※ 全額免除・納付猶予・学生納付特例の場合の額。出典:日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」「国民年金保険料の変遷」

10年前の平成28年度分でも、上乗せは1カ月あたり590円、率にして3.6%です。10年分(120カ月)をまとめて追納すると2,042,400円で、当時の保険料の合計1,995,000円との差は47,400円。**10年寝かせても加算は2.4%**にとどまります。

つまり、**追納を「いつ納めるか」の判断で効いてくるのは加算額ではありません。**次の節で見る税のほうが、桁が1つ違います。なお表の右端を見ると、加算が乗った平成28年度分の1年分(202,200円)は、加算のない令和7年度分(210,120円)より安い。当時の保険料自体が低かったためで、古い年度ほど追納額が高いとは限りません。

追納で減る税は15.1%から50.8%。同じ額でも所得で3倍以上開く

国税庁は、過去の年分の国民年金保険料であっても、その年中に支払ったものであれば支払った年分の社会保険料控除の対象になるとしています(タックスアンサー No.1130 Q1)。つまり10年分をまとめて納めれば、200万円超の控除がその1年に立ちます。

令和7年度分の12カ月=210,120円を追納した場合に、所得税と住民税がいくら減るかを当サイトの計算エンジンで出しました。個人のまま追納した場合と、法人化して役員報酬を受け取る立場になってから追納した場合を並べています。

事業所得個人のまま:減る税追納額に対する割合法人化後の役員報酬(月額)法人化後:減る税追納額に対する割合
400万円31,800円15.1%月28万円31,700円15.1%−100円
600万円63,900円30.4%月42万円31,700円15.1%−32,200円
800万円63,900円30.4%月54万円42,500円20.2%−21,400円
1,000万円70,700円33.6%月54万円42,500円20.2%−28,200円
1,200万円91,700円43.6%月54万円42,500円20.2%−49,200円
1,500万円91,700円43.6%月54万円42,500円20.2%−49,200円
1,800万円91,800円43.7%月90万円65,200円31.0%−26,600円
2,100万円106,800円50.8%月95万円70,300円33.5%−36,500円
2,500万円106,800円50.8%月100万円70,300円33.5%−36,500円
3,000万円106,800円50.8%月100万円70,300円33.5%−36,500円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人化後の役員報酬は当サイトの計算エンジンが手取り最大として選んだ額。追納は役員個人が納めるものとして、法人側の損益は動かしていない

個人のままなら、事業所得400万円で31,800円、2,100万円で106,800円。同じ210,120円を納めても、税の減り方は3.4倍開きます。追納は所得控除なので、その年の限界税率がそのまま効くためです。前納の割引が高所得ほど手取りに残らないのとちょうど逆向きの動きで、この点は国民年金の2年前納の記事で扱ったとおりです。

なお、追納しても国民健康保険料と個人事業税は1円も動きません。国民健康保険は旧ただし書所得(総所得金額等から基礎控除43万円を引いたもの)で計算し、個人事業税は事業主控除290万円を引いた所得で計算するので、どちらも社会保険料控除を使わないからです。計算の内訳は計算方法のページにまとめています。

法人化すると、追納の減税額はむしろ下がる

上の表で目を引くのは右端の列です。すべての所得水準で、法人化後のほうが減る税が小さい。事業所得1,200万円と1,500万円では49,200円の開きが出ます。

理由は役員報酬の水準にあります。判定ツールが手取り最大として選ぶ役員報酬を、事業所得別に並べたのが次の表です。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

事業所得800万円から1,500万円まで、最適な役員報酬は月54万円で止まります。所得が2倍近く増えても報酬が動かないのは、超えた分を法人に残して法人税率で課税したほうが手取りが大きくなるからです。詳しい仕組みは役員報酬はいくらが最適かに書きました。

結果として、個人事業主なら事業所得1,200万円のところ、法人化すると個人側の課税所得は年648万円の給与から給与所得控除と社会保険料控除を引いた水準まで下がります。表の割合を逆算すると、個人のままの43.6%は所得税率33%に復興特別所得税と住民税10%を乗せたもの、法人化後の20.2%は所得税率10%に同じものを乗せたものです。所得税の税率区分が33%から10%まで、区分を3つ分下がっていることになります。追納という所得控除の価値も、それに合わせて下がります。利益を法人に残す設計が、そのまま個人の所得控除の価値を削っているわけです。

役員報酬は期首から3カ月以内に決めた額を1年間動かせないのが原則なので、「追納する年だけ報酬を上げる」という調整もできません(役員報酬を期の途中で変更できるか)。

実質負担で見ると、回収は10年前後まで縮む

減る税を差し引いた「実質負担」で、追納の元が取れる年数を出し直します。追納で増える老齢基礎年金は、全額免除の期間なら8分の4から8分の8になるので1年ぶん10,591円、納付猶予・学生納付特例の期間なら0から8分の8になるので21,183円です。

追納する期間事業所得増える老齢基礎年金(年額)個人のまま:実質負担回収年数法人化後:実質負担回収年数
全額免除の期間を追納400万円10,591円178,320円16.8年178,420円16.8年
全額免除の期間を追納800万円10,591円146,220円13.8年167,620円15.8年
全額免除の期間を追納1,200万円10,591円118,420円11.2年167,620円15.8年
全額免除の期間を追納2,100万円10,591円103,320円9.8年139,820円13.2年
納付猶予・学生納付特例の期間を追納400万円21,183円178,320円8.4年178,420円8.4年
納付猶予・学生納付特例の期間を追納800万円21,183円146,220円6.9年167,620円7.9年
納付猶予・学生納付特例の期間を追納1,200万円21,183円118,420円5.6年167,620円7.9年
納付猶予・学生納付特例の期間を追納2,100万円21,183円103,320円4.9年139,820円6.6年

※ 実質負担=追納額−減る所得税・住民税。令和7年度分12カ月=210,120円を追納した場合 ※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

免除の期間を追納しない場合の20.3年に対し、事業所得1,200万円で追納すると11.2年まで縮みます。納付猶予の期間なら5.6年です。税が減るぶんだけ実質負担が軽くなるので、当然そうなります。

同じ人が法人化した後に同じ追納をすると、全額免除の期間で15.8年、納付猶予の期間で7.9年。個人事業主でいるうちに納めるか、法人化してから納めるかで、回収年数が4.6年変わるという結果です。

回収年数を過ぎたあとは、受け取り続けるかぎり上乗せが残ります。この点は法人化で増える厚生年金の報酬比例部分と同じ構造で、法人化で厚生年金は年69万円増えるの記事で年数と額を出しています。

期限は3つある。どれも性質が違う

この話には期限が3種類出てきます。混同すると取り返しがつかないので、分けて整理します。

**1つめは、免除をさかのぼって申請できる期間。**保険料の納付期限から2年を経過していない期間、つまり申請時点から2年1カ月前までです。これを過ぎると時効で申請自体ができません。過去に払えなかった月がある人は、まずここを確認することになります。

**2つめは、追納できる期間。**追納が承認された月の前10年以内です。免除の承認を受けていることが前提なので、そもそも1つめの申請をしていない「未納」の期間は、この10年の対象になりません。未納は追納ではなく、納付期限から2年の時効の話になります。

3つめは、免除の「年度」の区切り。日本年金機構は免除等の年度を7月から翌年6月までとしています。学生納付特例だけは4月から翌年3月です。令和8年度分の免除は令和8年7月にならないと申請できません。会計年度や住民税の年度とずれているので、申請時期を1〜3カ月間違えやすいところです。

なお、審査の対象になるのは前年の所得です。令和8年度分(令和8年7月〜令和9年6月)なら令和7年中の所得を見ます。全額免除と納付猶予の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」で、扶養親族がいない単身なら67万円。これは前年の所得であって売上ではありません。

もう1つ、個人事業主に固有の入口として失業等による特例免除があります。日本年金機構は確認書類として、雇用保険の離職票のほかに「事業の廃止(廃業)または休止の届出を行っている方」向けの書類を挙げており、税務署へ出した個人事業の開廃業等届出書の写しなどが該当します。事業をやめた年は、前年所得にかかわらず申請できる余地があります。

法人化すると、免除の申請という選択肢自体がなくなる

法人を設立して役員報酬を受け取ると、厚生年金保険の被保険者になります。日本年金機構は、このとき自動的に国民年金の第2号被保険者になり、自分で国民年金の保険料を納める必要はないと説明しています。納める保険料がないので、免除も納付猶予も申請する対象がありません。

一方で、過去の免除期間の追納はできます。日本年金機構が追納の要件として挙げているのは、承認された月の前10年以内であること、古い期間から順に納めること、一部免除は減額後の保険料を納めていること、老齢基礎年金を受け取ることができる人は追納できないこと、の4点です。第1号被保険者であり続けることは条件になっていません。追納申込書の提出者も「被保険者又は被保険者であった者」とされています。

つまり法人化しても追納の道は残りますが、前の節で見たとおり減る税は小さくなる。10年という期限のほかに、「個人事業主でいる最後の年」という実質的なもう一つの期限があると考えたほうが、金額は合います。

追納が有利かどうかは、その年の事業所得と、免除だったか納付猶予だったかで動きます。ここに出した数字は経費200万円・東京23区・独身という条件での概算です。自分の売上と経費でどうなるかは、判定ツールで確かめてください。免除や追納を検討する段階にある人は、個人事業主の節税は順番があるもあわせて読むと、どこから手をつけるかの見取り図になります。

まとめ

  • 免除の4区分は、納めた額1円あたりで増える年金がすべて同じ。20.3年でそろうので、区分によって有利不利は生じない
  • 納付猶予・学生納付特例は年金額に1円も反映されないため、1年ぶんで減る老齢基礎年金は21,183円と免除の2倍になる
  • 追納の加算額は10年分をまとめても2.4%(47,400円)。急ぐ理由としては小さい
  • 追納した保険料はその年の社会保険料控除になり、減る所得税・住民税は事業所得400万円で15.1%、2,100万円で50.8%
  • 法人化すると役員報酬が月54万円前後で頭打ちになるため、同じ追納でも減る税が最大49,200円小さくなる。追納の10年とは別に、法人化のタイミングが期限として効く

よくある質問

一部免除の承認を受けたのに、減額後の保険料を納めていない期間はどうなりますか。

日本年金機構は、一部免除の承認を受けている期間は減額された保険料を納付している必要があるとしています。納めていない期間は年金額に反映されず、追納もできません。

追納する期間を自分で選べますか。

選べません。日本年金機構は、追納は必ず古い期間のものから順番に行うとしています。免除の期間と納付猶予・学生納付特例の期間の両方がある場合の順序は、年金事務所に相談するよう案内されています。

追納した保険料の控除証明書は、いつの年分になりますか。

実際に納めた年の分です。国税庁は、過去の年分の国民年金保険料であっても、本年中に支払ったものであれば本年分の社会保険料控除の対象になるとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。