税金の基礎

会社の借金を保証した社長が自宅や土地を売ったら。保証債務の特例

結論

会社の借入れを保証した社長が、保証債務を履行するために土地建物などを売り、会社への求償権を行使できなくなった場合は、①回収できなくなった額、②その年の総所得金額等、③売った資産の譲渡益のうち最も低い金額について、譲渡所得がなかったものとされます(所得税法64条2項、国税庁 No.3220)。譲渡益1,500万円の土地を売って会社の借入れ2,000万円を肩代わりし、全額回収できなければ、長期譲渡所得の税304.7万円がかからなくなります。会社が解散していなくても、求償権を放棄した後もなお債務超過なら、行使不能と判定され得ます。

  • 要件は、①主たる債務者が既に弁済できない状態のときに保証したものでない、②保証債務を履行するために資産を売った、③履行した額の全部または一部を回収できなくなった、の3つ(国税庁 No.3220)
  • 会社が存続していても、他の債権者との関係で求償権を放棄せざるを得ず、放棄後もなお債務超過なら行使不能と判定される(平成14年 国税庁課税部長回答)
  • 確定申告の時点で行使不能と判定されなくても、後に行使不能になれば更正の請求ができる

法人化すると、銀行から会社が借入れをするときに、社長が連帯保証を求められることがよくあります。会社の業績が悪化して返済できなくなると、社長は自分の財産で肩代わりすることになります。そのために自宅以外の土地や建物を売ると、売却益に譲渡所得の税がかかります。

財産を手放したうえに税金まで、という状況に手当てをするのが、所得税法64条2項の「保証債務の特例」です。この記事では、要件と、一人社長の会社が解散していない場合の判定、消える税額を整理します。

所得がなかったものとされるのは、3つのうち最も低い額

国税庁 No.3220 によると、保証債務を履行するために土地建物などを売った場合、次の3つのうち最も低い金額について、所得がなかったものとされます。

  1. 肩代わりした債務のうち、回収できなくなった金額
  2. 保証債務を履行した人の、その年の総所得金額等の合計額
  3. 売った土地建物などの譲渡益の額

保証債務の履行には、保証人・連帯保証人として弁済した場合のほか、連帯債務者として他の連帯債務者の債務を弁済した場合、他人の債務の担保に抵当権を設定していて弁済したり抵当権を実行されたりした場合も含まれます。

適用の要件は3つ

要件内容
保証した時点本来の債務者が既に債務を弁済できない状態のときに保証したものでない
売った目的保証債務を履行するために土地建物などを売っている
回収できないこと履行した保証債務の全部または一部を、本来の債務者から回収できなくなった

3つ目の「回収できなくなった」は、本来の債務者が資力を失っているなど、将来的にも回収できない場合をいいます。国税庁 No.3220 は、本来の債務者に弁済能力があるのに回収しないときは特例を受けられないとしています。

消える税額

土地建物を所有期間5年超で売った場合の長期譲渡所得の税率は、所得税15%(復興特別所得税を含めて15.315%)と住民税5%で、合わせて20.315%です(国税庁 No.3208)。特例で所得がなかったものとされる額にこの率を掛けた分が、かからなくなります。

売った土地の譲渡益肩代わりして回収できなくなった額所得がなかったものとされる額特例がなければかかる税特例で消える税
1000万円2000万円1000.0万円203.2万円203.2万円
1500万円2000万円1500.0万円304.7万円304.7万円
2000万円1200万円1200.0万円406.3万円243.8万円
3000万円3000万円3000.0万円609.5万円609.5万円

※ 当サイトのスクリプト(scripts/hosho-saimu-rikou-tokurei.mjs)で計算。長期譲渡所得の税率20.315%。その年の総所得金額等の合計額は十分に大きいものとして、譲渡益と回収できなくなった額の小さい方を所得がなかったものとしている

回収できなくなった額が譲渡益より大きければ、譲渡益の全額が非課税になります。逆に、譲渡益のほうが大きければ、回収できなくなった額までです。3行目は、譲渡益2,000万円のうち1,200万円だけが所得なしとなり、残りの800万円には税がかかります。

会社が存続していても「行使不能」と判定され得る

一人社長の会社で問題になるのは、社長が会社への求償権を放棄して、会社を立て直そうとする場合です。会社が存続しているのに、求償権を「行使できなくなった」といえるのか、という点です。

国税庁は平成14年、中小企業庁の照会に答える形で、この判定の考え方を示しています。会社がその求償権の放棄後も存続し経営を続けている場合でも、次のすべてに当たるときは、求償権は行使不能と判定されます。

  • 代表者等の求償権は、金融機関など他の債権者の債権と同列に扱うことが難しいなどの事情で、放棄せざるを得ない状況にあったと認められる
  • 会社は、求償権を放棄(債務免除)しても、なお債務超過の状況にある

債務超過かどうかは、土地等と上場株式等を時価で評価して判定します。短期間で相当の債務を負ったような場合も含まれます。放棄の後に売上が増えたり債務が減ったりしても、判定には影響しないとされています。

同じ回答は、確定申告の時点では行使不能と判定されなくても、その後に行使不能になったときは更正の請求ができるとしています。

会社の側では、債務免除益が出る

社長が求償権を放棄すると、会社は社長に対する債務を免除されたことになり、債務免除益が益金になります。繰越欠損金で相殺できればよいのですが、足りなければ法人税がかかり得ます。会社が解散した場合に使える期限切れ欠損金は期限切れ欠損金は解散後だけ使える。残余財産ゼロが条件、役員借入金を資本に振り替えた場合の債務免除益は役員借入金のDESで債務免除益は消えない。債務超過なら額面と時価の差に課税で扱っています。

法人化と経営者保証の関係

法人化すれば個人の財産は守られる、と言われることがあります。実際には、借入れに経営者保証を付ければ、会社が返せないときは社長個人の財産で弁済することになります。経営者保証の実態は「法人化すれば有限責任」は本当か。経営者保証の実態で整理しました。保証債務の特例は、その最悪の場面で税の負担を軽くするしくみで、保証の責任そのものを軽くするものではありません。

申告に必要な書類

国税庁 No.3220 によると、確定申告書に次の書類を添えて提出します。

  • 保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書(確定申告書付表)
  • 保証債務の事実がわかる書類(保証契約書など)
  • 求償権が行使不能であることを証する書類

まとめ

  • 保証債務を履行するために資産を売り、求償権を行使できなくなった場合、回収不能額・総所得金額等・譲渡益のうち最も低い額は所得がなかったものとされる
  • 主たる債務者が既に弁済できない状態のときに保証した場合は対象外
  • 譲渡益1,500万円の土地を売って2,000万円を肩代わりし、全額回収できなければ、長期譲渡所得の税304.7万円がかからない
  • 会社が存続していても、放棄せざるを得ない状況で放棄し、放棄後もなお債務超過なら、求償権は行使不能と判定され得る。後から行使不能になれば更正の請求ができる
  • 会社の側では債務免除益が出るため、欠損金との関係を確認する

法人化の判断では、手取りの差だけでなく、借入れと経営者保証をどうするかも合わせて考える必要があります。まず自分の売上と経費で法人化の差を確かめてください。

よくある質問

会社が解散していないと、この特例は使えないのですか?

使える場合があります。平成14年の国税庁課税部長の回答は、会社が求償権の放棄後も存続し経営を続けている場合でも、他の債権者との関係で放棄せざるを得なかったと認められ、放棄してもなお債務超過であれば、求償権は行使不能と判定されるとしています。債務超過かどうかは、土地等と上場株式等を時価で評価して判定します。

手元の預金で先に返済し、あとで土地を売って預金を戻した場合も対象ですか?

国税庁の質疑応答事例「預金で保証債務を履行した後に資産を譲渡した場合」が、この順番の場合を扱っています。保証債務の履行と資産の譲渡の関係が問われるため、どの資金で何を返したかの記録を残してください。

会社の側には何か課税されますか?

社長が求償権を放棄すると、会社にとっては債務の免除を受けたことになり、債務免除益が益金になります。繰越欠損金があれば相殺できますが、足りなければ法人税がかかる可能性があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。