税金の基礎
海外在住で日本の仕事を続ける。恒久的施設(PE)と日本法人の線
結論
非居住者の個人事業主が日本で課税されるのは国内源泉所得だけで、日本に事務所などの恒久的施設(PE)があればそこに帰属する所得が申告の対象になり、PEがなければ使用料や国内で行った人的役務の対価などに限って20.42%の源泉徴収で完結します。日本法人を作るとPEの問題はなくなる代わりに、法人の全所得が日本で課税されます。売上1,000万円・経費200万円で月30万円の役員報酬を取ると、日本側の法人税等・社会保険料・源泉税の合計は年266.7万円でした。
- 恒久的施設は、①事業の管理を行う場所・支店・事務所など、②1年を超える建設工事等の現場、③反復して契約を締結する代理人等の3種類。形式ではなく機能で判定し、拠点になっているホテルの一室もPEに当たる(国税庁 No.2883)
- PEがなくても、国内で行う人的役務の提供事業の対価や、国内業務に係る著作権等の使用料は国内源泉所得で、支払時に20.42%が源泉徴収される(国税庁 No.2878・No.2884)
- 内国法人は国内に本店または主たる事務所を有する法人で、普通法人は全ての所得に対して課税される。役員が海外に住んでいても、本店が日本にあれば日本の法人税の対象になる
海外へ移ったあとも、日本の取引先との仕事は続けたい。そう考える個人事業主にとって、日本で何が課税されるかを決めるのは「恒久的施設(PE)」です。日本に事業の拠点が残っているかどうかで、申告するのか、源泉徴収で終わるのか、課税されないのかが分かれます。
そこで「日本法人を作れば、PEの議論をしなくて済む」という整理がよく出てきます。これは半分正しく、半分は抜けています。この記事では、PEの判定と、日本法人を作った場合に日本で確定する負担を計算エンジンで並べます。居住者か非居住者かの判定そのものは居住者判定は183日では決まらない。海外で働く個人事業主の住所の線で扱っています。
非居住者の課税は「何の所得か」と「PEがあるか」で決まる
国税庁 No.2873 によると、非居住者に対する課税は国内源泉所得に限られます。そのうえで、課税方法は次の3点で変わります。
- 収入がどの種類の国内源泉所得に当たるか
- 国内に恒久的施設を持っているか
- その所得が恒久的施設に帰せられるものか
恒久的施設に帰せられる所得は、源泉徴収の対象であっても最終的には総合課税で申告します。恒久的施設に帰せられない所得や、恒久的施設を持たない非居住者の使用料などは、源泉徴収だけで課税関係が完結します。
恒久的施設は3種類。判定は形式ではなく機能
国税庁 No.2883 は、恒久的施設を次の3つに分けています。
| 種類 | 内容 | 個人事業主に当てはまりやすい場面 |
|---|---|---|
| 事業を行う一定の場所 | 事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場、作業場など | 日本に残した仕事部屋・事務所 |
| 長期建設工事現場等 | 建設・据付けの工事やその指揮監督で、1年を超えて行うもの | 建設業の一人親方が長期の現場を持つ場合 |
| 契約締結代理人等 | 反復して契約を締結する権限を持つ代理人など | 日本の家族や知人が継続的に契約をまとめている場合 |
同じページは、判定は形式的にではなく機能的な側面を重視して行うとしています。例として、事業活動の拠点となっているホテルの一室は恒久的施設に当たり、単なる製品の貯蔵庫は当たらないと書かれています。物品の保管・展示・引渡しのためだけの施設で、準備的・補助的な性格のものは除かれます。
契約締結代理人等にも線があります。代理人が独立して通常の方法で業務を行う場合は含まれません。ただし、専らまたは主として、自分と特殊の関係にある者のために行動する場合は除外されません。特殊の関係は、発行済株式等の50%超を直接・間接に持つ関係などです。
租税条約に国内法と異なるPEの定めがある場合は、条約上の恒久的施設が国内法上の恒久的施設として扱われます。
PEがなくても、20.42%で源泉徴収される収入がある
PEがない非居住者は日本で一切課税されない、というわけではありません。国内源泉所得のうち、次のような収入は支払時に源泉徴収されます(国税庁 No.2878・No.2884)。
| 収入 | 国内源泉所得になる条件 | 源泉徴収の税率 |
|---|---|---|
| 人的役務の提供事業の対価 | 国内で行う役務の提供であること(芸能人、弁護士・公認会計士等の自由職業者、科学技術・経営管理等の専門家の役務など) | 20.42% |
| 著作権・工業所有権等の使用料、譲渡の対価 | 国内で業務を行う者から受け、その国内業務に係ること | 20.42% |
| 不動産の賃貸料等 | 国内にある不動産の貸付けであること | 20.42% |
| 非上場の内国法人の配当 | 内国法人から受けること | 20.42% |
ここで分かれ目になるのは、役務をどこで提供したかと、受け取るのが役務の対価か権利の対価かです。
海外に住むコンサルタントが海外で作業して報告書を納めるだけなら、人的役務の提供の対価は国内源泉所得になりません。同じ人が日本に来て2週間の常駐作業をすると、その分は国内で行う人的役務の対価になります。イラストや写真の利用を許諾して受け取る対価は、著作権の使用料として扱われる可能性があります。
これらの税率は、居住地国との租税条約で免除・軽減されることがあります。その場合は支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で提出する必要があります(国税庁 No.2884)。
PEがあると、申告の手間が丸ごと戻ってくる
日本に恒久的施設があると、そこに帰属する所得は総合課税で申告します。国税庁 No.1926 によると、年を通じて非居住者の場合に使える所得控除は雑損控除・寄附金控除・基礎控除に限られます。社会保険料控除や扶養控除は使えません。
所得税基本通達165-3は、国内に事業活動の拠点が複数あるときは、全体を1つの恒久的施設として恒久的施設帰属所得を認識するとしています。日本に残した事務所と、帰国のたびに使う拠点を分けて考えても、まとめて1つのPEとして扱われます。
日本法人を作ると、PEの代わりに「全所得」が日本で確定する
日本法人を作って、その会社で日本の取引先と契約する。こうすると、自分個人が日本にPEを持つかという議論はいりません。売上は日本法人のものだからです。
ただし、その日本法人は内国法人です。国税庁「法人税のあらまし」によると、内国法人は国内に本店または主たる事務所を有する法人で、株式会社や合同会社などの普通法人は全ての所得に対して課税されます。社長が海外に住んでいても、本店が日本にある限り、海外の取引先からの売上も含めて日本の法人税の対象です。
さらに、役員報酬は国内源泉所得として20.42%で源泉徴収されます(国税庁 No.1929)。日本の法人の役員でいる間は、健康保険・厚生年金の保険料も続きます。
計算エンジンで、日本法人を作って海外から経営した場合に日本側で確定する負担を出しました。
| 役員報酬 | 法人税等 | 社会保険料(労使計) | 役員報酬の源泉税(20.42%) | 日本側の合計 | 法人に残る利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月20万円 | 121.1万円 | 69.0万円 | 49.0万円 | 239.1万円 | 404.0万円 |
| 月30万円 | 89.8万円 | 103.5万円 | 73.5万円 | 266.7万円 | 297.9万円 |
| 月40万円 | 60.0万円 | 141.4万円 | 98.0万円 | 299.4万円 | 188.4万円 |
| 月50万円 | 31.0万円 | 172.4万円 | 122.5万円 | 326.0万円 | 81.7万円 |
※ 売上1,000万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/kaigai-pe-nihon-houjin.mjs)で計算
※ 法人税等には法人住民税均等割7万円を含む。役員個人の住民税は1月1日に国内に住所がない前提で0円としている
※ 法人に残る利益は法人税等を差し引いた後の額で、引き出すときの課税は含まない
比較のために、同じ売上・経費で居住者の個人事業主として日本に残る税金・保険料は年259.3万円です(所得税・住民税・個人事業税・国保・国民年金の合計)。
表から読めること
日本法人ルートの日本側負担は、年239.1万〜326.0万円です。居住者として日本で個人事業を続けた場合の259.3万円と、ほぼ同じ水準か、報酬を上げるほど重くなります。日本法人を作ることは、日本の課税から離れることではなく、日本で課税される範囲を自分で確定させることです。
しかも法人に残した利益は、いずれ引き出すときに再び課税されます。非居住者が受ける非上場の内国法人の配当は20.42%で源泉徴収されます。役員報酬を増やすと源泉税と社会保険料が増え、法人に残すと引き出しの段階で税がかかります。報酬額ごとの20.42%と居住者の税額の差は海外在住で役員報酬を取ると20.42%。逆転するのは月119万円からで計算しています。
居住国の側からは、自宅が日本法人の「拠点」に見えることがある
もう1つの抜けは、PEが日本だけの概念ではないことです。恒久的施設は租税条約に定義が置かれる国際的な考え方で、国税庁 No.2883 も条約上の定めを国内法上のPEとして扱うとしています。
日本法人の唯一の役員が、移住先の自宅で継続的に契約を判断し、業務を回している。この状態は、居住国の側から見ると、日本法人がその国に事業の拠点を持っているように見える場合があります。その場合、日本法人のうち居住国の拠点に帰せられる所得に、居住国が課税する可能性があります。
これが「日本法人を作れば解決する」という整理の抜けている半分です。判定は居住国の法令と、日本との租税条約によって決まるため、移住先が決まった段階で、その国の規定を確認する必要があります。
まとめ
- 非居住者が日本で課税されるのは国内源泉所得だけ。課税方法は所得の種類と恒久的施設の有無・帰属で決まる
- 恒久的施設は、事業を行う一定の場所・1年超の建設工事現場等・契約締結代理人等の3種類。拠点になっているホテルの一室も該当し、判定は機能で行う
- PEがなくても、国内で行う人的役務の対価や国内業務に係る著作権等の使用料は20.42%で源泉徴収される
- 日本法人は内国法人として全所得に課税される。売上1,000万円・経費200万円・月30万円の報酬なら、日本側の負担は年266.7万円で、居住者の個人事業主(259.3万円)と同水準
- 居住国から見て、自宅が日本法人の拠点と扱われる可能性も残る
海外へ移る前に、まず日本の居住者として個人事業を続けた場合と、法人化した場合の負担を、自分の売上と経費で確かめてください。その数字が、移住後の構造を比べるときの基準になります。
よくある質問
一時帰国のあいだ、日本の実家で仕事をするとPEになりますか?
国税庁 No.2883 は、恒久的施設かどうかは形式ではなく機能で判定するとし、事業活動の拠点になっているホテルの一室はPEに当たるとしています。帰国のたびに同じ場所を事業の拠点として使っているなら、その使い方が判定材料になります。期間や頻度、そこで何をしているかを含めて個別に確認が必要です。
海外から日本の会社にデザインを納品しています。源泉徴収されますか?
役務を海外で提供しているだけなら、人的役務の提供の対価は国内源泉所得になりません。一方、著作権の使用料や譲渡の対価で、支払者の国内業務に係るものは国内源泉所得で、20.42%の源泉徴収の対象です(国税庁 No.2878・No.2884)。契約が役務の対価なのか権利の対価なのかで扱いが分かれ、租税条約で軽減・免除される場合もあります。
日本法人に残した利益を、海外から配当で受け取るとどうなりますか?
内国法人から受ける剰余金の配当は非居住者の国内源泉所得で、非上場会社の配当は20.42%で源泉徴収されます(国税庁 No.2884)。居住地国との租税条約で税率が軽減される場合は、支払日の前日までに租税条約に関する届出書を支払者経由で提出します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2873 非居住者等に対する課税のしくみ
- 国税庁 タックスアンサー No.2878 国内源泉所得の範囲
- 国税庁 タックスアンサー No.2883 恒久的施設(PE)
- 国税庁 タックスアンサー No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率
- 国税庁 タックスアンサー No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合
- 国税庁 タックスアンサー No.1929 海外で勤務する法人の役員などに対する給与の支払と税務
- 国税庁 所得税基本通達 法第165条《総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算》関係
- 国税庁 法人税のあらまし(令和5年版)1 法人税の基本的な仕組み
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。