税金の基礎
金地金の売却益は個人と法人どちらが軽い?保有5年と事業所得で逆転
結論
東京23区・単身の試算では、保有5年超の金を個人で売れば、売却益500万円に増える税と国保料は事業所得200万〜2,000万円で11.4〜22.9%です。法人で売ると21.6〜33.6%かかります。保有5年以内だと個人は28.4〜48.5%に上がり、事業所得が多い人ほど法人より重くなります。
- 個人の金地金の売却益は総合課税の譲渡所得。売却益の合計から特別控除50万円を引き、保有5年超ならさらに2分の1にして他の所得と合算する(国税庁 No.3161)
- 法人の売却益には特別控除も2分の1もない。本業の利益と合算され、会社に残る利益が800万円を超えると限界税率は33.6%になる
- 業者が200万円超の対価を払うと「金地金等の譲渡の対価の支払調書」が税務署に出る。少額でも申告が要らなくなるわけではない
金地金の売却益にかかる税は、売るのが個人か法人かで仕組みがまったく違います。個人には「特別控除50万円」と「保有5年超なら2分の1」という2つの軽減がありますが、法人にはどちらもありません。一方、個人は売却益が事業所得と合算されるため、所得が多い人ほど累進税率と国保料が重くかかります。どの条件で逆転するのかを、判定ツールの計算エンジンで出しました。
個人の金地金の売却益は「総合課税の譲渡所得」
国税庁のタックスアンサー No.3161 では、金地金を売ったときの所得は原則として譲渡所得で、給与所得など他の所得と合わせる総合課税の対象とされています。株式の20.315%のような分離課税ではありません。
計算は所有期間で分かれます。
| 所有期間 | 区分 | 課税される金額 |
|---|---|---|
| 5年以内 | 総合課税の短期譲渡所得 | 売却益 − 特別控除50万円 |
| 5年超 | 総合課税の長期譲渡所得 | (売却益 − 特別控除50万円)× 2分の1 |
売却益は「譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)」です。特別控除50万円は、その年の金地金とほかの総合課税の譲渡益を合わせて50万円が上限で、短期と長期の両方があれば短期から先に引きます。
土地や建物の譲渡(No.1440)は、譲渡した年の1月1日時点の所有期間で長期・短期を分け、税率15%・30%の分離課税です。金地金はこれと違い、事業所得などと合算されて累進税率がかかります。不動産の感覚で「長期なら15%」と考えると読み違えます。
例外もあります。金地金の売買を営利目的で継続的に行っていれば、実態に応じて事業所得か雑所得になります。また、金投資口座・金貯蓄口座の利益は金融類似商品の収益として20.315%の源泉分離課税で終わり、ここでの計算の対象外です。
国保料にも効く
総合課税の譲渡所得は、国民健康保険料の計算にも入ります。横浜市の説明では、保険料の所得割に使う「総所得金額等」に総合課税の短期・長期譲渡所得が含まれ、長期は2分の1の金額で計算します。個人事業主が金を売ると、所得税・住民税に加えて国保料も上がるということです。個人事業税は事業所得だけにかかるので、金の売却益では増えません。
個人で売ると、増える税と国保料はいくらか
事業所得(青色申告特別控除の後)の水準ごとに、金の売却益が加わったときに増える所得税・住民税・国保料を計算しました。
売却益100万円の場合
| 事業所得 | 5年以内:税 | 国保 | 合計 | 5年超:税 | 国保 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 6.8万円 | 5.3万円 | 12.1万円(12.0%) | 3.4万円 | 2.6万円 | 6.0万円(6.0%) |
| 400万円 | 9.0万円 | 5.3万円 | 14.3万円(14.3%) | 4.5万円 | 2.6万円 | 7.2万円(7.2%) |
| 600万円 | 13.6万円 | 5.3万円 | 18.9万円(18.9%) | 6.8万円 | 2.6万円 | 9.5万円(9.5%) |
| 800万円 | 13.6万円 | 5.3万円 | 18.9万円(18.9%) | 6.8万円 | 2.6万円 | 9.5万円(9.5%) |
| 1,200万円 | 21.9万円 | 0.0万円 | 21.9万円(21.9%) | 10.9万円 | 0.0万円 | 10.9万円(10.9%) |
| 2,000万円 | 25.4万円 | 0.0万円 | 25.4万円(25.4%) | 12.7万円 | 0.0万円 | 12.7万円(12.7%) |
売却益500万円の場合
| 事業所得 | 5年以内:税 | 国保 | 合計 | 5年超:税 | 国保 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 94.2万円 | 47.6万円 | 141.8万円(28.4%) | 33.3万円 | 23.8万円 | 57.1万円(11.4%) |
| 400万円 | 120.8万円 | 47.6万円 | 168.4万円(33.7%) | 58.6万円 | 23.8万円 | 82.4万円(16.5%) |
| 600万円 | 134.1万円 | 30.3万円 | 164.3万円(32.9%) | 62.2万円 | 23.8万円 | 86.0万円(17.2%) |
| 800万円 | 163.0万円 | 9.2万円 | 172.2万円(34.4%) | 70.3万円 | 9.0万円 | 79.4万円(15.9%) |
| 1,200万円 | 196.6万円 | 0.0万円 | 196.6万円(39.3%) | 98.3万円 | 0.0万円 | 98.3万円(19.7%) |
| 2,000万円 | 242.4万円 | 0.0万円 | 242.4万円(48.5%) | 114.4万円 | 0.0万円 | 114.4万円(22.9%) |
※ 東京23区・40歳未満・単身/2026年(令和8年)分基準。事業所得は青色申告特別控除の後。増加額は所得税・復興特別所得税・住民税・国民健康保険料の合計で、個人事業税は変わらない前提。取得費・譲渡費用は差し引いた後の売却益(scripts/kin-baikyaku-kojin-houjin.mjs で計算)
読み取れることは3つあります。
- 保有5年超かどうかで負担はほぼ半分になる。 特別控除後の金額が2分の1になるので、税も国保料も半分前後に下がります
- 事業所得が少なくても、売却益が大きいと重い。 事業所得200万円でも、5年以内に500万円の利益を出すと28.4%かかります。売却益で所得が押し上げられ、累進税率と国保料の両方が効くためです。基礎控除の特例加算が所得に応じて縮むことも負担を押し上げています
- 事業所得が1,000万円を超える層では国保料は増えない。 すでに賦課限度額に達しているからです。その代わり所得税の限界税率が高く、5年以内なら39〜49%になります
法人で売ると、本業の利益と合算される
法人には、保有期間の区分も、特別控除50万円も、2分の1もありません。売却益はその事業年度の益金になり、本業の利益と合わせて法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税がかかります。役員報酬を払った後に会社に残る利益の水準ごとに、増える法人税等を出しました。
| 会社に残る利益(売却益の前) | 売却益100万円 | 売却益500万円 |
|---|---|---|
| 0万円 | 21.3万円(21.3%) | 108.2万円(21.6%) |
| 200万円 | 21.4万円(21.4%) | 111.9万円(22.4%) |
| 400万円 | 22.8万円(22.8%) | 120.9万円(24.2%) |
| 600万円 | 23.2万円(23.2%) | 142.1万円(28.4%) |
| 800万円 | 28.6万円(28.6%) | 162.9万円(32.6%) |
| 1,200万円 | 33.6万円(33.6%) | 167.9万円(33.6%) |
| 2,000万円 | 33.6万円(33.6%) | 167.9万円(33.6%) |
※ 東京23区・合同会社/2026年(令和8年)分基準。法人税・地方法人税・法人住民税(法人税割)・法人事業税・特別法人事業税の増加額。均等割は利益に関係なく発生するため含まない。会社から個人へ引き出すときの税は含まない
法人の負担は21〜34%の幅に収まります。所得800万円までの軽減税率の枠が残っていれば21%台、使い切っていれば33.6%です。売却益が大きいと、それだけで800万円の枠をまたぐので、500万円の列は100万円の列より早く上がります。
比べると、どちらが軽いか
上の2つの表を並べると、境目は保有期間で決まります。
- 保有5年超:個人は事業所得2,000万円でも22.9%(売却益500万円)。法人の最低水準21.6%とほぼ同じで、多くの条件で個人のほうが軽くなります
- 保有5年以内:売却益100万円なら、個人は事業所得800万円までなら12.0〜18.9%で、法人より軽くなります。売却益500万円では、個人は事業所得200万円でも28.4%で、会社に残る利益が少ない法人(21〜24%)のほうが軽くなります
ただし法人の数字は、会社の中に税引後のお金が残った段階の比較です。社長個人が使うには、役員報酬・退職金・配当で引き出す必要があり、そこでもう一度税がかかります。当サイトの判定ツールはこの引出コストを20%と置いています(計算の前提)。引出コストまで含めると、法人の不利は表より大きくなります。
なお、法人化した後に社長個人が持っている金を売る場合は、売却益は役員報酬(給与所得)と合算されます。社会保険料は標準報酬月額で決まるため、国保のように売却益で保険料が増えることはありません。法人化の前後どちらの年に売るかでも負担は変わります。
「余った資金で会社が金を買う」前に確認したいこと
会社に利益が残ると、資産の置き場として金を買う発想が出てきます。税の面では次の3点を押さえておく必要があります。
- 個人の軽減は使えなくなる。 5年以上持つ前提なら、個人で持てば2分の1課税が使えますが、法人ではそのまま益金になります。長期保有の資産ほど、法人で持つ税の有利さは薄れます
- 会社のお金を個人のために使わない。 会社の資金で買った金を社長個人が持ち帰れば、役員への貸付や給与の問題になります。法人で買うなら名義も保管も法人として管理します(役員貸付金の認定利息)
- 会社に利益を残すかどうかは役員報酬で決まる。 会社に残る利益が800万円を超える水準なら、金を買う前に役員報酬の設定そのものを見直す余地があります
法人で株や投資信託を運用した場合の比較は法人で株式投資すると税金は20.315%より高いか、暗号資産を法人で持つ場合の期末時価評価は暗号資産は法人化で税率が下がるかで扱っています。金地金は株式のような分離課税も、個人の総合課税の軽減も法人では使えない点が、これらと違います。
200万円超の売却は支払調書で税務署に伝わる
国税庁によれば、平成24年1月1日以降、金地金等の売買を業として行う者が国内で金地金等を買い取り、200万円超の対価を支払う場合は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出する義務があります。調書には売った人の住所・氏名・個人番号、金地金等の種類・重量・数量、支払金額が記載されます。
200万円は「対価」、つまり売却代金の基準で、利益の額ではありません。200万円以下の売却なら調書は出ませんが、申告が不要になるわけではありません。課税されるかどうかは、取得費を引いた売却益と特別控除50万円で決まります。取得費を証明できないと申告で不利になるため、購入時の明細は保管しておく必要があります。
国税庁 No.3161 には、令和9年1月1日以後に生じる所得について、復興特別所得税の税率を1.1%に下げ、防衛特別所得税を併せて課す旨の注記があります。この記事の数字は2026年(令和8年)分の基準です。
まとめ
- 個人の金地金の売却益は総合課税の譲渡所得。特別控除50万円があり、保有5年超なら2分の1。国保料の計算にも入る
- 保有5年超なら、個人の負担は売却益500万円・事業所得2,000万円でも22.9%で、法人(21.6〜33.6%)とほぼ同じか軽い
- 保有5年以内で売却益が大きいと、個人は28〜49%に上がり、会社に残る利益が少ない法人のほうが軽くなる場合がある
- 法人の数字は個人へ引き出す前のもの。業者への売却代金が200万円を超えると支払調書が税務署に出る
金をどちらで持つかより先に、会社に残る利益と役員報酬の水準が負担を決めます。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で、最適な役員報酬と会社に残る利益を確かめてください。
よくある質問
金を売った利益が50万円以下なら申告は要りませんか?
金地金の譲渡益と、その年のほかの総合課税の譲渡益の合計が50万円以下なら、特別控除で課税される譲渡所得は0円になります。ただし、ほかの所得との関係で確定申告をする人は、譲渡所得の有無を含めて申告書を作ります。個別の要否は税務署か税理士に確認してください。
法人で持っている金にも保有5年超の2分の1は使えますか?
使えません。保有期間による短期・長期の区分、特別控除50万円、2分の1課税はいずれも個人の所得税の譲渡所得の仕組みです。法人では売却益がそのまま益金になり、本業の利益と合算されます。
純金積立や金貯蓄口座の利益も同じ扱いですか?
国税庁 No.3161 によれば、金投資口座や金貯蓄口座などの利益は、金地金の現物の譲渡とは異なり、金融類似商品の収益として20.315%の源泉分離課税で課税が終わります。他の所得と合算して申告することはできません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。