税金の基礎
マイホームの3,000万円控除は自分の会社に売ると使えない。自宅兼事務所は90%が境目
結論
居住用財産の3,000万円特別控除と軽減税率は、本人や親族が株式・出資の50%超を持つ会社(合同会社は社員の過半数)に売ると使えません。第三者に売る場合も、自宅兼事務所は居住部分だけが対象で、居住部分がおおむね90%以上なら全体が対象です。譲渡益4,000万円・所有10年超なら、全部住まいで第三者へ142.1万円、事務所20%で190.9万円、自分の会社へ売ると812.6万円です。
- 自分の会社への売却は「特別の関係がある者」への譲渡で対象外(措令20条の3第1項5号・法令4条2項3項)
- 事務所割合10%(居住90%)なら全体が対象、11%になると事務所部分は通常の20.315%課税。この例で税額は142.1万→169.0万円
- 譲渡益2,000万円の差406.3万円は、売上2,000万・経費400万で法人化したときの年間の差33.1万円の約12年分
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
自宅を会社に売って社宅として借り直す、という組み立ては法人化の相談でよく出てきます。ところが売り先が自分の会社だと、マイホームの売却で最も大きい3,000万円の特別控除が丸ごと使えません。もう一つの論点は、自宅の一部を事務所にしている場合の「居住部分」の線引きです。
3,000万円控除と軽減税率の基本
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間にかかわらず譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(租税特別措置法35条、国税庁No.3302)。売った年の1月1日に家屋・敷地とも所有期間が10年を超えていれば、控除後の金額に軽減税率も重ねて使えます(同31条の3、No.3305)。
| 区分 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 通常の長期譲渡所得(所有5年超) | 15% | 5% |
| 所有10年超の居住用財産:6,000万円以下の部分 | 10% | 4% |
| 所有10年超の居住用財産:6,000万円超の部分 | 15% | 5% |
所得税には、さらに復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)がかかります。通常の長期譲渡なら合計20.315%、軽減税率の部分は14.21%です。住民税4%の内訳は、名古屋市の例で市民税3.2%・県民税0.8%です。
この特例の要件の一つが、「特別の関係がある人」に売ったものではないことです。国税庁は親子・夫婦・生計を一にする親族などと並べて、「特殊な関係のある法人」を挙げています。
自分の会社は「特殊な関係のある法人」に当たる
特別の関係がある者の範囲は、租税特別措置法施行令20条の3第1項に5つの号で定められています(3,000万円控除は同23条2項がこれを準用)。5号が法人です。本人や配偶者・直系血族などを株主等とした場合に、法人税法施行令4条2項の「特殊の関係」に当たる会社が対象になります。
その「支配」の基準が法人税法施行令4条3項です。
- 発行済株式または出資の50%を超える数・金額を持つ場合
- 役員の選任・報酬・配当などの決議の議決権の50%超を持つ場合
- 合名・合資・合同会社では、社員(業務執行社員を定めた場合は業務執行社員)の総数の半数を超える場合
つまり、個人事業から法人成りして自分だけが出資した株式会社・合同会社は、どちらも典型的な対象です。妻や子との共同出資でも、親族分を合わせて50%を超えれば同じです。
自分の会社に売ったときの税額
家屋・敷地とも所有10年超、全部を住まいとして使っていた自宅を、第三者に売る場合と自分の会社に売る場合で比べました。
| 譲渡益 | 第三者へ売却(全部住まい) | 自分の会社へ売却 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 0.0万円 | 203.1万円 | 203.1万円 |
| 2,000万円 | 0.0万円 | 406.3万円 | 406.3万円 |
| 3,000万円 | 0.0万円 | 609.5万円 | 609.5万円 |
| 5,000万円 | 284.2万円 | 1,015.7万円 | 731.5万円 |
| 8,000万円 | 710.5万円 | 1,625.2万円 | 914.7万円 |
※ 家屋・敷地とも所有10年超。自分の会社=本人や親族が株式・出資の50%超を持つ会社(合同会社は社員の過半数)。所得税は復興特別所得税込み。当サイトで計算(scripts/myhome-3000man-jitaku-jimusho.mjs)
譲渡益3,000万円までは、第三者に売れば税金はゼロです。同じ家を自分の会社に売ると、その全額に20.315%がかかります。
法人化の年間の差と比べると何年分か
売上2,000万円・経費400万円・東京都・インボイス登録済みの条件で、当サイトの計算エンジンは、合同会社で役員報酬を月54万円にしたときの手取りを、個人のままより年33.1万円多いと出します(税理士報酬を差し引いた2年目以降の実質差額)。
譲渡益2,000万円の自宅を会社に売ったときの追加の税額406.3万円は、この年間差の約12年分です。社宅家賃の節税効果は 役員社宅の家賃の記事 で扱っていますが、売却時に一度に失う金額と並べて検討する必要があります。
なお、会社が買う側でも、登録免許税と不動産取得税がかかります。法人の取得には住宅用家屋の軽減が使えない点は 不動産を法人に移す費用の記事 にまとめています。
自宅兼事務所は居住部分だけ。おおむね90%が境目
第三者に売る場合でも、自宅の一部を事務所として使っていると、特例の対象は居住部分に限られます。国税庁No.3452は、店舗併用住宅で特例を受けられるのは自分が住んでいた部分だけとし、居住部分が全体のおおむね90%以上なら全体を居住用として扱えるとしています(措置法通達31の3-8)。居住部分は床面積で求め、居間と兼用の部分などは居住・非居住の面積比で按分します。
売却価格7,000万円・取得費と譲渡費用の合計3,000万円(譲渡益4,000万円)、所有10年超の自宅で、事務所の割合を変えて計算しました。
| 自宅の使い方・売り先 | 特例の対象になる部分 | 3,000万円控除後の課税所得(居住部分) | 特例の対象外の所得 | 所得税+住民税 |
|---|---|---|---|---|
| 全部を住まいに使用・第三者へ売却 | 100% | 1,000.0万円 | 0.0万円 | 142.1万円 |
| 事務所10%・第三者へ売却 | 100% | 1,000.0万円 | 0.0万円 | 142.1万円 |
| 事務所11%・第三者へ売却 | 89% | 560.0万円 | 440.0万円 | 169.0万円 |
| 事務所20%・第三者へ売却 | 80% | 200.0万円 | 800.0万円 | 190.9万円 |
| 事務所30%・第三者へ売却 | 70% | 0.0万円 | 1,200.0万円 | 243.8万円 |
| 全部を住まいに使用・自分の会社へ売却 | 0% | 0.0万円 | 4,000.0万円 | 812.6万円 |
※ 事務所割合は家屋・敷地の床面積の割合とし、取得費は面積で按分(事務所部分の減価償却の差は考慮しない)。居住部分には3,000万円控除と軽減税率(所得税10%・住民税4%)、それ以外は所得税15%・住民税5%。所得税は復興特別所得税2.1%込み。当サイトで計算(scripts/myhome-3000man-jitaku-jimusho.mjs)
事務所が10%から11%に増えるだけで、税額は142.1万円から169.0万円に上がります。境目の手前では全体が対象になるのに、超えると事務所部分の440万円が通常税率に回るためです。
個人事業でも法人でも、線引きは同じ
この居住部分の判定は、売る人がその家をどう使っていたかで決まります。個人事業で家事按分していた部屋も、法人に事務所として貸していた部屋も、居住用ではない部分として同じように扱われます。法人化で変わるのは、自宅の一部を会社に貸すと、賃貸借契約・家賃の記録で事務所の面積がはっきり残る点です。
自宅を会社に貸すときの家賃と個人の不動産所得の関係は 自宅を法人へ貸す記事 で扱っています。事務所の割合を決めるときは、毎年の家賃と、将来売るときの特例の範囲が同じ面積で連動することを前提にしてください。
また、事務所部分は取得費の計算でも差が出ます。事業に使っていた期間は減価償却が進んでいるため、実際には上の表より事務所部分の譲渡益が大きくなる方向に動きます。
売る前に確認したい3つの点
- 売り先:自分や親族で50%超を持つ会社なら、3,000万円控除と軽減税率は使えない
- 居住部分の割合:売るときの床面積で、居住部分がおおむね90%以上か
- 所有期間:軽減税率は売った年の1月1日で家屋・敷地とも10年超が要件
法人化そのものの損得は、自宅の扱いと切り離して計算できます。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で年間の差を確かめてから、自宅を動かすかどうかを検討してください。
まとめ
- マイホームの3,000万円控除と軽減税率は、本人・親族で株式・出資の50%超を持つ会社(合同会社は社員の過半数)への売却では使えない
- 譲渡益2,000万円なら、自分の会社に売ると税額が406.3万円増える。売上2,000万・経費400万での法人化の年間差33.1万円の約12年分
- 自宅兼事務所は居住部分だけが対象。居住部分がおおむね90%以上なら全体が対象になる
- 譲渡益4,000万円の例では、事務所10%で142.1万円、11%で169.0万円、20%で190.9万円
- 居住部分の線引きは、個人事業の家事按分でも法人への賃貸でも同じ
よくある質問
一人で作った合同会社に自宅を売っても3,000万円控除は使えますか?
使えません。法人税法施行令4条3項は、合同会社では社員の総数の半数を超える場合も支配に当たるとしており、一人合同会社は特殊な関係のある法人になります。軽減税率の特例も同じ理由で使えません。
自宅の一部を事務所として会社に貸していた期間があると、どうなりますか?
売るときに事務所として使っている部分は居住用ではないため、その部分の譲渡益には3,000万円控除も軽減税率も使えません。居住部分が全体のおおむね90%以上なら、全体を居住用として扱えます。
自宅を会社に売らずに、事務所部分だけを第三者に売ることはできますか?
家屋の一部だけを売るのは現実的ではありません。売るときは家屋と敷地をまとめて売り、譲渡益を居住部分と事務所部分に分けて計算するのが通常です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。