税金の基礎
自宅を法人へ貸す家賃は経費。でも個人に不動産所得が戻る
社長の持ち家の一部を法人へ事務所として貸すときの税務を解説。法人の家賃損金、個人の不動産所得、固定資産税・減価償却等の按分、適正家賃を試算します。
社長が所有する自宅の一室を会社の事務所にし、法人から個人へ毎月10万円の家賃を払う。法人では年120万円の地代家賃が損金になります。
ただし、世帯全体で120万円の経費が新しく生まれるわけではありません。社長個人には年120万円の家賃収入が立ち、固定資産税、建物の減価償却費、損害保険料、借入金利子など事務所部分の必要経費を引いた残りが不動産所得になります。
この形の効果は、法人税の減少 − 個人の所得税・住民税の増加です。第三者から借りた住宅を法人が社宅にする「借上社宅」とは、計算の向きが違います。
法人と社長は別人なので、賃貸借を成立させる
一人会社でも、法人と社長個人は別の主体です。社長が所有する建物の一部を、法人が事務所として借りる契約を結べます。
最低限、契約書へ次を記載します。
- 貸主:社長個人、借主:法人
- 物件の所在地と、貸す部屋・床面積
- 用途:法人の事務所、倉庫など
- 月額賃料と支払日
- 契約期間と解約条件
- 電気、水道、通信、修繕などの負担者
- 敷金の有無と返還条件
契約書だけでは足りません。法人名の表札、仕事用の机・機器、郵便物、会議や作業の記録など、実際に法人が使っている状態をそろえます。家族の寝室やリビングを「営業時間だけ事務所」とするより、仕事専用の部屋を区切るほうが説明しやすくなります。
法人側は、事業に必要な適正額の家賃を地代家賃として損金にします。社長個人の住宅ローン返済を法人が肩代わりする契約ではありません。法人が払うのは使用する場所の対価です。
個人側は家賃収入から対応経費を引く
国税庁No.1370は、土地や建物の貸付けによる所得を不動産所得とし、計算式を次のように示しています。
総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得
社長個人が法人から受け取る家賃は、原則として不動産所得の総収入金額です。給与や配当ではありません。
必要経費にできるのは、不動産収入を得るため直接必要で、生活費と明確に区分できる部分です。
| 支出 | 個人の不動産所得での処理 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 法人へ貸した部分を合理的に按分 |
| 建物の減価償却費 | 建物取得価額の貸付部分を耐用年数で償却 |
| 火災・地震保険料 | 対象期間と貸付部分を按分 |
| 住宅ローン利子 | 貸付部分に対応する利子を按分 |
| 修繕費 | 法人使用部分の修繕なら内容に応じて必要経費 |
| 住宅ローン元本返済 | 必要経費にならない |
| 土地・建物の購入代金 | 一括経費ではない。土地は償却せず建物は減価償却 |
住宅ローンの返済額をそのまま必要経費にするのは誤りです。元本返済は借金を減らすだけで、利子部分とは分けます。
また、減価償却するのは建物部分です。土地は時の経過で価値が減る減価償却資産ではありません。購入代金が土地・建物に分かれていなければ、売買契約書、固定資産税評価額など合理的な資料で区分します。
面積按分は「貸す範囲」を図面で固定する
自宅100㎡のうち20㎡の一室を法人専用事務所として貸すなら、床面積割合は20%です。固定資産税や保険料など建物全体にかかる費用は、まず20%を検討できます。
法人専用面積 20㎡ ÷ 自宅全体 100㎡ = 20%
ただし、どの費用も機械的に20%とは限りません。
- 事務所だけの内装修繕:内容によって100%が貸付部分
- 住宅部分だけの修繕:不動産所得の必要経費は0%
- 共用廊下・トイレ:法人の使用実態に応じ、面積や時間も検討
- 電気代:子メーター、使用機器、面積・時間など合理的な基準
- 通信費:法人契約の回線なら法人が直接負担する方法もある
国税庁No.2210は、店舗併用住宅の租税公課、家賃、水道光熱費などの家事関連費について、取引記録などに基づき業務上必要な部分を明確に区分できる金額に限り必要経費になると説明しています。
平面図へ法人専用部分を色づけし、面積計算、写真、費用ごとの按分表を毎年保存します。毎年都合よく割合を変えるより、用途が変わった日と理由を記録します。
家賃は住宅ローン額ではなく、利用価値から決める
月額家賃を「住宅ローンが月10万円だから10万円」と決める根拠は弱いです。ローン額は頭金、借入期間、金利で変わり、法人が使う場所の市場価値とは一致しません。
適正家賃は、次の資料で説明できる額にします。
- 近隣の小規模事務所・レンタルオフィスの賃料
- 同じ建物・周辺の住宅賃料を床面積で按分した額
- 法人専用面積、設備、立地、共用部分の利用条件
- 不動産会社の査定書や募集事例
たとえば近隣の類似スペースが1㎡当たり月5,000円で、法人専用部分が20㎡なら、月10万円が一つの比較資料になります。ただし住宅内の一室は独立事務所より利用制限が多いため、同額をそのまま採用せず条件差を調整します。
同族会社と役員の取引では、第三者間なら成立しない高額賃料にしないことが重要です。事業使用の実態がない部分や不相当に高い部分は、役員の個人的費用・経済的利益として給与扱いとなり、役員給与の損金算入制限を受けるリスクがあります。
逆に、迷った末に家賃を0円にする(使用貸借にする)と、法人にも個人にも経費が立たなくなります。個人事業主のときに家事按分で落としていた分が消えるので、法人化の判定そのものが動きます。その計算は自宅を法人へ無償で貸すと経費0円。個人事業との差は年11万円にまとめました。
年120万円を払ったとき、世帯の税負担は5万7,000円減
次の前提で、法人と個人を合算しました。
- 法人の家賃支払前利益:500万円
- 法人が社長へ払う家賃:月10万円、年120万円
- 個人側の対応必要経費:年45万円
- 不動産所得:120万円 − 45万円 = 75万円
- 社長の給与収入:年600万円
- 社会保険料控除:年90万円
- 配偶者・扶養・その他の所得控除なし
- 東京23区、当サイトの2026年分税率
| 動く項目 | 金額 |
|---|---|
| 法人税等の減少 | 27万800円 |
| 個人の所得税・住民税の増加 | 21万3,800円 |
| 世帯合算の税負担 | 5万7,000円減 |
年120万円を法人から個人へ移しても、世帯の税金が120万円分減るわけではありません。個人側に75万円の不動産所得が戻るため、この前提での純粋な税額差は5万7,000円です。
ただし、家賃の受取りは給与と違い、通常は法人の健康保険・厚生年金の標準報酬月額には入りません。役員報酬を増やす場合とは社会保険料の動きが違います。一方で所得税・住民税、国民健康保険へ移った後の所得判定、各種所得制限には不動産所得が反映されます。
この試算はscripts/jitaku-houjin-kashidashi.mjsで再計算できます。個人側の必要経費が少ない家ほど、不動産所得が大きくなり、世帯の税差は小さくなります。
借上社宅とは逆向きの取引
混同しやすい2つを並べます。
| 形 | 所有者・貸主 | 法人の相手 | 社長個人の所得 |
|---|---|---|---|
| 借上社宅 | 第三者の大家 | 大家へ家賃を払う | 社宅の賃貸料相当額のルール |
| 持ち家を法人へ貸す | 社長個人 | 社長へ家賃を払う | 不動産所得 |
借上社宅では、会社が第三者へ払った家賃と役員が会社へ払う賃貸料との差が会社負担になります。持ち家を貸す形では、会社の支払先が社長本人なので、その家賃が個人所得へ戻ります。
役員社宅で法人化の分岐点は883万円に下がるの試算を、持ち家へそのまま当てはめることはできません。持ち家は今回のように法人税と個人税を合算します。
消費税は「住宅」か「事務所」かで変わる
国税庁No.6225では、事務所など建物の貸付けによる家賃は消費税の課税対象、住宅の貸付けは一定の場合を除き非課税です。
自宅の一室を契約上も実態上も法人の事務所として貸すなら、その賃料は事務所貸付けとして課税売上を検討します。社長個人が免税事業者なら消費税の納税は通常生じませんが、インボイス登録の有無、他の課税売上、基準期間の課税売上高を合算して判定します。
法人側も、相手がインボイス未登録なら仕入税額控除の経過措置を含めて処理します。住宅家賃だから無条件に非課税、または会社が払うから無条件に課税、と決めず、契約用途と使用実態を一致させます。
住宅ローン・規約・許認可も先に確認する
税務上の契約が作れても、他の契約で事業利用が制限されることがあります。
- 住宅ローン契約の居住用条件
- マンション管理規約の事務所利用・看板・来客制限
- 火災保険の用途区分
- 賃貸ではなく所有でも必要になる自治体・業法上の許認可
- 住宅ローン控除の床面積・居住割合などの要件
法人へ貸す前に、金融機関、管理組合、保険会社へ確認します。税額差5万7,000円のために住宅ローンの優遇や規約適合性を失えば、全体では逆効果です。
毎年保存する資料
- 個人と法人の賃貸借契約書
- 法人専用部分を示した平面図と写真
- 近隣相場・査定など家賃根拠
- 法人から個人口座への振込記録
- 固定資産税、保険料、利息、修繕費の証憑
- 建物取得価額・耐用年数・減価償却計算
- 費用ごとの按分基準と計算表
- 消費税区分とインボイス登録状況
国税庁No.1376によると、契約で家賃の支払日を定めている場合、個人側の収入計上時期は原則としてその支払日です。法人が未払いでも契約上の支払日が来れば個人の収入になるため、契約どおり毎月振り込みます。
まとめ
- 社長の持ち家の一部を、法人へ事務所として貸す契約はできる
- 法人では事業に必要な適正家賃が損金、社長個人では家賃が不動産所得の収入
- 個人は固定資産税、建物減価償却費、保険料、借入金利子など貸付部分を必要経費にする
- 住宅ローンの元本返済と土地代は減価償却費にならない
- 面積図、利用実態、近隣相場から貸す範囲と家賃を説明する
- 年120万円、個人経費45万円の例では、法人税等27万800円減、個人税21万3,800円増、世帯では5万7,000円減
- 借上社宅と異なり、法人が払う家賃が社長の所得へ戻る
- 事務所貸付けは消費税の課税対象を検討し、住宅ローン・管理規約も確認する
法人側だけを見れば家賃120万円は経費です。しかし判断に使う数字は、個人に戻る不動産所得と対応経費を入れた世帯合算5万7,000円です。契約、専用面積、相場の3点をそろえてから始めてください。
よくある質問
社長の持ち家を自分の法人へ貸せますか?
貸せます。法人と社長個人の間で、貸す場所、用途、面積、賃料、支払日、費用負担を定めた賃貸借契約を結びます。法人の事業に実際に使い、賃料が相場に照らして合理的であることが必要です。
法人から受け取る自宅の家賃は給与ですか?
実態のある不動産賃貸なら、原則として個人側の不動産所得です。ただし事業使用の実態がない、または賃料が不相当に高い場合、超過部分が役員への経済的利益・給与と判断されるリスクがあります。
持ち家を法人へ貸すと役員社宅と同じ節税になりますか?
同じではありません。法人が第三者から住宅を借りる借上社宅と違い、法人が払う家賃を社長個人が受け取り、不動産所得として申告します。法人税だけでなく個人税まで合算して判断します。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。