税金の基礎

役員社宅で法人化の分岐点は909万円に下がる。家賃別に計算した

自宅の家賃は、個人事業主なら業務使用割合の按分しか使えませんが、法人なら社宅にして半額を会社負担にできます。同じ家・同じ家賃で可処分所得がいくら変わるか、損益分岐点が家賃別にどこまで下がるかを計算しました。

家賃は生活費なので経費になりません。個人事業主が自宅兼事務所の家賃を落とせるのは、業務に使っている割合の分だけです。

ところが法人の場合、役員社宅にすると家賃の半分近くを会社の負担にできます。当サイトの計算エンジンで試算すると、家賃月15万円の賃貸に住んでいる人は、法人化の損益分岐点が1,266万円から909万円まで下がりました。357万円の前倒しです。

個人事業主が使えるのは按分だけ

自宅で仕事をしている個人事業主は、家賃のうち業務に使っている部分を経費にできます。床面積や使用時間などの合理的な基準で按分します。

家賃月15万円(年180万円)・事業所得1,000万円の場合です。

業務使用割合経費にできる額自腹の家賃可処分所得按分なしとの差
0%0円180.0万円477.1万円±0円
10%18.0万円162.0万円484.1万円+7.0万円
20%36.0万円144.0万円491.2万円+14.1万円
30%54.0万円126.0万円498.5万円+21.4万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準 ※ 可処分所得は手取りから自分の財布で払う家賃を引いた金額

按分30%でも年21.4万円です。そして居住用の住宅で業務使用割合30%を通すのは簡単ではありません。仕事部屋が独立していて、その床面積の比率で説明できる、といった裏づけが要ります。

法人は「賃貸料相当額」まで役員負担を下げられる

法人が住宅を借りて役員に貸す場合、役員から賃貸料相当額を受け取っていれば、給与として課税されません。会社が払う家賃と役員から受け取る額の差が、会社の負担として損金になります。

賃貸料相当額は住宅の区分で計算方法が変わります。小規模な住宅の場合、次の3つの合計です。

その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
+ 12円 ×(建物の総床面積 ㎡ ÷ 3.3㎡)
+ その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物なら床面積132㎡以下、30年を超える建物なら99㎡以下の住宅を指します。木造アパートや一般的なマンションの一室は、多くがこの区分に入ります。

そして重要なのが、他から借り受けた住宅を社宅にする場合の扱いです。この場合の賃貸料相当額は、上の算式で出した額と、**会社が貸主に支払う家賃の50%**を比べて、多いほうになります。

つまり借上社宅では、賃貸料相当額が家賃の50%を下回ることはありません。逆に言えば、算式で出した額が家賃の50%以下であれば、役員が家賃の50%を負担しておけば給与課税は生じないということです。

算式に入る固定資産税の課税標準額は、物件ごとに違います。賃貸物件の場合は貸主に固定資産税の課税明細を見せてもらうか、市区町村で固定資産課税台帳を閲覧して確認する必要があります。確認せずに「家賃の50%」だけで運用すると、算式額のほうが大きい物件だった場合に差額が給与課税されます。

同じ家・同じ家賃で、可処分所得はいくら変わるか

事業所得1,000万円の法人で、家賃を自分で全額払う場合と、社宅にして役員が50%を負担する場合を比べました。

家賃(月)社宅にしない社宅(役員負担50%)
8万円566.4万円584.2万円+17.8万円
10万円542.4万円564.7万円+22.3万円
15万円482.4万円515.8万円+33.4万円
20万円422.4万円466.9万円+44.5万円
25万円362.4万円418.0万円+55.6万円

※ 事業所得1,000万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 可処分所得は手取り(法人の税引後利益を引出コスト20%で割り引いた後)から自分の財布で払う家賃を引いた金額

家賃25万円なら年55.6万円です。住んでいる家も払っている家賃の総額も変わっていません。変わったのは、家賃のどこまでを法人が負担するかだけです。

差が家賃の半額そのものにならないのは、法人の負担分だけ法人の利益が減り、そのぶん法人に残る税引後利益も減るためです。会社の負担90万円のうち、実質的に手元に残る効果は33.4万円ぶん、という読み方になります。なお法人に残った利益は引出コスト20%で割り引いて計算しています。この前提の中身は法人に残した利益は、退職金で引き出すと負担率3%で扱っています。

分岐点は家賃が高いほど前に来る

個人事業主が按分20%を使い、法人が社宅(役員負担50%)を使う。どちらも自分の条件で最善を取ったうえで、損益分岐点を計算し直しました。

家賃(月)損益分岐となる事業所得
社宅を使わない場合1,266万円
8万円1,179万円
10万円1,111万円
15万円909万円
20万円808万円
25万円735万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。税理士報酬の差(年20万円)を控除後/2026年(令和8年)分基準

家賃が上がるほど分岐点は前に来ます。家賃20万円なら808万円で、一般に言われる「所得800万円」の目安とほぼ重なります。

都市部で家賃の高い賃貸に住んでいる人ほど、法人化が早く成立するという関係です。これは他のシミュレーターがまず組み込んでいない条件で、住居費の水準が判定を数百万円動かします。

効かない条件もある

3つ挙げておきます。

持ち家では成立しません。 自分が所有する住宅を法人に貸して社宅にする形は取れますが、法人が払う家賃はそのまま個人の不動産所得になります。法人の損金と個人の所得が同時に立つので、賃貸のときのように一方的に負担が軽くなるわけではありません。

豪華社宅は対象外です。 床面積240㎡を超えるもののうち、取得価額や内外装の状況などから判定して社会通念上いわゆる豪華社宅と認められるものは、小規模な住宅の計算式ではなく、実際の家賃相当額が賃貸料相当額になります。240㎡以下でも、プールなど個人の嗜好を著しく反映した設備がある場合は同じ扱いです。

役員負担が足りないと給与になります。 賃貸料相当額に満たない部分は現物給与として所得税の対象になり、標準報酬月額の算定にも入ります。社会保険料まで増えるため、負担額を下げすぎると効果が逆転します。

なお社宅は、法人にしてから使える手段です。個人事業主のままなら按分しか選べません。 節税手段を順番に整理した個人事業主の節税は順番があるも合わせて確認してください。

同じ「按分か全額か」の構造は車にもありますが、住居費ほど分岐点は動きません。社用車を経費にすると法人化の分岐点はどう動くかで按分率別に計算しています。

家賃は人によって大きく違い、分岐点の動き方もそれに応じて変わります。一般論の数字ではなく、ご自身の売上・経費で試算してください。

まとめ

  • 個人事業主は業務使用割合の按分だけ。家賃月15万円・按分30%でも効果は年21.4万円
  • 法人は社宅にすれば、賃貸料相当額を超える部分が会社の負担になる
  • 借上社宅の賃貸料相当額は、算式で出した額と支払家賃の50%のうち多いほう
  • 家賃15万円で可処分所得は年33.4万円増え、損益分岐点は1,266万円から909万円へ下がる
  • 持ち家では成立しない。豪華社宅(240㎡超など)は別計算。役員負担が賃貸料相当額に満たない部分は給与課税

よくある質問

持ち家を法人に貸して社宅にすることはできますか?

個人が所有する住宅を法人へ賃貸し、法人がそれを社宅として役員に貸す形は取り得ますが、受け取った家賃は個人の不動産所得として課税されます。賃貸住宅の場合のように負担が一方的に軽くなるわけではないため、効果はまったく別の計算になります。

社宅にすると社会保険料は変わりますか?

役員の負担額が賃貸料相当額を下回ると、その差額は現物給与として報酬に含まれ、標準報酬月額の算定に入ります。賃貸料相当額以上を役員が負担していれば、この算入は生じません。

契約名義を法人に変えられない物件ではどうなりますか?

社宅として扱うには、法人が貸主と賃貸借契約を結んでいることが前提です。個人名義の契約のまま家賃を法人が払うと、法人が役員個人の家賃を肩代わりした形になり、支払額の全額が給与として課税される扱いになります。名義変更の可否は契約前に貸主へ確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。