税金の基礎
社用車を経費にすると法人化の分岐点はどう動くか、按分率別に計算
「車は法人で買ったほうが全額落ちる」と言われますが、法人化の損益分岐点を動かしているのは償却方法の違いではなく、個人事業主側の家事按分率でした。300万円・500万円・700万円の車で、按分率別に分岐点を計算しています。
「車は法人で買ったほうがいい」と言われます。個人事業主は家事按分した分しか落とせないのに対し、法人なら社用車として全額を損金にできるからです。
ただ、当サイトの計算エンジンで損益分岐点を計算し直すと、話はそれほど単純ではありませんでした。個人事業主側の按分率がおよそ80%を超えると、車を持つことでかえって分岐点は後ろにずれます。しかもその境目は、車が300万円でも700万円でも、ほとんど同じ位置にありました。
車は買った年に全額が経費になるわけではない
取得価額が10万円以上の資産は、買った年に全額を経費にはできません。法定耐用年数にわたって分割して経費にしていきます。10万円未満なら全額をその年の経費にできますが、車がここに入ることはまずありません。
耐用年数は、財務省令の別表で細かく区分されています。自家用の車が入るのは「一般用のもの」の区分です。
| 車の区分(一般用のもの) | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 普通乗用車(小型車・貨物自動車・報道通信用以外のもの) | 6年 |
| 軽自動車(小型車=総排気量が0.66リットル以下のもの) | 4年 |
| 貨物自動車(ダンプ式以外のもの) | 5年 |
| 2輪・3輪自動車 | 3年 |
出典は国税庁の主な減価償却資産の耐用年数表です。
ここで気をつけたいのが、この表は「一般用のもの」の区分だという点です。運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用の車はまったく別の区分に入り、同じ普通乗用車でも数字が違います(小型車3年、その他4年など)。自分の車がどちらの区分かは、事業の内容で決まります。
中古車の耐用年数は「簡便法」で短くなる
中古で買った車は、法定耐用年数をそのまま使うのではなく、使用可能期間を見積もった年数を使えます。見積もりが難しい場合は、次の簡便法で計算した年数を使えます。
法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数 × 20%
計算結果に1年未満の端数があれば切り捨て、2年に満たない場合は2年とします。普通乗用車(法定耐用年数6年)に当てはめると次のとおりです。
| 経過年数 | 計算 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 1年 | 6 − 1 + 0.2 = 5.2年 | 5年 |
| 2年 | 6 − 2 + 0.4 = 4.4年 | 4年 |
| 3年 | 6 − 3 + 0.6 = 3.6年 | 3年 |
| 4年 | 6 − 4 + 0.8 = 2.8年 | 2年 |
| 5年 | 6 − 5 + 1.0 = 2.0年 | 2年 |
| 6年以上(全部経過) | 6 × 0.2 = 1.2年 | 2年(2年未満は2年) |
「4年落ちの中古車」がよく話題になるのは、ここで耐用年数が2年に落ちるからです。それより古くしても2年より短くはなりません。
中古資産の耐用年数の算定は、その資産を事業に使い始めた年(事業年度)にしかできません。その年に算定しなかった場合、あとの年に遡って短い耐用年数に変えることはできません。
40万円未満なら、その年に全額落とせる
10万円未満なら全額をその年の経費にできると書きましたが、青色申告をしている中小企業者等にはもっと広い枠があります。少額減価償却資産の特例です。令和8年度税制改正で対象が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限が3年延長されました(所得税についても同様)。年間の合計限度額は300万円で据え置きです。
車両本体がこの枠に収まることはまれですが、カーナビやドライブレコーダーを別個の資産として扱える場合には効いてきます。
届出をしなければ、個人は定額法・法人は定率法
同じ耐用年数でも、償却方法が違えば各年の経費額が変わります。そして届出書を出さなかった場合に適用される償却方法(法定償却方法)が、個人と法人で逆になっています。
車両運搬具の場合、所得税では定額法が法定償却方法です。法人税では定率法が法定償却方法です。どちらも届出書を出せば変更できます。提出期限は、個人が新たに業務を始めた年の翌年3月15日、法人は設立第1期の確定申告書の提出期限です。
300万円の普通乗用車(新車・耐用年数6年)を期首に取得し、12か月使った場合の償却費です。
| 年 | 定額法(償却率0.167) | 定率法(償却率0.333) |
|---|---|---|
| 1年目 | 501,000円 | 999,000円 |
| 2年目 | 501,000円 | 666,333円 |
| 3年目 | 501,000円 | 444,444円 |
| 4年目 | 501,000円 | 297,334円 |
| 5年目 | 501,000円 | 297,334円 |
| 6年目 | 494,999円 | 295,554円 |
| 6年の合計 | 2,999,999円 | 2,999,999円 |
※ 償却率は耐用年数省令別表第八・別表第十。最終年は残存簿価1円まで ※ 定率法の4年目以降は、調整前償却額が償却保証額(300万円×保証率0.09911=297,330円)を下回るため、改定取得価額890,223円×改定償却率0.334による均等償却に切り替わります
6年間の合計は、どちらの方法でもまったく同じ2,999,999円です。 定率法が有利に見えるのは初年度に約2倍の額を落とせるからで、後ろの年でその分だけ落とせなくなります。償却方法の違いは前倒しであって、経費にできる総額を増やすものではありません。
ここは数字の取り違えが起きやすい箇所です。上の0.333は、平成24年4月1日以後に取得した資産に適用される200%定率法の償却率です。平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得した資産には250%定率法が適用され、耐用年数6年の償却率は0.417になります。古い解説記事には0.417が載っているので、そのまま使わないでください。
中古で耐用年数が2年になった場合はもっと極端で、定額法(償却率0.500)なら150万円ずつ2年、定率法(償却率1.000)なら期首取得・12か月使用で初年度に2,999,999円が落ちます。
個人は按分、法人は全額。ただしどちらにも前提がある
個人事業主が車の費用を経費にする場合、家事上と業務上の両方にかかわる家事関連費として扱われます。国税庁は、必要経費になるのは「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られる、としています。走行距離や使用日数で区分するのが一般的です。なお按分の対象は車両本体だけではありません。ガソリン代、自動車保険料、自動車税、車検費用、駐車場代も同じ家事関連費です。車両本体だけを按分してガソリン代を全額落とす、という扱いはできません。
法人が社用車として保有すれば、償却費は全額が損金になります。ただしこちらも無条件ではありません。役員が私的に使う部分について会社が費用を負担していれば、それは会社が役員に提供した用役として、通常支払われるべき対価の額で評価されます。構造は役員社宅で法人化の分岐点は909万円に下がるで扱った社宅とまったく同じです。
さらに法人税法上の扱いが続きます。役員に継続的に供与される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当して損金になりますが、それ以外は定期同額給与に該当せず、損金に算入されません。私的利用の程度が月によってばらつく場合、ここに引っかかる可能性があります。個人事業主の按分は割合を説明すれば済むのに対し、法人では損金性そのものが問われる形です。法人にすれば説明が要らなくなる、という話ではありません。
その前提のうえで、可処分所得を比べます。300万円の新車を6年ごとに買い替え、年50.1万円(定額法)を車にかかる費用とみなしました。個人は按分した分だけを経費にし、残りは自分の財布から払います。法人は全額を会社が負担します。
| 車の扱い | 可処分所得 |
|---|---|
| 個人・按分0%(全額自腹) | 607.0万円 |
| 個人・按分30% | 612.8万円 |
| 個人・按分50% | 616.7万円 |
| 個人・按分70% | 620.7万円 |
| 個人・按分100% | 626.8万円 |
| 法人・全額を会社が負担 | 630.9万円 |
※ 事業所得1,000万円(車の費用を引く前)・その他の経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 可処分所得は手取り(法人は税引後利益を引出コスト20%で割り引いた後)から、経費にならなかった車の費用を引いた金額
按分70%で、法人との差は10.2万円です。法人にかかる税理士報酬の差(年20万円)に届きません。
そして、車を持たない場合の同じ条件の手取りは、個人657.1万円・法人662.4万円で差は5.3万円です。按分70%なら車を持つことで差は10.2万円に広がりますが、按分100%だと4.1万円に縮みます。理由は経費1円あたりの効きの違いです。個人事業主の経費は所得税・住民税だけでなく国民健康保険料と個人事業税まで下げますが、法人の損金が下げるのは法人税等だけで、しかも法人に残った利益は引出コストを見込んで割り引いています。同じ1円の経費は、個人事業主のほうが価値が高いのです。
分岐点を動かすのは車の値段ではなく按分率
按分率と車両価格を変えながら、損益分岐点を計算し直しました。個人は按分した分だけ経費にし、法人は全額を損金にします。
| 個人の按分率 | 300万円の車 | 500万円の車 | 700万円の車 |
|---|---|---|---|
| 車を持たない場合 | 1,266万円 | 1,266万円 | 1,266万円 |
| 30% | 1,125万円 | 869万円 | 753万円 |
| 50% | 1,197万円 | 1,005万円 | 902万円 |
| 70% | 1,243万円 | 1,231万円 | 1,192万円 |
| 80% | 1,267万円 | 1,269万円 | 1,271万円 |
| 100% | 1,316万円 | 1,349万円 | 1,382万円 |
※ 車を6年ごとに買い替え、取得価額×0.167を毎年の費用として計上した前提。分岐点は車の費用を引く前の事業所得 ※ その他の経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。税理士報酬の差(年20万円)を控除後/2026年(令和8年)分基準
境目は按分率80%前後にあります。 車を持たない場合の1,266万円に対し、按分80%の行は1,267万円・1,269万円・1,271万円で、車両価格が2倍以上違っても境目はほとんど動きません。
読み方は次のとおりです。按分率が80%より低い人は、車が高いほど分岐点が前に来ます。700万円の車で按分30%なら753万円まで下がり、一般に言われる「所得800万円」の目安より手前に来ます。逆に按分率が80%より高い人は、車が高いほど分岐点が後ろに下がります。700万円の車で按分100%なら1,382万円で、車を持たない場合より116万円も遠のきます。
つまり、法人化の判定を動かしているのは車そのものではなく、個人事業主のままだと経費にできない割合です。営業車のようにほぼ100%業務で使う車を持っている人にとって、社用車は法人化の理由になりません。逆に、通勤や私用と共用していて按分率を高く取れない人ほど、法人化との差が大きく出ます。
車1台では、判定そのものはまたげない
では車の減価償却費まで経費に入れたとき、判定はどこで変わるのか。年50万円の償却費を含めた経費250万円で、所得別に並べました。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費250万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
判定が「ほぼ互角」から「法人化が有利」に変わるのは、事業所得1,200万円と1,500万円の間です。300万円の車1台の償却費は年50万円で、実質差額をこの帯の外まで押し出す力はありません。車を買うかどうかは、法人化の判断そのものよりも、すでに決まっている判断の内側でどちらの器に置くかという問題として扱ったほうが実態に合います。
計算の前提は計算の根拠にまとめています。按分率は人によってまったく違い、分岐点の動き方もそれに応じて変わります。一般論の数字ではなく、ご自身の売上と経費で試算してください。ほかの固定費が判定に与える影響は法人化のデメリットからたどれます。なお車を持てば必ず付いてくる支出のうち、交通反則金だけは損金になりません。
廃業して法人化するとき、車に消費税がかかる
最後に、法人成りのときだけ出てくる論点です。個人事業者が事業を廃止した時点で、事業用資産でなくなった車両等の資産は、家事のために消費または使用したものとして、事業として対価を得て譲渡したものとみなされます。このみなし譲渡により、時価相当額が廃止年分の課税標準額に含まれ、消費税の課税対象になります。
法人成りでは、個人で使っていた車をそのまま使い続けることが多くあります。法人へ売却すればそれは課税売上ですし、個人の手元に残せばみなし譲渡です。どちらの経路でも消費税は生じます。免税事業者には起きませんが、インボイス登録をしている時点で課税事業者です。
廃業時に必要な届出とその期限は法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限があるにまとめました。
まとめ
- 普通乗用車(一般用)の法定耐用年数は6年、軽自動車は4年。運送事業用などは別区分で数字が違う
- 中古車は簡便法で短くなり、4年落ち以降はすべて2年
- 届出をしなければ、個人事業主は定額法・法人は定率法。ただし6年間の償却総額は同じで、違いは前倒しだけ
- 損益分岐点を動かすのは車の値段ではなく個人側の按分率。境目は按分80%前後で、車両価格が300万円でも700万円でもほとんど動かない
- 按分30%・700万円の車なら分岐点は738万円まで下がるが、按分100%なら1,368万円まで遠のく
- 少額減価償却資産の特例は令和8年度税制改正で40万円未満に拡大され、3年延長された
- 課税事業者が廃業すると、手元に残す車はみなし譲渡として消費税の課税対象になる
よくある質問
4年落ちの中古車を買うと、1年で全額を経費にできますか?
4年落ちの普通乗用車は簡便法で耐用年数が2年になり、定率法の償却率は1.000です。ただし償却費は事業年度のうち事業に使った月数で按分するため、期首に取得して12か月使った場合に1年で償却が終わります。期末近くに取得した場合は、その月数分しか計上できません。
個人事業主でも定率法を使えますか?
使えます。車両運搬具の法定償却方法は定額法ですが、届出書を提出すれば定率法を選べます。新たに業務を始めた場合の提出期限は、その翌年の3月15日です。
車のローンの返済額は経費になりますか?
返済額そのものは経費になりません。経費になるのは車両の減価償却費と、借入金の利息部分です。元本の返済は資産の取得に充てた借入れを返しているだけなので、必要経費には入りません。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表
- 国税庁 減価償却資産の償却率等表
- 国税庁 タックスアンサー No.5404 中古資産の耐用年数
- 国税庁 タックスアンサー No.5410 減価償却資産の償却限度額の計算方法
- 国税庁 タックスアンサー No.5409 減価償却資産の償却方法の選定手続
- 国税庁 法人の減価償却制度の改正に関するQ&A(200%定率法の償却率表)
- 国税庁 減価償却資産の償却方法の届出書の記載要領等
- 国税庁 A1-18 所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 国税庁 タックスアンサー No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱
- 国税庁 タックスアンサー No.5202 役員等に対する経済的利益
- 国税庁 タックスアンサー No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合
- 国税庁 所得税基本通達 〔給与等とされる経済的利益の評価〕
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。