設立の手続き

法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限がある

会社を作る手続きの陰で忘れられるのが、個人事業の側を畳む届出です。廃業届の期限は「1か月以内」ではありません。5つの届出の期限を国税庁の手続案内から整理し、出し忘れると実害が出る予定納税の減額申請を金額で示します。

会社の設立登記が終わると、そこで手続きが完了した気分になります。ですが個人事業の側にも、畳むための届出が税務署あてだけで5つ残っています。

期限はばらばらです。国税庁の手続案内で確認すると、廃業届の期限は広く言われている「1か月以内」ではなく、その年分の確定申告期限まででした。一方で、放っておくと実害が出るものが1つだけあります。予定納税の減額申請で、締切は7月15日です。

税務署に出す5つ。本当に短いのは1つだけ

届出書提出時期出す人
個人事業の開業・廃業等届出書事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで全員
所得税の青色申告の取りやめ届出書取りやめようとする年分の確定申告期限まで青色申告をしていた人
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書廃止の事実があった日から1か月以内従業員や専従者に給与を払っていた人
事業廃止届出書(消費税)事由が生じた場合、速やかに消費税の課税事業者・インボイス登録者
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書第1期分・第2期分は7月1日〜7月15日/第2期分のみは11月1日〜11月15日予定納税の通知が来ている人

上の2つは確定申告期限に揃えられています。廃業した年の確定申告と同じタイミングでよい、という設計です。開業届と同じ様式なので「開業のときは1か月以内だった」という記憶から短く見積もられがちですが、国税庁の手続案内が示している期限はこちらです。

締切が動かせないのは5番目だけです。しかもその年の7月15日なので、他の4つと違って翌年には回せません。

7月15日を過ぎると、法人化した年に110万円を先払いする

予定納税は、前年の所得税額(予定納税基準額)が15万円以上の人に課される前払いの仕組みです。第1期分と第2期分として、それぞれ予定納税基準額の3分の1を7月と11月に納めます。この15万円に届く所得ラインそのものは予定納税はいくらから始まるかで条件別に出しています。

問題は、この金額が前年の所得で決まる点です。年の途中で法人成りすると、その年の個人としての所得は激減します。それでも税務署から届く通知は前年ベースのままです。

前年の事業所得前年の所得税額予定納税第1期(7月)第2期(11月)減額申請しない場合の前払額
400万円8.8万円不要
600万円35.5万円必要11.8万円11.8万円23.7万円
800万円73.0万円必要24.4万円24.4万円48.7万円
1,000万円112.6万円必要37.5万円37.5万円75.0万円
1,200万円165.1万円必要55.0万円55.0万円110.0万円
1,500万円266.1万円必要88.7万円88.7万円177.4万円
1,800万円367.2万円必要122.4万円122.4万円244.8万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準 ※ 予定納税基準額は前年分の所得税額で概算しています。源泉徴収された税額がある場合はその分が差し引かれます

前年の事業所得が1,200万円だった人が3月に法人成りすると、そのまま何もしなければ110.0万円を7月と11月に納めることになります。払いすぎた分は翌年の確定申告で還付されますが、戻ってくるのは1年以上先です。設立費用と当面の運転資金が要る時期に、この金額が出ていくことになります。

減額申請は、その年6月30日の現況による申告納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる場合に行えます。廃業や休業はその典型として挙げられています。7月1日から7月15日までの2週間しか受け付けていません

この窓を逃しても、第2期分だけなら11月1日から11月15日の間に申請できます。上の例では55.0万円を止められる計算です。

法人化の時期そのものをどう選ぶかは法人化のタイミングは年度途中でもよいのかで扱っています。

青色申告の取りやめは、出さなくてよい場合がある

青色申告の取りやめ届出書は、青色申告の承認を受けていた人が、青色申告書による申告を取りやめようとする場合の手続です。

つまり事業を廃止しても、青色申告で申告を続ける所得が残っているなら提出しません。個人で不動産を貸していて不動産所得がある、といった場合です。事業所得だけが法人へ移り、不動産所得は個人に残す形は珍しくありません。

一方で、事業所得も不動産所得もすべて法人へ移すのであれば提出します。個人事業の開業・廃業等届出書の備考にも、事業を廃止して青色申告を取りやめる人は取りやめ届出書もあわせて提出するよう案内されています。

消費税の届出書は2種類ある。廃業なら「事業廃止届出書」

インボイス登録をしている個人事業主が法人成りする場合、消費税の手続は2つの経路に分かれます。混同しやすいところです。

事業を廃止する場合は、事業廃止届出書を提出します。提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」です。この届出書1枚で、課税事業者選択不適用届出書や簡易課税制度選択不適用届出書といった他の不適用届出の効果もあわせて生じる扱いになっています。

事業は続けるが登録だけをやめる場合は、登録の取消しを求める旨の届出書です。こちらは期限の性質がまったく違い、翌課税期間の初日から効力を失わせるには、翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する必要があります。過ぎると効力を失うのは翌々課税期間の初日になります。この15日前ルールはインボイス登録をやめるとどうなるかで詳しく扱っています。

法人成りで個人事業を畳むなら、必要なのは前者です。登録取消しの届出書ではありません。

なお、個人が廃業しても法人は別人格なので、法人としてインボイス登録をやり直す必要があります。個人の登録番号を法人が引き継ぐことはできません。

税務署以外にも、期限のある手続が2つある

ここまでは税務署に出す書類です。あと2つ、別の窓口に期限があります。

個人事業税の事業廃止申告は都道府県に出します。東京都の場合、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止は4か月以内)です。国税の届出が確定申告期限まで待てるのに対し、こちらは1か月以内なので、感覚がずれやすいところです。

そしてここに、金額に効く論点があります。個人事業税の事業主控除290万円は、営業期間が1年未満の場合は月割になります。

廃業した月営業月数事業主控除
3月3か月72.5万円
6月6か月145.0万円
9月9か月217.5万円
12月まで営業12か月290.0万円

年の途中で法人成りすると、その年の個人事業税は控除が目減りした状態で計算されます。当サイトの判定ツールは通年営業を前提に事業主控除290万円で計算しているため、法人成りの年だけはこの差を別に見込んでおいてください。個人事業税そのものの仕組みは個人事業税は業種でいくら変わるかで扱っています。

もう1つが国民健康保険の資格喪失届です。法人になれば社会保険に加入するため、国保からは抜けることになります。届出は市区町村の窓口へ14日以内です。

これを出し忘れると国民健康保険料の請求が続きます。しかも保険料を遡って変更できる期間には定めがあり、手続が遅れてその期間を過ぎると、払いすぎた保険料が戻らない場合があります。5つの税務署あての届出と違って、遅れた分がそのまま損失になり得る点で性質が異なります。

法人成りした月の保険料は、国保はやめた月の前月分まで、健康保険・厚生年金は資格を取得した月からなので、同じ月を両方で払うことはありません。その月をどちらで払うかで金額がいくら変わるかは法人成りの月の保険料で試算しています。

手元に残す資産に、消費税がかかる

最後に、届出書ではないものの見落とされやすい論点です。

課税事業者が事業を廃止した場合、事業用資産でなくなった車両等の資産は、その時点で家事のために消費または使用したものとして、事業として対価を得て譲渡したものとみなされます。このみなし譲渡により、時価相当額が廃止年分の課税標準額に含まれ、消費税の課税対象になります。

法人成りでは、個人で使っていた車やパソコンをそのまま使い続けることが多くあります。法人へ売却すればそれは課税売上ですし、個人の手元に残せばみなし譲渡です。どちらの経路でも消費税は生じます。免税事業者には起きませんが、インボイス登録をしている時点で課税事業者です。

金額の大きい資産では無視できない負担になります。車の扱いは社用車の経費は個人と法人でどう違うかで詳しく計算しました。

法人側で出す届出は別に7つあります。あわせて会社設立を自分でやる手順を確認してください。

前年の所得によって、減額申請を出すかどうかの重みはまったく変わります。一般論の数字ではなく、ご自身の売上と経費で試算してください。

まとめ

  • 個人側の届出は5つ。廃業届と青色申告の取りやめは、どちらも確定申告期限までで、1か月以内ではない
  • 短いのは給与支払事務所等の廃止届(1か月以内)と、消費税の事業廃止届出書(速やかに)
  • 実害が出るのは予定納税の減額申請。前年の事業所得1,200万円なら、出さないと年110.0万円を先払いすることになる
  • 受付は7月1日〜7月15日の2週間だけ。逃した場合は第2期分のみを11月1日〜11月15日に申請できる
  • 廃業なら「事業廃止届出書」。15日前ルールの登録取消しの届出書とは別の手続
  • 税務署以外にも2つ。個人事業税の事業廃止申告は1か月以内、国民健康保険の資格喪失届は14日以内
  • 年の途中で廃業すると事業主控除290万円が月割になる。3月廃業なら72.5万円まで縮む
  • 課税事業者が手元に残す事業用資産はみなし譲渡として消費税の対象になる

よくある質問

個人事業を廃業せず、法人と並行して続けることはできますか?

制度上は可能です。その場合は廃業届も青色申告の取りやめ届出書も提出しません。ただし個人と法人の間の取引は第三者間と同じ条件で行う必要があり、経理も完全に分けることになります。

廃業届を出し忘れるとどうなりますか?

罰則の定めはありませんが、税務署の記録上は事業が続いていることになるため、確定申告の案内などが届き続けます。消費税の届出が残っていると課税事業者として扱われたままになる点のほうが実害は大きくなります。

法人成りした年の確定申告はどうなりますか?

廃業までの期間の事業所得と、法人から受け取った役員報酬の給与所得の両方を合わせて、その年分の確定申告を行うことになります。廃業した年でも申告義務はなくなりません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。