設立の手続き
法人の創立費・開業費は任意償却。ただし会計は5年以内
法人の創立費と開業費の違い、含められる支出、任意償却の税効果を整理します。法人成り前の個人事業費は移せないこと、会計上の5年償却、消費税の控除時期まで解説します。
法人の設立前後に払った費用は、何でも「開業費」にまとめるものではありません。会社を成立させるまでが創立費、成立後から営業を始めるまでが開業費です。
どちらも法人税法上の繰延資産で、税務上の償却限度額は未償却残高までです。60万円を資産計上し、当期は0円、翌期は20万円、その次の期は40万円と償却する余地があります。
ただし「好きな黒字年まで永久に残せる」とだけ理解すると危険です。企業会計基準では、原則は支出時の費用処理。繰延資産に計上するなら、会社成立または開業から5年以内の定額償却です。税務の任意償却と会計処理を分けて考えます。
設立日と開業日の2本の線で分ける
法人税法施行令第14条は、創立費と開業費を次のように分けています。
| 時期 | 区分 | 法令上の意味 |
|---|---|---|
| 設立準備開始〜設立登記 | 創立費 | 法人の設立のために支出し、法人負担に帰すべき費用 |
| 設立後〜事業開始 | 開業費 | 開業準備のために特別に支出した費用 |
| 事業開始後 | 通常の費用または資産 | 開業費ではない |
会社の設立日は登記によって成立した日です。開業日は、税務署への届出に好きな日を書けば決まるというより、実際に営業を開始した事実で見ます。
創立費に入るもの
代表例は次のとおりです。
- 定款や設立関係書類の作成費
- 株式会社の定款認証手数料
- 設立登記の登録免許税
- 設立を依頼した司法書士・行政書士等への報酬
- 設立事務のための交通費、通信費、証明書取得費
- 設立事務所の賃料や設立事務に使う人の給与
会社がまだ存在しない時期は、発起人や将来の社長が支払うのが普通です。国税庁の法人税基本通達8-1-1は、設立のために通常必要な費用なら、法人負担とする旨が定款等に書かれていなくても創立費に該当するとしています。
設立費用の実額は法人化の費用は設立時より毎年が重いで整理しています。ここで扱うのは、その費用をいつ損金にするかです。
開業費に入るもの
会社が成立してから、営業開始へ直接向けた準備支出です。
- 開業告知の広告制作・掲載費
- 開業準備中に経過した事務所賃料
- 準備作業のための通信費、交通費、消耗品費
- 開業準備に従事した使用人の給与
- 営業開始に直接必要な保険料や水道光熱費
法令には「開業準備のために特別に支出する費用」とあります。設立後、まだ売上がない時期の支出を全部入れられるわけではありません。事業開始へ直接結びつく証拠が必要です。
企業会計基準委員会も、開業費を会社成立後から営業開始時までの賃借料、広告宣伝費、通信交通費などと例示したうえで、開業準備へ直接支出したものに限るとしています。
パソコン、在庫、敷金は開業費ではない
法人税法施行令第14条は、資産の取得価額に入る費用と前払費用を繰延資産から除外しています。支払時期が開業前でも、性質で分けます。
| 支出 | 基本の処理 | 開業費にしない理由 |
|---|---|---|
| パソコン、机、機械 | 固定資産・少額資産 | 物という資産を取得している |
| 販売する商品・材料 | 棚卸資産 | 売上原価になる在庫 |
| 事務所の敷金・保証金 | 差入保証金 | 返還を受ける権利がある |
| 営業開始後の期間に対応する前払家賃 | 前払費用 | 将来の賃借サービスへの支払 |
| サブスクの翌期分 | 前払費用または当期費用 | 契約期間に対応させる |
| 事業開始後の広告・家賃 | 広告宣伝費・地代家賃 | すでに通常営業の費用 |
「開業前に買った」という日付だけで、パソコンを開業費へ振り替えることはできません。固定資産なら取得価額と使用開始日から、棚卸資産なら販売時の原価として処理します。
また、ウェブサイト制作費は内容で変わります。単純な会社案内の制作費なのか、プログラムとして機能するソフトウェアなのかで処理が異なるため、一式を開業費と決めつけず、見積書の作業内訳を残します。
法人成りでは、個人事業の費用を法人へ移せない
個人事業から法人成りするときは、ここが最も間違いやすい部分です。
法人税基本通達2-6-2は、一般の法人なら設立期間中にその設立中の法人について生じた損益を第1期へ含められるとしています。しかし、個人事業を引き継いで設立した法人について、従前の事業から生じた損益は例外です。
たとえば、設立登記の前日まで個人名義で受注を続けていた場合、次の費用は個人事業側です。
- 個人として納品した案件の外注費
- 個人事業の事務所家賃や通信費
- 個人事業で販売する在庫の仕入れ
- 個人名義の広告による従前事業の集客費
設立準備と並行して支払っても、法人へ移して創立費・開業費にはできません。
一方、法人の定款作成、登記、法人名で始めるサービスの開業告知など、新法人そのものの設立・開業へ直接対応する支出は法人側で検討できます。日付だけでなく、誰の事業のための支出かを請求書とメモで示します。
法人成りでは既存事業が法人設立日からそのまま動き始めることも多く、設立後から開業までの空白がありません。その場合、創立費はあっても開業費の期間はほぼ0日です。「会社を作ったから開業費が必ずある」とは限りません。
売上や経費をどの日で切り替えるかは年度途中の法人化、個人から法人へ物を渡す処理は法人成りの資産引継ぎで確認できます。
個人カードで払ったら、役員借入金と組み合わせる
設立費用を将来の社長が立て替えた場合、法人の帳簿では次の形にします。
借方:創立費 100,000円
貸方:役員借入金 100,000円
会社の銀行口座が開いた後に社長へ返せば、役員借入金が減ります。返済時にもう一度経費へ計上しないことが重要です。経費の計上と、立替金の精算は別です。
保存する資料は次の4つです。
- 領収書・請求書
- 個人カードや口座の支払明細
- 支出日、支払先、目的の一覧
- 会社が負担し、社長へ返すことを確認した精算書
個人利用が混ざる支出は法人負担分だけに分けます。請求先が個人名のままでも法人税上直ちに否定されるとは限りませんが、インボイス制度の仕入税額控除では帳簿・請求書の保存要件が別にあります。設立前から課税事業者になる法人は、宛名と登録番号も確認します。
税務上は、未償却残高まで一度に落とせる
法人税法施行令第64条では、創立費・開業費などの償却限度額は、すでに損金算入した償却額を除いた残額です。つまり税務上は、次の選択ができます。
- 当期に全額を償却する
- 当期は一部だけ償却する
- 当期は0円とし、後の期に償却する
ただし法人税法は、確定した決算で損金経理した金額を限度に損金算入する仕組みです。税務申告書だけで好きな額を差し引けばよいわけではありません。国税庁の基本通達8-3-2は、「償却費」以外の科目で費用処理した金額も損金経理に含むとしています。
60万円を落としたときの税額差
創立費10万円、開業費50万円の合計60万円がある例を、当サイトの2026年分計算エンジンで試算しました。東京23区の小規模法人で、償却前利益から60万円を全額差し引きます。
| 償却前の法人利益 | 償却しない税額 | 60万円償却後の税額 | 当期の税額差 |
|---|---|---|---|
| 0円 | 7万円 | 7万円 | 0円 |
| 60万円 | 19万7,800円 | 7万円 | 12万7,800円 |
| 500万円 | 115万2,400円 | 101万3,500円 | 13万8,900円 |
| 1,000万円 | 246万9,200円 | 226万7,400円 | 20万1,800円 |
※ 法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税の概算。均等割7万円を含む
60万円が現金で戻るのではありません。支出した60万円のうち、税負担が当期にいくら下がるかです。赤字・利益0円なら法人住民税の均等割7万円は消えず、当期の税額差は0円です。
利益1,000万円の年で差が大きいのは、利益帯によって法人税等の限界負担が変わるためです。任意償却は、控除額を増やす制度ではなく、どの期の利益から差し引くかを動かす制度だと分かります。
赤字初年度なら、繰越欠損金とも比較する
初年度に全額を費用処理して赤字が増えても、青色申告の欠損金として要件を満たせば後の事業年度へ繰り越せます。中小法人なら繰越控除を使える場合、任意償却で残す方法と、初年度に損金にして欠損金を持つ方法は、最終的な税効果が近くなることがあります。
違うのは管理です。繰延資産として残すなら創立費・開業費の明細を追い、欠損金にするなら期限内の青色申告と連続した申告を守ります。法人の欠損金は10年繰り越せるを確認し、「黒字まで残すほうが必ず得」とは決めつけないでください。
会計上は原則費用、資産なら5年以内
企業会計基準委員会の実務対応報告第19号は、創立費・開業費を原則として支出時の費用とします。繰延資産への計上も認めていますが、その場合は次の処理です。
| 項目 | 原則 | 繰延資産にする場合 |
|---|---|---|
| 創立費 | 支出時に営業外費用 | 会社成立から5年以内で定額償却 |
| 開業費 | 支出時に営業外費用 | 開業から5年以内で定額償却 |
税法の償却限度額が残額全部だからといって、会計上も毎年0円で何年でも置けるという意味ではありません。会計上の償却額と税務上の損金算入額がずれるなら、申告調整と残高管理が必要になります。
ひとり会社でも決算書は金融機関や取引先へ出すことがあります。利益を整える目的だけで会計方針を毎年変えるのではなく、設立時に「支出時費用」か「繰延資産」かを決め、継続して処理します。
消費税の控除時期は償却時ではない
法人税で開業費を3年後に償却しても、消費税の仕入税額控除を3年後へ送ることはできません。
消費税法基本通達11-3-4は、創立費・開業費等に含まれる課税仕入れについて、課税仕入れを行った日の属する課税期間で仕入税額控除を適用するとしています。
| 税目 | タイミング |
|---|---|
| 法人税 | 損金経理して償却する事業年度 |
| 消費税 | 商品・サービスの引渡しや提供を受けた課税期間 |
インボイス登録済みの法人なら、初年度の帳簿と適格請求書を初年度申告で使います。法人税の繰延資産残高だけ見て、消費税も後で控除できると考えてはいけません。
登録免許税のように消費税が課されない支出もあり、すべての創立費に消費税が含まれるわけではありません。支出ごとに課税・非課税を分けます。
初年度に作る一覧表
設立前後の領収書を、次の列で1行ずつ整理します。
| 列 | 記録する内容 |
|---|---|
| 支出日 | 設立日の前か後か |
| 事業開始日との関係 | 開業準備か、通常営業か |
| 支出先・内容 | 何のために払ったか |
| 帰属 | 個人事業か、新法人か |
| 税務区分 | 創立費、開業費、通常費用、固定資産、棚卸資産、前払費用 |
| 支払者 | 法人、社長立替 |
| 消費税 | 課税区分、インボイスの有無 |
| 証憑 | 請求書・領収書・カード明細の保存先 |
そのうえで、創立費・開業費について支出時費用にするか、繰延資産にするかを決めます。法人税だけでなく、決算書の会計方針、欠損金、消費税を同時に見れば、後から修正する項目が減ります。
まとめ
- 設立前の会社設立費用が創立費、設立後から事業開始までの特別な準備費用が開業費
- パソコン、在庫、敷金、前払家賃は、開業前の支出でも開業費ではない
- 法人成り前の個人事業から生じた費用は個人側。新法人へ移せない
- 社長が立て替えた設立費は、創立費と役員借入金を計上し、返済時に二重計上しない
- 税務上の償却限度額は未償却残高まで。ただし確定決算での損金経理が必要
- 60万円を償却した税額差は、利益0円なら0円、利益1,000万円なら20万1,800円の概算
- 企業会計基準では原則は支出時費用、繰延資産にするなら5年以内の定額償却
- 法人税で償却を遅らせても、消費税の仕入税額控除は課税仕入れを行った課税期間で判定する
創立費・開業費は、支出の名前ではなく誰の、どの時期の、何のための費用かで分けます。設立日と事業開始日を先に決め、領収書を時系列に並べてから仕訳してください。
よくある質問
法人の創立費と開業費は何が違いますか?
創立費は定款作成、設立登記の登録免許税など会社を成立させるための費用です。開業費は会社成立後から事業開始までに、開業準備のため特別に支出した費用です。設立日を境に分けます。
社長が設立前に個人カードで払った費用も法人の経費になりますか?
法人設立のため通常必要な支出なら、定款に法人負担と書かれていなくても創立費に該当し得ます。領収書、支払明細、目的を残し、法人では創立費と役員借入金を計上して後日精算します。ただし従前の個人事業から生じた費用は法人へ移せません。
創立費・開業費は5年を過ぎても任意償却できますか?
法人税上の償却限度額は未償却残高までですが、損金算入には確定決算での損金経理が必要です。一方、企業会計基準では資産計上した場合に5年以内の定額償却を求めます。税務と会計は同じルールではないため、長期保留を前提にせず会計方針と申告調整を確認してください。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。