税金の基礎
社用車の交通反則金は損金不算入。会社が払うと扱いが2つに分かれる
交通反則金を損金不算入と名指ししているのは、条文ではなく法人税基本通達9-5-12です。会社が払うと業務中か私用かで損金不算入と役員給与に分かれ、事故の賠償金にいたっては社長個人への債権になります。10万円の支出が経費になるかどうかで手取りがいくら違うかも計算しました。
社用車で切られた交通反則金を会社が払っても、損金にはなりません。ただし「損金にならない」で話が終わるのは、業務中の違反だけです。
法人には「会社の口座から払う」という経路があります。この経路が入った瞬間、同じ反則金でも扱いが2つに割れます。そして事故の損害賠償金にいたっては、法人化すると社長個人への債権になります。
交通反則金を名指ししているのは、条文ではなく通達
法人が納める租税公課は原則として損金になりますが、国税庁のタックスアンサー No.5300 は例外を4つ挙げています。法人税・地方法人税・住民税の本税、各種加算税と延滞税、法人税額から控除する所得税、そして罰金および科料ならびに過料です。ここに交通反則金という言葉は出てきません。
名指ししているのは、法人税基本通達9-5-12(第6款 罰科金)です。「法人がその役員又は使用人に対して課された罰金若しくは科料、過料又は交通反則金を負担した場合」の取扱いを定めた通達で、業務の遂行に関連する行為に対して課されたものは損金の額に算入しない、としています。
税務大学校の講本『法人税法(基礎編)令和8年度版』も、租税公課の設例で「駐車違反に係る反則金 20,000円」を損金の額に算入されないものに分類しています。研修生向けの基礎的な設例に入っているということは、実務では議論の余地がない部分だということです。
個人事業主の側は、所得税法45条1項7号が罰金・科料・過料を必要経費不算入としています(タックスアンサー No.2210、税務大学校の講本『所得税法(基礎編)令和8年度版』も同じ3つを挙げています)。用語も法人の「損金不算入」に対して「必要経費不算入」と分かれます。法人側の通達のように交通反則金を名指しした国税庁の資料は、個人事業主の側では見当たりません。
反則金は法人に課されるものではありません。課されるのは運転した人です。だから通達は「法人が負担した場合」という書き方をしています。この一言が、次の分かれ道の入口になります。
経費にできない支出は、手取りを満額削る
「経費にならない」と言われても、実害がいくらなのかは所得によって違います。当サイトの計算エンジンで、10万円を払ったときに手取りが何円減るかを、経費(損金)に落とせる場合と落とせない場合で並べました。
| 事業所得 | 個人:経費になる | 個人:経費にならない | 法人:損金になる | 法人:損金にならない |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 70,920円 | 100,000円 | 67,137円 | 100,000円 |
| 600万円 | 57,020円 | 100,000円 | 62,960円 | 100,000円 |
| 800万円 | 57,320円 | 100,000円 | 62,960円 | 100,000円 |
| 1,000万円 | 61,230円 | 100,000円 | 63,040円 | 100,000円 |
| 1,200万円 | 51,300円 | 100,000円 | 61,360円 | 100,000円 |
| 1,500万円 | 51,300円 | 100,000円 | 61,600円 | 100,000円 |
| 2,000万円 | 51,300円 | 100,000円 | 61,600円 | 100,000円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
経費に落とせれば、手取りの減りは5万1,300円から7万920円で止まります。落とせなければ10万円がそのまま消えます。差額が「経費にできることの値打ち」で、反則金はこれがゼロになる支出です。
ここでその値打ちは、所得が増えるほど大きくなるわけではありません。個人事業主の側を見ると、事業所得800万円では4万2,680円なのに、1,000万円では3万8,770円へ下がり、1,200万円で4万8,700円へ戻ります。国民健康保険料が賦課限度額に達すると、所得が減っても保険料が下がらなくなるためです。所得税の税率だけを見ていると、この凹みは説明できません。
事業所得400万円の行だけは、法人のほうが値打ちが大きくなっています(法人3万2,863円、個人2万9,080円)。600万円以上では逆転して、個人のほうが大きくなります。国民健康保険料と個人事業税まで一緒に下がる個人事業主に対し、法人は役員報酬を期中に動かせないぶん、下がるのが法人税等だけに限られるからです。役員報酬をどう決めるかは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。
会社が払った瞬間、扱いは2つに分かれる
ここからが法人だけの話です。法人税基本通達9-5-12は、法人が負担した罰科金を2つに分けています。
| 違反の性質 | 法人の側 | 役員・従業員の側 |
|---|---|---|
| 業務の遂行に関連する行為に課されたもの | 損金の額に算入しない | 課税なし |
| それ以外(私用の運転など) | 役員・使用人に対する給与 | 給与として課税 |
配送や営業の途中に切られた反則金なら上の行です。会社の負担で終わり、税金は1円も減りません。
問題は下の行です。休日に社用車を私用で使って切られた反則金を会社が払うと、それは役員個人の費用を会社が肩代わりした形になります。タックスアンサー No.5202 は「役員等の個人的費用の負担額」を経済的利益の例として挙げ、継続的に供与されて毎月おおむね一定であるものだけが定期同額給与になり、その他は損金の額に算入されないと説明しています。反則金の肩代わりは一回きりですから、定期同額給与にも事前確定届出給与にもなりません。
つまり会社が私用の反則金を払うと、法人側では損金にならず、役員側では給与として課税されます。仮に私用の違反で5万円の反則金が課され、それを会社が負担した場合の上乗せを計算しました。
| 事業所得 | 最適な役員報酬 | 反則金 | 役員個人の所得税・住民税の増加 | 実際に出ていくお金 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 月28万円 | 50,000円 | 5,300円 | 55,300円 |
| 600万円 | 月42万円 | 50,000円 | 6,100円 | 56,100円 |
| 800万円 | 月54万円 | 50,000円 | 8,100円 | 58,100円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | 50,000円 | 8,100円 | 58,100円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 50,000円 | 8,100円 | 58,100円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 50,000円 | 8,100円 | 58,100円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | 50,000円 | 16,800円 | 66,800円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 所得税・住民税のみ。社会保険料は動かしていない
5万円の反則金が、5万5,300円から6万6,800円になります。事業所得2,000万円で役員報酬が月90万円のとき、上乗せは1万6,800円で1.34倍です。社長が自分の財布から払えば5万円で済みます。会社の口座から払うという経路そのものが、負担を増やしています。
反則金を払っても、法人化の判定は1円も動かない
反則金は現金が出ていくだけで、課税所得を減らしません。だから法人化が有利かどうかの判定にも影響しません。当サイトの計算エンジンで確かめても、反則金は損益分岐点をまったく動かしませんでした。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
車まわりの支出で法人化の判定が動くのは、反則金ではなく車両そのものの扱いです。そちらは社用車を経費にすると法人化の分岐点はどう動くかで計算しています。計算の前提は計算の根拠に置いてあります。
法人化で本当に変わるのは、事故の賠償金の扱い
反則金と違って、事故の損害賠償金は個人と法人で構造そのものが違います。
個人事業主の場合、損害賠償金は所得税法45条1項8号の対象です。所得税基本通達45-7は「これに類するもの」に慰謝料、示談金、見舞金等の名目のいかんを問わず、他人に与えた損害を賠償するために支出する一切の費用が含まれるとしています。名前を変えても逃げられません。
分かれ目は重大な過失があったかどうかで、その判定基準は同通達45-8にあります。自動車の運転者については、無免許運転・高速度運転・酔払運転・信号無視のほか、道路交通法第4章第1節(運転者の義務)に定める義務に著しく違反して他人の権利を侵害した場合は、特別な事情がない限り重大な過失があったものとされます。従業員の行為による賠償金を事業主が負担した場合は通達45-6が細かく分けていて、事業主自身に故意または重大な過失があるときは、従業員に過失がなくても必要経費になりません。
法人はここが違います。法人税基本通達9-7-16は、役員や従業員の行為で他人に与えた損害を法人が賠償したとき、次のように分けています。
| 状況 | 法人の側の扱い |
|---|---|
| 業務の遂行に関連し、故意・重過失に基づかない | 給与以外の損金の額に算入 |
| 業務の遂行に関連するが故意・重過失に基づく | その役員・使用人に対する債権 |
| 業務の遂行に関連しない | その役員・使用人に対する債権 |
個人事業主なら「必要経費にならない」で話が終わります。法人では、会社が払った賠償金が社長個人への貸付債権として残ります。ひとり会社では、自分が起こした事故の賠償金を、自分が経営する会社に返す構図になります。
返せない場合の逃げ道も塞がれています。通達9-7-17は、支払能力等からみて求償できない事情があるときの貸倒れ処理を認めていますが、支払能力等からみて回収が確実だと認められる部分は、その役員に対する給与とすると続けています。会社に残しておくか、給与として課税されるか、という二択です。
一方で、人身事故には猶予もあります。通達9-7-18は、自動車による人身事故に伴って支払った損害賠償金(9-7-16(2)の債権に当たるものを除く)を、示談成立前でも支出した事業年度の損金にできるとしています。ただし受け取る保険金は益金に算入します。
まとめ
- 交通反則金を名指しして損金不算入としているのは、条文ではなく法人税基本通達9-5-12です
- 10万円を経費にできることの値打ちは2万9,080円から4万8,700円で、所得には比例しません。個人事業主は事業所得1,000万円で一度小さくなります
- 私用の違反の反則金を会社が払うと役員給与になり、5万円が5万5,300円から6万6,800円になります
- 事故の賠償金は、法人だと社長個人への債権になります。個人事業主にはない構造です
- 反則金そのものは課税所得を減らさないので、法人化の損益分岐点を動かしません
反則金は法人化の判定を動かしませんが、それ以外の支出は器を変えるだけで値打ちが動きます。ここに載せた数字は経費200万円・東京23区・独身という条件での概算です。一般論の数字ではなく、ご自身の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
駐車違反のレッカー移動料や保管料も損金にならないのですか?
損金にならないと定められているのは、罰金・科料・過料と、法人が負担した役員・使用人の交通反則金です。移動保管料はこれらの列挙に含まれていないため、業務の遂行に関連する支出であれば通常の経費として扱われます。判断に迷う支出は税務署か税理士に確認してください。
従業員が業務中に切られた反則金を会社が払った場合はどうなりますか?
法人税基本通達9-5-12により、業務の遂行に関連する行為に対して課されたものは損金の額に算入されません。業務に関連しない私用の違反であれば、その従業員に対する給与として扱われます。
反則金を会社の口座から払うと、法人化の判定に影響しますか?
影響しません。損金にならない支出は法人の課税所得を1円も減らさないため、法人化が有利かどうかの判定にも損益分岐点にも効きません。当サイトの計算エンジンで確かめても動きませんでした。
出典
- 国税庁 法人税基本通達 第6款 罰科金(9-5-12)
- 国税庁 法人税基本通達 第4款 その他(9-7-16〜9-7-19)
- 国税庁 所得税基本通達 〔家事関連費(第1号関係)〕(45-1〜45-14)
- 国税庁 タックスアンサー No.5300 租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 国税庁 タックスアンサー No.5202 役員等に対する経済的利益
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 税務大学校 講本 法人税法(基礎編)令和8年度版
- 国税庁 税務大学校 講本 所得税法(基礎編)令和8年度版
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。