税金の基礎

自家消費(家事消費)は仕入値でいい?70%と50%、法人成り後の扱い

商品を自分で使った・食べた家事消費は、所得税では通常価額の70%、消費税では50%まで下げて計上できます。基準がずれる理由と、法人成り後に役員が会社の商品を持ち帰ると役員給与になり負担が約2倍になることを試算で示します。

商品を自分で使った・食べた「家事消費(自家消費)」は、所得税では通常の販売価額の70%以上、消費税では50%以上なら、その額で計上することが認められています。どちらも仕入値(取得価額)を下回ることはできません。

この取扱いは個人事業主のものです。法人成りした後に社長が会社の商品を持ち帰ると、家事消費ではなく**役員への経済的な利益(役員給与)**になり、70%の基準も使えなくなります。通常販売価額36万円分の商品で試算すると、事業所得800万円の人の負担は個人のとき10.8万円、法人成り後に無償で持ち帰ると25.0万円です。

家事消費の計上額は「通常の販売価額」が原則

所得税法39条は、棚卸資産を家事のために消費したとき、その価額を事業所得の総収入金額に算入するとしています。価額の物差しは所得税基本通達39-1で、販売用の資産なら「その者の通常他に販売する価額」です。

ただし39-2に特例があります。次の3つをすべて満たせば、通常価額より低い計上額でも認められます。

要件内容
下限①当該棚卸資産の取得価額以上
下限②通常価額に比べて著しく低額(おおむね70%未満)でない
手続き備え付ける帳簿に所定の記載を行い、総収入金額に算入している

見落とされやすいのは3つ目です。帳簿に記載して計上していた場合に限った特例なので、計上していなかったものを後から「70%で」とは言えません。原則に戻れば基準は通常価額の100%です。

仕入値で済むのは原価率70%以上の商品だけ

下限①と②は「いずれか高いほう」として効きます。原価率が70%以上の商品なら仕入値がそのまま使えますが、原価率が70%を下回る商品では、仕入値で計上すると②に引っかかります。

物販でも飲食でも、原価率が70%を超える商品は多くありません。「家事消費は仕入値で」という覚え方は、多くの商品で計上額が足りなくなります。

消費税は50%でよい。所得税と基準がずれる

消費税でも、個人事業者の家事消費は事業として対価を得て行った資産の譲渡とみなされます(消費税法4条5項1号)。課税標準はその時の資産の価額ですが、消費税法基本通達10-1-18は次の金額以上なら認めるとしています。

  • 当該棚卸資産の課税仕入れの金額
  • 通常他に販売する価額のおおむね50%に相当する金額

所得税の70%と消費税の50%は、同じ家事消費についての別々の基準です。通常販売価額36万円(税抜)の商品を1年で家事消費した場合、原価率ごとに最低額は次のように分かれます。

原価率取得価額所得税:認められる最低額(39-2)消費税:認められる最低額(10-1-18)消費税額(一般課税・10%)消費税額(2割特例)
30%108,000円252,000円180,000円72,000円18,000円3,600円
40%144,000円252,000円180,000円72,000円18,000円3,600円
50%180,000円252,000円180,000円72,000円18,000円3,600円
60%216,000円252,000円216,000円36,000円21,600円4,320円
70%252,000円252,000円252,000円0円25,200円5,040円
80%288,000円288,000円288,000円0円28,800円5,760円

※ 税率10%の商品。消費税額は家事消費分の売上税額(課税標準×10%)。仕入時の税額控除は別途すでに受けている前提 ※ 2割特例は売上税額の2割を納付する計算

原価率50%以下の商品では、所得税の計上額と消費税の課税標準が7.2万円ずれます。会計ソフトで家事消費を1行入力すると、同じ金額が売上と課税売上の両方に入るので、この差を使うには消費税側だけ別に入力する必要があります。

金額としては、消費税の差は一般課税でも7,200円(7.2万円×10%)です。2割特例なら1,440円まで縮みます。2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間までの措置で、個人事業者は令和8年分が最後です(2割特例の終了)。インボイス登録を続けて一般課税に移ると、差はもとの7,200円に戻ります。

計上額の違いで所得税・住民税・国保はいくら動くか

家事消費の計上額は事業所得を増やすので、所得税だけでなく住民税・国民健康保険料・個人事業税まで連動します。通常販売価額36万円・取得価額18万円(原価率50%)の商品で、計上額を70%の25.2万円にした場合と通常価額の36万円にした場合を比べました。

事業所得25.2万円で計上(70%)36万円で計上(通常価額)70%基準で軽くなる額負担率(70%計上)
400万円73,361円109,288円35,927円29.1%
600万円107,661円153,988円46,327円42.7%
800万円107,961円153,988円46,027円42.8%
1,000万円97,280円139,172円41,892円38.6%
1,200万円122,700円175,300円52,600円48.7%
1,500万円122,700円175,300円52,600円48.7%

※ 経費700万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準 ※ 負担=所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税の増加の合計。消費税は含まない

70%基準を使えるかどうかで年3.6万〜5.3万円変わります。帳簿に記載するという手続き1つの価値としては小さくありません。

負担率は所得に対して一直線に上がりません。事業所得1,000万円の負担(9.7万円)は800万円(10.8万円)より小さいのは、国民健康保険料が賦課限度額に達し、所得が増えても保険料が動かなくなるためです。1,200万円からは所得税の税率区分が上がり、48.7%で横ばいになります。

法人成りの年は、廃業日までが個人の家事消費

法人成りの年は、個人の最終申告(廃業日まで)と法人の第1期に分かれます。1月から廃業日までに家庭で使った商品は、個人の最終年分の家事消費として上の基準で計上します。

在庫の扱いには注意が要ります。国税庁は、棚卸資産が残っている間は一般に事業を廃止したとは認められないと案内しており、在庫は法人へ売却してから廃業するのが基本です(法人成りの在庫引継ぎ)。法人へ移さず家庭用に回した商品は、法人への売上ではなく個人の家事消費です。消費税の課税事業者なら、事業をやめた時点で事業用でなくなった資産も家事消費とみなされます(法人成りの廃業手続き)。

法人成り後は「家事消費」ではなく役員給与になる

法人成りした後の商品は会社のものです。社長が会社の商品を家に持ち帰っても、それは社長個人の家事消費ではありません。法人税基本通達9-2-9は、役員に物品その他の資産を贈与した場合のその資産の価額を、給与と同様の経済的な利益に挙げています。ここに70%の特例はなく、基準は時価です。

さらに次の3つが加わります。

  • 損金になるかは支給の形で決まる。 9-2-11は、経済的な利益の額が毎月おおむね一定なら定期同額給与に当たるとしています(No.5211)。気が向いたときに持ち帰る形では毎月一定にならず、損金不算入になり得ます
  • 社会保険料も上がり得る。 日本年金機構は、自社製品など食事・住宅以外の現物給与は原則として時価に換算して報酬に含めるとしています。等級の境目をまたげば保険料が一段上がります(標準報酬月額の等級
  • 消費税は個人のときと同じ。 10-1-18は法人の役員への贈与にも同じ50%基準を置いているので、消費税だけは法人成りの前後で差が出ません

36万円分の商品を持ち帰ると負担はいくらか

同じ商品(通常販売価額36万円)を、法人成り後に会社から受け取る3つの形で比べました。社長の役員報酬は判定ツールと同じ最適額にしています。

事業所得最適報酬無償・不定期(損金不算入)無償・毎月一定(定期同額)時価で買い取る参考:個人のとき(25.2万円計上)
400万円月28万円219,808円142,608円133,520円73,361円
600万円月42万円188,628円127,108円133,600円107,661円
800万円月54万円249,628円187,868円133,520円107,961円
1,000万円月54万円249,468円187,868円133,280円97,280円
1,200万円月54万円254,028円187,148円138,800円122,700円
1,500万円月54万円254,028円187,308円138,880円122,700円

※ 経費700万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 無償の場合、時価36万円を給与収入と社会保険の報酬(月3万円)に加算。損金不算入なら法人の課税所得も36万円増える ※ 時価で買い取る場合、役員が36万円を会社に払い、会社の売上になる。法人に残った利益は判定ツールと同じ引出しコストで割り引いている

事業所得800万円では、個人のとき10.8万円だった負担が、無償・不定期で25.0万円と2.3倍になります。内訳は3つの上乗せです。計上額が70%の25.2万円から時価の36万円に上がること、月3万円の現物で標準報酬月額が53万円から56万円へ1等級上がること、損金不算入で法人税等もかかることです。

毎月一定額にして定期同額給与に収めても18.8万円で、個人のときより8万円重くなります。損金不算入は避けられても、時価で給与になることと社会保険の等級は変わらないからです。

時価で買い取るのがいちばん軽い

表でいちばん負担が小さいのは、社長が会社から時価で買い取る形でした(事業所得800万円で13.4万円)。給与にならないので、社会保険料も所得税・住民税も動きません。負担として残るのは、会社に払った36万円が法人の利益になり、法人税等がかかる分です。

値引きで買う方法もあります。所得税基本通達36-23は、次の3要件を満たす値引販売の経済的利益を課税しなくて差し支えないとしています。

  1. 取得価額以上で、通常価額のおおむね70%未満でない
  2. 値引率が役員・使用人の全部に一律か、地位・勤続年数等に応じた合理的な格差
  3. 数量が一般の消費者が家事のために通常消費する程度

消費税側では、役員への譲渡が通常価額のおおむね50%未満だと「著しく低い価額」として時価で課税されます(10-1-2)。棚卸資産なら、課税仕入れの金額以上かつ50%以上であれば該当しません。値引率を決めるなら、所得税の70%と消費税の50%の両方を下回らないように置くことになります。

家事消費が多い業種は、法人化の判定に上乗せする

判定ツールは売上と経費から手取りを比べるので、家事消費の扱いが法人成りで重くなる分は入っていません(計算の前提は計算方法を参照)。上の表の差は、事業所得800万円で年2.6万円(時価で買い取る場合)〜14.2万円(無償・不定期)です。

事業所得800万円前後は、法人化の実質差額が数十万円の幅で動く帯です。家事消費が年36万円程度ある飲食・物販では、この差がそのまま判定を寄せる方向に効きます。まずは自分の売上と経費で差額を出し、そのうえで家事消費の分を足して比べてください。

まとめ

  • 家事消費は通常販売価額が原則。帳簿に記載して計上していれば、所得税は取得価額以上かつ70%以上、消費税は課税仕入れの金額以上かつ50%以上で認められる
  • 仕入値で済むのは原価率70%以上の商品だけ。原価率50%以下では所得税と消費税の最低額が通常価額の20%分ずれる
  • 36万円分の家事消費で個人の負担は7.3万〜12.3万円。国保の賦課限度額の影響で所得に対して一直線には増えない
  • 法人成り後に会社の商品を無償で持ち帰ると、時価の役員給与になり社会保険の報酬にも入る。事業所得800万円で負担は10.8万円から25.0万円へ
  • 法人成り後は時価または36-23の要件を満たす値引きで買い取る形が最も軽く、消費税は前後で同じ50%基準

よくある質問

家事消費を売上に計上しないとどうなりますか?

所得税では、家事のために消費した棚卸資産の価額は事業所得の総収入金額に算入するものとされています。計上していなければ、税務調査で通常の販売価額を基準に所得を加算される可能性があります。帳簿に記載して計上していた場合に限り、取得価額以上かつ通常価額のおおむね70%以上の金額が認められます。

家事消費は仕入値で計上してもよいですか?

仕入値(取得価額)が通常の販売価額のおおむね70%以上なら、所得税ではその額で認められます。原価率が70%を下回る商品では、仕入値で計上すると著しく低い額に当たり、通常価額の70%以上まで引き上げる必要があります。消費税の基準は50%です。

一人社長が自分の会社の商品を値引きで買うのは問題ありますか?

所得税基本通達36-23は、取得価額以上で通常価額のおおむね70%以上、値引率が役員・使用人の全部に一律または合理的な格差、数量が家事で通常消費する程度という3要件を満たす値引販売について、課税しなくて差し支えないとしています。無償で持ち帰る場合はこの取扱いの対象外で、時価が役員給与になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。