税金の基礎

自宅を法人へ無償で貸すと経費0円。個人事業との差は年11万円

自宅の一室を会社の事務所にして家賃を0円にすると、固定資産税や減価償却費は法人でも個人でも経費になりません。個人事業主のときの家事按分と比べていくら違うのか、計算エンジンで事業所得別に出しました。

自宅の一室を会社の事務所にする。家賃をいくらにするか迷って、「身内同士だから0円でいい」と決める人がいます。手続きは確かに一番簡単です。

ただし家賃を0円にすると、その部屋にかかっている固定資産税も減価償却費も、法人の損金にも個人の必要経費にもなりません。個人事業主のときは家事按分で落とせていた費用が、法人化と同時に消えます。

自宅按分が年30万円の人なら、法人化の実質差額は年11万円ぶん個人寄りに動きます。当サイトの計算エンジンで所得別に出すと、判定の区分そのものが変わる帯が2つありました。

家賃0円だと、自宅の費用は法人にも個人にも落ちない

法人と社長個人は別人格なので、社長の持ち家を法人が借りること自体はできます。無償で借りる形(使用貸借)も選べます。問題は、そのときに誰も経費を計上できないことです。

法人側は単純です。家賃を支払っていないので、地代家賃という損金がありません。

個人側は少し説明が要ります。不動産所得は「土地や建物などの不動産の貸付け」による所得で、総収入金額から必要経費を引いて計算します(No.1370)。家賃が0円なら総収入金額も0円です。そして必要経費とは「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」なので(所得税法37条、No.2210)、引く相手の収入がない以上、固定資産税や損害保険料を必要経費に振り替える先がありません。

減価償却費も同じです。減価償却資産は「事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産」と定義されています(No.2100)。無償で貸しているだけの建物は業務の用に供していないので、償却費を必要経費に落とすことができません。

つまり家賃0円という選択は、「手間を省く」のではなく「経費計上をあきらめる」という意思決定です。

個人事業主のときは、同じ支出が家事按分で落ちていた

法人化する前は事情が違いました。自宅で仕事をしている個人事業主は、家事上の費用のうち「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」を必要経費にできます(No.2210)。国税庁も例示として店舗併用住宅の租税公課、家賃、水道光熱費を挙げています。

自宅按分の対象になるのは、たとえば次のようなものです。

  • 建物の固定資産税・都市計画税
  • 火災保険料などの損害保険料
  • 建物の減価償却費
  • 住宅ローンの利息のうち建物に対応する部分
  • 電気・水道・通信の料金
  • マンションの管理費・修繕積立金

これらを合計して事業割合を掛けた金額が、毎年の必要経費になっていたわけです。この記事では自宅按分の合計を年30万円と置きます。実額は住まいと事業割合で変わるので、あとで10万〜80万円まで振った表も出します。

法人化して家賃を0円にすると、この30万円が丸ごと落ちなくなります。売上も利益も同じなのに、経費だけが30万円減った状態です。

按分30万円が消えると、判定が変わる帯が2つある

同じ売上・同じ経費で、3つの姿を並べます。個人事業主のまま按分30万円を必要経費にする場合、法人化して家賃0円にする場合、法人化して按分と同額の家賃30万円を払う場合です。自宅の費用は3つとも同じだけ発生しているので、どのケースでも手取りから1回だけ差し引いています。

事業所得(個人)個人のままの手取り実質差額:家賃0円実質差額:同額の家賃
400万円303.1万円−58.4万円−48.6万円9.9万円
600万円427.3万円−48.1万円−37.6万円10.5万円
800万円540.7万円−35.2万円−24.1万円11.1万円
1,000万円657.1万円−25.8万円−14.7万円11.1万円
1,200万円774.2万円−18.2万円−6.6万円11.6万円
1,500万円928.2万円+12.3万円+23.9万円11.6万円
1,800万円1082.1万円+35.4万円+47.0万円11.6万円
2,100万円1232.0万円+68.2万円+80.6万円12.4万円

※ 通常の経費200万円のほかに自宅按分30万円がある前提。東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額。自宅按分は課税仕入れに当たらないものとして計算

差は年9.9万〜12.4万円で、どの所得帯でも10万円前後です。金額そのものより効くのは、この10万円がどこに乗るかです。

当サイトは実質差額が±20万円の範囲を「ほぼ互角」として判定しています。この線で見ると、事業所得1,000万円は「ほぼ互角」から「個人のまま有利」へ、1,500万円は「法人化が有利」から「ほぼ互角」へ移ります。判定が僅差になる帯にいる人ほど、家賃の設定ひとつで結論の側が変わるということです。

自宅按分の額が違えばこの差も動きます。事業所得1,000万円で按分額だけを振ると、次のようになりました。

自宅按分の年額実質差額:家賃0円実質差額:同額の家賃
10万円−18.4万円−14.7万円3.7万円
20万円−22.1万円−14.7万円7.4万円
30万円−25.8万円−14.7万円11.1万円
50万円−33.2万円−14.7万円18.5万円
80万円−44.4万円−14.7万円29.7万円

※ 事業所得1,000万円(個人)・通常の経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

同額の家賃を取る列は、按分額が10万円でも80万円でも−14.7万円のまま動きません。法人が払った家賃と個人が受け取った家賃が打ち消し合うためです。動くのは家賃0円の列だけで、自宅にかけている費用が大きい人ほど法人化が不利な側へ押されます。

同じ30万円で戻る額は、事業所得400万円を境に順位が入れ替わる

自宅按分30万円を経費にできる場合とできない場合で、年間の手取りが何円変わるか。その割合を「戻る額」として3つの姿で並べます。

事業所得(個人)個人のまま法人・家賃0円法人・同額の家賃
400万円29.7%(8.9万円)0%(0円)32.8%(9.9万円)
600万円42.7%(12.8万円)0%(0円)34.9%(10.5万円)
800万円42.8%(12.9万円)0%(0円)37.0%(11.1万円)
1,000万円38.6%(11.6万円)0%(0円)37.1%(11.1万円)
1,200万円48.7%(14.6万円)0%(0円)38.6%(11.6万円)
1,500万円48.7%(14.6万円)0%(0円)38.5%(11.6万円)
1,800万円48.7%(14.6万円)0%(0円)38.5%(11.6万円)
2,100万円55.8%(16.8万円)0%(0円)41.3%(12.4万円)

※ 通常の経費200万円のほかに自宅按分30万円がある前提。東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

読みどころは2つあります。

1つは順位です。事業所得400万円では、法人が家賃として払う(32.8%)ほうが個人事業主の家事按分(29.7%)より戻りが大きいのに、600万円では逆転して個人(42.7%)が法人(34.9%)を上回ります。分かれ目は所得税の累進です。30万円を経費にしたときに減る所得税は、事業所得400万円では15,600円しかないのに、600万円では54,700円になります。国民健康保険料の減少はどちらも31,740円で、住民税も事業税もほぼ動きません。同じ経費でも、どちらで落とすと戻りが大きいかは所得によって入れ替わります

もう1つは、個人の列が単調に伸びないことです。事業所得800万円の42.8%に対して、1,000万円は38.6%へ下がります。経費30万円を積んだときの国民健康保険料の減り方が、800万円では31,740円あるのに1,000万円では810円しかないためです。東京23区の国民健康保険料は賦課限度額に達すると、所得が下がっても保険料が動かなくなります(東京23区の国民健康保険料の計算方法)。所得が増えたのに経費の価値が一度下がる、という逆転がここで起きます。

なお個人事業税は、この帯ではどの所得でも15,000円(30万円の5%)ずつ動きます。所得税や国民健康保険料と違い、税率が一定だからです。

家賃を対応経費と同額にすると、不動産所得は0円のまま

表の「同額の家賃」は、社長個人が受け取る家賃と、その家賃に対応する必要経費を同じ30万円に置いた姿です。不動産所得は総収入金額から必要経費を引いた残りなので、この置き方だと不動産所得は0円になります。個人の所得税・住民税は1円も増えず、法人だけが30万円を損金にできます。

家賃を対応経費より高く設定すれば、超過分は不動産所得として社長個人に課税されます。逆に低く設定した場合、法人が払う金額が減るだけなので、法人側の損金も同じだけ減ります。適正家賃の決め方と、家賃を高く取ったときに個人側でどうなるかは自宅を法人へ貸す家賃は経費。でも個人に不動産所得が戻るで扱っています。

家賃を取る側にすると、無償のときにはなかった論点が3つ出てきます。

  • 消費税。事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃は消費税の課税対象です(No.6225。住宅の貸付けは原則非課税)。ただし貸主である社長個人がインボイス発行事業者でなければ、法人は原則として仕入税額控除ができません(免税事業者からの仕入れの経過措置)。この記事の表も控除を見込まずに計算しています
  • 住宅ローン控除。住宅借入金等特別控除は「床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること」が要件で、店舗や事務所と併用の住宅では建物全体の床面積で判断します(No.1211-1)。法人化と住宅ローン控除の関係は住宅ローン控除は法人化で年3.5万円使えなくなるにまとめました
  • 実態。契約書があっても、法人がその部屋を実際に使っていなければ説明が立ちません。表札、机、郵便物の宛先など、法人が使っている状態をそろえておく必要があります

無償のままにする場合も、法人が社長個人の費用を肩代わりする形は避けたほうが無難です。役員等の個人的費用の負担額は、法人が役員へ給与を支給したのと同じ経済的効果をもたらすものとして扱われます(No.5202)。

無償のままでも、建物の減価は将来の取得費から引かれる

無償で貸している間、償却費は必要経費になりません。では建物の価値の目減りは税務上どこにも現れないのかというと、そうではありません。

将来その建物を売ったときの譲渡所得は、収入金額から取得費を引いて計算します。業務に使っていなかった期間については、「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」で減価償却費相当額を求め、取得費から差し引きます。このとき使うのは耐用年数の1.5倍に対応する旧定額法の償却率です(No.3261)。業務用の期間は実際に必要経費に入れた償却費の合計を使うのに対し、非業務用の期間はこの固定式で計算します。

耐用年数を1.5倍にするぶん償却率は小さくなるので、非業務用の期間は業務用の期間より減価がゆっくり進みます。取得費が大きく残るという意味では、売却時の譲渡所得は小さくなります。

ただしこれは「毎年の所得から引けるはずだった費用が、売ったときに戻ってくる」という関係ではありません。毎年の必要経費と、何年も先の譲渡所得の取得費とでは、効く税率も効く時期もまったく違います。家賃0円を選ぶかどうかを判断するときに、この差を埋め合わせとして数えないほうが安全です。

まとめ

  • 自宅を法人へ無償で貸すと、法人には地代家賃の損金がなく、個人にも不動産収入がないので、固定資産税・損害保険料・減価償却費はどちらの経費にもなりません
  • 個人事業主のときに家事按分で落としていた金額が、そのまま消えます。按分30万円なら法人化の実質差額は年9.9万〜12.4万円ぶん個人寄りへ動きます
  • 事業所得1,000万円は「ほぼ互角」から「個人のまま有利」へ、1,500万円は「法人化が有利」から「ほぼ互角」へ、判定の区分が移ります
  • 同じ30万円で戻る額は、事業所得400万円では法人(32.8%)が個人(29.7%)を上回り、600万円以降は個人が上回ります。国民健康保険料が賦課限度額に届く1,000万円では、個人の戻りが一度下がります
  • 家賃を対応する必要経費と同額にすれば不動産所得は0円のままで、法人だけが損金にできます。ただし消費税・住宅ローン控除・使用の実態が新しい論点として乗ります

自宅按分の額も事業所得も人によって違います。計算の前提を確認したうえで、一般論の数字ではなく自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

自宅を法人へ無償で貸すと、法人に家賃の損金は立ちますか?

立ちません。法人が家賃を支払っていない以上、地代家賃という損金は発生しません。個人側にも家賃収入がないため、不動産所得も生じません。

家賃を0円にすれば、契約書はいらないのでしょうか?

家賃の有無にかかわらず、法人がどの部屋をどの用途で使うのかは書面で残しておくほうが説明しやすくなります。無償のときも、法人が負担する光熱費や修繕費の範囲を決めておかないと、社長個人の費用を法人が負担した扱いになりやすい部分です。

無償で貸している間、建物の減価償却費はどうなりますか?

業務の用に供していない資産なので、所得税の必要経費にはできません。ただし将来その建物を売ったときの取得費は、非業務用の期間について耐用年数の1.5倍に対応する旧定額法の償却率で計算した減価の額を差し引いて求めます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。