税金の基礎
事務所の立退料を受け取ったら。個人は3つの所得に分かれ、法人は全額益金
結論
個人の借家人が受け取る立退料は、借家権の消滅の対価は総合課税の譲渡所得、休業による収入や必要経費の補填は事業所得、それ以外は一時所得に区分されます(国税庁 No.3155)。売上1,200万円・経費200万円の個人事業主が立退料500万円を受け取ると、全額が一時所得なら税・保険料の増加は83.8万円ですが、全額が休業補償(事業所得)なら228.9万円になります。法人が受け取ればすべて益金で、最適報酬を据え置くと法人の税は113.0万円増えました。
- 一時所得と所有5年超の総合譲渡所得は、特別控除50万円を引いた後の2分の1だけが課税される。事業所得は全額が課税され、個人事業税の対象にもなる
- 立退料の内訳は契約書や合意書の記載が判断材料になる。内訳がなければ、休業補償や借家権の対価として説明できる根拠を残す必要がある
- 法人には所得区分がないため、立退料はどの性格でも全額が益金になる
ビルの建替えや再開発で、借りている事務所や店舗の明渡しを求められ、立退料を受け取ることがあります。金額がまとまるぶん、税金の扱いで手元に残る額が大きく変わります。
個人事業主なら、立退料はその中身によって3つの所得に分かれ、それぞれ課税のされ方が違います。法人なら一律に益金です。この記事では、国税庁の区分を確認し、立退料500万円で残る額を計算エンジンで比べます。
個人の立退料は、中身で3つの所得に分かれる
国税庁 No.3155 によると、事務所や住居を借りている個人が明渡しで受け取る立退料は、次の3つの性格に分かれます。
| 性格 | 内容 | 所得区分 |
|---|---|---|
| 資産の消滅の対価補償 | 明渡しによって消滅する権利(借家権)の対価に相当する金額 | 総合課税の譲渡所得 |
| 収入金額・必要経費の補填 | 立退きに伴う事業の休業等による収入の減少や、必要経費を補填する金額 | 事業所得等 |
| その他 | 上の2つに当たらない部分 | 一時所得 |
所得税基本通達34-1(7)は、借家人が家屋の立退きに際して受ける立退料のうち、業務の休止で減る収入や、休止期間中に使用人に払う給与などの必要経費を補填する金額と、譲渡所得の収入金額に当たる部分を除いたものを、一時所得の例として挙げています。
課税のされ方が大きく違う
| 所得区分 | 課税される額 | 個人事業税 |
|---|---|---|
| 一時所得 | 収入から特別控除50万円を引いた後の2分の1 | かからない |
| 総合課税の譲渡所得(借家権の所有期間5年超) | 収入から取得費等と特別控除50万円を引いた後の2分の1 | かからない |
| 総合課税の譲渡所得(借家権の所有期間5年以下) | 収入から取得費等と特別控除50万円を引いた額 | かからない |
| 事業所得 | 全額 | 法定業種ならかかる |
一時所得と長期の総合譲渡所得は、課税されるのが半分です。事業所得は全額が課税されるうえ、個人事業税や国保の対象にもなります。
立退料500万円で、手元に残る額を比べる
売上1,200万円・経費200万円の個人事業主が立退料500万円を受け取った場合に、性格ごとに増える税・保険料を計算しました。比較のため、法人が受け取った場合も並べています。
| 立退料500万円の性格 | 課税される所得 | 増える税・保険料 | 手元に残る額 |
|---|---|---|---|
| 全額が一時所得 | (500万円−50万円)×1/2=225.0万円 | 83.8万円 | 416.2万円 |
| 全額が借家権の対価(譲渡所得・所有5年超) | (500万円−50万円)×1/2=225.0万円 | 83.8万円 | 416.2万円 |
| 全額が借家権の対価(譲渡所得・所有5年以下) | 500万円−50万円=450.0万円 | 182.1万円 | 317.9万円 |
| 全額が休業補償(事業所得) | 500.0万円 | 228.9万円 | 271.1万円 |
| 法人が受け取る(役員報酬 月54万円のまま) | 益金500万円 | 113.0万円 | 387.0万円 |
※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・2026年(令和8年)分基準。当サイトの計算エンジン(scripts/tachinokiryo-shotoku-kubun.mjs)で計算
※ 一時所得・譲渡所得は、課税される部分を事業所得と同じく所得税・住民税・国保の計算に加え、個人事業税は増えないものとして近似した。借家権の取得費は0円としている
※ 法人の行は法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の増加。「手元に残る額」は法人の中に残る額で、引き出すときの課税は含まない
全額が一時所得なら手元に416.2万円残り、全額が休業補償なら271.1万円です。同じ500万円でも、性格の違いだけで145.1万円の差が出ます。
法人は一律に益金
法人が受け取ると、所得区分がないので全額が益金になります。この条件では法人の税は113.0万円増え、387.0万円が法人に残ります。個人の一時所得の扱い(416.2万円)より少なく、個人の事業所得の扱い(271.1万円)より多くなります。法人に残った額を個人で使うには、役員報酬や配当で引き出す段階で別に課税されます。
内訳は、合意書の書き方で決まる
立退料の性格を決める材料は、貸主と交わす合意書や契約書です。「立退料一式」とだけ書かれていると、どの部分が休業補償で、どの部分が借家権の対価なのかを後から説明するのが難しくなります。
- 休業補償なら、休業期間と、その間に減る売上や払い続ける費用の見積り
- 移転費用の補填なら、引越し・内装・設備の移設などの見積り
- 借家権の対価なら、その金額の算定根拠
事業所得として扱う部分は、実際に事業の収入や経費の補填に当たるものです。課税を軽くするために事業所得の部分を一時所得に付け替えることはできません。逆に、一時所得に当たるものを事業所得として申告すれば、払わなくてよい個人事業税や国保まで払うことになります。
移転にかかった費用は経費になる
立退きに伴って新しい事務所へ移る費用(引越し代、内装工事など)は、事業の必要経費や資産の取得価額になります。新しい事務所を借りるときに払う礼金などの扱いは事務所の礼金は20万円以上なら5年償却。更新料・仲介手数料・敷金の扱いで整理しています。
消費税は不課税
消費税法基本通達5-2-7は、建物等の賃借人が契約の解除に伴い賃貸人から受け取る立退料を、資産の譲渡等の対価に当たらないとしています。インボイス登録をしていても、貸主から受け取る立退料に消費税はかかりません。
ただし同じ通達の注記は、賃借人の地位を貸主以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料などの名目で受け取った場合は、賃借権の譲渡の対価として課税されるとしています。
まとめ
- 個人の借家人の立退料は、借家権の対価(譲渡所得)、休業・経費の補填(事業所得)、その他(一時所得)の3つに分かれる
- 一時所得と長期の総合譲渡所得は特別控除50万円の後の2分の1だけが課税され、事業所得は全額が課税される
- 立退料500万円なら、全額が一時所得で手元に416.2万円、全額が休業補償で271.1万円。差は145.1万円
- 法人なら全額が益金で、この条件では法人の税が113.0万円増える
- 内訳は合意書の書き方で決まる。消費税は不課税
立退きで事務所を移るタイミングは、法人化を考えるきっかけにもなります。移転後の売上と経費で、個人のままと法人化の手取りの差を確かめてください。
よくある質問
立退料に消費税はかかりますか?
消費税法基本通達5-2-7は、建物等の賃借人が契約の解除に伴い賃貸人から受け取る立退料は、権利の消滅に対する補償や営業上の損失・移転の実費の補償として授受されるもので、資産の譲渡等の対価に当たらない(不課税)としています。ただし、賃借人の地位を賃貸人以外の第三者に譲渡して受け取る対価は、立退料という名目でも課税されます。
自宅兼事務所を明け渡して立退料を受け取った場合は?
住居部分の立退料は事業とは関係がないので、借家権の対価に当たる部分は譲渡所得、それ以外は一時所得になります。事業部分について休業補償などの性格の金額があれば、その部分が事業所得です。内訳を契約書で分けておくと説明しやすくなります。
借家権の取得費はいくらになりますか?
譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引き、特別控除50万円を引いて計算します(国税庁 No.3152)。入居時に権利金などを払っていれば、その額が取得費の材料になります。払っていなければ取得費はないものとして計算する形になります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。